高齢神経疾患患者のリハビリテーションのあり方

文献情報

文献番号
199900172A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢神経疾患患者のリハビリテーションのあり方
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
若山 吉弘(昭和大学藤が丘病院)
研究分担者(所属機関)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 小川雅文(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 前田眞治(北里大学病院)
  • 安田武司(トヨタ記念病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の高齢神経疾患患者の治療法と介護の進歩により罹病期間は延長したが、それに伴ってquality of life (QOL)の低下がみられるものも少なくない。本研究では高齢神経疾患の中で頻度の高い脳卒中後遺症(CVD)や高齢神経変性疾患の中で頻度の高いパーキンソン病(PD)を対象にリハビリテーション(リハ)の立場からどのようなリハのあり方が患者のQOL向上に対してより効果的かを検討する。
研究方法
Ⅰ.プロジェクト研究 入院もしくは外来通院中のCVDとPD患者の高齢神経疾患患者で本研究に同意した協力者を対象にした。入院患者では連日、外来患者では少なくとも週2回以上、1回につき30分以上のリハを行った。リハは基本的ADL向上により有効と思われる身体活動訓練に重点を置いたPTを中心としたものと、絵画、習字、毛皮細工などより精神活動に影響し、QOL向上により有効と考えられるOTを中心としPTを加えたものの2種類のメニューを用意した。本年度は65歳以上の患者のOT+PT 42例、PT 20例、65歳未満の患者のOT+PT 29例、PT 6例の計OT+PT 71例、PT 26例の合計97例にリハを実施し背景因子・QOLの調査を実施した。 リハ前後で我々が作製し、クローンバッハ係数より信頼性と再現性があることが確認されたQOL調査表(日本老年医学会雑誌 36: 396-403, 1999)を用いて患者の背景因子とQOLの調査を実施した。
(倫理面への配慮)
患者の背景因子やQOL調査やリハの実施に際してこの研究の目的を充分説明し、かつプライバシーが外部へ漏れることはない旨説明し、患者の同意協力が得られた患者に本研究を実施した。
Ⅱ.各個研究 1.PD患者5例(男3例、女2例、平均年齢74.4歳、Yahr重症度分類Ⅱ度1例、Ⅲ度2例、Ⅳ度2例)を対象にした。本研究を実施する前にその目的などを充分説明し、同意を得た。呼吸リハとして呼吸筋ストレッチ体操を取り入れ、4週間連日1回15分1日2回のリハ訓練を施行し、その前後で呼吸機能への効果に加えて、パーキンソン症候、特に無動症状への効果をactigraphを用いて、四肢運動量を測定して検討した。
2.入院中もしくは外来通院中の臨床上嚥下障害をみとめる高齢PD患者10例。男性8例、女性2例。平均年齢は72.2歳。平均罹病期間は4.2年。Hoehn and Yahr分類ではStageⅢ5例、StageⅣ3例、StageⅤ2例であった。摂食状態はミキサー食7人、きざみ食3人、ミキサー食摂取のうち3人は水分摂取をアイソトニックゼリーに制限していた。方法は臨床上、嚥下障害を有すると診断した患者にVideo Fluoloscopy (VF) の目的等を充分説明し同意を得た上で、VFを実施した。X線透視下に造影剤入りの模擬食材を摂食させビデオに記録し嚥下運動の諸相を3段階の評価基準を定め評価した。また嚥下リハとして舌のマッサージ、頸部の可動域拡大訓練、嚥下反射の誘発訓練などを行い、その後の嚥下機能も評価した。
3.外来に5年以上通院している65歳以上の高齢PD患者35例(男15例、女20例、平均年齢66.6±9.7歳 発症年齢53.2±9.2歳)を対象とした。カルテ調査を中心に本人と家族に目的を充分に説明し同意を得て聞き取り調査した。調査項目は発症年齢、診断時年齢、Hoehn and Yahr重症度がStageⅢ、Ⅳ、Ⅴに悪化した時期、wearing off現象の有無、on-off現象の有無、痴呆の有無、リハの施行状況である。統計はKaplan-Meier法にて重症度がStageⅢ、Ⅳ、Ⅴに重症化するまでの平均期間を求めた。性別、発症年齢、wearing offの有無、on-offの有無、痴呆の有無、またリハの有無でのPDの悪化への影響を解析するため、Cox Proportional Hazards Modelsを用い検討した。
4.外来通院中のCVD122名(脳出血59名、脳梗塞63名)、PD 30名の計152名とその介護者1名ずつ152名、合計304名である。調査項目は蜂須賀らによる日常生活満足度、AIMS変法、うつ状態スケール(SDS)等で、患者・介護者に調査の目的を充分説明し患者とその介護者に文書で同意を得た上で調査した。
