脳卒中患者の慢性期リハビリテーション医療の実態とその効果に関する研究(総括研究報告書) 

文献情報

文献番号
199900169A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中患者の慢性期リハビリテーション医療の実態とその効果に関する研究(総括研究報告書) 
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
千野 直一(慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 石神 重信(防衛医科大学校リハビリテーション部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成12年度の介護保険制度の導入にあたり、いわゆるリハビリテーション専門病院における脳卒中患者の回復期・維持期のリハビリテーション医療が、どのように進められ、医学的効果をもたらしているのかを他覚的に評価することは、脳卒中を発症してからどの時点において介護保険における要介護度を認定すべきであるかを決定するうえでも、極めて重要な課題である。生命予後を左右する時期を脱した患者が、然るべき集中的なリハビリテーション医療を受けずに在宅や指定介護施設へと移行し、その時点でのADLレベルで要介護度が認定された場合、必要以上の給付がなされることとなる。たとえその後の介護保険によるリハビリテーションによって、その患者にふさわしいADLレベルにまで回復し得たとしても、それに要した時間的な遅れに伴うコストパフォーマンスを、リハビリテーション専門病院にて短期間で集中的に改善させた場合のそれと比較して分析することは重要事項である。一方では、たとえ専門病院であっても、的確なリハビリテーション医療が施されていなければ、在宅へ移行し得る期間を無闇に延長させる結果となる。医療者側は、その患者が到達可能なADLレベルとそれに要する期間を的確なリハビリテーションプログラムのもとで予測し、必要に応じて効率的に指定介護施設や訪問リハビリテーションを利用していく能力を求められている。多様な障害像を呈する脳卒中患者のリハビリテーション医療においては、その質の客観的・科学的な評価が、特にその回復期・維持期に真に必要とされる医学的リハビリテーションのあり方を明確にし、介護保険がかかげるリハビリテーション前置の理念へと導くものと考えられる。
研究方法
方法としては、後方視的研究(一定のフォームに基づくチャートレビュー)を行った。
対象としては、脳卒中障害患者の回復期リハビリテーションに取り組んでいる施設(常勤のリハビリテーション専門医またはそれと同等の医師がいるリハビリテーション専門病院で理学療法ⅠまたはⅡおよび作業療法ⅠまたはⅡ承認施設)を対象として、調査を行った。
対象患者としては、1998年10月1日から1999年9月30日までの間に退院した初回発作の脳卒中患者を対象として、以上の1年間の間で、限られた期間を選択していただき、そのなかで連続した30例以上を目標としていただく。 1)他院または他科からの転科によってリハビリテーション科に入院した患者 2)発症後4か月以内の入院 3)脳幹部・小脳病変ではない4)クモ膜下出血ではない 5)(発作として)単発(初発)である6)リハビリテーション開始時においてADLは自立していない 7)発症前のADLは自立8)社会福祉的入院ではない9)検査目的の入院ではない
調査内容としては、回復期リハビリテーション病院入院前のリハビリテーションの有無、診断名、麻痺側、CT所見、発症日、リハビリテーション入院日、退院日、手術の有無、リハビリテーションを阻害した合併症、併存疾患、住居、職業、主介護者、家族状況、家族構成、入院時および退院時の嚥下障害、構音障害、麻痺側上肢機能、麻痺の程度(Brunnstrom stage)、起き上がり・端座位・立ち上がり・立位・歩行等の基本動作、痴呆・半側無視・失行・失認などの高次脳機能障害を調査する。また入院時および退院時の日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)としてBarthel Index (食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、平地歩行、階段、更衣、排便、排尿)を調査した。さらには装具の作成の有無(プラスチックAFO、金属支柱付きAFO、靴型AFO、KAFO)、その使用状況、車椅子の作成の有無(自力駆動型、介助型、電動型)、杖、家屋の改造、障害認定、経済保障、退院時の転帰、地域との関わりなどを調査した。
一方病院調査として、病院の経営主体、病床数、リハビリテーション病床数、全病棟数、リハビリテーション病棟数、老人保健施設・特別養護老人ホーム・在宅介護支援センター・更生施設・訪問看護ステーションなどの併設施設の有無、全医師数、そのうちのリハビリテーション専任医師数、リハビリテーション専門医、リハビリテーション認定臨床医数、リハビリテーション病棟の看護体制、看護基準、基準看護か療養型か、リハビリテーション病棟看護要員数、リハビリテーション施設基準(総合リハビリテーション承認施設、理学療法Ⅱ、作業療法Ⅱ)、リハビリテーション部門スタッフ数(理学療法士、作業療法士、言語療法士、ケースワーカー、義肢装具士など)、在宅部門の有無、そのスタッフ数、訓練部門面積などを調査した。
結果と考察
全国で北海道から沖縄県にいたるまでの約100以上の病院から応募があり、リハビリ入院時、退院時の調査をおこなった。調査結果の回収までにはまだいたっていないが、現在まで約90施設2200人余りの患者のデータについての中間報告を述べたい。全患者数は2265人、男性1342人、女性913人、平均年令は65.6才、脳出血1050人、脳梗塞1186人、出血性脳梗塞21人であった。右片麻痺1176人、左片麻痺1057人であった。脳出血では、被殻出血567人、視床出血356人、皮質下出血97人であった。脳梗塞ではアテローム血栓性脳梗塞611人、心原性脳梗塞235人、ラクナ脳梗塞223人であった。脳卒中発症からリハビリテーション科に転科または転院までの日数は平均44日、入院期間は平均103日であった。リハビリテーション科に転科または転院する前には、直接他科に入院し、リハビリテーション科に転科した者が616人、他の病院に入院し、リハビリテーション施行したものが1095人、他の病院に入院し、リハビリテーションを施行していない者が404人いた。
一方、入院時および退院時の嚥下障害、構音障害、麻痺側上肢機能、麻痺の程度(Brunnstrom stage)、起き上がり・端座位・立ち上がり・立位・歩行等の基本動作、痴呆・半側無視・失行・失認などの高次脳機能障害は、それぞれ1段階弱改善していた。入院時および退院時の日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)としてBarthel Index (食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、平地歩行、階段、更衣、排便、排尿)は、入院時平均43点、退院時76点と大きく改善していた。
転帰については、自宅退院したものが1544人、74%、リハビリテーション目的にて転院したもの277人、13%、合併症治療目的にて転院したもの52人 2%、福祉目的に転院したもの201人 9.6%、施設入所14人、死亡退院1人であった。
結論
今年度の研究結果は、まだ中間段階であり、結論はだせないものの、回復期リハビリテーションによって、機能障害や能力障害が改善し、自宅に退院できる患者は74%にもなり、その効果が高いことが推測される。来年度、全国データの集積がさらに進めば、さらに多くの症例のデータをもとに、その解析をすすめたいと考える。また病院の施設基準や人員との対比の検討も試みたいと考えている。次年度以降は、脳卒中患者の回復期・維持期におけるリハビリテーション医療の実態およびその効果と、現行の医療制度ならびに介護保険との関連について、さらに深く解析したい。

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