高齢者の変形性関節症の成因および病態に関する総合的研究 

文献情報

文献番号
199900218A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の変形性関節症の成因および病態に関する総合的研究 
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 久(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石黒直樹(名古屋大学)
  • 原田 敦(国立療養所中部病院)
  • 渡辺 研(国立長寿医療研究センター)
  • 山田芳司(国立長寿医療研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
岩田は関節液中の各種物質測定と臨床所見との対比により関節破壊の機序を検討し,臨床的に用いうる関節症マーカーの開発を目的とした。石黒は軟骨破壊における軟骨細胞の役割、細胞内の伝達機構を検討する事を目的とした。原田は変形性脊椎症の発症機序や進行機序に関して全身的因子との関連を解明する事を目的とした。山田は関節液中のOCIFとTGF-β1濃度の測定により、OAの発症進展におけるこれらのの役割を明らかにすることを目的とした。渡辺は骨格組織において、TGF-βの細胞外マトリックス分子発現調節と、ヒアルロン酸合成酵素Has2の遺伝子発現誘導を関連づけ、分子レベルでの検討を行うことを目的とした。
研究方法
岩田はOA膝関節液55名、RA63名を対象とした。関節液中MMP-1,-2,-3,-8,-9及びTIMP-1,-2はELISA法にて, コンドロイチン4硫酸、6硫酸、ヒアルロン酸はHPLCにて測定した。ケラタン硫酸は5-D-4 epitopeを、Type II collagen C-propeptideはELISA法を用いた。846 epitopeはカナダマギール大Robin Poole博士の協力によって測定した。関節液中の物質間での相関関係及び、X-Pと各種物質濃度の関連をを検討した。
石黒はヒト軟骨組織由来細胞株HCS2/8を用いてTNF-_を1時間作用させEMSA法にて転写因子NF-κBの活性化を観察した。また、TNF-αを6時間作用させCOX-2, MMP-1, 3の遺伝子発現をNorthern法にて観察した。更にProteasome inhibitorを用いてNFκ-Bの活性化及びIκBの分解、各遺伝子の発現に与える影響を調べた.原田は閉経後3年以上経過し,同一検査を行い得たの40名を対象とし,MRIにより得られた第1腰椎から第5腰椎までの4つの平均椎間板面積を計測し,平均突出椎間板面積と平均椎間板突出率を算定した。骨量は、DEXA腰椎前後像骨密度(BMD)、全身骨BMDおよび各年齢補正値(%)を計測した。全身骨測定時に得られるBody Compositionから総軟部組織量、脂肪量、Lean mass, Bone mass content(BMC)を求め、椎間板計測値との関連を検討した。山田は膝OA160例およびRA40例から治療目的で採取した膝関節液のOCIFおよびTGF-β1濃度を測定した。また膝OA60例および健常者60例から得られた血清OCIF濃度を測定した。渡辺はマウスHas2 cDNAをプローブとしてスクリーニングし、陽性クローンを得た。Exon 1に相当する部分のDNA断片を単離、マウスHas2遺伝子プロモータを得た。シフェラーゼをレポーター遺伝子とするレポーター発現実験を行った。TGFβ_シグナルは、TGF-β1による処理、活性型TGF-β受容体、不活性型TGF-β受容体、SmadのcDNAをレポーターと同時にトランスフェクションすることにより検討した。マウスSmad5 cDNAを囮ベクター(pAS2-1)に組み込み、ヒト軟骨細胞cDNAライブラリーとともに酵母を形質転換して、相互作用陽性のマーカーとするHis非依存性増殖をもとにスクリーニングした。得られた陽性クローンからDNAを調製し、大腸菌での選択から、相互作用を示したクローンのプラスミドDNAを単離した。プラスミドは、遺伝子を同定、確認した。
結果と考察
