加齢による脳血管病変の進展とその臨床的意義に関する研究

文献情報

文献番号
199900217A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢による脳血管病変の進展とその臨床的意義に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
藤島 正敏(九州大学大学院医学系研究科病態機能内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤島正敏(九州大学大学院医学系研究科病態機能内科学)
  • 内村英幸(国立肥前療養所)
  • 岡田 靖(国立病院九州医療センター)
  • 小林祥泰(島根医科大学第三内科)
  • 福内靖男(慶應義塾大学神経内科)
  • 峰松一夫(国立循環器病センター)
  • 山之内 博(東京都老人医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
44,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
頭部CTやMRIなどの画像上、大脳深部白質に認められる病変(深部白質病変)は、加齢とともに増加することが知られているが、その病態生理学的意義の解明は未だ十分でない。深部白質病変は加齢の他にも、高血圧やアルツハイマー病などと関連を有するとされ、その成立機序は多様である。しかしながら、高血圧性脳血管病変を基盤とした脳虚血の関与が示唆される症例に遭遇する機会は少なくない。かかる症例では、深部白質病変と知的機能障害との間に密接な関連が存在することも指摘されている。以上のような背景から、高齢者における大脳白質病変の成り立ちや臨床的意義を明らかにすることは、老年医学が解明すべき重要な課題の一つである。本研究は高齢者大脳深部白質病変の成り立ちを明らかにするとともに、成立機序に応じて、その臨床的意義、予後、予防や治療法などを検討することを目的としている。
研究方法
本研究は、以下の3つのアプローチによって検討を行った。まず第一に、一般住民 (内村) や脳ドック受診者 (小林) などの健常高齢者、および患者 (峰松) を対象にして、知的機能検査、脳の画像診断(CTやMRI) などを行い、大脳深部白質病変発生ならびに進展に寄与する因子を、危険因子などの臨床的背景の解析から明らかにすることを試みた。さらには、班全体で共通のプロトコールを作成して、本研究班に参加する全ての施設において、頭部 MRI で評価した大脳深部白質病変に関する症例登録を行った。このデータをもとに大脳深部白質病変と危険因子などの臨床的背景の関連ついての解析を行った。また、登録した患者を対象に前向き調査による検討も進めている。岡田は、主幹脳動脈病変が深部白質病変の原因になり得るとの仮説のもとに、頸動脈病変を有する患者で内膜剥離術 (CEA)を施行した例を対象にして、白質病変の術前後の変化を追跡調査した。
第二のアプローチとして、藤島や内村、峰松、山之内らは、大脳深部白質病変を有する健常者や患者における脳循環代謝諸量の検討を脳血流シンチ (SPECT) や Xe/CT、ポジトロンCT (PET)、MR spectroscopy (MRS) などを用いて行った。また、詳細な認知機能検査を行い、大脳深部白質病変の脳循環代謝と認知機能の関連についても検討を加えた。
また、第三のアプローチとして、病理学や遺伝学的な手法を用い、さらには実験的な検討により、白質病変の病態に対するさらなる追求を行った。福内は、画像診断と剖検脳との詳細な対比を行い、山之内は、深部白質病変の出現を遺伝子レベルから検討するため、アンジオテンシン変換酵素 (ACE) の遺伝子多型と大脳白質病変に関する研究を行った。また、福内は、活性酸素の産生と密接な関連を有する NADPH の遺伝子多型に注目して、虚血性脳血管障害との関連を解析した。小林は、脳血管の自己調節機構と白質病変の発症機序との関与に注目して、小動物を用いた脳動脈血管内圧と加齢による変化に関する詳細な解析を行った。
結果と考察
1. 大脳深部白質病変の危険因子に関する研究
