保存期慢性腎不全高齢患者(非糖尿病性)の低蛋白療法の効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900165A
報告書区分
総括
研究課題名
保存期慢性腎不全高齢患者(非糖尿病性)の低蛋白療法の効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
福原 俊一(東京大学医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 前田憲志(名古屋大学大幸医療センター)
  • 折笠秀樹(富山医科薬科大学医学部)
  • 大石明(国立霞ヶ浦病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
末期腎不全に至り透析療法を受けている患者数は年々増加(1998年末で18万人以上)しており1人あたり年間500-600万円を要することから医療費の高騰に拍車をかける一因となっており、腎不全進展抑制は急務となっている。一方、新たに透析を導入される患者の高齢化も進んでおり(平均62.2才、最頻値65才)、生存年数を延ばすのみの治療では十分でなくなっている。現在、主に使われる保存期慢性腎不全の治療法はACEIおよび他の降圧薬、または低蛋白食療法であるが、この中で低蛋白食療法はQOLに影響する可能性があるにもかかわらず欧米においても十分な検討がなされていない。また、低蛋白食療法では高価な特殊食品を使わないとQOLを損なう可能性があり患者本人に経済的負担を来すことが多い。そこで、本研究では以下のことを目的とした。
1) 低蛋白療法のコンプライアンスを定量的に評価する方法を検討すること:
2) 食事療法の指導方法を開発し標準化するとともに、食事療法のコンプライアンスの実態およびコンプライアンスに影響する心理社会的要因を明らかにすること:
3) 保存期慢性腎不全患者の食事関連QOL尺度を開発するとともに、患者のQOLの実態およびQOLに影響を与える要因を明らかにすること:
4) 低蛋白療法のコストおよびutilityに関する基礎データを出すこと
研究方法
1) RCT 全体のプロトコル作成と組織作り:平成11年6月および10月に、feasibility study参加候補施設の代表医師および栄養士への説明会を開催し、研究プロトコルの詳細について検討を行うとともに、組織作りを行った。また、feasibility studyの計画が研究の質の観点から水準が十分であることを、RCTのチェックリストであるCONSORT声明(JAMA 1996; 276: 637-39)に照らし合わせて確認した。検出可能な効果サイズについては、過去の研究データを利用しつつ、統計学手法を用いて検討を加えた。
2) 研究実施上の問題点抽出と対策立案:平成11年11月、feasibility study参加予定30施設の医師及び栄養士を対象に、低蛋白療法に関するアンケート調査を行い、各施設の実態を明らかにするとともに研究実施上の問題点を抽出した。また、平成11年11月および平成12年3月に、医師・栄養士10名からなる食事療法小委員会を開催し、実施上の詳細について討議した。
3) 低蛋白療法コンプライアンスの定量的評価のための蓄尿方法開発に関する研究:細菌繁殖の尿中尿素濃度と尿中クレアチニン濃度に対する影響を明らかにするために、夏期に室温下で24時間蓄尿を行い、持参した尿11検体をさらに24時間、30℃、20℃、15℃、10℃の高温槽内に放置し、前後の尿素窒素濃度、クレアチニン濃度を比較した。また、蛋白摂取量、クレアチニン産生速度よりエネルギー摂取量を推定する方法を検討した。
4) 食事関連QOL尺度の開発:食事関連QOLを測定する尺度を作成し、その心理測定的評価を行うために、全国7施設96例を対象にして予備調査を実施した。
結果と考察