岩田の研究ではOA ・RA両疾患でMMP・TIMP 産生の調整の違いが示された。TIMPがMMPの活性阻害に働くことを考えるとOAでMMPの濃度上昇に伴いTIMP-1濃度上昇が観察されたことはMMP阻害に働く防御反応とも考えられる。コンドロイチン6硫酸・ケラタン硫酸とMMP・TIMP 濃度の相関が見られなかった。PG合成はOAの初期に亢進し、コラーゲンの合成は中等度の関節症で高まる変化を示した。RAではこれら物質の合成低下が末期に明らかとなった。コラーゲンとPGの再生を示すType II collagen C-propeptideと846epitopeは関節症の進行による差が見られ、合成系が病態に深く関わる可能性を示した。石黒の研究ではHCS-2/8細胞において、TNF-αによって活性化されるNF-κBは、p50-p65 heterodimer を形成しており、TNF-α濃度依存性にDNA結合能は上昇した。COX-2, MMP-1, 3の遺伝子発現も、TNF-αによって濃度依存性に増加した。 COX-2,MMP-1, 3のTNF-_ による遺伝子発現の増加は、Proteasome inhibitorによって著明に抑制された。軟骨細胞による基質破壊には転写調節因子NF-κBが関与していること、これの抑制が破壊を防止し得る可能性を示した。原田の研究で縦断的に検討した結果、椎間板変性進行の最も大きい群は、最も小さい群より全身骨骨量の減少が少なく、全身因子としての骨量が変形性脊椎症の進行に関連している可能性が示唆された。他の軟部組織量は関連がなかった。山田の研究ではOAはRAに比べ滑液中OCIF濃度が約2倍高く、OAの重症度に依存してその濃度が上昇した。また滑液中のOCIF濃度はOAでは血中濃度の約8倍、RAでは約4倍であった。滑液TGF-β1濃度は血中の約1/50と低値であり、重症度との関連は認めなかった。RAの滑液TGF-β1濃度はOAに比べ2-3倍高値であった。滑液・血液中のOCIF濃度上昇は、破骨細胞による骨吸収の亢進に起因する骨量減少に対する生体の代償機構と考えた。滑液中OCIF濃度と傍関節骨破壊との関連について検討中である。雪印乳業生物科学研究所との共同研究により破骨細胞分化促進因子(Osteoclast differentiation factor, ODF)のsoluble formについても滑液・血清中濃度を測定中である。渡辺はマウスHas2遺伝子をクローニングし、exon 1上流領域にプロモータ活性があることをレポーター発現実験によ
り同定した。プロモータ活性は0.3 kbpのコンストラクトにも検出されたが、TGF-β応答性は検出されなかった。2.3 kbp及び1.0kbpコンストラクトをTGF-β応答性実験に用いた。レポーター活性がSmad7共存下で抑制され、Has2遺伝子発現誘導にSmad経路の関与と上流1.0 kbp以内にTGF-β応答エレメントの存在が示された。SmadはTGF-β受容体キナーゼにより受容体と離れSmad4と会合、核内へ移動し転写調節を行う。SmadはまたMAP kinase経路により核内移行が制御される。Smad経路の制御因子の同定をyeast two hybrid screeningを行い、Smad5の結合分子としfilaminを得た。filamin欠損細胞を用い、filaminはSmad経路に対して正の制御を行う事を明らかとした。filaminはMEK1やSEK1などのMAPK経路のキナーゼも結合し、Smad経路とMAPK経路のクロストークの場を提供する可能性がある。filaminはインテグリンβ鎖との結合から、細胞骨格と細胞接着のconjunctionに機能していることが示唆されている。関節軟骨において、軟骨細胞がメカニカルストレス等の刺激により細胞形態が変化した場合、TGF-β応答性が変化し、Has2発現調節を通したヒアルロン酸合成、細胞外マトリックス誘導が変化する可能性が考えられる。TGF-β-細胞外マトリックス-細胞接着の3因子が相互的に影響を及ぼし、関節形態維持・再生に関与することが示唆された。
結論
1,PG合成はOAの進行初期に亢進し、コラーゲンの合成は中等度の関節症で高まる変化を示し、RAでは末期に低下する傾向が見られ、両疾患でマトリックス合成は病期に強く影響を受けていた。関節液中ケラタン硫酸、コンドロイチン6硫酸の濃度はMMPとは相関を示さずPG分解での他の酵素の関与が示唆された。
2,軟骨組織由来細胞においてTNF-αが、炎症性メディエーターや、軟骨基質破壊に関わる遺伝子の発現を増大させ、関節炎での軟骨基質破壊に、軟骨細胞自身が寄与していると考えられた。また、その細胞内伝達経路の一つとしてNF-κBの活性化が関与しており、これを抑制することで、炎症のみならず関節破壊をも抑制できる可能性がある。
3,椎間板変性の進行は全身骨BMDなどの全身的因子と関連を持ち、横断調査でもレプチンなど全身液性因子との関連がみられた。変形性脊椎症は、その発症,進行機序に関して全身的因子が関連するものと考えられた。
4,OCIFは関節軟骨障害に対する防御因子としての役割を有する可能性が示唆された。この分子メカニズムを解明することによりOAの新しい治療法の開発が期待される。
5,Has2遺伝子はSmad経路を介してTGF-βにより誘導されること、Smadは細胞骨格因子filaminと結合し、正の制御を受けていることが示された。

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