高齢者神経疾患に対するリハビリテーションの方法論に関する研究

文献情報

文献番号
199900170A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者神経疾患に対するリハビリテーションの方法論に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮井 一郎(国立療養所刀根山病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木恒彦(ボバース記念病院)
  • 久保田競(日本福祉大学)
  • 中山博文(国立大阪病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中やパーキンソン病などの神経変性疾患に対するリハによる機能回復機序の神経科学的解明を通じて、効率的なリハの方法論を確立することが本研究の目的である。当該年度(平成11年度)は身体支持装置によるトレッドミル訓練(BWSTT)のパーキンソン病(PD)に対する短期効果の検討、L-DOPSの脳卒中の機能回復に対する効果の検討、脳卒中患者のfMRIのリハ前後の比較、コンピュータによる前頭葉機能テストシステムによる機能予後との関連の検討を行い、一般病院とリハ専門病院との脳卒中の機能予後を比較するcontrolled trialの開始した。
研究方法
1. PDに対するBWSTTの短期効果をcross-over studyで検討した。PD10例 (Yahr2.5-3度, 平均年齢68, 罹病期間4.2年, 男/女=5/5)をBWSTT (体重の20%を非荷重, 週3回, 4週間)、ついで理学療法 (PT, 週3回, 4週間)を受ける群 (5例)とその逆順序の群 (5例)にランダマイズし、Unified Parkinson's Disease Rating Scale (UPDRS)、歩行距離、速度 (秒/10m)、歩数 (歩/10m)を比較した。期間中、薬剤の変更はしなかった。2.発症後2ヶ月の脳梗塞患者5例でノルアドレナリンの前駆物質であるL-DOPS 200 mg内服2時間後、リハ(理学療法, 作業療法)を2ヶ月、ついで内服なしにリハを2ヶ月施行(D群)、コントロールとして脳梗塞患者8例は内服なしにリハを4ヶ月施行(C群)し、Fugl-Meyerスケール (F-M, impairment)、Functional Independence Measure (FIM, disability)、歩行距離、歩行スピードを比較した。3. 脳卒中においてリハビリテーション前後のfunctional MRI (fMRI)所見の変化と病変部位と関連を検討した。対象は片麻痺を呈する脳卒中患者14例。麻痺側手指の把握運動時の脳賦活部位をgradient echo法によるfMRIで描出した。4. 前頭連合野損傷を有する脳卒中患者14例(FL群)と、その他の連合野に損傷のある23例(NonFL群)に、コンピューター制御のタッチスクリーン上の視覚刺激表示を用いた遅延反応の測定(反応時間、運動時間、正答率)を行った。5. 国立大阪病院に入院する急性期(発症7日以内)の脳卒中患者のうち、発症1ヶ月以降の回復期リハを、一般病院である国立大阪病院でリハを続ける群(GH群)、リハ専門病院であるボバース記念病院に転院してリハを続ける群(RH群)に分け、機能予後、医療費、Quality of Lifeを比較するプロトコールを作成した。
結果と考察
1. UPDRSはBWSTT前後で31.6/25.6、PT前後で29.1/28.0で、順序に関係なく、BWSTTの方が有意に改善した (ANCOVA, P<.0001)。歩行速度 (10.0/8.3 vs 9.5/8.9)、歩数 (22.3/19.6 vs. 21.5/20.8)もBWSTTの方が有意に改善した。以上よりBWSTTはPTに比較してPDの運動、歩行の改善に有用であると考えられた。2. 両群の平均年齢 (D群/C群 = 75/71)、性別、病変側、合併症、ミニメンタルテスト (10/12)、リハ前の平均Functional Independence Measure (FIM, 36/42)、Fugl-Meyer motor scale (F-M, 30/27)、歩行距離 (10/9 m)に差はなかった。D群はC群よりFIM (発症後4ヶ月: +16/+3, 6ヶ月: +21/+7)、F-M (+10/+2, +16/+5)、歩行距離 (+56/+7, +72/+16 m)が有意に改善した (p < 0.05, Mann-Whitney test)。D群でL-DOPS中止が必要な副作用はみられなかった。L-DOPSとリハの併用は脳卒中の機能回復を促進する可能性が示唆された。3. 14例中11例(皮質下6例、皮質2例、混合3例)で上肢麻痺が改善した。回復に伴い、皮質下病変では麻痺手と同側の感覚運動野、皮質病変では反対側の感覚運動野、混合性病変では反対側の感覚運動野と運動前野の賦活が増加ないし新たに出現した。病変部位の違いにより機能回復に伴った大脳賦
活部位が異なることが示唆された。4. 両群の脳卒中患者とも健常群に比較して反応時間、運動時間とも延長が見られ、試行毎の偏差値が大きく、正答率も低下した。遅延反応における正答率低下はFL群とNonFL群で差がなかったが、平均反応時間、平均運動遂行時間はNonFL群ではFL群に対して14.6%、22.7%の延長がみられ、平均反応時間偏差値、平均運動遂行時間偏差値は38.9%、56.7%の延長がみられた。5. 国立大阪病院とボバース記念病院の間で、評価スケールの統一を行い、平成11年9月から患者登録を開始した。半年間に登録された患者が少なかったために、目的とした機能回復、医療費、QOLの比較検討を現時点では行うことはできず、来年度も患者登録を継続する。
結論
1. BWSTTはPTに比較してPDの運動、歩行の改善に短期的により有用であった。2. L-DOPSとリハの併用は脳卒中の機能回復を促進する可能性が示唆された。3. 脳卒中に対するリハ前後で、機能回復に伴った脳賦活部位の変化が病変部位に特異的なパターンを呈する可能性が示唆された。4. 脳卒中患者の視覚的空間位置のワーキングモメリー障害の解析から、前頭連合野の運動企画・選択の機能には、その他の連合野からの情報の影響を受ける可能性を示した。5. 脳卒中後回復期リハを一般病院にて急性期リハに継続して行うべきか、リハ病院において施行すべきかを、検討するためのプロトコルを作成し患者登録を開始した。

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