中枢神経細胞におけるコレステロールの果たす役割およびその代謝機構解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900139A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢神経細胞におけるコレステロールの果たす役割およびその代謝機構解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 福山隆一(京都府立医科大学)
  • 伊藤仁一(名古屋市立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国をはじめとした先進諸国においては急速に人口の高齢化が進み、様々な社会的課題が生じている。医学面では老年人口の増加に伴い高齢者特有の疾患に対する予防法ならびに治療法の確立が求められている。本研究はアポリポ蛋白E4が、老化関連疾患(アルツハイマー病、前頭側頭痴呆、レビー小体病、運動ニューロン疾患等)の危険因子であることが報告されていることから、アポリポ蛋白Eのコレステロール代謝における役割に焦点をあて、その発症機構を分子レベルで明らかにすることを目的とする。
研究方法
神経細胞培養:(道川)妊娠17-18日目のラット胎仔脳から神経細胞およびアストロサイトを得た。アイソトープラベル:細胞は[14C]acetateでラベルし、洗浄後human recombinant apoE2, E3, E4を加えた。クロロフォルム:メタノール法により脂質を抽出し、TLCで展開後BAS2000でコレステロールおよびリン脂質を定量した。さらに培地をKBrを用いた密度勾配法により10のフラクションに分離し、それぞれのフラクションに含まれるコレステロールおよびリン脂質を定量した。また各フラクションに含まれるapoE量をウエスタンブロットにより評価した。こうして得られたHDLを透析後、摂氏4度に保った培地中に添加し神経細胞の受容体に結合させた。結合した脂質はヘキサン:イソプロパノール(3:2)で抽出後TLC展開し、定量した。
(伊藤)(1)ラットアストロサイトは胎生期17日目のラット胎児脳の大脳から準備した。(2)cholesterol loadingは調整した3H-cholesteryl oleate/LDL (3H-CE/LDL)をserum非存在下でラットアストロサイトに24時間投与した。(3)脂質分析cholesterol (Cho), sphingomyelin (SM), phosphatidylcholine (PC) 合成には3H-acetateで、SM, PCの合成は14C-choline chlorideを取り込ませてそれぞれの合成を分析した。細胞のCho, SM, PC, CEの定量にはワコーのキットを用いた。培地中に分泌されるHDLの分析はsucroseにおよる密度勾配法により解析した。
(福山)(研究1)(1)CTX患者の脳脊髄液、患者および家族、近親者の血液サンプルをインフォームドコンセントを得て解析した。患者および家族の匿名性保持し、倫理上の問題に配慮した。(2)遺伝子異常の検索は、患者および近親者血液の白血球中の異CYP27mRNAをRT-PCR法により検討した。(3)脳脊髄液の全蛋白質量、コレステロールおよびコレスタノール量は臨床生化学的に測定し、リポ蛋白に含まれる蛋白質の変化は、Mn2+-ヘパリン法による沈殿物をオファレルの2次元電気泳動法により分析した。(研究2)(1)脳脊髄液、血液サンプルは、患者あるいは家族から、検査のインフォームドコンセントを得たものを用いた。(2)apoE、Ab40、Ab42、GFAPの定量はサンドイッチELISA 法によって測定した。(3)apoEのイソフォームの検討にはHixsonらの方法(J.Lipid Res. 1990)を、-491A/T多型についてはBullidoらの方法(Nature Genet. 1998)を用いた。(4)リポ蛋白分画の解析は脳脊髄液100mlを用い、Mn2+-ヘパリン法による沈殿物を2次元電気泳動法により分析した。
結果と考察
apoEの脂質代謝対する作用の検討。apoEはアストロサイトに対しても神経細胞に対してもコレステロールおよびリン脂質を培地中へ引き抜く作用を持つこと、またこのefflux作用はアイソフォーム特異的であり、その強さはapoE2>apoE3>apoE4の順であることを明らかにした。さらにapoEによるeffluxではコレステロールおよびリン脂質からなる粒子は比重1.07-1.21のHDLと同じ比重のフラクションに存在した。またapoEによりアストロサイトから搬出されたコレステロールおよびリン脂質から成るHDLは、その構成成分であるapoEの神経細胞表面のapoE受容体への結合にアイソフォーム別に差があることが明らかになった(apoE4>apoE3>apoE2)。以上から、apoEはコレステロールを含む脂質代謝を取り込みおよび搬出(efflux) 双方から制御し、その強さにはアイソフォーム特異性があることが明らかになった。
