バーチャルリアリティを利用した高齢者用の看護・介護支援機器の開発

文献情報

文献番号
199900180A
報告書区分
総括
研究課題名
バーチャルリアリティを利用した高齢者用の看護・介護支援機器の開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中島 一樹
研究分担者(所属機関)
  • 山口隆美
  • 三池秀敏
  • 手嶋教之
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「寝たきり」などで介護が必要となった高齢者とその高齢者を介護する側との双方が高い生活の質(QOL: Quality Of Life)を保つためには、双方ともに充実した有意義な時間を過ごす必要がある。在宅で高齢者を看護・介護する場合、高齢者の余暇はテレビ放送に費やされていることが多い。この場合、高齢者は本人の興味や嗜好にかかわらず、ただ受動的にテレビを見ている。現在行われているテレビ放送は、視聴者、特に高齢者に問い掛けるものは少なく、放送を発信する側からの一方通行的な構成となっている。このような状況は、高齢者が健康で生きがいを持って生活しているとは言いがたい。介護者が高齢者と共に有意義な余暇時間を共有することが望まれているが、介護者は高齢者の看護・介護だけでなく生活全般の作業があるために多忙を極めており、時間的、精神的に十分な余裕を持っていないことが多い。高齢者と介護者が生きがいのある生活を営むためには、高齢者の思考や回顧を促し、さらに自発的な行動や作業を支援する装置が必要である。本研究では、介護が必要となった高齢者とその高齢者を介護する側との双方が高いQOLを保つために、バーチャルリアリティ技術を用いて高齢者用の看護・介護支援機器の開発を目的とした。
研究方法
次の4項目を4人の班員が分担して研究を行った。
アミューズメントシステム(中島):ビデオカメラと映像提示機器を用いて、視覚刺激システムを試作した。老人保健施設において、試作したシステムで高齢者自身を撮影し、これを視覚刺激として本人に提示したときの反応を調査した。
ハイパーホスピタル(超病院)システム(山口):TCP/IPプロトコルで結んだネットワーク上の複数台のグラフィックワークステーションを用いて、家庭内の見守り・監視システムと、外部の訪問介護者を必要に応じて接続し、情報の双方向伝送を行う複合したネットワークシステム構築のための検討を行った。
インタラクティブシステム(三池):第一は、生物の形態形成や空間パターンの自己組織化のメカニズムとして知られる、反応拡散系でのチューリング不安定性の機構の情報処理への適用を試みる。特に、データベースの自己組織化に有用であるか否かをシミュレーション研究を中心として進める。第二は、高齢者の介護に相応しいインタラクティブシステムのデザインコンセプトを確立するために、いくつかの可能性を提案し、3次元コンピュータグラフィックスの技術を用いて仮想的に実現する。
意欲向上システム(手嶋):高齢者の歩行訓練場面をビデオで撮影し、3名の理学療法士が高齢者にかけている声かけの内容とそれに対する高齢者の反応を分析した。そして、歩行訓練中に音楽をスピーカーで聞かせ、刺激前後での歩行速度・歩幅をビデオを用いて測定した。
結果と考察
以下、各システムについて検討する。
アミューズメントシステム:予備調査として行った視覚刺激に対しては、興味を示す程度が以下の4グループに分類され、ぞれに適当な刺激内容と手法が必要なことがわかった。
ハイパーホスピタル(超病院)システム:携帯端末としてのPHSなどをインフラストラクチュアとし、各種の介護支援機器・システムなどが、独立のサーバとして機能する在宅ネットワークの構築を試みた結果、このようなネットワークは、在宅介護の支援システムの基礎として十分利用可能であることが示された。
インタラクティブシステム:反応拡散系でのチューリング不安定性が情報処理のツールとして利用できることを実証した。そして、インタラクティブシステムとして統合化した形で具現化するために、高齢者との対話を自然な形で支援するキャラクタのデザインを検討した。高齢者や子供にとって違和感のないインタラクティブ装置(モニタ、筐体、ステレオマイク、ステレオカメラ、マウス、データグローブなど)の在り方、新しい入出力装置のデザイン開発を試みた。特に、簡単な音声信号処理と映像信号処理とを組み合わせたインターフェースの重要さや、デザインコンセプトのCGによる確認の重要性が判った。
意欲向上システム:予備実験からは、声かけは適切なタイミングで適切な内容で行わないと、かえって意欲が低下する可能性があることが示唆された。このためには高齢者の意欲を測定する必要がある。今回の実験では意欲の指標として歩行速度及び歩幅を検討してみた。被験者に負担の無いように非接触で測定したが、意欲との有意な関係は出なかった。 本研究班では、看護や介護を支援する機器の要素技術の一つとしてバーチャルリアリティ技術を用い、アミューズメントシステム、ハイパーホスピタル(超病院)システム、インタラクティブシステム、意欲向上システムに関する研究に取りかかった。特に、看護や介護においては、人と人とのコミュニケーションをどのように良好に保つか、そして、双方が高いQOLを保ちながら、生活を営むかが重点となる。本研究班では、この点を機器開発の課題として、各の分担研究を推進している。
本年度の研究では、視覚と聴覚よるバーチャルリアリティ技術について調査、検討を行った。高齢者においては、加齢により身体機能や感覚器の機能は低下していると考えられるが、逆に、これらの感覚器から得られてきた数多くの経験を有しているはずである。そのため、視覚や聴覚以外の刺激においても検討する必要があると考えられる。
本研究班で開発しているシステムは、国内の高齢者、つまり日本人を対象として研究を行っているが、諸外国の高齢者の嗜好や各国における人と人の関係などを十分に考慮することにより、国際的にも発展する可能性があると考えられる。そのため、この分野における国際協力により飛躍的な発展が期待される。
結論
バーチャルリアリティ技術を利用した高齢者用の看護・介護支援機器を3年間で開発するために、アミューズメントシステム、インタラクティブシステム、意欲向上システムそしてハイパーホスピタル(超病院)システの4システムを分担して開発する。本年度の研究では、視覚と聴覚よるバーチャルリアリティ技術についての調査・予備実験によりシステム開発の検討を行った。これによって、高齢者に対して有効なバーチャルリアリティにおける刺激内容および手法をさらに検討しなければならないことが明らかになった。また、機器と高齢者との接点となるヒューマン・マシン・ヒューマン・インターフェイス技術の開発にも着手した。

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