多施設共同研究:当研究班の各所属施設において、共通プロトコールの基準 (年齢60歳以上かつ高血圧を有し、ラクナ梗塞以外の病変を認めない) を満たして新たに登録された患者総数は67例で、そのうち 大脳深部白質病変を認めたものは 45 例、白質病変のないものは 22 例であった。白質病変の有無による背景因子の比較では、血中ホモシステイン値が、白質病変群で有意に高値であった (13.3±1.0 μmol/L vs 9.8±1.0, 平均値±SE)。大脳白質病変と背景因子との関係を多変量解析で検討すると、血中ホモシステインのみが白質病変と有意に相関していた。また、知的機能検査の一つである Mini-mental state examination (MMSE) に対しても、血中ホモシステインのみが多変量解析で有意な相関を示していた。
健常高齢者の大脳白質病変の成因に関する検討:内村らは、佐賀県神埼郡脊振村在住の40歳以上の一般住民385例 (男121例、女264例、平均年齢67.2歳) を対象として脳 MRI 検査を行い、大脳深部白質病変と知的機能の進展に寄与する因子について検討を行った。深部白質病変は132例 (34.3%) に認められ、深部白質病変を有する群はない群に比し、高年齢であり、高血圧の頻度が高く、総コレステロールが高値であった。また血中トリプトファン濃度は低値 (54.5±10.2 vs. 57.7±9.1μmol/L、平均値±SD) であった。以上の諸因子はロジステイック回帰分析でも独立して深部白質病変と関連があった。また、深部白質病変の程度が点状・癒合性・広汎と高度になるにつれて高年齢となり、高血圧・脳梗塞の合併頻度は増加し、逆に血中トリプトファン濃度は低下した。
大脳白質病変の発生・進展要因とその対策に関する研究:峰松らは、ラクナ梗塞159例を対象に retrospective study を行った。白質病変の重症度に関連する危険因子の検討では、加齢と高血圧が有意な危険因子であった。
脳血管性病変の加齢性変化を促進する危険因子に関する研究:小林らは、無症候性病変を含む脳血管性病変に対する危険因子の意義について、脳ドック受診健常成人1,627名 (平均56.9±8.5歳)、地域脳検診受診健常高齢者242名 (均74.9±6.3歳) および脳卒中入院患者225名 (平均81.0±4.2歳) を対象として検討した。無症候性脳梗塞や側脳室周囲高信号域 (PVH) などの無症候性脳血管病変は、加齢とともに増加し、65歳未満の10%程度に比し、65歳以上では30%強と、健常成人における頻度は65歳頃から急激に増加していた。無症候性脳梗塞には高血圧と年齢の関与が、PVH には加齢の関与が重要であった。脳卒中の発症年齢毎にみた危険因子の検討では、高齢になるに従ってその保有率は低下し、健常高齢者群でも、75歳以上、85歳以上と年齢が進むにつれて減少していた。
頸動脈狭窄を伴う脳血管障害患者の白質病変に関する研究:岡田らは、頸動脈の高度狭窄か潰瘍病変に対して CEA を受けた55例 (男53、女3、平均年齢69歳) を対象に、術前および術後1カ月目に SPECTを行った。また1年以上の経過を観察しえた31例(男29, 女2, 平均年齢69歳)について脳実質病変の評価を行った。また17例に術前後の高次脳機能検査を施行した。CEA は全例虚血性脳血管障害の慢性期に施行され、術後合併症はなかった。これらの症例に術前および術後2週から1ヶ月の間に MMSE、Kohrs 立方体組合せテスト、言語記銘テストおよび視覚記銘テストを行った。検査は同一の臨床神経心理士(言語聴覚士)が術前・術後とも担当した。脳血流シンチでは術前に安静時低灌流がみられたものが53%で、術後31%までに改善した。さらに acetazolamide 負荷による脳循環予備能の低下は術前は33%にみられたが、この全例で術後に改善がみられた。白質病変の長期変化検討をした例では、術前の深部白質病変は94%にみられ、punctate のタイプが大部分 (90%) であった。片側優位性白質病変は55%にみられた。さらに1年間の経過中白質病変の有意な増加を示した例は認められず、2例においてのみ白質病変の大きさの変化がみられた。