高齢者の日常活動モニタリング機器の開発

文献情報

文献番号
199900177A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の日常活動モニタリング機器の開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田村 俊世(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 牧川方昭(立命館大学理工学部教授)
  • 東 祐二(藤元病院リハビリテーションセンター室長)
  • 田中志信(金沢大学工学部助教授)
  • 高橋龍尚(山形大学工学部助手)
  • 清水孝一(北海道大学大学院教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の健康の維持、疾病の予防、QOLの向上のために行動や運動中の循環、代謝ならびに身体活動量を測定することが重要となっている。測定に使用する機器は、身体に違和感なく装着でき、測定のための特別な操作を必要とせずに、できるだけ少ない拘束で自動的に生体情報が収集されることが望まれる。本研究では、この点を重視し、日常生活で測定されることを意識しないで長期間にわたってデータ収集が行われるような装置を開発することを目標とする。装置は、生理量や運動量を測定する各種センサと半導体データロガーから構成される。これらシステムでは、測定データをデータロガーに保存し、装置そのものあるいはデータカードを一定期間ごとに病院や医療従事者に転送あるいは持参してデータ解析する必要がある。そこでもう1つの方法としてリアルタイムにデータを伝送する方式も検討していく。初年度は、加速度測定による歩行形態の識別(田村)、日常生活動作の推定(牧川)、リハビリテーション訓練効果の定量化(東)、連続血圧測定による循環動態の評価(田中)、心電図波形によるストレスの評価(高橋)を試みた。またPHS端末を利用したリアルタイムセンシング(清水)の可能性についても検討した。
研究方法
1.腰部加速度測定による歩行形態の識別(田村):歩行形態の識別のために3軸加速度センサを被験者の重心周りに近い腰部に装着し、平地歩行、階段昇降時の加速度波形を連続的に記録した。その波形に離散ウェーブレット変換を用いたフラクタル解析法を適用し、平地歩行、階段歩行の特徴付けを行い、連続する加速度信号から歩行形態の分類を試みた。具体的にはウェーブレット係数の分散値からフラクタル次元を推定し、平地歩行、階段上り、下り方向の識別を行った。
2.加速度センサによる関節運動測定(牧川):炊事、洗濯、掃除など日常の生活動作をモニタするために加速度センサを関節近傍に装着し、上肢、下肢、体幹などの全身運動を測定し、角度情報からステックピクチャ表示を試みた。
3.加速度測定によるリハビリテーション訓練効果のモニタリング(東):脳卒中の早期リハビリテーションにおいて、寝返り、起き上がり、膝立ち、立位、歩行などの基本的でかつ反復される動作群の早期獲得は患者のADLの向上のために重要である。本研究では、無拘束加速度測定法を用い、これらの動作における姿勢制御機能のモニタリングを試みた。
4.循環動態モニタリングシステムの開発(田中):昨年度までのプロジェクトにより試作した「無拘束連続血圧測定装置」を用いて次のような実験を行った。即ち、日常生活下で頻回に取りうる姿勢変化として「座位から立位」への体位変換を取り上げ,これにともなう瞬時血圧及び心拍間隔の応答から迷走神経系を介した血圧調節機能評価を行った。
5.生体ストレス反応、評価(高橋):日常生活中にみられる心拍数で生体ストレス反応、循環器系適応能、機能不全などを評価するためのアルゴリズムを策定するため循環器系特に心拍変動の周波数解析に関する基礎的検討を行った。
6.バイタルサイン伝送方式の設計(清水)バイタルサインをモニタし、伝送するためにバイオテレメトリ技術を基本とする手法を検討した。
結果と考察
1.加速度波形による歩行形態の識別では、フラクタル次元の違いにより歩行形態の識別が可能であった。若年者、高齢者の違いは、歩幅、歩行速度の違いはあるものの、歩行形態については統計的に有意な差がみられなかった。支障なく歩行できる高齢者のパターンは若年者と相違ないことが示された。このことはフラクタル次元の評価より加齢による機能低下を知ることができる可能性を示唆している。次に、歩行形態の違いがエネルギー代謝にどのように反映するかを検討し、加速度測定によりエネルギー代謝量の推定を正確に行うことができ、高齢者の行動から必要運動量の算定が可能となると考えられる。