1) RCT 全体のプロトコル作成と組織作り::プロトコルの検討を重ねた結果、次の問題点が明らかになった。①月に1回の蓄尿と食事記録を測定しただけでは、日常的に低蛋白療法がどの程度実行されているかといったコンプライアンスの実態が明らかではない、②信頼性の高い蓄尿法の確立と同時に、頻回に実施することが困難な蓄尿法にかわる蛋白摂取量推定法を考案し測定信頼性を確認することが真のコンプライアンスを明らかにする上で必要、③食事指導方法の標準化と、②で開発された手法によって正確なコンプライアンス測定を行いこの食事療法の実施可能性を評価することが必要。そこで、研究費などの諸条件にも鑑み、RCTを実施する前に、まずこれらの基本的な方法論の確立とデータの集積を遂行することにした。この作業の完了後、研究費などの諸条件が整いしだい、feasibility study(RCT)を行い、その結果本試験の実施可能性が確認されれば、3年間の本試験(RCT)に入る計画に修正された。このプロトコルに対して統計学的観点より計画の質は十分であることが確認された。また、この試験の効果サイズを検討した結果、クレアチニン倍加時間では約半分遅らせること、クレアチニンクリアランスでは6%減少を抑えることが検出できると判明した。Feasibility studyには29施設(大学病院20施設を含む)が研究への参加を表明し、約120例の登録者が見込まれた。
2) 研究実施上の問題点抽出と対策立案:医師に対するアンケート結果より、腎臓病教室の普及が遅れていること、低蛋白食の実施には特殊食品の使用が不可欠であること、ほとんどの施設でクレメジン投与が行われていること等が明らかになった。栄養士に対するアンケート結果では、試食を行っている施設は約5割だが調理実習を行っている施設は2割にも満たないこと、本研究の実施には見本献立が必要であると考えている施設が多いこと、体重と体脂肪以外に測定している施設が少ないこと等が明らかになった。この結果から、研究の実施可能性を高めるために、腎臓病教室の開催、患者用データノートの作成、栄養士の月1度の電話によるフォロー体制、試食や調理実習の実施、各種小委員会の設置、クリニカルコーディネーターの配置、栄養士に対する講習会の実施、等の対策が考案された。
3) 低蛋白療法コンプライアンスの定量的評価のための蓄尿方法開発に関する研究:尿素窒素およびクレアチニン濃度は10℃より高い温度で有意に減少していることが証明され、24時間蓄尿においては10℃以下で行う必要性が示唆された。従って、蓄尿環境についてより詳細な検討が必要であることが判明した。また、24時間蓄尿中の化学分析に基づいて摂取蛋白量とクレアチニン産生速度から摂取エネルギー不足を推定することが可能であることが明らかになった。
4) 食事関連QOL尺度の開発:文献調査、及び、QOL研究者・栄養学者・食事療法に詳しい栄養士・医師らの意見等から項目を作成し、4領域(①一般的食事感、②食事全般の主観的満足度、③派生する生活機能制限、④食事療法負担)、19項目からなる食事関連QOL尺度を作成し、その妥当性と信頼性について検討した。各領域とも、0-100点の範囲で高得点ほどQOLが高くなるように得点化された。欠損値および回答パターンの解析では、各項目とも5%以上の欠損、および1つのカテゴリーに5割以上が集中する項目はみられなかった。因子分析の結果、④食事療法負担領域は、④-1負担と④-2利点の2領域に分かれた。各領域の信頼性係数は0.7以上であった。相関分析による弁別的妥当性および集束的妥当性の検討では、全ての領域で基準値を満たした。蛋白制限大群と小群で各領域の得点を比較したところ、一般的食事感、食事の満足度、食事社会制限、食事療法負担の4領域で制限大群は小群よりも得点が有意に低かった(一般的食事感p<0.05、その他p<0.01)。また、健常者群との比較(食事療法負担、食事療法利点を除く)では、一般的食事感、食事の満足度、食事社会制限とも患者群の方が有意に低かった(p<0.001)。
結論
以上の結果から、本研究のプロトコルが改訂され、質の高い研究プロトコルであることが明らかとなった。また、研究実施時の食事療法マニュアルや患者データ記入シートなどが作成され、次年度実施のfeasibility studyに向けての準備が整った。コンプライアンスを測定するための蓄尿方法については、蓄尿環境についてさらに詳細の検討が必要であることが示された。さらに、患者の食事関連QOLを測定するための尺度の信頼性および妥当性が示され、尺度が有用であることが明らかになった。本研究により、当初より計画中の食事療法の効果を比較するRCTに有用な基礎的データおよび方法論が提供された。さらに、蓄尿方法の検討を重ね、また、コンプライアンスの実態を明らかにした上で、feasibility studyを行い、本試験の実施可能性を確認していくことが必要である。

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