さらに高次脳機能の変化については、術前後に 改訂版長谷川式簡易知能評価スケール (HDSR)・MMSE とも変化を認めなかったが、 Benton 視覚記銘に加えて Kohrs 立方体テストについても術後有意に改善がみられた。Kohrs 立方体テストでは Kohrs IQが術前 80.4±22.9 から 85.5±21.4 まで有意に増加した (p<0.01)。また Benton 視覚記銘でも即時再生誤謬数で傾向、遅延再生で正解数は術前 3.6±1.4 から術後 4.4±1.7 まで有意に増加した (p<0.01)。
2. 大脳深部白質病変の脳循環代謝と知的機能に関する研究
大脳深部白質病変による知的機能障害発症のメカニズムに関する研究:藤島らは、高度な大脳深部白質病変を有する患者、のべ15名(男性12名、女性3名、平均年齢62歳)を対象に、知的機能検査と PET 検査を施行した。前頭葉深部白質と前頭葉および頭頂葉皮質の間で、脳血流量は良好な相関関係を示した。また酸素摂取率や脳血管の二酸化炭素反応性に関しても、前頭葉深部白質と前頭葉皮質の間で有意な相関が認められた。これに対して、脳酸素代謝率は白質と皮質の間で有意な相関を示さなかった。以上の結果は、大脳皮質では深部白質と平行して循環不全による虚血が進行していることを示唆しており、従来から提唱されていた神経離断説のみで、白質病変に伴う知的機能障害を説明することは困難であると思われる.
MRS による大脳深部白質病変の検討:深部大脳白質病変の形成には白質の循環障害が関与するとの見方が有力であり、虚血組織では乳酸の産生が増加しているとの仮定のもと、藤島らは、深部大脳白質病変を呈する領域において、組織乳酸レベルをMRSを用いて検討した。深部白質病変のない白質 (放線冠または半卵円中心) において、lactate/ choline 比の平均は約0.3であり、0-0.7の範囲に分布した (平均±2SD)。明らかな部位差は認めなかった。一方、深部大脳白質病変を有する白質において、 lactate/ choline 比はとくに高値を示すことはなく、組織乳酸濃度が上昇していることを示唆する所見は得られなかった。
血管性白質障害の病態生理に関する研究:山之内らは、MRI T2 強調画像上白質に広範な高信号領域を認め、高血圧があり明らかな神経症状を欠くか極めて軽い5例 (年齢 70.4±6.3 歳) を対象とし、PETと MRI を施行後、最低3年間経過観察した。うち3例については PET の再検査を行った。測定結果は正常対照5例 (年齢 67.6±5.5歳) と比較し、PET とMRIのパラメータをコンピュータ上で3次元的に重ね合わせて対応関係を調べた。白質高信号領域の辺縁部では CBF の低下に対して CMRO2 の低下は軽く、その結果OEFが上昇してmisery perfusionを呈しているところがみられた。これに対し、白質病変の中央部では CBF、CMRO2 はともに低下しており、OEF は正常かむしろ低下していた。一方 CBV は白質の辺縁部で増加しているが中央部ではさらに増加する傾向がみられた。5例のうち1例はリスクの管理を行ったにも関わらず進行性に悪化し、初回の検査でOEFが上昇していた辺縁部に白質障害が広がっていることが判明した。
健常高齢者における深部白質病変の臨床的意義に関する研究:内村らは、佐賀県神埼郡在住の60歳以上の健常高齢者178名(男性37名、女性141名、平均年齢77歳)を対象に、MRI 検査を行い、Fazekas 分類 grade 3 に相当する広汎な深部白質病変を有する症例を、全体の4% (6例) に認めた。これら広汎病変例と深部白質病変を認めなかった5例 (対照群) に対して、Xe/CT 法により脳血流測定を行った。広汎病変群の深部白質の脳血流は 20.7±5.1 ml/100g/ minで、対照群の 24.3±4.3 と比較し、平均値で15%低い値であったが、その差は有意差には至らなかった。また、皮質血流は、両群間に差を認めなかった。この成績は、既に報告されているビンスワンガー型脳血管性痴呆例における30-40%の血流減少とは明らかに異なる結果であった。しかし、多変量解析の結果では、深部白質病変は簡易知的機能検査に対して、独立した因子として影響していた。
