文献情報
文献番号
199900157A
報告書区分
総括
研究課題名
老化とヒトアミロイドーシス:加齢依存性発症の分子機構解明(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 勝彦(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 下条文武(新潟大学)
- 内木宏延(福井医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国をはじめとした先進諸国においては急速に人口の高齢化が進み、様々な社会的課題が生じている。医学面では老年人口の増加に伴い高齢者特有の疾患に対する予防法ならびに治療法の確立が求められている。本研究は老化関連疾患の中からアミロイドーシス(アルツハイマー病、透析アミロイドーシスおよび全身性ALアミロイドーシス)に焦点を当て、その発症機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。
研究方法
アルツハイマー病(AD)アミロイドーシス、透析アミロイドーシスおよび全身性ALアミロイドーシスを対象に、これらのアミロイドーシスに共通するアミロイド線維形成の分子機構を解明するため、初年度は以下の方法により各アミロイドーシスにおけるアミロイド形成機構を検討した。(1)アミロイド原性蛋白の重合過程を試験管内で反応速度論的に評価する解析系を構築する。(2)Ab凝集開始に関わると考えられるseeding Abの産生機構を細胞内コレステロー代謝動態から検討する。また、Abの重合、アミロイド線維形成機構をAbの分子種別に反応速度論的に検討する。(3)透析アミロイド沈着軟部組織および関節周囲軟部組織よりb2-ミクログロブリン( b2-m)を精製し、その蛋白修飾を生化学的に検討するとともに、これらの蛋白修飾のアミロイド線維形成における意義を明らかにする。
結果と考察
ADアミロイドーシス
seeding Abの産生が、細胞内にあってコレステロールを多く含む特異な膜ドメイン(DIG)を構成する脂質分子(コレステロールおよびGM1ガングリオシド)の存在に依存することから、Ab前駆体蛋白(APP)のDIGにおける局在について生化学的な検討を加えた。ヒトAPP遺伝子を導入した上皮細胞(MDCK細胞)、P19細胞、およびラット大脳皮質を対象にショ糖密度勾遠心分離法等により細胞亜分画を行った。 MDCK細胞においてAPPはTriton X-100可溶性画分に回収され、Triton X-100不溶性画分における免疫反応性は極めて弱かった。一方、神経系の培養細胞であるP19細胞およびラット大脳皮質における検討では、APPの大部分はMDCK細胞同様Triton X-100可溶性画分に回収されたが、一部はTriton X-100不溶性画分に回収された。この神経系(細胞および組織)におけるTriton X-100不溶性画分APPの局在を、免疫生化学的にさらに検討することを目的にショ糖密度勾配遠心分離法によってAPPが回収される画分の特性解析を行った。その結果、この画分に回収される膜成分は従来報告されている細胞膜およびDIGとは異なる特異な脂質組成を示すことが明らかになった。以上の結果より、コレステロールないしはGM1ガングリオシドの存在下に形成される特異なAbは、DIG以外の部位においてAPPから切り出されたAbがDIGに運ばれた後、これらの脂質分子の作用により特異な構造を獲得することが示唆された。
ADアミロイド線維の試験管内形成反応におけるbペプチド1-42と1-40の相互作用の検討においては、試験管内アミロイド線維の形成反応を説明するモデルとして、核形成過程と線維伸長過程から構成される重合核依存性重合モデルを用い速度論的に解析した。その結果、 (1) 電子顕微鏡による形態観察で、Ab (1-42)型線維 (fAb (1-42))とAb (1-40)型線維 (fAb (1-40))は異なった形態を示した。(2) Ab (1-42)とAb (1-40)が共存する場合、線維形成反応では互いに抑制的に作用し、反応を遅らせた。伸長反応過程における抑制効果は顕著ではない為、核形成過程における抑制が主因と考えられる。(3) 同種の核とモノマーによる伸長反応では、タイムコースはラグタイムのない双曲線を描き、迅速に進行した。これらのタイムコースは、一次反応速度論モデル、すなわち既に存在する線維断端に、Ab蛋白がコンフォーメーションを変化させながら次々に結合することにより起こるというモデルで説明できる。(4) fAb (1-42)と自らアミロイド線維を形成できないAb (1-40)モノマーによる異種の伸長反応の場合、反応速度は同種の場合に比較して遅く、タイムコースはシグモイド曲線を描いた。この時、fAb (1-40)が形成された。(5) Ab (1-42)と自らアミロイド線維を形成できないAb (1-40)の混合溶液中では、Ab (1-42)がAb (1-40)の抑制的相互作用に打ち勝って核形成を行い、これにAb (1-40)が重合してfAb (1-40)が形成された。以上の結果より、試験管内でAb (1-42)とAb (1-40)が共存する場合、相互作用した上でアミロイド線維形成を行うことが示された。これらの反応は重合核依存性重合モデルに適合すると考えられる。また、脳内bアミロイド線維形成において、Ab (1-42)が主要な役割を果たしていることが示唆された。
