長寿遺伝子に関する分子遺伝学的研究

文献情報

文献番号
199900189A
報告書区分
総括
研究課題名
長寿遺伝子に関する分子遺伝学的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
白澤 卓二(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 三谷昌平(東京女子医科大学)
  • 古関明彦(千葉大学医学部)
  • 本田修二(東京都老人総合研究所)
  • 森啓(大阪市立大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
19,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
線虫の長寿ミュータントであるDaf-2を用いて、長寿に関連する遺伝子(長寿関連遺伝子)を探索・単離し、これらの遺伝子および遺伝子産物を分子生物学的に解析する事により、個体の寿命決定の分子機構を明らかにする。また、Daf-2、Clk-1等の線虫の長寿変異をマウスの染色体に導入した長寿マウスを遺伝子工学的に作製し、哺乳類の個体寿命の遺伝子操作の可能性を検討する。
研究方法
(1)長寿命関連遺伝子の探索:線虫ゲノムよりDaf-16遺伝子を単離、第10エクソンに緑色蛍光マーカー遺伝子(EGFP)を挿入後、Daf-16::EGFP融合遺伝子を線虫にトランスジーンし、Daf-16遺伝子発現が蛍光顕微鏡下にモニター可能な線虫を樹立する。Daf-16/Daf-2二重変異体はDaf-2長寿形質が抑制されたサプレッサーミュータントであるが、このサプレッサーミュータントに上記のDAF-16::GFPトランスジーンを導入し、Daf-2長寿形質が復活したトランスジェニック線虫を単離する。形質がレスキューされたDaf-16/Daf-2二重変異体から抗GFP抗体を用いて、Daf-16野標的遺伝子を検索する。(2)インスリン受容体改変(長寿)マウスの作製:マウスゲノムライブラリーよりインスリン受容体遺伝子を単離し、第20エクソンに長寿変異を導入したゲノム改変ベクターを構築する。更に、相同組み換えにより長寿変異が導入されたES細胞を単離する。インスリン様増殖因子受容体遺伝子(IGF-1R)に関しても同様に第19エクソンに長寿変異が導入されたゲノム改変ベクターを構築する。更にこれらのES細胞を用いてミュータントマウスを作製する。
(3)クロック遺伝子の単離とその解析:ヒトおよびマウスのクロック相同遺伝子をPCR法で単離する。遺伝子野構造を決定しその発現様式、染色体の局在を決定する。
(4)クロック遺伝子改変マウスの作製:マウスゲノムライブラリーよりクロック染色体遺伝子を単離し、染色体遺伝子の構造を明らかにする。更に、第2エクソンをネオマシン耐性遺伝子で置換したノックアウトベクターを構築し、ノックアウトマウスを作製する。
結果と考察
(1)長寿命関連遺伝子の探索:インスリン受容体ホモローグ(Daf-2)の下流でDaf-2シグナルを伝達している転写因子Daf-16の標的遺伝子を単離することにより、長寿遺伝子を検索する。この目的のために、平成10-11年度は線虫ゲノムよりDaf-16遺伝子を単離、第10エクソンに緑色蛍光マーカー遺伝子(EGFP)を挿入後、Daf-16::EGFP融合遺伝子を線虫にトランスジーンし、Daf-16遺伝子発現が蛍光顕微鏡下にモニター可能な線虫を樹立した。Daf-16/Daf-2二重変異体はDaf-2長寿形質が抑制されたサプレッサーミュータントである。今後、このサプレッサーミュータントに更に上記のDAF-16::GFPトランスジーンを導入し、Daf-2長寿形質が復活したトランスジェニック線虫を単離する。
