肥満における生活習慣病合併の成因、予防および治療に関する研究-高齢者のQOL向上と医療費削減をめざして-

文献情報

文献番号
199900194A
報告書区分
総括
研究課題名
肥満における生活習慣病合併の成因、予防および治療に関する研究-高齢者のQOL向上と医療費削減をめざして-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
井上 修二(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の寿命を縮め、QOL(Quality of Life)を低下させる主な原因は生活習慣病(成人病)の合併である。糖尿病、高血圧、高脂血症などによる心筋梗塞、脳動脈硬化症、糖尿病腎症による腎不全、糖尿病網膜症による視力障害などは高齢者の寿命を縮め、QOLの低下を招くのみでなく、医療費増大の大きな原因になっている。このような代表的な生活習慣病の3~6割は肥満が要因となっていることが疫学的にも認められているので、肥満からのこれら疾患の成因(発症メカニズム)を明らかにすることは学問的な課題であるだけでなく、生活習慣病の予防対策上、重要な課題である。肥満から発症した生活習慣病においては、肥満が併存する初期の段階では減量によって肥満を是正するか、減量できない場合でも、肥満に伴うインスリン抵抗性を改善すると病態は正常化する。本研究は肥満からの生活習慣病への発症解明と病態(糖尿病合併症、食餌因子の影響、インスリン抵抗性症候群モデルの作成)の研究に加えて、予防法及び治療法の差違による病態の改善とそのメカニズムの異同性を検討した。
研究方法
肥満の三つのモデル、1)視床下部性肥満、2)遺伝性肥満、3)食餌性肥満を使用して生活習慣病のなかで代表的な糖尿病、高脂血症、高血圧及び脂肪肝の肥満からの発症と治療メカニズムの異同性を生理学的及び生化学的手法により検討した。
結果と考察
本年は、肥満と4つの生活習慣病の因果関係につき、肥満からの糖尿病発症メカニズムにつき、インスリンレジスタンスとインスリン分泌不全の二つの発症型式の動物モデルの開発を確立した。さらに、本糖尿病モデルのインスリン抵抗の主部位は脂肪組織であることを示唆する成績を得た。高中性脂肪血症発症メカニズムにつきVMH破壊ラットで、見出した高インスリン血症によって肝中性脂肪分泌、末梢中性脂肪取り込み能力とも亢進しているのに脂肪組織の中性脂肪取り込みの限界、体脂肪量増大による遊離脂肪酸の肝での再エステル化亢進、microsomal trigyceride transfer protein(MTP)活性上昇による肝の中性脂肪分泌亢進というメカニズムにZucker fatty肥満ラットでは、肝の中性脂肪分泌亢進とインスリンレジスタンスによる末梢組織での中性脂肪取り込み能力の低下両者による顕著な高中性脂肪血症を示すことを明らかにした。脂肪肝発症メカニズムにはVMH破壊肥満ラットでは肝脂肪合成酵素活性による肝内脂肪合成亢進、あるいは肝内での血中遊離脂肪酸再エステル化亢進、Zucker fatty肥満ラットでは両者による発症型式があることを明らかにした。高血圧メカニズムには循環血流量の増大、交感神経緊張亢進による発症型式があることをVMH破壊肥満ラットとZucker fatty肥満ラットを使用して示唆したが、Zucker fatty肥満ラットを高脂肪食で肥満にすると臨床的にインスリン抵抗性症候群あるいはSyndrome Xといわれる病態と一致する病態を人為的に作成しうる成績を得た。VMH破壊肥満ラットを高果糖食で飼育するとインスリン分泌は変わらず、インスリン抵抗性が悪化し、高ブドウ糖食で飼育すると耐糖能は変わらず、インスリン分泌は上昇傾向を示した。VMH破壊ラットの高脂血症は高蔗糖食では肝の中性脂肪分泌亢進と血中中性脂肪の異化遅延で悪化し、高脂肪食で飼育すると血中中性脂肪の異化遅延で悪化した。VMH破壊肥満ラットとZucker fatty肥満ラットの高中性脂肪血症をインスリン抵抗解除剤で治療すると前者は血中中性脂肪の異化の亢進、後者は、血中中性脂肪の異化の亢進と末梢組織の中性脂肪の取り込み能の増大という、治療メカニズムにも発症と同じく、heterogeneityがあることを認めた。肥満には消費エネルギーの低下を招く病
態や糖尿病になると抗酸化作用が弱くなり、糖尿病合併症進展を助長する病態が加わることを見出した。熱産生と熱放散が末梢及び中枢で独立のメカニズムで消費エネルギーを増加させるカプサイシンは糖尿病のインスリン感受性を高めることをカワラケツメイ抽出物はリパーゼ阻害作用により用量依存的に体重増加の抑制あるいは減量をおこしうることを見出した。VMH破壊ラットの腹部臓器増殖にtrefoil peptideとシクロオキシゲナーゼが関与している可能性をPCR法で見出した。これらの臨床応用にはなお研究が必要である。
結論
肥満からの糖尿病、高脂血症、高血圧、脂肪肝の4つの生活習慣病の発症メカニズムにはheterogeneityがあること、肥満の高脂血症の治療メカニズムにもheterogeneityがあることを明らかにした。本研究の知見は人間の肥満からの生活習慣病発症メカニズム、予防法と治療法に対する病態改善の異同性の理解と研究の進展に寄与しうるものである。

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