歯の生存率評価法及び要因改善による喪失リスク低下に関する研究

文献情報

文献番号
199900147A
報告書区分
総括
研究課題名
歯の生存率評価法及び要因改善による喪失リスク低下に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
安井 利一(明海大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎秀夫(新潟大学歯学部)
  • 尾崎哲則(日本大学歯学部)
  • 伊藤公一(日本大学歯学部)
  • 宮地建夫(鉄鋼ビル歯科診療所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成元年に提唱された8020運動は開始から10年が経過し、咀嚼機能を中心として口腔機能を保持増進しようとする運動の意義は、近年、健康への意識の高まりとともに、国民にも広く理解されるようになりQOLやADLとの関係の研究についても多くの努力がなされてきた。このように、歯あるいは口腔の機能の人間生活における意義が明らかになるにつれて、地域での老人保健法総合健診に位置付けられた歯周疾患検診あるいは独自の歯科検診が多数みられるようになってきた。しかし、その検診によって掌握できることは現症認識にとどまり、あるいは疾病治療や欠損補綴などの歯科医療行為へとつながっており、いわゆる健康増進のための自律的な行動変容を促しうるような情報提供源としては、自らの口腔保健状況の予測性という点において極めて不明確な部分のあることも否めない事実である。本研究においては、今後、我が国の国民が自らの積極的なQOL獲得活動のために、1)主として口腔内の現状から歯の喪失率を予測し、2)規格化された健康教育を受講した場合の生存延命率や、3)専門的な歯科医療が介入した場合の歯の喪失率の将来予測を行うことを目的とし実施した。
研究方法
調査は、①疫学班と②臨床班に分かれ、各自の大学、及び調査フィールドを用いて実施した。調査結果を規格化した調査用紙に転記し、本研究の調査対象とした。調査時DMF指数、CPI及びポケットの深さである。この際、CPIについては、代表歯を用いる方法によった。抜歯の原因を調査目的としていることから、調査対象とした歯は、初診時における健全歯数とう蝕歯数、さらに処置歯数である。
結果と考察
疫学班①
初診時の状況から見た場合、平均値で見た場合の喪失までの期間は、健全歯が最も長かった。続いて処置歯が、さらにう蝕歯と続いていた。一方、喪失確率を見た場合、健全歯のそれは上顎・下顎とも著しく低い。喪失までの期間と考え合わせても健全歯の抜歯にいたるまでの期間は、長いことが推察できる。さらに、う蝕歯においては、20~50%の確率で抜歯にいたることが確認できた。う蝕歯はきわめて高率に抜歯が行なわれていることが明らかとなった。CPIとの関係をみた場合、CPIのコードが高いほど、抜歯に至る確率が高く認められ、上顎の臼歯部ではコード4と判定された場合、同部に含まれる歯の約4分の1が抜歯に至っていた。また、下顎の前歯部では、コード3以上に判定された場合、4年程度で、同部に含まれる約半数の歯が抜歯にいたることが明らかとなった。8020運動を踏まえて、この結果については熟慮が必要である。
疫学班②
平均値で見た場合の喪失までの期間は、健全歯が最も長かった。続いて処置歯が、さらにう蝕歯と続いていた。一方、喪失確率を見た場合、健全歯のそれは上顎・下顎とも著しく低い。喪失までの期間と考え合わせても健全歯の抜歯にいたるまでの期間は、長いことが推察できる。さらに、う蝕歯においては、20~50%の確率で抜歯にいたることが確認できた。う蝕歯はきわめて高率に抜歯が行なわれていることが明らかとなった。CPIとの関係をみた場合、上下顎ともCPIのコードが高いほど、抜歯に至る確率が高く認められ、コードの上昇に伴い、同部からの歯の喪失率が増加していた。また、下顎においてもコードの上昇に伴い、喪失歯の増加が認められた。ただしNの問題もあり、下顎の臼歯部はコード1のとき喪失率が高かった。8020運動を踏まえて、この結果については熟慮が必要である。
臨床班①
初診時の状況から見た場合、平均値で見た場合の喪失までの期間は、健全歯が最も長かった。続いてう蝕歯と続いていた。一方、喪失確率を見た場合、健全歯のそれは上顎・下顎とも著しく低い。喪失までの期間と考え合わせても健全歯の抜歯にいたるまでの期間は、長いことが推察できる。さらに、上・下顎共に初診時のポケット深さが6mm以上のもので喪失が目立つ。同時に、健全歯とう蝕歯からの喪失は少なく、処置歯からの喪失が目立つのも事実である。ポケットが4mm以上で、かつ処置歯は要注意である。処置歯はその状態により、歯周疾患のリスクが高いといわれている。処置歯とポケットの深さは、喪失に関する要因の1つとも考えられた。
臨床班②
ポケットの深さに関しては、初診時に6mm以上のポケットを有するものは、健全歯であろうと、高率に抜歯が行われていることが明らかであった。同時に修復処置がなされているものではポケットの深行化は直接抜歯にいたるものが多かった。6mm以上のポケットを有する歯は、喪失に対する注意・メインテナンスの重要性が確認された。
臨床班③
喪失確率を見た場合、健全歯のそれは上顎・下顎とも著しく低い。喪失までの期間と考え合わせても健全歯の抜歯にいたるまでの期間は、長いことが推察できる。上・下顎共に初診時のポケット深さが6mm以上のもので喪失が目立つ。同時に、健全歯とう蝕歯からの喪失は少なく、処置歯からの喪失が目立つのも事実である。ポケットが4mm以上で、かつ処置歯は要注意である。8020運動を踏まえて、この結果については熟慮が必要である。集団の年齢が60歳代を中心としていることが、その原因の1つとも考えられる。処置歯はその状態により、歯周疾患のリスクが高いといわれている。喪失に関する要因の1つとも考えられた。
結論
全ての研究班におけるデータから、平均値で見た場合の喪失までの期間は、健全歯が最も長かった。続いて処置歯が、さらにう蝕歯と続いていた。一方、喪失確率を見た場合、健全歯のそれは上顎・下顎とも著しく低い。喪失までの期間と考え合わせても健全歯の抜歯にいたるまでの期間は、長いことが推察できる。逆に処置歯の場合、歯周病科のデータは、著しく短い2~6ヵ月と長期4年程度の2極化が認められた。さらに、う蝕歯においては、20~50%の確率で抜歯にいたることが確認できた。う蝕歯はきわめて高率に抜歯が行なわれていることが明らかとなった。う蝕に対する治療が、本集団においては十分に実施されていないと考えられた。さらに、CPIとの関係をみた場合、CPIのコードが高いほど、抜歯に至る確率が高く認められ、上顎の臼歯部ではコード4と判定された場合、同部に含まれる歯の約4分の1が抜歯に至っていた。また、下顎の前歯部では、コード3以上に判定された場合、4年程度で、同部に含まれる約半数の歯が抜歯にいたることが明らかとなった。処置歯とのクロス集計からは4~5㎜のポケットと処置歯であるものについては、喪失確率が高いので、今後、注意が必要である。

公開日・更新日

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