(2)インスリン受容体改変(長寿)マウスの作製:長寿線虫ミュータントで発見されたDaf-2の遺伝子変異はヒトでも同一の変異が報告され(肥満変異)、哺乳類でも長寿形質が遺伝的に存在しうる可能性を提供した。本課題では、線虫の長寿ミュータントと同一の遺伝子変異を有するミュータントマウスを遺伝子工学的に作製し、哺乳類の個体寿命が線虫と同様のメカニズムで長寿化する可能性を検討する。平成10年度は、マウスゲノムライブラリーよりインスリン受容体遺伝子を単離し、第20エクソンに長寿変異を導入したゲノム改変ベクターを構築した。更に、相同組み換えにより長寿変異が導入されたES細胞の単離に成功した。平成11年度は、相同組換えが確認されたES細胞から、凝集法を用いてキメラマウスを作製した。更に、キメラマウスをC57BLACK/6マウスに交配し、daf-2変異がgermlineに移行したヘテロ接合体マウスの作製に成功した。ヘテロ接合体マウスを交配し、ホモ接合体マウスの表現形を検討した。その結果、ホモ接合体マウスは胎児期もしくは新生児期に死亡することが明らかとなった。新生児肝臓よりインスリン受容体を免疫沈降し、自己リン酸化能を検討すると、インスリン刺激に対して、受容体がリン酸化を受けないことから、daf-2変異はインスリン受容体のキナーゼ活性を失うことにより、インスリンのシグナル伝達に異常を来していることを明らかとした。インスリン様増殖因子受容体遺伝子(IGF-1R)に関しても同様に第19エクソンに長寿変異が導入されたゲノム改変ベクターを構築した。平成12年度はインスリン様増殖因子受容体遺伝子に関してもミュータントマウスを作製する予定である。
(3)クロック遺伝子の単離とその解析: 平成10年度は、ヒトおよびマウスのクロック相同遺伝子をPCR法で単離した。遺伝子解析の結果、クロック遺伝子の構造は種を越えて保存されている事、発現解析の結果、哺乳動物では筋組織に特異的な遺伝子発現を認める事を明らかとした。また、ヒトのクロック遺伝子を染色体16p12-13にマップした。平成11年度は単離されたヒトおよびマウスのクロック1遺伝子をclk-1線虫にインジェクション法を用いて導入し、脱糞のリズムに与える影響を検討した。その結果、ヒトおよびマウスのクロック1遺伝子は線虫の運動リズムを制御する生物学的活性を有することを示した。現在、導入されたマウスのクロック1遺伝子が線虫寿命を制御する可能性を検討中である。
(4)クロック遺伝子改変マウスの作製:平成10年度はマウスゲノムライブラリーよりクロック染色体遺伝子を単離し、染色体遺伝子の構造を解析した。更に、第2エクソンをネオマシン耐性遺伝子で置換したノックアウトベクターを構築した。平成11年度は上記のノックアウトベクターをES細胞に導入後、相同組み換えを起こしたES細胞の単離に成功した。更に、凝集法を用いてヘテロ接合体マウスの作製に成功し、現在ヘテロ接合体マウスの交配実験により、ホモ接合体マウスの作製を行っている。
結論
(1)長寿命関連遺伝子の探索:インスリン受容体ホモローグ(Daf-2)の下流の長寿遺伝子を検索するために、daf-2シグナルの下流に位置する転写調節因子daf-16にマーカーを融合したDaf-16::EGFP融合遺伝子を作製、線虫にトランスジーンし、Daf-16遺伝子発現が蛍光顕微鏡下にモニター可能な線虫を樹立した。このトランスジェニック線虫を用いて長寿関連遺伝子の探索を開始する。(2)インスリン受容体改変(長寿)マウスの作製:daf-2長寿変異がインスリン受容体遺伝子に導入されたマウスの作製に成功した。ホモ接合体マウスは胎児期あるいは新生時期に死亡することから、インスリンのシグナル伝達異常が示唆された。生化学的解析から、daf-2変異はインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性が失われることにより、インスリンのシグナル伝達異常をきたしていることを明らかとした。(3)クロック遺伝子の単離とその解析:ヒトおよびマウスのクロック相同遺伝子をPCR法で単離し、遺伝子を解析した。その結果、クロック遺伝子の構造は種を越えて保存されている事、哺乳動物では筋組織に特異的な遺伝子発現を認める事を明らかとした。また、単離されたヒトおよびマウスのクロック1遺伝子を線虫に導入し、哺乳動物のクロック1遺伝子、線虫の運動リズムを制御する活性があることを示した。この結果は、ヒトおよびマウスのクロック1遺伝子が個体寿命をも制御している可能性を示唆した。更にクロック染色体遺伝子にネオマイシン遺伝子が挿入され標的破壊を受けたノックアウトマウスの作製に成功した。

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