地域リハビリテーション・システムに関する研究

文献情報

文献番号
199900225A
報告書区分
総括
研究課題名
地域リハビリテーション・システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 利之(横浜市総合リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 利之(横浜市総合リハセンター)
  • 浜村 明徳(医療法人共和会南小倉病院)
  • 林 拓男(公立みつぎ総合病院)
  • 三宅 誼(医療法人社団三草会クラーク病院)
  • 高岡 徹(横浜市総合リハセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年度の本研究において明らかにした、県、大都市、小都市、民間医療機関を単位とした各モデルシステムの下で、在宅リハビリテーションの内容とその効果について明らかにする。また、地域ケアにおける看護・介護の活動とリハビリテーションとの関係について検討し、その連携のあり方やそれぞれの役割について検討する。
研究方法
県、大都市、小都市、民間医療機関を単位としたモデルシステムの下で、すでにサービスを受けた在宅高齢障害者を対象に聞き取り調査を行ない、それぞれのモデルシステムによるサービスの有効性について検討した。また、地域リハビリテーション・システムにおける看護・介護の役割については、、各地域の訪問看護ステーションやホームヘルプ実施機関などで活動している職員にアンケート調査を実施した。
調査対象は、長崎県:85人、横浜市:150人、御調町:241人、医療法人社団三草会クラーク病院:287人のほか、看護・介護の役割に関するアンケート:152人である。
調査内容は、県と大都市では、日常生活自立度(厚生省日常生活自立度判定、機能的自立度評価法:FIMなど)の評価、リハビリテーション計画、提供されたサービス内容などとし、これをリハビリテーション介入前後で比較してその効果を検討するとともに、サービス内容のパターン化を試みた。一方、小都市と民間医療機関では、あらかじめ対象者を日常生活自立度や介護力で分類、それぞれが提供したサービスのパターン化を試み、典型事例について地域リハビリテーションの効果を検討した。また、看護・介護の役割ついては、彼らが実際に行っているサービス内容、リハビリテーション専門職に相談あるいは指導を受けたい事柄などについてアンケート、リハビリテーション専門機関との連携のあり方や役割について検討した。
結果と考察
県域システムの効果:長崎県の郡部5町を対象にリハビリテーション専門職による介入を試み、その効果について調査した。その結果、対象者の把握時から介入後6ヶ月までの自立度の変化によって分類すると、自立度が向上したのは85人中37人(43.5%)、特に変化せず、維持されていたのは40人(47.1%)、低下したのは4人(4.7%)、向上または低下を繰り返したのは4人(4.7%)であり、自立度が向上または維持できたものは全体の 90%を占めていた。また把握時の自立度は、向上群ではA・Bランク(厚生省日常生活自立度判定)両者で83.7%を占め、維持群では、自立度の高いJランクが77.5%を占めていた。ちなみに、向上群では発症から早い時期に医療機関との関わりがあり、退院時にも情報提供のあったものが多かった。大都市システムの効果:対象者を厚生省日常生活自立度別に分類したうえで、地域リハビリテーションによって提供されたサービス内容と日常生活動作項目別の実施状況を、「行っていない」「1人介助」「2人介助」「自立」に分類し、サービス提供前とフォローアップ時とで比較検討した。その結果、サービスの定着率は79%と高く、介護者数の減少(3%)、日常生活動作の自立(4%)、行っていなかった動作の開始(30%)など、家族やヘルパーなどの介護者を含む生活全体の自立性とQOLの向上が認められ、その有効性が確認された。小都市システムの効果:リハビリテーション専門職が介入した対象者を「福祉系サービス」「医療系サービス」「医療・福祉系サービスの併用」「短期入所」などのサービスパターン、および介護保険対象のサービス利用者とそれ以外のサービス利用者に分け(全体として9パターン)、リハビリテーション専門職の介入状況とそれぞれの典型事例の効果について検討した。その結果、介護保険外のサービス利用者に対するリハビリテーション専門職の関与は11%で、介護保険サービス利用者の21%に比べて少なかった。また、各サービスパターンにおける特徴としては、(1)福祉系サービス:自立度の高い虚弱高齢者が主な対象で、予防的訓練、屋外訓練、社会参加などが目標となった。(2)医療系サービス:自立度が比較的低く、基本的動作訓練、ADL訓練などリハビリテーション専門職の定期的関与による訓練的内容が多くなっていた。