老化促進ストレス刺激と生体防御反応に関する研究

文献情報

文献番号
199900197A
報告書区分
総括
研究課題名
老化促進ストレス刺激と生体防御反応に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
磯部 健一(国立療養所中部病院長寿医療研究センター部長)
研究分担者(所属機関)
  • 磯部健一(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 長谷川忠男(国立療養所中部病院長寿医療研究センター->名古屋大学医学部)
  • 中島 泉(名古屋大学医学部)
  • 祖父江元(名古屋大学医学部)
  • 澤田誠(藤田保健衛生大学・総合医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
外界からの様々なストレス刺激、さらには内部の代謝によって生じるラジカルがDNA、蛋白、脂肪を傷害あるいは修飾し、生体はそれに対する防御反応を持ち、その強弱により寿命が変化すると考えられる。この仮説を実験的に検証するために我々は個体レベルの実験から、細胞、分子レベルまで様々な実験を進めた。本年は最後の年であり、これまでの実験をさらに進め、新たな展開をめざした。
研究方法
1.遺伝子発現制御 ; 遺伝子発現調節領域を決定するためにゲノム(Mn-SOD、GADD34, GAHSP40)の5'側領域あるいはエンハンサー領域をルシフェラーゼ発現ベクターに組み込み、それらをもとに様々な変異遺伝子を作製した。遺伝子を細胞内移入し、ルシフェラーゼ活性を測定した。この解析により転写に必要なシスエレメントを決定し、それに結合する転写因子をゲルシフトアッセイで決定した。また、転写因子を発現ベクターに組み込み遺伝子移入し、レポーター遺伝子の活性を測定した。2.蛋白間相互作用; GADD34との結合が酵母において確認された遺伝子について 1)臓器における発現をノザン法にて解析した。 2)酵母内以外でのin vitroでの結合をpull down法で調べた。3)in vivo two-hybridにて細胞内での結合様式を調べた。3、シグナル伝達系の解析; 非受容体型(c-Src, v-Src)、受容体型(c-RET, RET)チロシンキナーゼを発現するNIH3T3細胞に、NOを放出するSNAPや紫外線を照射したりした後、ウエスタンブロット、免疫沈降、キナーゼアッセイによってキナーゼ分子の発現と活性のレベルを測定した。 4、ミクログリア;GFPトランスジェニックマウスから骨髄細胞を回収し、細胞を尾静脈中に注入した。注入後各臓器を摘出Westernbloting、組織解析、RT-PCRによるGFP遺伝子発現を確認した。また、凍結切片を蛍光顕微鏡で観察し、その後HE染色または免疫染色を行った。5.神経細胞; 神経、ミクログリア、アストロサイト細胞株にglyoxalを添加し、cell viabilityとAGEの1種である抗CML抗体を用いてCMLの誘導を検討した。さらにglyoxal添加によるmicroglia系とastrocyte系細胞のcytokine産生を,RT-PCRと各cytokineに対する特異抗体を用いたELISAによって測定した。
結果と考察
1.GADD34の遺伝子発現と結合する蛋白の解析(磯部、長谷川)
昨年度までにクローニングしたGADD34とその結合蛋白をさらに解析した。1)GADD34ゲノムの遺伝子構造をほぼ明らかにできた。TATAbox の200bp上流にアルキル剤処理(MMS)反応領域が存在し、この領域に含まれるSp1, CREB等が重要な役割を担う可能性が示唆された。2)GADD34との結合が認められた熱ショック蛋白40ファミリー、GAHSP40は、既に報告されているHLJ1とホモロジーがある約1.4kbの遺伝子である。N末端に大腸菌DnaJとホモロジーをもつJドメインを含んでいた。マウスの臓器すべてにおいて発現が認められ、42度の熱刺激のみならず、MMSによる薬剤処理にても発現が誘導された。また、GAHSP40ゲノムの構造もほぼすべてあきらかにし、転写解析によりHSEが熱による反応性に必須であることを見つけた。3)トランスリンは悪性リンパ腫の際、DNA転座領域に結合する蛋白質である。我々はこの全長のcDNAを得た。4)キネシンは細胞骨格の一つとして重要な蛋白質であり、我々はこのうちKIF3AのC末端領域、すなわちrod α-herix領域の一部とtailドメインを含むcDNAを得た。5)G34BPは約1.9kbのcDNAでありMuREDとして報告されている遺伝子とほぼ同じ配列を有していた。マウスのすべての臓器に発現が認められた。これらの解析からGADD34がストレス応答蛋白として生体防御に働く可能性が示唆される。
2.Mn-SOD の発現調節(磯部)
