健康管理支援のための高齢者健康情報システムの構築(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900178A
報告書区分
総括
研究課題名
健康管理支援のための高齢者健康情報システムの構築(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(東京大学大学院工学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原康夫(川崎医科大学)
  • 武田 裕(大阪大学医学部)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会を迎えた今日、健康管理に基づき日常での高齢者の健康維持をはかることは、QOL(quality of life)の面でも充実した日常生活を過ごすことができるのみならず、高齢者の自立を促し、かつ高騰する老人医療費の抑制のためにも不可欠である。この日常時の健康管理を進めるには、在宅や施設の高齢者の健康把握に要する適切な健康情報の収集や関係者間での共有、必要時における医療機関や関係者への迅速な伝達が不可欠であるが、現時点では、高齢者の日常での健康管理に必要な健康情報の収集、医療機関への伝送、関係者による共有に関する適切な手段は見られない。そこで本研究では、高齢者の健康管理を支援するべく、各種情報・通信関連技術の応用により、種々の健康情報を収集し、必要に応じて診断処理などを行うとともに、関係機関への的確・迅速な伝送および関係者の情報共有を可能とする幾つかのシステムを開発する。そして、試作システムの地域や施設における高齢者を対象とする試用・評価結果に基づき、実用化をはかろうとする。
研究方法
上記の研究目的のもとに、各システムの開発に必要な基礎的検討や概念設計、あるいは基本設計を主体に、次のような研究開発を進めた(かっこ内は分担研究者名)。
1.在宅高齢者の健康情報収集システムの構築(稲田):在宅高齢者の健康管理に必要な健康情報の収集とかかりつけ医のいる医療機関などへの伝送を、情報・通信技術の応用により可能とするシステムの開発を進めているが、その一環として、バイタルサインのうちでも24時間連続計測した心電図について、高齢者宅のみならず戸外においても収集し、PHSにより伝送しうるシステムを構築するため、必要な基礎的検討を行った。このため、24時間心電計の仕様策定、およびこの心電計とPHS電話機のインターフェイス機能を有する伝送コントローラと、PIAFS(PHS Internet Access Forum Standard )伝送コントローラFPGA(Field Programmable Gate Array )についての基本設計を実施した。
2.高齢者血管内皮機能評価システムの開発と健康管理への応用(小笠原):動脈硬化に起因する心血管疾患の進展防止には、動脈硬化の初期病態である血管内皮機能障害を検知する方法論と適切な指標の確立が必要であるが、高齢者での直接的な血管内皮機能の評価は困難なため、高齢者の血管内皮機能評価の指標として"NO放出を介する血流依存性血管拡張応答"に注目し、その計測・評価・診断システムの開発をはかろうとした。そのため、血管内皮の血流増加に即応するNO依存性血管拡張能を生理的な条件下で評価する方法論の確立をめざした。基準データベース蓄積のため、まず20歳代の健康成人を比較対照群とし、自転車エルゴメータによる定量的多段階運動負荷時に、上肢の血管径・血流量、NO産生指標となる上肢動静脈NOx (NO2+NO3)濃度較差をパラメータとして検討した。
3.高齢者のヘルスケア情報提供システムの構築(武田):高齢者のヘルスケアに関する意思決定支援のため、診療情報の電子保管とその共有化、他のヘルスケア関連情報を受発信するデータウエアハウスに関する基礎的検討を行うべく、インターネットを利用して高齢者ヘルスケアデータをデータベースに格納し、必要なデータを検索するため、分散オブジェクトおよびXML を用いたデータウエアハウスを構築した。データウエアハウスのサーバ群は、①WWW サーバ、②データベースサーバ、③画像データサーバ、④画像作成サーバから成り、VPN(Virtual Private Network)によりシステムセキュリティを確保した。
4.自覚所見とGPS による客観情報を用いた高齢者保健支援システムの開発(吉田):
在宅高齢者のQOL を確保・増進する上で重要な閉じこもりや痴呆の進展を防止するため、次のような課題に関する健康情報システムの構築を検討した。①高齢者の活動性を把握しうる指標となる個人位置情報の検出システムの構築に使用する機器として、GPS(Globl Positioning Sytem)とPHS のどちらが適当か、比較・検討を行った。②インターネットホームページを介しての高齢者の健康に関する情報収集に関し、入力環境について検討した。
結果と考察
上述の各システムに関する本年度の研究について、得られた主な結果を記す。
1.在宅高齢者の健康情報収集システムの構築:開発するシステムに適した24時間心電計の仕様として、250Hz のサンプリング頻度、8ビットの分解能によるディジタル化が適当と考えられ、イベント発生時における心電図波形伝送時間は、イベントボタンを押した時点の前後32秒で診断可能なことが確認された。また被験者が高齢者であるため、心電計の寸法、重量は、118 mm(H) x 64mm(W) x 23mm(D) 、150gとするのが適当と思われた。伝送コントローラの基本設計に関しては、MC68302 IMP を用いたCPU 、PIAFS 伝送コントローラFPGA、SRAMによるメモリ、リチウム電池を用いた電源から成るハードウエア構成とした。
2.高齢者血管内皮機能評価システムの開発と健康管理への応用:求められた血流量と血管径の間に良好な相関関係が得られたが、NOの挙動には一定傾向は見られず、内因性NOの挙動の正確な評価には、血中NOx 値の日内変動の是非も考慮に入れた外因性NOx の影響の詳細な把握・検討が重要と考えられた。今後は動物実験により摂取食物とNOx の関係を確認し、基礎的検討を行う必要がある。そして、被験者が7日間、同じ飲食物を摂取したときのNOx 値の日内変動と、1日絶食の際のNOx 値から生体内NOカイネティクスを検討し、運動負荷時のNOx 濃度変化、動静脈較差を再検討していくことが必要であると考えられた。
3.高齢者のヘルスケア情報提供システムの構築:診療情報の一例として、大阪大学病院退院時要約データおよび人間ドック健診データ項目を対象としてオブジェクトデータベースに格納し、XML 化されたデータをブラウザにより検索可能とした。このシステムについて、一般利用者、医療従事者による利用実験を通して定性的な評価を行ったところ、改良の余地はあるが、実用化に向けたパイロットシステムとして有用であるとの結論を得た。
4.自覚所見とGPS による客観情報を用いた高齢者保健支援システムの開発:前述した課題について、次のような結果が得られた。①個人の位置情報の客観的入手方法としては、位置把握、情報精度など諸点の比較から、PHS よりGPS の方が優れていると考えられた。②高齢者の情報収集のための入力環境として、インターネットを介して情報収集を行うシステムで問題となっていた入力時間へのコンプライアンスを解消するため、プログラムを予めダウンロードして、非接続状態で入力に弾力性を持たせるシステムを開発した。
以上の4つのシステムの開発に関する研究は、本年度はいずれも基礎的検討を中心に研究を進めたことから、実用性を論じるまでには至っていない。しかし、一部の研究ではパイロットモデルにより、実用化システムとして有用性が窺われており、その他についても明年度の実用的システムの構築に向けて、本格的な開発が行われることが期待されている。
結論
高齢者の健康管理支援のため、情報・通信関連諸技術の応用により、種々の健康情報を収集して、必要時に診断処理、関係機関への的確・迅速な伝送および関係者の情報共有を可能とする4つのシステムを開発しようとした。本年度は、いずれも基礎的検討を中心に研究を進めていることから、各システムの実用性を論じるまでには至っていないが、次年度におけるシステムの本格的開発に向けての足がかりが得られた。

公開日・更新日

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