血管系の老化におけるマクロファージの分子細胞生物学と新規治療法

文献情報

文献番号
199900195A
報告書区分
総括
研究課題名
血管系の老化におけるマクロファージの分子細胞生物学と新規治療法
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 龍彦(東大先端研分子生物医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 間藤方雄(国際医療福祉大保健学部)
  • 二木鋭雄(東大先端研生命反応化学分野)
  • 高橋 潔(熊本大学医学部第2病理学講座)
  • 土井健史(大阪大学薬学部)
  • 内藤 眞(新潟大学医学部教授)
  • 田中良哉(産業医科大学講師)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血管壁への老廃物蓄積過程とそれを清掃するマクロファージ系細胞の役割は、血管の老化現象を解明する鍵になる。実際にマクロファージが発現している受容体の研究は次項に示す如く近年急速に進展し、現在までにスカベンジャー受容体ファミリーがクローニングされ、動脈硬化の進展において、各々の役割を解明する必要がある。そこで、本研究では、代表研究者が発見したグループAのI型とII型受容体を手がかりに、マクロファージが血管の老化において果たす役割を解明し、さらに変性LDLが血管壁で生じる過程を明らかにして、治療薬開発のターゲットを明確にする。
研究方法
直径100μm以下の脳機能と直接関連する脳細動脈が高脂血下、高血圧下に於いて、冠状動脈、大動脈と同様な粥状硬化を呈するか否かについての検討は充分に行われていない。間藤はLDLレセプター欠損動物に高脂質食を付加したもの及びApoE欠損により高脂血を来した動物を用いて脳細動脈を観察した。
内藤はBCG感染における本受容体の役割を明らかにする為、MSR-Aノックアウトマウスと野生型マウスにBCG生菌 (Pasteur strain)を投与して種々の臓器を採取し、免疫組織学的検討を行った。組織における各種サイトカインの発現や血清サイトカイン濃度を検討した。また免疫染色と結核菌染色の二重染色を行った。各臓器の菌数をコロニー形成法で検出した。また、肝内リンパ球のFACS解析も行った。
土井はマクロファージスカベンジャー受容体の細胞質領域と相互作用する因子を同定するために、同受容体の細胞質領域をペプチド合成により作製して、その構造をCDスペクトル測定装置を用いて調べた。同時に、合成したペプチドを用いてアフィニティカラムを作製し、この分子と相互作用する因子の単離を試みた。
高橋は、生体内コレステロール代謝の中枢的役割を担っているACAT-1の粥状硬化病巣ならびに正常各種臓器/細胞における局在を明らかにするために、ヒトACAT-1に対する特異抗体を用いて免疫組織化学的な検討を行った。
児玉は前年度より構築したウサギ大動脈血管壁細胞を重層して培養した混合培養系に、ヒト単球細胞を加えて、マクロファージ細胞への脂質蓄積が効率的に生じる条件を検討した。また、この混合培養系からRNAを回収して、脂質を蓄積したヒトマクロファージ細胞の遺伝子が含まれているかどうかを検討した。
田中はヒト臍帯静脈由来内皮細胞HUVECと皮膚細静脈由来内皮細胞株HMEC-1を用いて、単球細胞との接着効率を測定した。単球の構造変化は、細胞内骨格線維F-actinを共焦点レーザー顕微鏡で観察した。単球のLFA-1α鎖 (αL)、およびLFA-1の活性化エピトープの発現はフローサイトメータで検出した。単球の経内皮細胞遊走率は、皮膚細静脈由来内皮細胞株HMEC-1を播種した24穴チャンバー上にラベルした単球を添加して求めた。  
二木は酸化を解析する新たな手段として、過酸化物と反応することによりDPPP=Oとなりとなって蛍光を発するジフェニルピレニルフォスフィン(DPPP)を界面活性剤(Pluronic F-127)に溶解させたDPPPを添加することによりLDL内に取り込ませた。このLDLをラジカル開始剤により酸化させ、DPPP=Oの蛍光を測定して、脂質過酸化物および抗酸化物質の濃度を経時的に検討した。
結果と考察
研究結果=LDLレセプター欠損マウスでは大脳皮質に分布する脳細動脈では間藤細胞には脂肪染色陽性の大型顆粒が認められたが、大動脈と異なり、大型の単球マクロファージは見当たらなかった。多数の大型の蜂の巣状の顆粒が大型化するに伴い、間藤細胞は肥大し血管壁を圧迫していた。
ApoE欠損動物の大脳皮質に分布する血管においては、間藤細胞は退行的なものと、変性を思わせるものを認めた。視床、海馬采では一部の血管周辺に単球性マクロファージの侵入があり、この血管では間藤細胞及び平滑筋細胞は完全に変性に陥っていたものの、粥状硬化を呈さなかった。SHRーSPラットにおいて間藤細胞のHRP摂取能は低下し、28週目以降には間藤細胞は泡沫化、脱分化した。しかし、すべての過程で単球性マクロファージの血管壁侵入はみとめられなかった。
