移動・移乗支援システム

文献情報

文献番号
199900176A
報告書区分
総括
研究課題名
移動・移乗支援システム
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
土肥 健純(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 原 徹也(東京都リハビリテーション病院院長)
  • 数藤康雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所部長)
  • 田中 理(横浜市総合リハビリテーションセンター企画室室長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立意欲が強いにもかかわらず要介護となっている日常生活活動として「移動・移乗」「排泄」「入浴」「食事」が挙げられる。中でも移動や移乗は他の日常生活動作の基礎であり、その自立は、介護負担が極めて大きくかつ基本的な日常生活動作である排泄や入浴の問題解決につながる。また、屋外のあらゆる環境に対応できる移動支援機器は現在存在しないが、工学的支援により多くの高齢者に外出の機会を増やすことができれば、社会参加の機会も増え、彼らのQOL(生活の質)の大きな向上が期待される。
申請者らの研究組織は、従来より日常生活における重要課題である移動・移乗について、高齢者の自立支援を目指した機器開発を実施してきた。本研究ではこれまでの研究成果を基礎にさらに実用的でかつ高機能な自立支援機器の開発を移動・移乗支援の立場から行おうとするものである。具体的には移動支援アームの高機能化と、本アームを基礎とした日常生活用品搬送システムとコミュニケーション機能などの各種マンマシンインターフェースの開発・通常の電動車椅子への応用も可能な階段昇降機構の開発・身体的能力の低下のみならず、知的能力の低下を伴う高齢者への移動支援システム応用を想定した場合の危険回避等の知的判断力の補助手法の開発・社会参加機会の確保を拡大する携帯用移乗介助用具の開発という研究テーマを通して、より高齢者にやさしい移動・移乗支援システムを開発することを目的とする。
本研究の成果により、高齢者の自立生活を促進するとともに介護者の負担を軽減し、両者のQOLの向上に大きく貢献することが期待される。
研究方法
本年度は実用化を目指したシステムの基本技術要素についての検討を中心とし、各テーマについて以下のような研究を遂行する。
(1)移動介助ロボットアームの高機能化及び、本アームを基礎とした日常生活用品搬送システムと介助者インターフェースとしてのコミュニケーションシステムの開発(土肥):これまでに開発した天井走行型移動介助アームの被介助者支持部に把持機構を取り付け、屋内での日常生活用品搬送システムとするための機構の一次試作を実施する。また移動介助アームとのマンマシンインターフェースとしてバーチャルリアリティ技術を用いたインターフェースについて検討する。さらに、高齢者と外出中の介護者等とのコミュニケーション媒体や外出中の介護者による遠隔モニタ媒体としてのテレビ電話システムの応用について基礎的検討を行う。これにより、従来実現不可能であった介護ロボットと、同等の機能を有するシステムが実現できる。
(2)通常の電動車椅子への装着が可能なモジュール型階段昇降機構の開発(原):車椅子階段昇降機構の小型化を目指した一次試作を行い、基本性能を評価し従来型の電動車椅子への装着に関する技術的課題についての基礎検討を行う。
(3)操作能力を補助する自立移動支援装置の開発(数藤):老人ホーム等の施設では、廊下は決して広くない上に、いろいろなものが置かれている。その上入所する高齢者が横行している。このような状況で電動車いすを操作する場合、衝突などの危険を回避するための判断力が電動車椅子側にも要求される。本年度は想定される危険状態の検知手法について、現場での作業分析を基本に基礎的な開発を行う。
(4)携帯型移乗介助用具の開発(田中):本年度は、携帯機能を実現できる移乗用具として最も可能性が高い「こまわりさん」をベースに、移乗時に被介助者の体幹のずれ落ちを防止する支持性の高いサドルの開発と、携帯を可能にする折りたたみ機構の開発に重点を置いた第1次試作の研究開発とその評価を実施する。
倫理面への配慮であるが、本研究では、現場からの直接的なニーズに基づいて、移動や移乗に関して必要となる福祉機器の開発を行っており、常に使用者の意見を考慮しながら研究を進めている。また、所属組織の規定に従い倫理委員会の承諾を得ている。またさらに、評価の際にも事前の必ず被験者に詳細な説明を実施し、本人が十分理解した上での承諾を得てから行っている。
結果と考察
研究結果=(1)移動介助ロボットアームの高機能化及び、本アームを基礎とした日常生活用品搬送システムと介助者インターフェースとしてのコミュニケーションシステムの開発(土肥):高齢者の在宅自立生活支援のための、天井走行方式による移動介助用ロボットアームの開発として、食事搬送など多目的に応用可能な汎用の天井走行部分と、生活用品を把持・搬送するためのロボットハンドを試作した。また、今後さまざまな応用可能性のある、テレビ電話システムをベースとしたインタフェースシステムの試作を行った。試作したシステムに対して評価実験を行った。高齢者用モデルハウスにおける試作機の搬送実験では、天井レールに沿って配置された生活用品を被介護者のいるベッドまで搬送することを確認した。また、インタフェースの実験では、遠隔操作時における時間の遅れが認められ、把持操作も含めた動作をする場合は問題となり、改良を行う必要があることが明らかとなった。
(2)通常の電動車いすへの装着が可能なモジュール型階段昇降機構の開発(原): 今年度は、昨年と同様な機能を簡便なスイッチ操作で段差昇降が可能な新型段差昇降昇降機構を製作するために、基本的な機構の考案を図面上から確認することである。その結果、新型段差昇降機構の基本設計、制御系の新設(センサーの取付け位置、緊急ストップ装置付きスイッチボックス)の基本設計が終了した。
(3)操作能力を補助する自立移動支援装置の開発(数藤):本年度は、電動車いすの使用状況調査を行い、それに基づいた装置コンセプトの検討を行った。これより、障害物の速度も考慮した回避動作が重要なキーとなることが分かった。また、超音波センサの特性を検討したところ、床からの高さおよび対象面との角度が影響することが分かった。
(4)携帯型移乗介助用具の開発(田中):現在市販されている移乗介助用具の中で、携帯機能を実現できる可能性の高い「こまわりさん」を基に以下の3点について検討を行い、1次試作機を製作した。1)軽量でコンパクトに収納できるようにして携帯性を向上させる。2)被介護者の体重が介護者よりもかなり重い場合に操作力が問題になる場合があったため、操作力を軽減させる。3)操作時に被介護者の体幹のずれ落ちを防止するためにサドルの支持性を高める
考察=本研究では重度の高齢障害者から軽い不自由を抱える高齢者までの、屋内から屋外までの移動を対象としており、高齢者の移乗・移動支援機器開発としては広い対象をカバーしているため実用性の高い研究成果が得られると考えられる。個々のテーマについての考察は、各分担研究報告書にて詳述する。
結論
高齢者の日常生活における移乗・移動支援機器の開発として、(1) 移動介助ロボットアームの高機能化及び、本アームを基礎とした日常生活用品搬送システムと介助者インターフェースとしてのコミュニケーションシステムの開発、(2) 通常の電動車いすへの装着が可能なモジュール型階段昇降機構の開発、(3) 操作能力を補助する自立移動支援装置の開発、(4) 携帯型移乗介助用具の開発、について具体的なニーズに基づき、実用化に向けた設計および試作評価を行った。各々について実現された性能と、実用化のための課題点が明確になった。

公開日・更新日

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