糖尿病性合併症の治療法開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900208A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性合併症の治療法開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
牧田 善二(久留米大学医学部内分泌代謝内科)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内正義(北陸大学薬学部生化学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
11,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の糖尿病患者数は690万人に上り、40歳以上の1割が糖尿病に罹患しているとされており、新しい国民病と言える。合併症を抑え、QOLを向上するためには血糖制御の治療のみならず、糖尿病で血糖が上昇するとなぜ合併症が生ずるのかを科学的に解明し、その機序を阻止する治療法の開発が必須であると考えられる。言い換えると、多少の高血糖状態が存在しても合併症を阻止出来る「合併症治療薬」無くしては、合併症を減らすことは出来ない。AGEは糖尿病合併症のみならず、アルツハイマー病や透析アミロイドーシス、老化などに深く関与することが明らかにされている。AGEは単一の物質ではなく、複数の構造物の総称である。近年AGEの代表的物質CMLは糖化(glycation)ではなく、むしろoxidation反応から産生される物質と報告されている。本継続研究の目的として、CML以外のAGE物質の生体内の確認と、糖尿病合併症(特に網膜症)における関与を検討した。さらに、初期腎症にはAGE阻害剤の効果が弱いことを考慮し、AGE阻害剤以外の治療薬との比較を、腎機能変化、腎病理学的変化の両面で研究することを目的とした。
研究方法
異なった種類のAGEの生体内の存在の確認を以下の5種類で行った。Glucose+protein→Amadori product→CML(以下AGE1)。Glucose+protein→Amadori product→?→non-CMLAGE(以下AGE2)。Methyglyoxal+protein→AGE(以下AGE3)。Glyceraldehyde+protein→AGE(以下AGE4)。Glycolaldehyde+protein→AGE(以下AGE5)。各々のAGEをin vivtroで作成し、さらに家兎に免疫して各AGEを特異的に認識する抗体を作成した。各抗体の性状を競合阻害実験にて確認後、生体内での存在を糖尿病透析患者血液にて検討した。CMLとnon-CML AGEの糖尿病網膜症への関与を検討するため、網膜症の程度(正常、単純性、前増殖性、増殖性、光凝固治療群)に群分けし、血液中および房水中のCMLとnon-CML AGE値、VEGF値を比較した。AGE阻害剤以外の初期腎症治療剤との比較のためAGE阻害剤、ACE 阻害剤、PKC-β阻害剤の治療効果の比較を2型糖尿病の優れたモデルラットでありOLETFを用い行った。機能的変化への影響を尿タンパクで病理組織学的変化をPAS染色で行った。チャージバリアーへの評価は電子顕微鏡を用いたpolyethleneimine法にて腎基底膜のanionic siteの変化で検討した。
結果と考察
本研究の遂行により 以下の研究結果を得た。(1)AGE1~5それぞれを特異的に認識する抗体を得た。この事実は、これら5種の異なった経路から産生されたAGEは異なった構造物であることを示す。人血液中にもこれらのAGEの存在が確認され、量の比較ではAGE4、AGE5が多かった。この研究成果の一部は Mol Med 1999, 5:393-405に報告し、さらにMol Med 2000に印刷中である。(2)人の糖尿病網膜症の進展とともに房水中のnon-CML AGEおよびVEGF値は上昇し、互いに高い相関関係が認められた。房水中のCMLとVEGF値との間にも弱い相関があった。しかし血液中のAGE値とは相関関係はなかった。房水中のnon-CML AGE上昇がVEGFの誘導の原因と推測された。この研究成果は投稿準備中である。(3)OLETFの初期腎症への尿タンパクへの効果はACE 阻害剤が優れていた。PKC-β阻害剤もかなりの治療効果を示したがAGE阻害剤は非治療群(糖尿病)との間に差を認めなかった。光学顕微鏡での病理学的検討では、腎組織の硝子滴形成に対しAGE阻害剤、PKC-β阻害剤で有意の改善を認めたが、AGE阻害剤では効果は確認されなかった。電子顕微鏡を用いたpolyethleneimine法による腎基底膜のanionic siteの変化では、AGE阻害剤、PKC-β阻害剤で改善が認められた。これらの事実は、特に初期腎症に対してはAGE阻
害剤、PKC-β阻害剤の両者が有望な治療法であることを示唆する。この研究成果は投稿準備中である。平成11年度の研究成果から、AGEはglucoseからだけではなくMethyglyoxalやGlyceraldehydeなどからも形成されることが明らかになった。さらにこれらのAGEは既報のCMLなどとは構造が互いに異なっており、人の血液中にも存在することが確認された。MethyglyoxalやGlyceraldehydeは反応性が高く生体内のAGE形成の主要な経路になっている可能性が考えられた。さらに人の網膜症において房水中にnon-CML AGEが存在し、網膜症の進展に対してはCMLよりもむしろのnon-CML AGEが重要であると考えられた。臨床的な事実として糖尿病性早期腎症の時期には糸球体過剰濾過(hyperfiltration)が存在することが知られている。過去の我々の研究では尿タンパクへのAGE阻害剤OPB-9195効果は、後期腎症では有意であったが早期腎症では、期待されたほどの効果は得られなかった。初期腎症への糖尿病腎症治療の有効性を比較検討した今回の成績では、糸球体過剰濾過の改善が知られているACE阻害剤の効果が著しかった。しかし、血圧に影響を及ぼさないPKC-β阻害剤にも治療効果を認め、初期腎症におけるPKC-β活性上昇の重要性が示唆された。本研究遂行により、各種AGEの毒性の差異を確認出来た。また糖尿病腎症治療においてはその病期に応じた治療法選択が必要と考えられた。激増する糖尿病透析患者の阻止を目指し、新しい腎症治療法開発が期待される。
結論
生体内でのAGE形成にはglucose以外のshort chain sugarやdicarbonylcompoundが重要と考えられた。また糖尿病網膜症進展にはnon-CML AGEの房水中の上昇が関与すると考えられた。さらに初期腎症の進展阻止にはACE阻害剤、PKC-β阻害剤が有効であることが確認され、病期に応じた治療法選択が重要と考えられた。

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