摂食・嚥下障害の治療・対応に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199900173A
報告書区分
総括
研究課題名
摂食・嚥下障害の治療・対応に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
才藤 栄一(藤田保健衛生大学)
研究分担者(所属機関)
  • 椿原彰夫(川崎医療福祉大学)
  • 藤島一郎(聖隷三方原病院)
  • 荒井啓行(東北大学)
  • 向井美惠(昭和大学)
  • 植田耕一郎(新潟大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、3年度計画で摂食・嚥下障害高齢者にとって実際的かつ標準的な対処法を体系化することを目的とした。初年度である今年度には、摂食・嚥下障害患者の実態を把握しながら摂食・嚥下障害の臨床に携わるエキスパートの意見を集約し、新しい臨床的評価法(嚥下前・後レントゲン検査、改訂水飲みテスト、フードテスト、咳テスト、パルスオキシメータ法)を採用・規格化し、診断・評価体系を整理した。特に、従来は不可欠とされていたビデオレントゲン検査を用いずに行える評価手順を整備するための評価手順を準備した。これは、在宅や福祉施設でも利用可能なため大きな効用を持つと考える。
研究方法
1.委員会設置と現状調査:我が国における摂食・嚥下障害のリハビリテーション臨床の現状分析と評価法に関するコンセンサスを得る目的で、その臨床に携わるエキスパートの意見を集約するための委員会を設置した。委員会は、主任研究者、分担研究者およびその研究協力者から構成し1回3時間、合計3回を予定した。2.簡便な臨床的評価法の作成:医療、福祉の現場で強い要請のある「ビデオレントゲン検査(videofluorography:VF検査)を用いずに行える評価手順(以下、非VF系評価体系)」を整備するため臨床で簡便に用いうる評価法を作成し、その規格化を図った。具体的手法を委員会で議論しながら、各委員が持ち帰り検討を重ね、最終案をまとめた。(1)新しい臨床的評価法として、嚥下前・後レントゲン検査、改訂水飲みテスト、フードテスト、咳テスト、パルスオキシメータ法を採用した。(2)さらに、今後の多施設介入研究に用いるための統一した評価表を検討、作成した。3.フローチャートの作成:各評価法の作成と平行して、非VF系評価体系に用いるフローチャートを検討、作成した。(1)その際、重篤な危険を避ける目的で、除外項目を検討した。(2)また、摂食・嚥下障害の臨床的病態重症度について検討、作成した。すなわち、高齢障害者の摂食・嚥下障害の主たる障害である口腔期障害、咽頭期障害の2要素を臨床的重要性から1軸にまとめて段階づける検討を行った。(3)要素的評価法の特性および難易度を考慮して実際的な非VF系評価フローチャートを検討、作成した。4.分担研究課題:後述。5.フローチャートの検討:摂食・嚥下障害を有するあるいは疑われる入院中の30症例につき、後方視的にフローチャートを当てはめ、各評価法の妥当性、フローチャートの有用性と安全性について検討を加えた。(倫理面への配慮):研究を始めるにあたり各所属組織の倫理規定を遵守した。各試行において、目的、方法、手順、起こりうる危険についての説明を口頭および文章で提示し、承諾書により被検者の同意を得るなど、倫理面への十分な配慮を行った。今回用いた評価手技自体はいずれも既に臨床において用いられているものばかりであり、侵襲性という側面からみた場合には極めて安全性の高い検査法であった。
結果と考察
1.委員会設置と現状調査:委員会は、平成11年9月23日、平成12年2月21日、平成12年3月29日の3回開催した。2.要素的評価法の作成:(1)新しい臨床的評価法として、嚥下前・後レントゲン検査、改訂水飲みテスト、フードテスト、咳テスト、パルスオキシメータ法を採用、規格化した。各評価法は、その原型はすでに臨床の場で用いられており安全性や簡便性については問題を認めなかった。しかし、それぞれ規格化されていない、対象症例が異なる、評価観点が異なる、などの問題があった。各評価法に共通して導入された概念は、判定基準に段階づけを行い、信頼性を維持しながらより多くの情報を収集