昨年度、NIH3T3細胞あるいはRAW264細胞を感染ストレス刺激である IL-1B, TNF-a, LPS, IFN-gで刺激するとMn-SODmRNAの発現増強がみられこれに対応するMn-SODの転写活性をルシフェラーゼ活性で測定した時活性の増強がみられたことを報告した。また、IL-1B, TNF-a, LPS, IFN-g反応性領域が第二イントロンのC/EBP、NFkBに存在することを報告した。今年度はさらに進めて、C/EBPb, NFkBのp65, p50サブユニットの発現ベクターを細胞に遺伝子移入した。NIH3T3細胞ではp65 をRAW264細胞ではp65あるいはp50いずれかをエンハンサー領域(+2119- +2420)を含むMn-SODプロモーターベクターとともに移入した時に無刺激の状態で、ルシフェラーゼ活性が著しく上昇した。これらの活性上昇は刺激によりさらに上昇した。血小板増殖因子(PDGF)を培養液に加えたところMn-SODmRNAの上昇をみた。Mn-SODプロモーターベクターを移入し、PDGF反応性領域を検索したところGC-richなSp1結合領域であった。ゲルシフトアッセイでEgr-1転写因子が結合し、PDGF反応性転写因子であることが判明した。
3、酸化ストレスとシグナル伝達(中島)
(1)NOの作用で形成される分子間S-S結合を介して、非受容体型チロシンキナーゼ
であるc-Srcが構造を修飾され、その結果、通常の受容体とリガンドの結合によって起動するシグナル伝達経路をバイパスして活性化することを示した。この経路では、従来知られるSrc分子の活性化とは異なる経路でより強く活性化(スーパー活性化)した。(2)がん遺伝子の発現制御が加齢に伴う継続的な紫外線照射によって破綻するであろう分子機序を、がん遺伝子RETについて一部明らかにした。すなわち、恒常的に活性化しているがん遺伝子産物Retチロシンキナーゼが紫外線の照射によって2次的にさらに高度に活性化(スーパー活性化)することを見いだした。紫外線、NOラジカルがシグナル伝達系を高活性化状態に持っていくことを我々は見つけたが、このことが老化にいかなる意味を持つか今後検討する必要がある。
4、ミクログリアとストレス(澤田)
1)1GFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞を正常同型マウスに移植し骨髄キメラを作製した。レシピエントの脳と末梢臓器において、GFP陽性細胞が移行していることが確認でき、それらのほとんどはクラスターを形成していた。脳におけるクラスターは、末梢臓器に比較して未分化であり通常の単球では発現しえない抗原を発現していることを示した。ミクログリアの発生的起源は、骨髄前駆細胞が脳実質中に移行し血球系の細胞とは独立した分化をとげたものである可能性を示唆できた。ミクログリアにはsubtypeがあり、骨髄由来ミクログリアは遺伝子操作後、生体内に簡単に戻せることが解った。今後、老化に正、負に働くミクログリアを明らかにすることが求められる。
5、神経細胞、ミクログリア、アストロサイトと酸化ストレス傷害(祖父江)
1)ミクログリア、神経細胞、アストロサイトの順にglyoxalによる細胞死感受性が低かった。抗CMLによる組織染色性を調べるとこの順により低濃度glyoxalでCML発現がみられた。
2)Microglia系において、glyoxa添加によって TNF-aのmRNAの誘導が認められた。また、IL-6濃度の上昇が認められた。AGEsは生体内ではゆるやかに発生するが、試験管内で急速に反応がおこることを見いだし、この系でAGEs産生のメカニズムを特に神経系の細胞で解析できるめどがたった。
結論
1.GADD34遺伝子産物と結合する蛋白質(GAHSP40、トランスリン、キネシンファミリーに属するKIF3A、G34BP)の遺伝子発現、結合様式を調べ、GADD34がストレス防御蛋白として働く可能性を示した。2、Mn-SODの発現上昇はTNFa等感染ストレス刺激で引き起こされ、その発現調節機構を調べたところ、免疫系のシグナル伝達に類似していた。PDGFは細胞の代謝レベルをあげる同時にMn-SOD遺伝子発現を上昇させる。転写因子としてEgr-1が働いていることを見いだした。3. NOの作用でc-Srcが分子間S-S結合等による分子修飾を受けてスーパー活性化することを示した。また紫外線の作用でRET分子がS-S結合で2量体化すること、この2量体化はRETの細胞内キナーゼドメインC末端側の特定のシステインを介する可能性があることを示した。4.骨髄中には脳に親和性を持って脳に侵潤し、ミクログリアに変化する少数の細胞があることを発見した。5、神経細胞およびグリア細胞の培養系において、glyoxalによってCMLが誘導され、この際、ミクログリアから炎症性サイトカインが分泌された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-