起立訓練リハビリテーション機能を有する高機能立位個別型入浴システムの開発

文献情報

文献番号
199900187A
報告書区分
総括
研究課題名
起立訓練リハビリテーション機能を有する高機能立位個別型入浴システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
辻 隆之(東京大学大学院新領域創製科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 千田 彰一(香川医科大学医学部附属病院総合診療部)
  • 藤元 登四郎(八日会藤元病院神経科)
  • 松尾 汎(国立循環器病センター病院心臓血管内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,805,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者に多い運動麻痺を伴う重度中枢神経障害者、および心筋梗塞後の重度循環傷害者などの早期リハビリテーションは機能回復のために重要である。一方入浴は患者のQOLの向上に有用であるが、入浴それ自体が循環器系に負担になる場合もある。また、入浴の介護・看護は単純労働的で介護・看護者の肉体的疲労を強い腰痛などの原因ともなる。本研究では入浴と同時に起立リハビリテーションを安全に行えるような早期離床、入浴介護・起立リハビリテーション支援システムを目的とするシステムを開発することを目的とする。
研究方法
本年度は下記の項目について研究を実施した。
1) 入浴の行程解析にもとづく、起立リハビリテーション機能を持つ、起立型個別浴槽、搬入用ストレッチャと高炭酸泉供給システムなどから成る省力化高機能入浴システムの設計(分担研究者:辻隆之,藤元登四郎)
2) 虚血肢への人工炭酸浴の効果の検討(分担研究者:松尾 汎)
3) 人工炭酸泉浴の褥瘡治癒効果の検討(分担研究者:藤元登四郎)
4) 入浴時心電図モニタリングの解析(分担研究者:千田彰一)
の4課題について研究を実施した。
1)についてはまず、あらかじめ想定した、入浴の行程に基づいて、必要な機能を付加した形での浴槽の設計を実施した。同時に、入浴に必要な付属機器であるストレッチャーの設計に着手した。併せて、浴槽のリハビリテーション機能についても検討し、浴槽、浴槽支持台、高炭酸泉供給システムからなる省力化高機能入浴システムを設計した。
2)については慢性末梢動脈閉塞性疾患10肢を対象とし、①足浴前後での自覚症状を比較し、②レーザードプラ血流計(アドバンス社製ALF2100)にて患側肢足背部の皮膚血流量を連続的に記録した。①淡水温湯足浴5分間と、次いで②炭酸泉足浴5分間を1クールとして、二クール施行する間、皮膚血流量を連続して計測した。
3)については、全身状態の落ちついた褥瘡を合併する入院患者女性3名(年齢70±13歳、褥瘡の平均発生経過月数14.3±2ヵ月)を対象とした。人工炭酸水は、炭酸濃度800ppm、湯温37℃を作成し、室温21.7±1.8℃、相対湿度93.5±22.5%の条件下にて15分間入浴をしてもらい、入浴前後5分間を含めた褥瘡患部の皮膚血流量及び開口部面積を3ヶ月間、経時的に計測した。
褥瘡開口部面積は、計測した縦横径より、褥瘡患部を楕円とみなして算出し、経時的変化を比較した。1症例については、週に1回1.5テスラMRI装置Signa Lighatning(GE横河メディカル)にて水平断層撮影を行い、パーソナルコンピュータにてトレースし、褥瘡ポケット内の容積を算出した。
4)については生活環境の中で、心電計という医療機器になじめるかどうかを検討するために、在宅健康管理機器による血圧・心電図計測を行った。
結果と考察
研究結果=1)起立リハビリテーション機能を持つ、省力化高機能入浴システムの設計
入浴行程の流れを解析し、浴槽の形状は、かまぼこ型のデザインを採用した。ただし、浴槽内部の様子が観察し易いように正面と側面には透明のアクリル窓を設け、患者と看護人が会話出来る様に浴槽の高さを出来る限り低くなるように設計した。浴槽への挿入が完了した後には、湯を入れつつ、徐々に立位へとチルトアップさせ、脳虚血に対する問題に対応することが可能とした。また、浴槽下部の給水口に炭酸水を混入するための分岐部をつけ、炭酸水による入浴を可能としている。全体重量は空水時約230kg満水時約430kgで水量約200 lである。浴槽の角度は0度から90度まで任意に設定でき、寝たきりの高齢者などを浴槽の中で容易に立たせることができるため、床ずれの防止や脳の活性化につながることが期待できる。
また、ストレッチャーごと浴槽に対象者をスライドインさせることが可能であり、介護スタッフの負担を軽減することができる。また、立位時の膝折れ等の対策を目的に、浴槽の奥側に向かって細くなる形状にして膝が曲がると浴槽に当りある程度以上膝が曲がらない様にした。
