在宅高齢者に対する保健・看護・介護プログラム開発とその評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900223A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者に対する保健・看護・介護プログラム開発とその評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
金川 克子(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 石垣和子(浜松医科大学)
  • 別所遊子(福井医科大学)
  • 立浦紀代子(羽咋市訪問看護ステーション)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は在宅高齢者を対象に、自立した生活が少しでも可能な保健・看護・介護プログラムの開発と介入、評価を実施することを目的とする。すなわち、在宅高齢者の自立度レベル(ランクJ、A、B、C)と家族介護力レベルによってケア内容には特徴がみられるので、それらを基盤に地区(市町村単位)の特徴も加味してケアプログラムの開発とソーシャルサポート体制を検討するものである。本研究は3年計画としており、全体計画は以下の通りである。①寝たきり(ランクB、C)の高齢者を中心としたADL維持、低下防止のケアプログラムの開発、介入、評価の検討(別所、立浦)、②準ねたきり(ランクA)高齢者を中心としたソーシャルサポートの強化、生きがいのためのプログラムの開発、介入、評価の検討(安村)、③自立した(ランクJ)高齢者を中心とした生きがい・趣味のためのプログラム、生活習慣の改善を図るプログラムの開発、介入、評価の検討(安村)、④高齢者単独世帯と高齢者夫婦世帯を中心としたソーシャルサポートの強化、サ-ビス内容の周知の強化を図るプログラムの開発、介入、評価の検討(金川)、⑤要介護高齢者家族の介護による負担の軽減を図るプログラムの開発の検討(石垣)、本年度は1年目であり、研究分担者の課題に沿って在宅高齢者の自立度レベルや家族介護力レベルに即したプログラム開発のための地域ニーズの把握、可能なプログラム試案作り、介入の試みを図ることを目的とする。
研究方法
研究分担者の課題に沿って在宅高齢者の自立度レベルや家族介護力レベルに即したプログラム開発のための地域ニーズの把握、可能なプログラム試案づくり、介入を図ることを目的とし、以下の方法で行った。①日常生活自立度の低いランクB、Cの在宅高齢者を対象として、訪問看護における看護婦とリハビリテーション専門職との連携のあり方を通して、質の高いケアのプログラム開発に資するために、以下の対象の選定と方法をとった。対象は福井県F市在住の脳血管障害後遺症等を有する慢性期の在宅高齢者で、医師会、看護協会およびN病院の設置している訪問看護ステーションの利用者9名を対象に訪問看護婦が理学療法士と連携してリハビリテーションケアを提供し。その特徴を分析した(別所)。②在宅寝たきり高齢者のうち、自立度レベルBに対するプログラム開発に向けて、1年間の推移を観察し、1年後の転帰と自立度変化を把握し、性、年齢、既往疾患、疾患の有無等との関連を検討した。対象は石川県H市在住65歳以上の在宅高齢者のうち、1998年4月現在ランクB(B1およびB2)の高齢者全数の84名である。また、自立度の低下群2事例について詳細な検討を行った(立浦)。③日常生活自立度判定基準ランクAを対象に「閉じこもり解消」を目的とした健康情報の提供と回想法を組み合わせた介入プログラムを開発、実施した。対象は、山形県のランクA、63名のうち、46名とし、介入群、対照群を各々23名とした(安村)。④日常生活自立度判定基準ランクJを対象に歩行機能の維持増進を目指した体操プログラムを開発し、その評価を行った。対象は、山形県Y市のランクJ、132名のうち、本研究の趣旨に賛同した12名に体操プログラム創作のための教室を7回実施した。また、参加者の身体状況や体力、生活満足度、Motor Fitness Scale、老研式活動能力指標等の測定や調査を通して、評価を行った(安村)。⑤一人暮らし高齢者の支援プログラム開発に向けて、高齢者の生活状況やニーズ調査を実施し、支援の方法を検討した。対象は、老年人口比率が20%あまりの石川県T町で、面接方法と分析方法にエスノグラ
フィーを応用し、主要な情報提供者(キーインフォーマント)13名と一般の情報提供者(プライマリーインフォーマント)23名を対象に、一人暮らし高齢者の特徴やニーズを明らかにした(金川)。⑥高齢者の介護者家族の介護負担に対する支援プログラムの開発に向けて、介護家族の負担感を和らげるエピソードを抽出し、その直接的要素を導き出し、その構成要因を検討した。対象は静岡県H市在住の痴呆高齢者の主介護者30名に対し、保健婦による訪問面接やアンケート調査を実施した(石垣)。
結果と考察