透析アミロイドーシス
b2-ミクログロブリン(b2-m)の線維化したアミロイド線維(fAb2-m)におけるb2-mの蛋白修飾の検討を行う為、fAb2-m polymerization model を使ってfAb2-m extensionに対するAGEs modified b2-mの効果を調べ、以下の結果を得た。1)AGEs modified b2-mによるのfAb2-m extensionはpH2.5で最大を示した。 2) AGEs modified b2-mを用いたのfAb2-m extension time courseはnative b2-mより早くプラトーとなり、ThTの蛍光量増加も僅かであった。3)fAb2-m polymerization modelへ高濃度から低濃度までのAGEs modified b2-mを反応させたところfAb2-m extensionに対する阻害反応が認められた。これらの結果より、AGEs化はアミロイド線維形成に必須となるb2-m分子の立体構造にマイナスの変化を引きおこしたためと考えられる。すなわち、AGE化現象はアミロイド線維形成を阻止すること、したがって線維形成後に2次的に起る現象と考えられる結果を得た。
全身性ALアミロイドーシス
3例の全身性ALアミロイドーシス剖検例よりアミロイド線維(fAL)を精製し、蛍光色素チオフラビンT (ThT)を用いたアミロイド線維定量の至適条件を確立した。3種のアミロイド線維間で、ThTの至適励起・蛍光波長、及びThTとの親和性に違いが認められた。それぞれのアミロイド線維を6M尿素にて可溶化後、アミロイド線維を構成するAL蛋白を精製し、fALとAL蛋白を37℃で反応させることにより、fALの伸長を、ThT法および電子顕微鏡による形態観察によりモニターした。その結果、(1) いずれの症例においても、fALの伸長は一次反応速度論モデル、すなわち既に存在する線維断端に前駆蛋白であるAL蛋白が、コンフォーメーションを変化させながら次々に結合することにより起こるというモデルで説明できることを証明した。(2) 伸長の至適pHは2.5~3.5と著しい酸性域にあった。上記透析アミロイド線維(fAb2M)伸長の至適pHも著しい酸性域(pH 2.5)にあり、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するアミロイド前駆蛋白に共通する現象として興味深い。(3) 予備的CDスペクトル分析により、b2-mは、線維伸長の起こらないpH 7.5ではbシートから成るコンパクトなコンフォーメーションをとっているが、伸長速度が最大となるpH 2.5では比較的ランダムなコンフォーメーションをとっていることが明らかになった。このことは前駆蛋白がアミロイド線維を形成するためには、ある生体内代謝環境中でいったん生理的コンフォーメーションがほぐれることが不可欠のステップであることを示唆しており極めて興味深い。
seeding Abの産生が、細胞内にあってコレステロールを多く含む特異な膜ドメイン(DIG)を構成する脂質分子(コレステロールおよびGM1ガングリオシド)の存在に依存することから、Ab前駆体蛋白(APP)のDIGにおける局在について生化学的な検討を加えた。ヒトAPP遺伝子を導入した上皮細胞(MDCK細胞)、P19細胞、およびラット大脳皮質を対象にショ糖密度勾遠心分離法等により細胞亜分画を行った。 MDCK細胞においてAPPはTriton X-100可溶性画分に回収され、Triton X-100不溶性画分における免疫反応性は極めて弱かった。一方、神経系の培養細胞であるP19細胞およびラット大脳皮質における検討では、APPの大部分はMDCK細胞同様Triton X-100可溶性画分に回収されたが、一部はTriton X-100不溶性画分に回収された。この神経系(細胞および組織)におけるTriton X-100不溶性画分APPの局在を、免疫生化学的にさらに検討することを目的にショ糖密度勾配遠心分離法によってAPPが回収される画分の特性解析を行った。その結果、この画分に回収される膜成分は従来報告されている細胞膜およびDIGとは異なる特異な脂質組成を示すことが明らかになった。以上の結果より、コレステロールないしはGM1ガングリオシドの存在下に形成される特異なAbは、DIG以外の部位においてAPPから切り出されたAbがDIGに運ばれた後、これらの脂質分子の作用により特異な構造を獲得することが示唆された。
