高齢者福祉施設の経営評価とケアの成果との関係に関する実証分析(総括研 究報告書)

文献情報

文献番号
199900183A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者福祉施設の経営評価とケアの成果との関係に関する実証分析(総括研 究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
安川 文朗(広島国際大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀越栄子(日本女子大学)
  • 野村知子(桜美林大学)
  • 水流聡子(広島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国における社会サービス、特に高齢者福祉施設におけるサービスの質およびそれに影響を与える経営状況について客観的に評価可能なシステムを構築することにある。これまでの社会サービスの評価は、行政の事業許認可権を背景にした監視や監査による、アコモデーションの評価が中心であった。これは、サービスの質を一定に保つためのサービス提供構造やプロセスの評価であるが、近年では、プロセスの評価だけでなく、サービスの成果の評価、および評価自体がどのような改善を施設等にもたらすかという観点からの評価の必要性がいわれるようになってきた。さらに公的介護保険の導入により、高齢者のQOLに考慮した評価が急務とされている。そこで本年度研究では、①サービスの成果評価についての国際的動向を把握し、成果評価に必要なポイントを明らかにする、②高齢者施設サービスに対するわが国の評価の実態を整理し、そこでは何が評価され、何が評価されていないかを明らかにする、③英国におけるナーシングホームの評価スタンダードと日本の社会福祉運営指針、およびサービス評価事業におけるスタンダードとの比較検討をおこない、成果評価やQOLの向上をふくめた客観的サービス評価の方法とスタンダードをモデル化することを目的とする研究を実施した。
研究方法
①:99年6月から9月にかけて、政策評価、健康評価、看護評価および医療機能評価の各専門家から、今日の動向と問題点に関するヒヤリング調査を実施し、その内容を整理した。②:7月から9月にかけて特別養護老人ホーム、老人保健施設、養護老人ホーム等の高齢者ケア施設に対する評価制度とその基準を調査し、「社会福祉施設運営指針」「特別養護老人ホーム・老人保健施設サービス評価事業」の各評価マニュアルを分析した。また市民オンブズマンなどによる特別養護老人ホームの自主評価記録および東京都、神奈川県等の「サービス事業評価」実績報告から、実際の評価方法やそこでの課題を抽出した。並行して、特別養護老人ホーム等を経営する社会福祉法人の施設長に、現行の福祉監査の状況や施設経営の問題点、介護保険導入後の対応などについて聞き取りおよび訪問調査を実施した。③:9月および3月に主任研究者が、英国スコットランドのNHSヘルスボード、イングランド・サリー州の社会サービス監査局SSIを訪問し、ナーシングホームおよびレジデンシャルホームの査察実施の実態、査察(評価)のコア・スタンダードおよび評価チェックリスト、査察者の資格や査察方法、今後の施設評価の動向などについて、聞き取り調査と実地調査(施設訪問調査)を実施した。最後に、英国で収集したスタンダードの項目を10月から2月にかけて和訳し、日本の評価基準との照合作業を3月から5月にかけて実施した。
結果と考察
①サービス評価の動向について:有識者ヒヤリングの結果、わが国におけるサービス事業評価は、米国オレゴン州やカリフォルニア州サニーベール市における政策評価、英国における市民憲章を背景にした監査委員会の活動に代表される行政評価の進展プロセスのなかでとらえるべきことが示唆された。特に米国の政策評価実践は、日本のいくつかの自治体でも試みがはじまっており、現行サービス事業評価のスタンダードに対する「評価」は、当該行政評価の基本理念や評価基準との関連でおこなわれるべきであることが示唆された。②施設長へのインタビューでは、現行施設監査に対する施設の対応と、介護保険導入後の人的資源配置や自治体からの補助金の支出についての不安が聴取できた。前者については、1)日本にける施設監査の法的根拠の薄さから、自治体担当者の対応ひとつでかなりばらつきがあること、2)監査時に「福祉施設運営指導マニュアル」との厳密な照合
によるチェックがおこなわれるとは限らないこと、3)監査後施設に対するインフォーマルな指導はおこなわれていること、などが明らかになった。一方後者については、介護保険施行によってサービスの質をこれまで以上に確保しようとした場合、人的資源の確保に問題が生じる可能性が大きいことが提起された。③英国施設査察のスタンダードと日本の評価スタンダードとの比較検討の結果、1)英国のスタンダードは、栄養維持水準や口腔チェック、HACCPの徹底など高齢者の健康状態、施設の衛生管理状態を具体的に重視しているとともに、入寄者個人の尊厳、公平性、自己決定権などが具体的に(言葉として)スタンダードのなかに明記され、それに則した評価項目が挙げられていること、2)人的管理の面では、オーナーだけでなくマネジャーや一部のスタッフに対しても、一定の福祉専門家としての資格要件を求めている(日本では施設管理者のみ社会福祉事業法に資格要件が明記されている)こと、3)査察は常勤の専門査察官により、最低年2回実施され、査察結果はすみやかに施設・利用者および市民に公開されていること、などが日本と対比すべき特徴としてあげられた。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)