脳卒中片麻痺の入院リハビリテーションにおけるクリティカルパスの開発

文献情報

文献番号
199900175A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中片麻痺の入院リハビリテーションにおけるクリティカルパスの開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
飛松 好子(東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻運動障害講座肢体不自由学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 岩谷 力
  • 漆山裕希(東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻運動障害講座肢体不自由学分野)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リハビリテーション医療においては未だクリティカルパスは導入されていない。その理由は、リハビリテーション医療においては方針決定と具体的操作は、患者の生物学的背景、疾病による病理学的背景に加えて、社会経済、および心理学的背景が影響し、個々の患者によって異なるリハビリテーションプロセスが展開するからである。そのためもあり、またリハビリテーション医療が未だ未熟であり、経験の蓄積過程にあるということも影響して、リハビリテーション医療では、これまで経験に依拠するところが多く、障害のリハビリテーション過程における自然経過も十分解明されないままに行われてきた。このような状態に対し予測と理論に基づくリハビリテーション医療を行うべきだという当然の考えが生まれる。そのためには、自然経過を明らかにし、リハビリテーションプロセスの標準化を行うこと、そのための評価基準を開発することが現在的な課題である。実際、インペアメント、ディスアビリティ、ハンディキャップレベルに対しそれぞれ評価尺度が作られ、その信頼性と妥当性の検討が続けられている。その究極の目標はリハビリテーションプロセスの標準化である。クリティカルパスとはまさしく標準化されたプロセスの提示とその管理である。本研究ではリハビリテーション医療の中でも最も多い対象疾患である脳卒中片麻痺者に着目し、クリティカルパスを開発することを目的とした。
なおこの研究は3カ年計画であるので、今年度は、標準化のために必須のリハビリテーションのプロセスの解明とそれに引き続く予測モデルの作成と臨床に使用しうる予測式を含んだデータベースシステムの開発の2点を目的とした。
研究方法
1.リハビリテーションプロセスの解明と予測式の作成
東北大学医学部付属病院リハビリテーション科において入院リハビリテーションを行った脳卒中患者を対象とした。全入院脳卒中片麻痺者の中から、発作後のリハビリテーションのために入院し、日常生活活動(ADL)が入院時自立しておらず、かつ1ヶ月以上入院したものとした。対象は194例であり、脳梗塞が、109例、脳出血が77例であった。合併症としては高血圧症が最も多く、次いで心疾患、糖尿病であった。
入院後に患者の神経学的状態、機能的状態の測定を行い、その後4週毎に機能状態を測定した。また回復段階を示すブルンストロム回復段階の測定も行われた。その間リハビリテーションとしては患者の機能状態に応じて、コンディショニング、移動訓練、ADL訓練を行った。患者の入院時の生物学的、神経学的、機能的特性を説明変数として、各ADL項目の線形判別分析を行い、正準判別関数を予測式として求めた。
2.データベースの開発
リハビリテーション医療の臨床は、評価と情報の共有化、評価会議、目標設定と目的の共有化、操作と評価の繰り返しである。そのような臨床の評価会議に実際使えることと、測定項目の標準化(定型化)、それらのデータとしての蓄積が可能なシステムを開発した。このシステムには、東北大学で開発された脳卒中機能的予測システムを含めた。
3.倫理面の配慮
このたび必要としたデータは患者個々にとって臨床上実際に使用し必要なものばかりであり、この研究のためにあえて収集したデータはない。またデータの収集とその取り扱いに関しては医療関係者として当然の義務とされる守秘義務に基づく機密の保護と尊重がなされていることや、このような臨床データの研究への活用は患者のプライバシー保護、人権の尊重を何ら冒すものではないと考え、このたびの研究に対しては個々の患者にインフォームドコンセントに基づく同意は必要ないと考えた。
結果と考察
結果
1.リハビリテーションプロセスの解明と予測式の作成
入院時の患者特性を示す変数を因子分析により分類した。その結果9成分が抽出された(固有値>1)。これらの各成分と含まれる変数と、性、年齢、病型等の相互相関を求めた。これらの項目の多くは、脳卒中昨日予後予測システムに用いられている項目でもあった。これらの項目のうち相互に相関のない変数、糖尿病の有無、心疾患の有無、発症後入院までの期間(RTSO)、無視の有無、嚥下障害の有無、病的反射の有無、入院時の判別されるADLの可能不可能を説明変数とし、1,2,3ヶ月後のADL項目としてバーセルインデックスの各項目を目的変数としてそれぞれ強制投入法による判別分析を行った。その結果、正準判別関数における各変数の係数、すなわち標準化されていない正準判別関数係数と定数から線形判別分析による各項目の予測式が算出された。各判別式は概ね有意ではあったが(p<0.05)、12週後の入浴、階段の自立か否かの判別式は有意ではなかった。実測値が正しく判別された割合は64~88%であった(表19)。
2.データベースの開発
システムは将来の拡張性も含め、脳卒中、脳機能障害、脊髄障害、骨関節障害、切断に対応するようにした。入力は基本的に、医師、看護婦、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、聴覚言語療法士によって行われた。項目の選択は、すでに開発されている脳卒中機能予測の項目に患者基本データ、および臨床で実際に使われている項目や蓄積することにより将来役立つと思われる項目を選択した。入力はマウスのクリックで可能な選択方式とし、評価会議に必要な部分のみコメントとして入力できるようにした。これらは脳卒中機能予測システムによるバーセルインデックス、体幹下肢運動年齢予測、脳卒中上肢機能検査、改訂長谷川式痴呆スケール、標準失語症検査の予測システムを含み、各月の評価会議に合わせて実測値とともに出力できるようにした(図7)。また当院で使用している評価会議の書式も取り込み、入力したデータがその書式に則って自動的に表示されるようにした。
考察
1.リハビリテーションプロセスの解明と予測式の作成
先に述べたようにリハビリテーション医療におけるクリティカルパスの困難さは、行われる医療の個別性の強さからくる。同様のことは治療医学にもいえ、それ故内科系では、クリティカルパスの導入は困難であるとされる。しかしそうはいっても、行われる医療内容と患者の状態とは因果があり、それを結ぶものが、入院時所見に基づく患者の状態の予測システムである。予測システムの開発とその元になるデータベースの開発は不可分のものであり、データベースの利用は予測システムの改良に寄与し、またさらなる予測システムの開発につながる。すでに予測システムは一部開発され利用されてきたが、十分なものとはいえなかった。このたびはそれに個別のADL項目の予測を付加し、より有用な予測システムとした。
2.データベースの開発
データベースは日々蓄積されるものである。いくつかの用件が必要とされる。1,臨床を行いながら測定と入力が可能な範囲であること、2,実際の新緑に役立つデータであること、3,測定が患者の負担にならぬこと、4,測定が患者の利益に直接つながること、5,数値データ化されていること、6,国際的に通用する尺度であること、などである。このようにすることによって個々の入力者にデータ入力の意義を自覚させ、欠損を防ぐことができる。また入力が簡単なことも必要であり、このたびは、マウスのクリックでデータが入力できるようにした。
結論
本年度得られた成果
今年度は、各ADL項目の予測が入院時データから予測が可能であることがわかり、その予測式を算出することができた。しかし問題点として、一部予測性に不良な項目があり、その点をどうするかという問題が残されている。
データベースという点では今年度開発されたシステムがどこまで運用できるかが今後の課題である。
来年度は、予測性のさらなる改良、合併症の管理システムへの組み込み、合併症のリハビリテーション過程に対する影響に関して明らかにすること、が主に必要でだり、クリティカルパスの作成へつながると考える。

公開日・更新日

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