情報ネットワークを利用した高齢神経筋難病の症例データベースによる病態解析・治療法・ケア技術についての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900213A
報告書区分
総括
研究課題名
情報ネットワークを利用した高齢神経筋難病の症例データベースによる病態解析・治療法・ケア技術についての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
福原 信義(国立療養所犀潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院)
  • 川井充(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 高田裕(国立療養所南岡山病院)
  • 藤下敏(国立療養所川棚病院)
  • 宇都正(国立療養所南九州病院)
  • 吉野英(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 安徳恭演(国立療養所筑後病院)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院)
  • 橋本和季(国立療養所道北病院)
  • 乾俊夫(国立療養所徳島病院)
  • 田中正美(国立療養所西新潟中央病院)
  • 望月廣(国立療養所宮城病院)
  • 木村格(国立療養所山形病院)
  • 小牟禮修(国立療養所宇多野病院)
  • 齋藤由扶子(国立療養所東名古屋病院)
  • 春原經彦(国立療養所箱根病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経筋難病(脊髄小脳変性症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)は介護保険法の特定疾病として分類される原因不明なものが多く、治療法、ケア技術なども十分に解明されていない。これらの疾患は加齢に伴って発症するが、高齢になるにつれてさらに治療やケア法が難しくなる特徴がある。第三年度は筋萎縮性側索硬化症の症例データベースの作成を開始すると同時に昨年まで作成した脊髄小脳変性症のデータベースの解析をおこない、難病患者の障害の分析を試みた。医療、在宅療養のためには、医学データの情報だけでなく、重症度の評価や日常生活評価など患者のQOLをしめすデータを収集し解析することが必要である。国立病院など総合情報ネットワークシステム(以下HOSP net)は全国に張り巡らした唯一の医療専用国立イントラネット網であり、プライバシーなども含めた患者情報の情報保全上適した情報ネットワークである。この既存のネットワークに神経難病データベースを構築することで、全国の国立病院療養所センターの神経難病を診療している専門医のデータを容易に集め解析することが可能となる。これにより、症例に対する検査、治療、在宅ケア技術などを相互に分析することが可能で、効率的で正確な診断治療法の確立、QOLの向上を目指したケア技術の確立、オーファンドラッグ開発や薬剤臨床試験の対象となる症例を明確化することことが可能である。初年度は上記研究班組織にHOSP net端末を整備し、暗号化通信と暗号化データベースサーバを国立療養所犀潟病院内に設置して、イントラネット内でさらに情報の保全ができるか検討をおこなった。第二年度は脊髄小脳変性症について、最終年度は筋萎縮性側索硬化症の症例データベースの作成をおこなった。
研究方法
情報ネットワークシステムの構築、神経筋難病患者の医学・医療データ、および在宅医療データの収集と解析のために、情報システムを構築した。H9年3月から運用されている国立病院、療養所、ナショナルセンター、厚生省をむすぶ全国で唯一の医療専用の情報ネットワーク網であるHOSP netを利用した。初年度に症例情報を入力解析できる情報システムを構築した。Windows NTサーバ上にLotus notesを構築し、RSA方式の暗号化メールとデータベースの暗号化をおこないイントラネット内であってもプライバシー管理ができるデータ収集を開始した。その後、班員を増やしながら充実させた。(詳細は初年度の報告書を参照)脊髄小脳変性症の遺伝子診断の確立初年度に脊髄小脳変性症のデータを収集する目的で、遺伝子診断技術を確立した。現在、常染色体優性遺伝性を示す脊髄小脳変性症はSpinocerebellar ataxia 1(SCA1), SCA2, Machado-Joseph病(MJD),SCA6,SCA7,DRPLAが遺伝子診断可能で、これらの異常なCAG反復配列を認めた場合には遺伝子診断が可能になった。(詳細は初年度の報告書を参照)また、症例データベースの個人情報保護 ロータスノーツデータベースと