初期大脳白質病変の脳循環代謝に関する研究:藤島らは、頭部MRI (T2強調画像) で、Fazekas の分類の grade 1あるいは2に相当する軽度の大脳深部白質病変を有する症例(男5例、女2例、平均年齢52歳) を対象に、PET で測定した脳循環代謝諸量を白質病変のない対照群 (男2例、女4例、平均年齢55歳) と比較した。脳血流量 (CBF)・酸素摂取率 (OEF)・脳酸素代謝量 (CMRO2)は、局所および半球平均ともに有意差は認められなかったが、白質病変を有する患者の局所脳血液量 (CBV) は、対照群に比し前頭葉・頭頂葉・側頭葉 などの大脳皮質および線条体・尾状核などの深部灰白質で有意に増加していた。多変量回帰分析でも、白質病変は、前頭葉ならびに側頭葉の CBV 増加と有意に相関していた。
白質病変と知的機能に関する研究:年齢60-70歳で高血圧があり、有意な主幹脳動脈病変を合併しない13例 (男10例、女3例、平均63歳) を対象に、白質病変の重症度を、MRI T2 強調画像で判定し、Fazekasの分類 grade 0-1 の白質病変 (-) 群 6 例 (平均年齢 61歳) と、grade 2-3 の白質病変 (+) 群 7 例 (平均年齢 65歳) の2群に分け、認知機能 (MMSE と SKT: Syndrom Kurz Test) と局所脳血流量 (安静時およびacetazolamide 負荷時のSPECT検査) を比較検討した。MMSE の総得点は両群とも平均28点であったが、SKTの総得点は白質病変 (+) 群 5.2点、白質病変 (-) 群 1.3点と、白質病変 (+) 群が有意に高く、軽度の認知機能障害があると判断された。安静時局所脳血流量は、深部白質および皮質のいずれも、白質病変 (+) 群では有意に低下していた。一方、acetazolamide 負荷前後の局所脳血流量変化率には、両群間に有意差はなかった。SKT の総得点と安静時局所脳血流量は皮質において有意の逆相関があり、なかでも前頭葉との相関係数が最も高かった。
大脳深部白質病変による認知機能低下に関する追跡調査:小林らは、脳検診を継続して受診している健常成人54名(男性23名、女性31名、初回受診時平均年齢66歳)を対象に追跡調査を行った。対象を中壮年群(平均年齢57歳)と高齢群(平均年齢72歳)の2群に分け、頭部MRI検査と認知機能検査を施行した。6年間の追跡調査で深部白質病変が悪化を示したのは、中壮年群で4.3%、高齢群で38.7%であった。深部白質病変を含む無症候性脳病変の悪化は認知機能の低下を伴っていた。
3. 大脳深部白質病変の病理学的、遺伝学的および実験的研究
白質病変の病理学的変化に関する検討:福内らは、頭部MRIT2強調画像上の白質病変を6例の剖検脳の病理学的所見と対比させて、その実態を検討した。患者の平均年齢は71歳であった。白質の点状・斑状高信号域は髄鞘の淡明化が主体であり、側脳室前角・後角周囲の高信号域は髄鞘の淡明化や血管周囲腔の拡大であった。脳室周囲の線状の高信号域 (rims) は脳室上衣下のグリオーシスが主体であった。
MRI fast FLAIR 画像上虚血性病変とされる無症候性白質病変の病理学的検討:福内らは、さらに fast FLAIR法で無症候性脳梗塞と考えられる病変の病理学的所見に関して検討した。対象は明らかな神経疾患を有さず、生前に施行された頭部 MRI fast FLAIRで無症候の虚血性病変と考えられる白質高信号を呈する患者とした。その結果、本法で高信号を呈した部位に一致して、大脳白質の髄鞘の淡明化、グリオーシス、血管周囲腔の拡大を認めた。またT2強調画像と比較してもより明瞭な画像を得ることができた。さらにこの病変に隠れた小梗塞も本法を用いれば検出できる場合があった。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)の遺伝子多型と大脳白質病変に関する研究:山之内らは、彼らの神経内科入院中または通院中の患者81名(男性36名、女性45名、平均年齢74歳)を対象に、ACE の遺伝子多型を PCR 法にて決定し、MRI上観察される白質病変との関連を検討した。ACE の遺伝子多型はDD17例、ID22例、II42例であった。大脳半球深部に脳梗塞を認めないDD7例、ID7例、II18例においては、白質病変はDD5例(71%)、ID3例(43%)、II3例(17%)とD型遺伝子を有する例に多く認められた。
