老化・発生・分化過程におけるプレセニリンの発現と神経細胞死の抑制(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900200A
報告書区分
総括
研究課題名
老化・発生・分化過程におけるプレセニリンの発現と神経細胞死の抑制(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
内原 俊記(東京都神経科学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
正常脳では神経細胞に発現して、細胞死や生存に関わるとされるプレセニリン(PS)の発現は、脳梗塞などの負荷があるとグリア細胞で上昇することを昨年度の本研究であきらかにした。そこでPS発現の細胞レベルでの調節機構を明らかにすることを目的に本年度は培養細胞にストレスをかけPSの発現を観察する系を確立することを目指した。また、ラット脳におけるPS 蛋白の局在を免疫組織に同定し、実験動物で虚血負荷などに伴うPS発現の変化をin vivoで観察をする準備を行った。一方虚血負荷ではPSばかりでなくタウの様々なエピトープが神経細胞やグリア細胞に発現することを明らかにしてきたが、神経原線維変化の出現にはPSのintronic polymorphismが影響を与えることを平成9年度の本研究で我々は明らかにしている。アルツハイマー病(AD)の病態に深く関連するこれらの分子の発現と相互関係を観察することで、その病態を明らかにすることが期待される。これらの分子の発現沈着機構を剖検脳で観察するため、タウ陽性細胞の線維形成性を蛍光色素Thiazin Redと免疫染色を組み合わせる方法でさらに多くの疾患で検討した。これらの所見と前述のin vitroの発現実験とあわせて包括的な病態の解析につながると考え、本研究を継続した。
研究方法
1.培養細胞におけるプレセニリン蛋白の発現:ヒトグリア系細胞株(KNS43)と神経系細胞株(GOTO)を異なった濃度の過酸化水素(最終濃度10-6400mM)に暴露し、暴露前、4、24及び48時間後に採取し PS1のN末端に対する抗体(NTF) またはloop部分に対する抗体(loop) を用いてWestern blotを行った。2.RT-PCR法によるPS1mRNAの定量法:1の培養細胞より抽出したRNAをcompetitor RNAと共にRT-PCRで増幅し、定量的に検討する系を確立した。3. タウ蛋白沈着の多様性の検討:タウ蛋白が神経細胞内に沈着する各種の神経変性疾患の剖検脳を用いて抗PHFモノクローナル抗体(AT8)-FITC とTRによる2重染色を行い共焦点レーザー顕微鏡で両者の局在とその関係を観察した。必要に応じ、抗ubiquitin抗体にを加えた3重染色やGallyas染色との比較も試みた。4.実験動物におけるPS蛋白の局在:成熟ラット中枢神経系を様々な固定法、抗体、発色増感法にて免疫染色し、その局在を観察した。
結果と考察
1.KNS細胞を6400mMの過酸化水素に暴露すると、PS-NTFに対応する 30kDaのバンドが暴露後4時間でより明瞭になった。2. KNS43細胞とGOTO細胞には定常状態において、それぞれ約300 attoモルと800 attoモルのPS1 mRNAが存在することが確認できた。3.タウ陽性神経細胞はADとDNTCではTRやGallyas染色陽性で線維構造を有するが、Pick嗜銀球はTRやGallyas陽性像に乏しくCBDではGallyas陽性だが、TRに対する親和性に乏しかった。さらにubiqutinを加えた三重免疫染色法を確立した。4.ラットアルコール固定脳をbiotinylated tyramideを用いて増感下場合に小脳プルキンエ細胞を中心にPS様免疫活性を同定できた。高濃度の過酸化水素の暴露によりPS1のフラグメントが細胞内により多く存在するようになるとういう本年度の研究結果は、虚血刺激によりグリア細胞にPSの免疫活性がより顕著にみられるという剖検脳における昨年度の観察と対応している。細胞レベルでPSの発現を観察できればその制御に関与する因子を同定して、治療法の開発につながる情報を、この実験系を用いてえることが期待される。そのためにはタンパクと同時にmRNAの発現を観察する必要があり、我々はこの両者をin vitroで観察する系を確立した。さまざまなストレスの質や量の違いをこの系で観察する一方、実験動物を用いてin vivoでのストレス負荷をかけた時にPSの発現がど
の様に変化するか、また細胞死や生存にどのような影響を与えるかを観察することが今後の課題となる。その第一歩としてPSタンパクの局在を明らかにすべく実験動物での検討を続けてきたが、アルコール固定標本にbiotinylated tyramideによる増感を行えば明瞭な免疫活性が得られることを明らかにすることができた。今後細胞レベルでの検討と並行して、in vivoでも虚血等のストレス負荷を加えることを予定しており、今後細胞レベルから実験動物、さらには剖検脳に至る包括的な所見を得ることで、よりrealな情報を治療に結びつく形で得ることが期待される。また平成9年度の本研究班でPSのintronic polymorphismが神経原線維変化の出現に影響を与えることを報告した。タウとPSが相互作用をするという報告も散見されるが、in vivoでの互いの影響についてはこれまで報告はない。我々は、平成9年度にBodian染色との対比で、平成10年度にはThiazin Redを用いた蛍光2重染色法により、おもにAlzheimer病とCorticobasal degenerationを比較してきた。前者にくらべ後者ではBodian染色やTRに対する親和性に乏しく、タウタンパクの沈着がいずれも線維形成性に乏しいことを反映していると考えられる。平成11年度はさらに疾患対象を拡げ、Pick嗜銀球やDiffuse neurofibrillary tangles with calcificationなどを対象に検索を進めた。ADとDNTCのタウ陽性神経細胞は何れもTR陽性であり、線維形成が明瞭である。一方Pick嗜銀球はTRの親和性に乏しい点でCBDと共通しているがGallyas染色で良く染まるCBD とは異なり、明らかなGallyas陽性像をとることは少なかった。さらにタウ免疫染色とTRに加え、さらにもう一つ別のエピトープを観察する3重蛍光染色法を確立した。タウ陽性構造物の線維形成性の多寡をTRによって区別した上で、それぞれに共存するエピトープが同一切片上で観察できる新たな手法である。今回ubiquitinエピトープが線維構造を持つタウ沈着に親和性を有することを明らかにできたが、今後他の疾患やubiquitin以外のエピトープの関与を観察していく予定である。PSもタウもADばかりでなく、様々な疾患に関与する重要な分子であるが、その相互関係を含め、今後の検討課題は多い。本研究班は剖検脳の所見を様々な疾患同士で比較する一方、その着想に基づいて細胞レベルでの系を構築し、さらにin vivoの動物実験へ還元することで包括的な所見を治療に結びつく形で得ることを目標として運営を行ってきた。今後さらにこれらの蓄積に基づき、研究を発展させていく予定である。
結論
これまで、脳虚血の剖検脳にてPSやタウタンパクのエピトープが様々な細胞に発現沈着していることを報告したが、本年度は培養細胞においてPSの発現をタンパクおよびmRNAレベルで観察する系を構築し、ヒトグリオブラストーマ細胞で過酸化水素負荷によりPS1タンパクの増加が認められることを明らかにした。これをin vitroの実験系に移すことを目標にラット中枢神経系での免疫組織化学を行い、PS1のフラグメントが小脳プルキンエ細胞に強く発現していることを明らかにした。また蛍光三重染色法によりタウタンパクはADやDNTCでは明瞭な線維構造をとっているが、CBDやピック嗜銀球では線維構造に乏しく、その沈着様式は疾患により多様であるこをを明らかにした。今後PSやタウの発現を剖検脳から細胞レベルにわたって広く観察し、その作用や相互関係についてさらに検討を続けていく。

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