主な結果を以下に示す。①福井県H市内での3ヶ所の訪問看護ステーション利用者9名のうち、6名について訪問看護婦と理学療法士の連携のあり方について、その特徴を検討した結果を以下に示す。すなわち、(1)症状の認識を深めた結果、自分でリハビリテーションの量の調整が可能になった事例、(2)目標が達成し、リハビリテーション実施時に本人の表情が活き活きとしてきた事例、(3)PTのリハビリテーション訓練により、短期間で目標を達成した事例、(4)職種間の連携で問題が解決した事例、(5)生活の中でのリハビリテーションを見つけ体位が改善した事例、(6)本人・家族と看護婦のリハビリテーションの目標が不一致で、一部成果があったものの最終的に目標を達成しなかった事例に分類できた(別所)。②石川県H市のランクB在宅高齢者84名の1年後の転帰をみると、62名(73.8%)が生存、38名(26.2%)が死亡であった。年齢でみると、74歳以下ではベースラインの自立度が高いほど、1年後の生存割合が高い傾向がみられた。在宅継続者は60名であり、1年後の自立度は改善群が6名(10.0%)、維持群が43名(71.7%)、低下群が11名(18.3%)であり、ベースラインの自立度が高いほど、1年後の自立度が高い特徴がみられた。また、自立度の低下群は平均年齢が高い脳血管疾患の割合が有意に高い傾向がみられた(立浦)。③山形県Y市のランクJを対象にした体操プログラム創作のための教室では、CAN体操99を取り入れた。すなわち、「その場で行進、大また開いて、背伸びして背伸びして、体ひねり、両足曲げ伸ばし、全部使ってリフティング、足でもんで、手でつかむ、からだ起こし、かかと歩き」という10種類の一連の動きである。これに期待される効果は、柔軟性の強化、脚筋力の強化、身体のバランス、つまずき防止などである(安村)。④山形県内2市での46名のランクAを対象にした介入プログラムでは、11名が介入群、21名が対照群となった。介入プログラムは健康情報の提供と回想法であり、月平均2回、計6回であり、1回の介入は前者を20分、後者を40分に設定した。介入の効果は、介入群では対照群に比べて、聴力、ADLの食事、着脱衣、物忘れ、主観的健康感、生きがい、ぼけの判定基準、外出の程度で改善、維持の割合が高かったが、有意差はみられなかった。回想法では回が進むにつれて、良好と評価される人が多くなることが示された(安村)。⑤石川県T町での一人暮らし高齢者の特徴やニーズでは、ほぼ自立している人が多く、また、一人暮らしに対しては、肯定的な捉え方と先行きの不安が混在していた。個別サービスと集団サービスがみられるが、自立のための生活支援サービスを補うための活動へのニーズがみられた(金川)。⑥静岡県H市の痴呆高齢者を介護する家族の負担を和らげる構成要素には、配偶者、嫁、実子によって特徴がみられるが、全体としては、被介護者への思い、介護への自信、介護の外部からのプラス評価、共感者の存在、仲間の存在、自身の成長感、被介護者からの反応、他の場面の役に立つ、ケースの状態の改善がみられた(石垣)。
結論
在宅高齢者の自立度レベル、家族構成、家族介護者の負担等を考慮して、支援プログラムを作成することが必要である。本研究は、「在宅高齢者に対する保健・看護・介護プログラム開発とその評価」に関して、2年目の研究であり、支援プログラムの試行、在宅高齢者のもつ条件によりプログラムづくりに必要な状況把握の段階に至ったものなど、若干、研究の進展には違いがみられた。自立度の低いB、Cランクの高齢者では、介護保険の対象になる可能性は高く、訪問看護婦
と理学療法士のよりよい連携の必要はあると考える。また、ランクBの1年間の転帰からでは、自立度が高いほど、生存の割合が高く、逆に、年齢が高く、脳血管疾患の割合が高い高齢者ほど自立度が低下していることから、まず自立度を高める工夫と、リスクの高い高齢者や脳血管疾患の既往がある高齢者へは、きめの細かいプログラムが必要であろう。ランクAについては、「閉じこもり解消」に向けてのプログラム開発、ランクJについては、高齢者の歩行機能維持や改善のための体操プログラムを取り入れた積極的な健康行動への変化に結びつく工夫が必要であろう。さらに、一人暮らしの高齢者では、大部分が自立しており、公的なサービスから除外されることも考えられるが、地域ボランティアグループや高齢者の自助グループの育成も含めた自立支援のプログラムを進めることが必要である。また、家族介護者の負担を和らげるためには、介護による肯定的側面を取り入れ、家族介護者の役割を再考することも必要である。以上から、在宅高齢者の健康問題、自立度レベル、世帯構成、家族介護者の状況などを勘案したプログラムが必要である。ランクJ、Aについては、試案をさらに深め、ランクB、C、一人暮らし高齢者については、それぞれのニーズに沿ったプログラム作成を図りたい。

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