できるように考慮するというものであった。それぞれの判定の検者間再現性は十分高く(ICC>0.80)臨床の使用に耐えるものと思われた。(2)多施設介入研究に用いるための統一した評価表を検討、作成した。3.フローチャートの作成:非VF系評価体系に用いるフローチャートを検討、作成した。(1)その際、重篤な危険を避ける目的で、出発点を明確にし、初回評価時のチェック項目を設定し、除外項目を制定した。(2)対象症例を具体的なイメージとして捉えやすくする目的で、摂食・嚥下障害の臨床的病態重症度について、主たる障害である口腔期障害、咽頭期障害の2要素を臨床的重要性から1軸にまとめて段階づけた。すなわち、まず、誤嚥の有無で大きく大別した上で、誤嚥ありでは、1)唾液誤嚥、2)食物誤嚥、3)水分誤嚥、4)機会誤嚥と細分し、誤嚥無しでは口腔問題の程度で、5)口腔問題、6)軽度問題、7)正常範囲に細分した。これらの概念は、非VF系評価体系で扱うことが適切な症例を定義する上で有用と考えられた。すなわち、水分誤嚥から軽度問題がその対象として適切であり、唾液誤嚥と食物誤嚥例はVF検査を含めた精査に基づいて専門的摂食・嚥下治療がなされるべきと考えた。(3)非VF系評価フローチャートでは、簡便性、安全性を考えた上で、食物を使った直接的訓練に至るまでの流れを考察した。選択した評価項目は、出発時点の摂食状態、開始前提条件、開始時チェック項目、嚥下前・後レントゲン撮影、改訂水飲みテスト、食物テスト、パルスオキシメータであった。4.分担研究課題:椿原彰夫は、「全身状態不良例における嚥下の臨床評価」を検討した。荒井啓行は、「脳血管障害後遺症における防御反射と肺炎の関係」を検討した。藤島一郎は、「摂食・嚥下障害治療における内視鏡(鼻咽腔喉頭ファイバースコープ)検査」を検討した。向井美惠は、「咬合状態と嚥下障害の関連性の検討」と「非VF系評価法としてのフードテストの基準化」を検討した。植田耕一郎、「摂食・嚥下リハビリテーション入院、外来および在宅リハビリテーションの試み」を検討した。5.フローチャートの検討:摂食・嚥下障害を有するあるいは疑われる入院中の30症例につき、各評価所見の関係を後方視的に検討した。また、詳細な評価が行われた13例について、フローチャートを当てはめ、各評価法の妥当性、フローチャートの有用性と安全性について検討を加えた。VFでの誤嚥の有無と各評価との相関は、p=0.625~0.662と高くそれぞれ誤嚥をある程度反映できると考えられた。また、それぞれの難易度をクロス集計から眺めるとそれぞれの難易度に著明な差はないことがわかった。従って、流れでは、簡便性、安全性を優先させてよいと考えられた。すべての評価が揃い、詳細な臨床所見をとった13例においてのフローチャートの検討では、単独の評価では不明確になりやすい「精査が必要な症例」を適切に選別できることが分かった。また、水分誤嚥例ではVF検査を要求されることが多かったが、VF検査は、誤嚥の診断だけではなく代償的体位や食物形態効果を適切に判断できることを考えると妥当と思われた。
結論
長寿社会の到来によって、人生の最終ステージにおいて「食事の問題」つまり摂食・嚥下障害を抱えた高齢者が増加している。彼らに接する介護者の苦悩も極めて大きい。研究者らは、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の活動をはじめとしてこの課題の解決に努力してきた。本研究では、摂食・嚥下障害高齢者にとって標準的対処法を体系化することを目的に、まず、診断・評価法を整理しながら、新しい数種の評価法を採用・規格化し、その上で従来は不可欠とされていたビデオレントゲン検査を用いずに、在宅や福祉施設でも利用可能な評価手順を整備し社会的要求に応えることとした。具体的手法を委員会で議論し、合理的で簡便なフローチャートの最終案を報告した。

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