5.男女37名(年齢65~95歳)の高齢者包括医療病棟に入院したCVD患者や痴呆性疾患患者に20日以上集団作業療法を行い、その前後でmini-mental state examination (MMSE)を施行した。
結果と考察
結果=Ⅰ.プロジェクト研究 リハ前後での背景因子ではOT+PT、PTそれぞれの訓練で統計的に有意な変化はみられなかった。次にQOLの項目ではphysical health、functional health、psychological health、social healthのそれぞれ15項目合計60項目すべてにつき検討した結果、PTでは統計的に有意な変動を示した項目はみとめられなかった。またOT+PTではphysical healthのうち歩行時の方向転換の難しさがリハ後統計的に有意(P<0.05)に改善した。functional healthでは平地歩行の改善傾向(p<0.1)がみとめられた。しかしpsychological health、social healthの全項目を含め他の項目では変化はみとめられなかたった。
Ⅱ.各個研究 1.スパイログラムによる呼吸機能の検討では呼吸リハ前後で%肺活量は5例全例で88.8%から95.1%へと改善した。actigraphによる運動量測定では呼吸リハ前後で5例中3例に増加がみられ、その平均値は3,678±4,125 count / hourから4,129±4,630 count / hourへ増加がみられた。
2.PD10例とも共通した次の異常所見を得た。舌のakinesiaと舌根の沈下傾向、嚥下反射の誘発不全、頸部の後屈をみとめた。嚥下のリハ後には10例中8例に臨床上明らかな改善をみとめた。VFでの再評価を行った5症例中4症例でVF所見の改善をみとめた。
3.PDの発症からStageⅢ、Ⅳ、Ⅴのそれぞれまでに悪化するまでの平均期間は9.33±0.74年、14.92±0.72、17.2±0.85年であり、調査時点での重症度はStageⅢが10名、Ⅳが3名、Ⅴが6名であった。Wearing off、on-offの有無や痴呆の有無、リハの有無の重症化する平均期間への影響では、wearing off、on-offのある症例では、それが無い症例に比し有意に高かった。またリハ無の症例では施行例に比し悪化する相対的危険度は高い傾向がみられた。
4.日常生活満足度で各項目の平均得点は患者高得点が家庭生活、自己啓発、レクリエーション、所得・資産、介護者高得点が身体機能、社会生活、勤労生活であった。そのうち勤労生活で有意差がみられた。AIMS変法では社会的要素で身体機能が、精神的要素で自己欲求と快楽感、将来の絶望感と関連していた。SDSでは患者・介護者とも日常生活自立度が低くなるほどうつ傾向が強くなった。
5.作業療法施行前のMMSEは15点未満8名、15~23点21名、24点以上8名であった。これらの患者を参加率80%以上のⅠ群11例、40%以上80%未満のⅡ群13例、40%未満のⅢ群13例に分けた。MMSEはⅡ群、Ⅲ群で作業療法前後の差をみなかったが、Ⅰ群では明らかにMMSE得点が上昇し、それはとりわけMMSEが20点未満の例で顕著であった。また、Ⅱ群でもMMSEが15点未満の例で集団作業療法施行後に上昇する傾向があった。
考察= 我々は平成8年度から10年度まで長寿科学研究として高齢神経疾患患者の心理社会的要因としてCVDとPDを対象にこれらの患者の特に高齢者でQOLがどの側面で低下しているかを調査しその結果を学術誌に報告した。その研究の過程で作製したQOL調査表が上記調査の結果、信頼性や再現性のあるものであることが判明し、今回はその調査表を使用し本研究を実施した。高齢神経疾患ではリハによりADLを向上させるにも有効な効果が得られにくいことも多い。たとえADLの向上が得られなくともリハにより患者の満足度すなわちQOLが向上すれば患者の日常生活の改善に寄与する。従って本研究では患者のQOLの向上により有効なリハのあり方を検討するためPTとOT+PTの2つのリハメニューを用意し、患者の同意のもと本研究を実施した。患者背景はリハの期間が約2ヵ月と短いために統計的に有意な変動がみられた項目はなかった。QOLの項目でも今年度は症例数が少なかったせいかPTではリハ前後で変動のみられた項目はなかった。一方OT+PTではリハ前後で有意な変動のみられたのはphysical health、functional healthの項目のうち歩行状態に関するものでどちらかといえばADLの項目であり、psychological healthやsocial healthといったQOLの項目での変化はみとめられなかったが、その理由は不明である。本年度は各個研究においても呼吸や嚥下運動などのリハを取り入れ研究が開始されており、患者のADLやQOLの改善にpositiveと思われる予報的な結果が得られており、平成12年度はプロジェクト研究や各個研究を更に推進したい。
結論
本研究では患者QOL向上にむけてリハのあり方を研究しており、プロジェクト研究、各個研究とも患者の日常生活改善にむけたリハのあり方に関する予報的な成果が得られた。

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