介護保険制度における最適マネジメントの方策に関する研究

文献情報

文献番号
199900221A
報告書区分
総括
研究課題名
介護保険制度における最適マネジメントの方策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小山 秀夫(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、今後大きな変革を求められる介護保険施設における最適なマネジメントを模索し、介護保険施行時に効果を発揮するような施設マネジメントにおける最適化指標等を作成することである。医療分野における最適マネジメントは、米国においてはマネジトケアとして注目を集めているところである。マネジトケアに関する文献は、平成9年度長寿科学総合研究事業「高齢者の長期ケアにおける経済的評価に関する研究」(主任研究者 小山秀夫)の一環として、文献集を作成し、その整理分析を行ってきた。DRG、マネジドケアやクリティカルパス等の米国における医療施策の動向は、わが国において注目を集めるところではあるが、施設マネジメントと結びつけた総合的な研究は十分なされているわけではない。わが国においては、論文・研究等において、高齢者保健医療施設の最適マネジメントに触れたものは少なく、実証研究によってまとめられたものはほとんどない。ゆえに本研究は、介護保険制度における最適マネジメントの方策について実証的に検証する研究として、企画したものである。また、要介護と施設マネジメントを明らかにすることを目的とする。
研究方法
班会議を開催し、研究協力者による先行研究の検討、現場の実態等についての検討、文献調査結果の検討を行った。また、介護保険制度の最適マネジメントを研究するために、介護サービス毎の介護認定調査を実施し、各種事業ごとの特徴を把握することを目的とするとともに、一定期問の経過した場合の要介護度の変化状況やわが国の要介護認定システムとオーストラリアのRCS(Resident C1assification Instrument)を比較研究を実施した。本調査研究に協力を表明した関東圏内の5病院(入院患者2、127人分)をはじめ、データの提供を頂いた申し出たデイケア、デイサービス、訪問看護、ホームヘルプサービスを実際に受けており、かつ単独のサービス以外を利用していない1、385人、さらに特別養護老人ホーム入居者998人、老人保健施設入所者1、999人分、合計6、509人分のデータを調査対象とした。調査集計については、要介護認定については、OMRシートを調査票とし、OMRで読みとり集計した。RCSについては、日本語に翻訳した調査票を作成し、調査を実施した。
結果と考察
本年度の研究結果は、以下のとおりである。
介護保険制度とコミュニティケアとの関係については、わが国でも介護保険制度の導入による議論の大半はサービスの質に関するものであり、そのキーワードは、自立支援(autonomy)、プライバシー(Pr1vacy)、消費者選択(consumerchoice)、サービスの統合(integration)などであると考える。また、質の向上と総介護費用の抑制(Cost-Containment)という観点からも予防重視・在宅重視策、何らかの要介護基準の設定などを具体的な課題として挙げることができる。このほか介護保険制度自体の評価という観点からは、政策の評価と制度運用の評価が論点として考えられる。政策的な効果や運営上の成果を経済性(Economy)効率性(Efficiency)有効性(Effcectiveness)の3つのEから検討することも必要であろう。本来、介護保険制度の評価は、このような観点から議論されるべきである。国際的観点から改めて介護保険制度の評価の論点を主張するのは、制度の施行の目的が、いかなるものであるかを再確認することが、介護保険事業の評価であり、介護保険施設や事業者の課題であると考えるからにほかならない。介護保険制度は、二一ズに応じたサービス量を確保し、その費用を公平に負担するための新しい制度として企画され実行されようとしているが、その仕組みをみるといくつかの特徴があった。
また、福祉・医療サービス分野は、提供者(Provider)がサービスを提供し、消費者(consumer)がその対価を支払うだけではなく、提供者と消費者以外に保険者としての支払い者が第三者として介在する。ゆえに、マネジメントもこの三者関係の中でのマネジメントとして見るべきであり、三者三様のマネジメントによって、ケアを提供する仕組みがあることになる。そこで、おのおのをつなぐ部分にもマネジメントが必要だと認識されるようになるか、この三者を全体的にあるいは総合的にマネジメントする必要が主張されることになる。つまりサービスでは、提供者と消費者そして支払い者を結ぶ線上に発生するマネジメントが求められることになる。
また、実態調査の前提として、オーストラリアの最新の状況を確認した。オーストラリアでは、専門施設は従来、ナーシングホーム及びホステルの2種類であるが、ナーシングホームに対し政府から給付が行われたのは1963年以降であるとされている。1968年までは、その給付額は本人の状態に関わらず一定(2ドル/日/人)であったが、1969年に2段階(通常ケア/拡張ケア)給付となり、さらに1988年、RCI(Resiaent C1ass1f1cat1on Instrument)が作成され、5段階給付となった。ホステルにおいては、1992年に従来の2段階給付(宿泊支援のみ/日常生活支援が必要)から、PCAI(Persona1 Care Assessment Instrument)に基づく3段階給付に変更された2)。1985年より、在宅介護を中心とした総合的なケアシステムづくりを目標として行われたことが確認された。
実態調査結果としては、第1に施設別・サービス別平均要介護度は、病院要介護3.1、特養要介護2.0、老健要介護25、訪間看護要介護25、デイケア要介護17、デイサービス要介護1.4、ヘルパー要介護1.1であり、合計は要介護2.6であった。このため施設別・サービス別要介護度分布状況には、一定の差が存在すると考えられる。第2に、A病院について同一入院患者に6か月後に再調査を実施した結果、要介護度の変化が大きく、要介護度が低位に変化するものより、高位に変化するものが多いことが示されたとともに、変化がなかったのは43.0%にすぎず、高位への改善が19.4%、低位への悪化が37.6%であった。第3に、A病院の要介護度の変化を85項目の選択肢の変化状況との関連で観察すると、選択肢の変化が、30%以上変化している項目は、座位の保持、浴槽の出入り等の10項目である。これらの質問項目は、判断が難しい上に6か月間に変化しやすい項目であると考えることができる。第4に、B病院について要介護度と同時にオーストラリアのRSC調査を同一入院患者に実施した結果、全体として観察すると、この両者が相関すると考えられるが、RSCより要介護度の方が高位に変化することが認められる。
結論
実態調査結果から施設別・サービス別要介護度分布状況に一定の差が存在することは、介護保険制度の最適マネジメントの検討する際の重要な要件である。施設別・サービス別要介護度分布に差が存在することになれば、施設やサービス毎にマネジメントの方法論を検討することが必要となる。要介護者の認定調査を6か月後に調査を再実施した結果、要介護度の変化が大きく、要介護度が低位に変化するものより、高位に変化するものが多いという結果は、認定調査をへて決定される要介護度が6か月固定されてよいのかどうかという新たな検討課題を、提示することになると考えられる。また、①要介護者の状態は6か月間では必ず変化すると考えるか、②調査の質問項目により判断が難しい項目があるか、③調査精度に差が生じることが少なくないなどの要因が考えられる。このことについては、今後、さらに詳細な調査研究が必要であると考えられるとともに、将来、要介護認定システムを変更する際の貴重な知見であると思う。

公開日・更新日

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