2.加速度センサのみを用いて上肢、下肢、体幹各部の関節運動を評価できた。体幹の回旋運動までをモニタリングすることはできなかったが被験者のおおまかな全身運動を把握することができた。その結果をリアルタイムでパソコン上にステックピクチャーとして表示できた。3自由度関節を2自由度に限定して測定しており、肩関節の回旋運動の影響は無視しているが、おおまかな関節の動きをとられる場合いには全く問題にならないことが示された。
3.寝返り、起き上がり、膝立ち、立位、歩行などの基本的動作の推移について加速度波形により評価した結果、定量的にリハビリテーション訓練効果を把握することができた。加速度測定法は被験者に対する拘束が少なく、また、検査者が容易に取り扱うことが可能であり、測定部位の運動情報を得ることができるため、初期のリハビリテーションで特に重要な基本動作のモニタリングおよび評価が応用できることが示唆された。加速度センサのリハビリテーション訓練効果の定量的評価への応用は、在宅でのリハビリテーションを行う上で重要な役割を果たすことが期待される。従来リハビリテーション訓練効果は理学療法士の主観に頼るところがおおきく、客観的、機械力学的評価は床反力計や画像処理によるところが大きかった。加速度を用いることは床反力計から得られるデータと同等のデータを得ることができ、かつ被検者を拘束しない利点がある。次年度以降訓練のために表示システムを工夫し、画面でリアルタイムで加速度波形を表示し訓練の修正を行えるようにする。
4.座位から立位の姿勢変化に伴う血圧変動は、若年者に比べて高齢者では起立に伴う血圧低下の回復に時間を要し,かつ血圧低下を補うところの心拍間隔減少幅も減少していた。また圧受容体反射感度(BRS)の絶対値及びその発現頻度も若年者に比べて有意に低下していたことから,高齢者においては圧受容体を介した迷走神経系による血圧調整機能が若年者に比べて大きく低下していることが明らかとなった。立位に至るまでの血圧変化は高齢者では血圧上昇が見られたことから座位から立位への移行がかなりの肉体的負担となっていること、またこの期間においては血圧上昇による脳血管障害等の発症に十分注意すべきことなどが示唆された。今回行った実験では起立動作期間中にける血圧上昇が高齢被験者で特に観察され、このことが前述した起立後の持続的な血圧低下を補うような効果を結果的に果たしていた。このような結果は従来臨床的に行われている受動的な「チルティング負荷」による起立性低血圧の検査では得られないものであり、今後本システムによる「日常生活下」における高齢者の循環機能測定の必要性・重要性が再確認された。これと並行して循環機能をより詳細に評価・解析するための装置として、従来の瞬時血圧と共に心拍出量をも一心拍毎に同時測定するプロトタイプシステムの具現化に成功し、その試用性能評価実験を開始することができた。
5.運動前後の心拍変動の周波数解析では平均RR間隔レベルに相関した心臓迷走神経活動の変化(高周波成分)の変化が示された。また、同時に姿勢変化に伴う心臓迷走神経の変化も示された。また、高齢者の洞調律および刺激伝導系の病的兆候の検出にはLorenz Plotが有効であることが示唆された。また、洞調律以外の心収縮を考慮したアルゴリズムの策定が必要であることが示唆された。
6.バイタルサインとして光電脈波法による心拍変動を捉えるため、指輪型光電脈波センサを用いた。さらに、PHS端末による屋内外共通の広域生体情報伝送方式の設計を行った。バイタルサインのリアルタイムセンシングについては、センサの小型化、小電力化、PHSの仕様に問題が示された。PHSは本来音声通話を目的とするものであり常時バイタルサインのモニタリングに利用するには克服すべき課題も多い。
結論
本年度は本研究プロジェクトの初年度であるため、機器開発の可能性のある測定対象を検討するための基礎実験が主であった。初年度での研究から、加速度測定による歩行、身体活動度、生活動作を含めた行動や運動の評価、血圧、心電図による循環動態の評価が可能であることが示された。また、新しい信号伝送方式を提案した。

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