内藤は、スカベンジャー受容体欠損マウス肺病変のBCG生菌 (Pasteur strain)増殖は野生型マウスに比較して顕著であることを観察し、同時にin vitroでもスカベンジャー受容体を欠損していると、菌の取り込みが減少することを確認した。
土井は、スカベンジャー受容体の細胞質内領域は一本鎖でも3本束ねても明確ななヘリックスやシート構造をとり難いことが明らかにした。そこで一本鎖ペプチドを用いて相互作用する蛋白としてGAPDH、S-Adenosylhomocysteinase、Aminopeptidase、HSP70、HSP90を同定し、また90k付近のバンドに未知の蛋白を検出した。細胞質領域ペプチドとの相互作用を調べた結果、HSP90については結合が認められた。
高橋は粥状動脈硬化病巣では内皮細胞、平滑筋細胞、内膜への浸潤マクロファージにACAT-1が発現していること、中でも泡沫細胞化マクロファージが強陽性に染まることを示した。免疫電顕によって培養ヒトマクロファージの粗面小胞体にACAT-1の局在が認められアセチルLDL添加によって細胞を泡沫化させると、約40%のACAT-1は直径100nm前後の小胞に移動した。小胞体の特異マーカーであるGRP78とACAT-1の局在を検討すると、アセチル化LDLの添加にかかわらず両者は共存していた。
児玉は混合培養の観察結果から低酸素下での培養により血管平滑筋とヒトマクロファージに脂質の蓄積が増加することを示した。ウサギおよびヒト平滑筋は単培養でも低酸素下でLDLを負荷すると効率的に細胞内に脂質を蓄積した。混合培養内に平滑筋と共培養したLDLを添加するとマクロファージ由来細胞への脂質蓄積が確認されたが、このLDLは酸化的変性を受けていないことが示された。
田中は無刺激単球を酸化LDLで刺激して、血管内皮細胞とのインテグリンLFA-1依存性の接着が著明に誘導されることを示した。また、単球を酸化LDLで刺激すると、単球のCD31発現とCD31依存性の経内皮細胞遊走率を誘導した。酸化LDL刺激により誘導されたこれらの単球機能は、α-tocopherol、及び、PKC阻害剤で阻害された。
二木はDPPPをLDL一粒子あたり10個以上取り込ませることができた。LDLを酸化させると、ラジカル開始剤の濃度依存的・時間依存的に蛍光が増加することが確認できた。
考察=間藤は脳細動脈では他の部位の大血管と異なり粥状硬化がみられないことを明らかにした。さらに易脳卒中自然発症高血圧ラット(SHRーSP)の脳細血管の観察所見から、脳血管の病変に際し、脳細動脈に生理的に纏絡するマクロファージ系の間藤細胞の機能に異常が出現し、その結果血管平滑筋、内皮細胞が変性に陥ることが重要であると考えられた。
この受容体は感染において病原体を取り込む為の受容体であるが、内藤はMSR-AはBCG受容体のひとつとしても機能していることを示した。
土井は、マクロファージスカベンジャー受容体の細胞質領域に相当するペプチド分子は、1本鎖の時もまた3本に束ねたときも特徴的な3次構造をとらないこと、この領域と相互作用する分子においては、アミノ酸配列を認識して結合するか、もしくは構造をとらせる因子が結合した上で結合する可能性があることを示した。
高橋によって単球由来マクロファージにおいてACAT-1の細胞内局在は細胞の泡沫化に伴って小胞体から小胞体に由来する小胞に移動することが明らかとなった。ACAT-1陽性小胞体の小胞化は、ACAT-1と細胞内の遊離コレステロールとの接触の機会を増加させるものと推定された。
混合培養の結果、血管壁細胞は、本来の動脈壁内酸素分圧において脂質負荷に対して20%酸素分圧時と異なり脂質蓄積方向の挙動を示す。血管平滑筋とマクロファージは同様に脂質を蓄積するが混合培養に添加される平滑筋と共培養したLDLには酸化変成が認められなかったことから、血管壁での酸化変成またはそのほかの修飾によってマクロファージによる取り込みが亢進していると考えられた。
田中は単球の機能発現に於ける脂質代謝異常と細胞接着/遊走のクロストークが動脈硬化炎症部の病態形成に関与することを示した。
二木が開発したDPPPは細胞に取り込ませると膜内に局在して、脂質過酸化物を特異的に検出する。同様にDPPPはLDL中の中心部付近に局在して粒子内での脂質過酸化反応を追跡することができる。このため培養細胞系での脂質酸化を直接リアルタイムで検討し得るプローブとして利用することができるので、従来のLDLの酸化的変性過程を証明する試薬になると考えられた。
結論

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