(3)医療・福祉サービスの併用:多くはケア担当者会議でサービス調整が行われ、自立度は様々であったが介護者の介護負担の軽減が主な目標であった。民間医療機関システムの効果:対象者を日常生活自立度および介助力により6パターンに分類、それぞれについて地域リハビリテーションの介入状況、介入後の自立度・介助度の変化などについて検討した。その結果、在宅生活の自立度を向上するためには、医学的リハビリテーション、住環境整備(福祉機器の導入を含む)、人的援助の順で優先的にサービス提供が行われるべきであるが、このうち医学的リハビリテーションや住環境整備についてはチームアプローチによる地域リハビリテーションの関与が必要不可欠であった。看護・介護サービスの役割:地域の看護職や介護職が果たすべき役割とリハビリテーション専門機関に何を希望するかについて調査した。その結果、看護職は自らが実施しているリハビリテーション計画や訓練内容に不安感をもっており、リハビリテーション専門職による確認・指
導を強く望んでいた。一方、介護職についてはリハビリテーションに関するサービスは殆ど実施していなかったが、可能であれば専門職による指導を受けたうえで、自分達も機能維持訓練などを行っていきたいという意欲が示された。
以上、今回の研究では地域単位別の地域リハビリテーションに関するモデルシステムにおいて、地域ケアを支える各種機関の連携の中で実施されるチームアプローチの有効性が確認された。しかし、今後は介護保険制度の導入と社会福祉事業の大きな変革が予定されていることから、地域・在宅ケアのニーズは益々拡大するものと思われ、それぞれに以下のような課題が残された。
県域の課題は、とくに郡部において保健・医療・福祉のサービスが不足していることである。このため、地域リハビリテーションの介入によって日常生活自立度の向上が認められる割合が比較的高く、これらの基本的サービスの供給基盤を構築することが重要である。なかでも医療機関における早期リハビリテーションの実施を促進・充実するとともに、地域のモデルシステムを整備することが焦眉の課題である。大都市の課題は、人口密度が高いことから、一定の質を保ちつつ量的ニーズに対応することが困難な点にある。介護保険制度によるメニューが人的サービスと施設サービスに偏重していることから、福祉用具や住環境整備を充実し、これによって対象者とその家族の自立性を高め、人的資源の不足を補うことは一石二鳥のサービスとして有効である。社会参加の受け皿となる社会資源の拡大に加え、福祉用具のサービスを含む総合ケアの充実が求められよう。小都市の課題は、御調町モデルを果たした他の地方都市に拡大できるかという点にある。財源の確保が問題になるかと思われるが、今回の調査結果では、介護保険制度によってその多くを解決できる可能性が高い。したがって、今後は国や県行政のバックアップを強め、リハビリテーション専門職をはじめとする関係職員の養成をはかることが重要である。民間医療機関の課題は、医療サービスだけでは限界のあることである。介護保険制度の導入に伴って整備されるであろう地域ケア機関との連携をいかに強めるかが重要であり、医療機関内のサービスにとどまらず、地域に目を向けたサービスをどのように充実するか、費用効率の面からも種々の工夫が必要である。看護・介護サービスに関する課題は、とくに訪問看護ステーションにおいて、自分達だけでは困難だと感じているリハビリテーション計画や機能訓練などのサービスを提供しなければならないことである。介護職についても、これらのサービスを実施すること自体を拒否してはいないことから、リハビリテーション専門職との連携により解決し得る問題も多いと考えられる。今後、彼らを対象としたリハビリテーションに関する継続的かつ実践的な研修体制を整備する必要があろう。
結論
地域・在宅ケアの充実には地域リハビリテーションが必要不可欠である。その提供方法については、一定の地域を単位とした「地域リハビリテーション支援センター」を配置、訪問看護ステーションや在宅介護支援センターなどの第一線のサービス機関を後方から支援するシステムが有効である。今回は、これらのモデルシステムにしたがって実際のサービスを提供した結果、おおむねその有効性が確認され、サービス内容をいくつかのパターンに集約できる可能性が示唆された。今後、これらのモデルを各地に拡大するためには、リハビリテーション専門職などの人材養成や県・市町村行政による「地域リハビリテーション支援センター」の設置が不可欠である。また、地域リハビリテーションに関する適応基準の作成、費用便益の問題などについて、さらに検討しなければならないであろう。

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