地域の高齢者における転倒・骨折の発生と予防に関する疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900163A
報告書区分
総括
研究課題名
地域の高齢者における転倒・骨折の発生と予防に関する疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
新野 直明(国立長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
  • 青柳潔(長崎大学)
  • 吉田英世(東京都老人総合研究所)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の高齢者における転倒の発生率とその発生状況を明らかにすることを目的に、全国の数カ所の地域で、在宅高齢者を対象に、統一した方法を用いて転倒調査を実施した。また、骨量と転倒の関係、および、転倒時に骨折を予防する装具の装着状況に関する研究を一部地域でおこなった。
研究方法
北海道勇払郡追分町(日常生活動作の自立している65歳以上の高齢者)、新潟県中魚沼郡中里村(60歳以上の老人健診受診者)、静岡県浜松市広沢町(転倒検診を受診した65歳以上高齢者)、長崎県西彼杵郡大島町(年齢層別に無作為抽出した在宅の65歳以上高齢者)、沖縄県国頭郡今帰仁村(高齢者健康調査を受診した65歳以上高齢者)の5地域において転倒調査を実施した。調査項目は、過去1年間の転倒の有無とその発生状況(時間、場所、履物、転倒時の動作、転倒原因、転倒時のケガ、など)が基本的な内容であり、面接聞き取りの形式を原則とした。また、静岡県浜松市村櫛村の65歳以上地域住民を対象に踵骨超音波法により測定した骨量と転倒の関係を検討した。さらに、新潟県中魚沼郡中里村在住の70歳以上の女性を対象に、デンマーク製、フィンランド製のヒップ・プロテクターを配布し、装着後1週間目から4週間目までは毎週、その後は、2ヶ月目、3ヶ月目に装着状況、装着感を調べた。
結果と考察
65歳以上の高齢者において過去一年間に転倒した人の割合は、北海道勇払郡追分町では男性(n=344)19.2%、女性(n=410)21.7%、合計(n=754)20.6%、新潟県中魚沼郡中里村では男性(n=257)8.9%、女性(n=398)15.6%、合計(n=655)13.0%、静岡県浜松市広沢町では男性(n=174)19.0%、女性(n=282)22.0%、合計(n=456)20.8%、長崎県西彼杵郡大島町では男性(n=358)14.5%、女性(n=371)17.0%、合計(n=729)15.8%、沖縄県国頭郡今帰仁村では男性(n=316)11.1%、女性(n=745)13.4%、合計(n=1061)12.7%であった。過去の日本における調査では、この割合は20%弱という報告が多いが、今回の結果もそれほど大きくかけ離れたものではなかった。ただし、各地域の数値がまったく一致するわけではなく、特に新潟と沖縄の割合は低値であった。新潟の結果については、健康度の高い高齢者に偏った、数年前から実施してきた転倒予防活動の影響が出た、などの可能性があるため、他の地域と全く同等に論ずることはできない。また、今回は、性、年齢、健康状態などをコントロールした分析はおこなっていない。したがって、現時点で日本の中での地域差について言及することは難しい。しかし、これまでの調査結果などを考えても、転倒者割合に何らかの地域差がある可能性は否定できない。来年度以降、調査地域を増やし、さらにいくつかの要因についてコントロールした比較分析もおこない、地域差について検討していく予定である。転倒の発生状況については、日中、屋外、歩行中の転倒発生が多い、原因としては「つまずいた」、「滑った」などの外因が多い、骨折の割合はほぼ10%以下という、一定の傾向が認められた。これは、過去の調査結果とも共通するものであり、地域の高齢者における一般的な傾向と言えるだろう。 転倒と骨量については、過去1年間における転倒の既往と骨量の間には明らかな関連は認められなかった。また、転倒の季節、時間、履き物などの要因と骨量の間にも明らかな関連はなかった。ただし、低骨量者において、転倒理由として「自転車」と答えた者が多い傾向があるなど、低骨量者では転倒の特徴(転倒機序等)が異なる可能性が示唆され、今後の転倒予防に繋がる課題と考
えられた。
ヒップ・プロテクターについては、装着率は、1週間目では、フィンランド製で25.0%、デンマーク製で44.8%、3ヶ月目では、フィンランド製50.0%、デンマーク製56.3%と推移した。3ヶ月目の非装着群では、装着群と比較し、最高血圧、最低血圧が有意に高かった。また、ヒップ・プロテクターの快適さに対する評価が有意に低かった。しかし、それ以外の項目では有意差はなく、いずれの群でも、窮屈さ、動きやすさ、選択・保管のしやすさでの評価が低かった。この調査は現在も継続中であり、今後さらに詳しい情報が集積される予定である。
結論
北海道、新潟、静岡、長崎、沖縄の5地域における高齢者の転倒調査結果をまとめた。一年間の転倒者割合は、12.7%~20.8%であった。転倒の発生状況については、日中、屋外、歩行中の転倒発生が多い、原因としては「つまずいた」、「滑った」などの外因が多いなど、ほぼ一定の傾向が認められた。また、転倒の既往と骨量と間に明らかな関連は認められなかった。ヒップ・プロテクター装着率の計時的な変化ををみると、1週間目では、フィンランド製で25.0%、デンマーク製で44.8%、3ヶ月目では、フィンランド製50.0%、デンマーク製56.3%であった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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