ACE の遺伝子多型と大脳白質病変に関する研究:山之内らは、さらに ACE 遺伝子多型と脳動脈硬化、脳血管障害との関係を422剖検例を対象に検討した。中大脳動脈硬化度は、DD型が他の2型 (ID型、II型)に比し有意に高度であったが、脳底動脈では遺伝子多型による有意差はみられなかった。脳血管障害全体の頻度、出血や梗塞の頻度は遺伝子多型との間に有意な関連はみられなかった。
NADPH oxidase p22 phox 遺伝子多型の解析に関する研究:福内らは、虚血性脳血管障害患者(アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、一過性脳虚血発作) 226例 (年齢 58±8 歳) と年齢、性別を一致させた健常者301例 (年齢 59±4 歳) より末梢血採血を行い、PCR法によりNADPH oxidase p22 phox 遺伝子の exon 4 を増幅し、C242T 遺伝子多型を解析した。虚血性脳血管障害患者においてCC型、CT型+TT型はそれぞれ177名 (78.3%)、46+3名 (21.7%)で、健常者の261名 (86.7%)、38+2名 (13.3%) と比較し、CT+TT型を有する頻度が有意に高値であった。病型別の検討では、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、一過性脳虚血発作においてそれぞれオッズ比は、2.22 (p=0.015) 、1.71 (p=0.046) 、1.37 (p=0.306)であった。また、他の危険因子を含めたロジスティク回帰分析においても有意差を認めた (p=0.02)。
脳血管性白質病変と脳血管自己調節機構の関連についての研究:小林らは、雄 Sprague- Dawley ラットを用い、12-13週齢 (n=5)、20-21週齢 (n=5) の二群に分け、マイクロプレッシャー法にて遠位部中大脳動脈の血管内圧を測定した。全身平均血圧は両者に有意差は認められなかった。一方、14週における遠位部中大脳動脈血管内圧は 76.0 mmHg、20週における遠位部中大脳動脈血管内圧は 89.0 mmHgと有意差を認め、体重の増加および加齢的変化により全身血圧がほぼ一定であるにも関わらず、同じ部位での血管内圧が変化していることが示された。また全身血圧の変動を考慮し、全身平均血圧に対する遠位部中大脳動脈血管内圧の比について検討してみると、14週で 0.749、20週で 0.843 と有意差を認めた。
結論
大脳深部白質病変の危険因子として、血中ホモシステイン高値や、血中トリプトファン低値が新たに見出された。p22 phox C242T の T allele や ACE の遺伝子多型は、虚血性脳血管障害や白質病変の危険因子となりうる。また、高度頸動脈病変の存在は、高率に白質病変を合併する。深部白質病変から皮質の代謝低下に至る機序として、神経離断のほかに、皮質の虚血が関与する可能性があり、脳室周囲の白質病変の出現と進展には白質の虚血が先行する。高度白質病変例では、深部白質および皮質の局所脳血流量の低下と認知機能障害が存在し、認知機能障害の程度と皮質、とくに前頭葉の局所脳血流量には有意の逆相関がある。主幹脳動脈レベルの減圧機構が加齢により影響を受けることが小動物において示され、白質病変につながる細動脈での脳循環自己調節障害の一因となる可能性が考えられた。MRI T2 強調画像上の白質病変は、髄鞘の淡明化やグリオーシスなどを反映しており、 fast FLAIR 法は、大脳白質の病変をより明瞭に描出することができる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-