ADアミロイド線維の試験管内形成反応におけるbペプチド1-42と1-40の相互作用の検討においては、試験管内アミロイド線維の形成反応を説明するモデルとして、核形成過程と線維伸長過程から構成される重合核依存性重合モデルを用い速度論的に解析した。その結果、 (1) 電子顕微鏡による形態観察で、Ab (1-42)型線維 (fAb (1-42))とAb (1-40)型線維 (fAb (1-40))は異なった形態を示した。(2) Ab (1-42)とAb (1-40)が共存する場合、線維形成反応では互いに抑制的に作用し、反応を遅らせた。伸長反応過程における抑制効果は顕著ではない為、核形成過程における抑制が主因と考えられる。(3) 同種の核とモノマーによる伸長反応では、タイムコースはラグタイムのない双曲線を描き、迅速に進行した。これらのタイムコースは、一次反応速度論モデル、すなわち既に存在する線維断端に、Ab蛋白がコンフォーメーションを変化させながら次々に結合することにより起こるというモデルで説明できる。(4) fAb (1-42)と自らアミロイド線維を形成できないAb (1-40)モノマーによる異種の伸長反応の場合、反応速度は同種の場合に比較して遅く、タイムコースはシグモイド曲線を描いた。この時、fAb (1-40)が形成された。(5) Ab (1-42)と自らアミロイド線維を形成できないAb (1-40)の混合溶液中では、Ab (1-42)がAb (1-40)の抑制的相互作用に打ち勝って核形成を行い、これにAb (1-40)が重合してfAb (1-40)が形成された。以上の結果より、試験管内でAb (1-42)とAb (1-40)が共存する場合、相互作用した上でアミロイド線維形成を行うことが示された。これらの反応は重合核依存性重合モデルに適合すると考えられる。また、脳内bアミロイド線維形成において、Ab (1-42)が主要な役割を果たしていることが示唆された。
透析アミロイドーシス
b2-ミクログロブリン(b2-m)の線維化したアミロイド線維(fAb2-m)におけるb2-mの蛋白修飾の検討を行う為、fAb2-m polymerization model を使ってfAb2-m extensionに対するAGEs modified b2-mの効果を調べ、以下の結果を得た。1)AGEs modified b2-mによるのfAb2-m extensionはpH2.5で最大を示した。 2) AGEs modified b2-mを用いたのfAb2-m extension time courseはnative b2-mより早くプラトーとなり、ThTの蛍光量増加も僅かであった。3)fAb2-m polymerization modelへ高濃度から低濃度までのAGEs modified b2-mを反応させたところfAb2-m extensionに対する阻害反応が認められた。これらの結果より、AGEs化はアミロイド線維形成に必須となるb2-m分子の立体構造にマイナスの変化を引きおこしたためと考えられる。すなわち、AGE化現象はアミロイド線維形成を阻止すること、したがって線維形成後に2次的に起る現象と考えられる結果を得た。
全身性ALアミロイドーシス
3例の全身性ALアミロイドーシス剖検例よりアミロイド線維(fAL)を精製し、蛍光色素チオフラビンT (ThT)を用いたアミロイド線維定量の至適条件を確立した。3種のアミロイド線維間で、ThTの至適励起・蛍光波長、及びThTとの親和性に違いが認められた。それぞれのアミロイド線維を6M尿素にて可溶化後、アミロイド線維を構成するAL蛋白を精製し、fALとAL蛋白を37℃で反応させることにより、fALの伸長を、ThT法および電子顕微鏡による形態観察によりモニターした。その結果、(1) いずれの症例においても、fALの伸長は一次反応速度論モデル、すなわち既に存在する線維断端に前駆蛋白であるAL蛋白が、コンフォーメーションを変化させながら次々に結合することにより起こるというモデルで説明できることを証明した。(2) 伸長の至適pHは2.5~3.5と著しい酸性域にあった。上記透析アミロイド線維(fAb2M)伸長の至適pHも著しい酸性域(pH 2.5)にあり、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するアミロイド前駆蛋白に共通する現象として興味深い。(3) 予備的CDスペクトル分析により、b2-mは、線維伸長の起こらないpH 7.5ではbシートから成るコンパクトなコンフォーメーションをとっているが、伸長速度が最大となるpH 2.5では比較的ランダムなコンフォーメーションをとっていることが明らかになった。このことは前駆蛋白がアミロイド線維を形成するためには、ある生体内代謝環境中でいったん生理的コンフォーメーションがほぐれることが不可欠のステップであることを示唆しており極めて興味深い。
結論
アミロイドーシスには、アミロイド蛋白の種類の如何に関わらず、反応速度論的過程およびアミロイド関連蛋白の関与等において共通の分子機構が存在する可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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