2) 虚血肢への人工炭酸浴の効果の実験的検討
炭酸泉足浴では、全例で皮膚血流量の有意な増加を認めた。淡水温浴比較検討でも炭酸泉足浴の循環動態への影響は有意であり望ましい効果が得られることがわかった。回路循環の検討では、循環有りが僅かに高値も、有意の差はなかった。自覚症状の検討では、炭酸泉足浴での冷感やしびれ感の消失が高度で、全例で足部の暖かい感じを認めた。
3) 人工炭酸泉浴の褥瘡治癒効果の検討
高濃度炭酸泉の連浴が褥瘡に及ぼす治癒効果としては褥瘡患部の面積について、3例とも明らかな面積の縮小を認め、症例1は78.2%、症例2は95.7%、症例3は97.9%縮小し、良好な治癒効果が認められた。また褥瘡ポケット内の容積について、7週間のMRI計測期間中に15.5cm3から3.9 cm3まで減少し、74.9%の体積の縮小が認められた。健常者及び症例1について、淡水浴と炭酸浴入浴時の皮膚血流量の比較では有意差(P<0.01)が認められた。単位時間あたりの皮膚血流量変化の勾配は、症例1では淡水浴が0.009ml/min/100g/sに対し、炭酸浴が0.043ml/min/100g/sと約5倍の血流増加が認められ、症例2は0.077ml/min/100g/s、症例3は0.075ml/min/100g/sであった。褥瘡患部の面積について、炭酸浴と淡水浴の比較では、淡水浴では数例で増大が観察されたが、炭酸浴では全例縮小が見られその効果も淡水浴より優れていた。
4) 入浴時心電図モニタリングの解析
在宅健康管理システムを構築し、心電図記録を身近なものとすることで、介護・看護はもとより、健康自体への関心度を高める事が可能であった。高齢者といえども、自ら心電図を記録し、日々生活の中で種々の変化結果に理解を示すようになり、次年度以降実施する予定の入浴時という個別環境の中での心電図記録の必要性、重要性、有用性に対する関心度の受容域を高めることが可能であった。
考察=本研究で設計した本研究では、理学療法士など訓練者に肉体的負担が大きい起立リハビリテーション訓練機能の省力化支援機器を開発目標とした。本システムの特徴は入浴と同時に排水時に水位を制御し、浮力の減少を利用して浴槽内で起立リハビリテーション訓練を行える点である。
障害直後の訓練時には重心動揺が激しく、最悪の場合は転倒するが、狭い浴槽内ではそれが防止できるものと考えられる。また次年度以降計画する入浴中の心電図モニタリングがを付加することで心筋梗塞患者早期入浴にも応用できる可能性があると考えられる。
本システムで使用する人工炭酸泉足浴(濃度900-1000ppm、湯温37℃)は虚血肢皮膚血流量を有意に増加、自覚症状の改善が実験的に確認できたことから、入浴中にもリハビリ治療を含む理学療法としての可能性が示唆された。
さらに人工炭酸泉による褥瘡治癒効果に関する研究では、淡水浴に比べ炭酸浴入浴時の皮膚血流量が多いことから、炭酸浴は、より活発な組織代謝が生じる可能性を示唆している。加えて、単位時間あたりの皮膚血流量変化の勾配は、淡水浴に対し炭酸浴の血流増加が認められることより炭酸浴の方が、より急速な組織代謝の上昇が生じることを示唆している。
また、入浴中に心電図を計測することに関しては、高齢者が、自立した生活環境の中で、心電図という医療機器に馴染みとなり、それに関心を持って日々を送ることが、何らの抵抗なく受け入れられつつあることが確認できた。これにより次年度以降計画している、訓練用リハビリテーション用のモニタリングとしての入浴時心電図記録に対する理解は、十分な受容域にあると考えられた。
本システムは、入浴行為に使用する機器であるが、これを前提とする場合、高齢者のQOL向上の観点を鑑みて入浴行為と訓練モードに分けた運用等を考慮する必要があると考えられた。
結論
起立リハビリテーション機能を用つ、心電図モニタリング付き起立型個別浴槽をの基本設計を行なった。設計したシステムは起立リハビリテーション訓練を省力的に、入浴と同時に安全かつ快適に行える点にひとつの特長を有する。一方本システムで使用する人工炭酸泉浴の虚血肢皮膚血流に及ぼす効果、褥瘡治癒に及ぼす効果を検討し、淡水浴よりも優れた効果を有することを確認した。また入浴それ自体が循環器系に負担になる場合もあることから、入浴時に心電図をモニタすることについても在宅健康管理システムをモデルにして基礎的検討を行ない、高齢者のおいても心電図記録に対する理解が得られた。以上より本研究で開発するシステムは、早期離床を促進し、入浴介護・起立リハビリテーション支援が可能であり、患者のQOLの向上に寄与するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-