して脊髄小脳変性症のデータベースを作成した。個人情報の保護の観点から、初年度は個人を特定できる項目については入力者(担当医)の端末からしか閲覧できないが、情報としてはサーバに蓄積される構造を採用した。具体的には入力者の端末が内蔵しているIDファイルがあり、入力者に固有のパスワードを入力したときのみ閲覧できる構造にしたが、プライバシー情報が院外のサーバに蓄積され、既存の診療録の保存場所とことなることから、その後変更をおこない、変更後は個人情報は基本的に各施設の端末内に分散保存し、患者情報の施設内の保存の慣例にしたがった。しかし、研究に必要な、一部の情報として、生年月日、性別、出身県については症例データとともにサーバに保存し分析できるようにした。脊髄症小脳変性症の症例データベース臨床診断名と遺伝子診断名をポップアップとして入力を容易にした。ICARS(International Co-operative Ataxia Rating Scale)を日本語訳し、入力を容易にして、自動的に評価値が計算されるようにした。これにより、脊髄小脳変性症の臨床的重症度を数値的に評価可能である。また、身体障害の自立度を数値的に評価する目的でBarthelインデックスを入力と自動計算が可能なように作成した。筋萎縮性側索硬化症のデータベースを作成した。将来臨床試験を行う際にエンドポイント分析が可能になるように臨床診断名のほか、データベースの必須項目として、非経口摂取開始日、気管切開日、人工呼吸器装着日などを記載できるようにした。このように入力しやすい環境を整えた。次に、ALSの機能スケールとしてALSFRS(The ALS CNTF Treatment Study Phase I-II study group, The amyotrophic lateral sclerosis functional rating scale, Arch. Neurol.1996;53:141-147)を採用しALSの臨床的重症度を半定量する項目を作成し、発話、唾液分泌、嚥下、書字、食事、セルフケア、歩行、階段昇降、呼吸などを評価する入力画面を作成した。ALSFRSとは別に、ADLを評価することができ世界的に使用されているBarthel indexを入力集計可能にした。
結果と考察
全体の症例データの集計は昨年の報告を参照。今回は特に、臨床症状の評価尺度・ADL評価尺度としてICARS, International Co-operative Ataxia Rating Scale(The Ataxia Neuropharmacology Committee of the World Federation of Neurology, Journal of Neurological Science 145(1997) 205-211)を利用し脊髄小脳変性症患者を対象に臨床的重症度を脊髄小脳変性症のそれぞれについて数値的に評価可能であるか検討した。また、同時に身体障害の自立度を数値的に評価する目的でBarthelインデックス(BI)も評価した。Machado-Joseph病は平均年齢55.5歳(n=44,SD=13.1) ICARS=46.3 (SD=23.6) BI=65.3 (SD=36.7) DRPLAは平均年齢54歳(n=10,SD=19.1) ICARS=33.8(SD=15.1) BI=46.6(SD=22.3)であり、ICARSはMJDよりもDRPLAの方が低く小脳症状が少なかったがBarthel indexでの自立度は悪かった。それぞれの疾患について相関分析をおこなった。Machado-Joseph病とDRPLAについてBIとICARSの相関を示した。両者ともBIとICARSの相関は高かったが回帰直線の傾きは著しく異なっていた。MJDはADLが低下していない状況でもICARSで臨床症状の重症度を十分に分離可能であった。DRPLAではICARSが軽度悪化しただけで、ADLは極端に悪化する傾向をしめした。痴呆と不随意運動がICARSでは含まれていないことがDRPLAのデータとMJDが相違している原因のひとつと考えられた。ICARSは自律神経症状、筋萎縮などの評価項目も含まれていないので各種のSCDを評価する際には注意が必要である。筋萎縮性側索硬化症では症例データベースの構築は終了したが、症例の入力・分析は報告書の提出時点では間に合わず、データの公表は事後となる見込みである。
結論
HOSPnetを利用することで全国的な症例データベースがセキュリティやプライバシーを配慮して構築可能であることを示した。対象疾患として、介護保険の特定疾病である脊髄小脳変性症という加齢にともない症状が増悪する疾患群で分析可能であることを示した。また、同様の筋萎縮性側索
硬化症においてもデータ収集・解析を開始した。

公開日・更新日

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