神経系細胞におけるコレステロールefflux機構の解明。ラットアストロサイトは自ら産生するapoE に依存して、主にSM, PC, Choから成り、Cho contentの高いHDLを細胞外に産生した。一方、アストロサイトは外来性apoAIに反応してCho-poor HDLを細胞外に産生すると同時に、細胞内 free Cho poolが低下してACATによるコレステロールのエステル化が減少した。また、apoAI-mediated Cho effluxはsphingomyelinase (SMase)処理により上昇した。ACAT-available Cho poolはSMase 処理後apoAI刺激により減少し。培溶液中にSMを添加すると抑制された。一方、SMase処理されたアストロサイトは処理後1時間からSM合成が促進され、細胞内あるいは細胞膜でのSM contentの上昇がapoAIによるCho搬出に強く影響を与えることが示唆された。以上から細胞膜SMが減少すると、SMによりその局在が制御されていると考えられるコレステロール分子の自由度が増加し、apoAI-mediated Cho effluxが上昇したと考えられる。Endogenous apoEに依存したCho effluxはSMase作用に影響を受けなかったことから、exogenous apoAIとは異なる機構を介していると考えられる。アストロサイトをSMaseで前処理すると、caveolae-like domeinのPC contentは影響を受けなかったが、Cho contentは著しく減少した。こうしたcaveolae-like domainにおける コレステロール分子の自由度の上昇がapoAI-mediated Cho efflux促進のdriving forceになりうることが考えられ、apoAIとのinteraction site (receptor)がこのcaveolae-like domainあるいはこの近傍に存在することが示唆された。
脳脊髄液の解析 本CTX患者のCYP27遺伝子の第7エクソンと第7イントロンのスプラスジャンクションの配列GTがATに変異していた。患者家族の遺伝子の変異に関してはヘテロ接合体(164bpと122bpの2バンドが見られた)であった。患者白血球のCYP27のmRNAはコントロール(456bp)より短い(377bp)ことが確かめられた。脳脊髄液中のコレステロールとコレスタノール量は患者のものでのみ上昇していた。また、アポリポ蛋白A-IのapoEに対する比率がCTX 患者では正常コントロールの4倍に上昇していた。
(研究2)コントロールの脳脊髄液中のAb(1-40/1-42)、apoEおよびGFAPはそれぞれ加齢によって特有の変化を示した。Ab1-40およびAb1-42は幼小児期は低く、20才頃一番高く、それ以降減少した。apoE濃度は幼小児期に一番高く、青年期に低く、中年期再び高くなり、以降減少した。GFAP濃度は大きな変化をしなかったが、加齢と供に上昇する傾向を示した。Ab1-40とAb1-42量はADとコントロール群とには有意差はなかったが、Ab1-42/Ab1-40比が上昇した(p < 0.01)。また、Ab1-40濃度はMMSEに対して正の相関を示した(p < 0.05)。apoE量はAD患者のほうが有意に高値を示した(p < 0.04)。MMSEとは特に早期発病型のほうで負の直線的相関を示した(p < 0.0001)。GFAP量はAD患者の方が高かった(P < 0.001)。MMSEと直線相関はなかったが、中-高度痴呆群(MMSE = 12±3)のほうが軽-中度痴呆群(MMSE = 21±3)より高値を示した(p < 0.05)。リポ蛋白分画分析の結果、AD患者においてもAPOE4の遺伝子頻度は約3倍ほど高かった(p < 0.03)。APOEの-491位の多型ではTTのホモ接合体頻度、-491T対立遺伝子頻度がAD群で高かった(p < 0.05、p < 0.02)。
結論
(1)apoEはアイソフォーム依存的に取り込みと搬出双方からコレステロール代謝を制御すること、(2)endogenous apoEはexogenous apoAIとは異なる機構を介してcholesterol effluxを引き起こすこと、(3)遺伝性疾患脳腱黄色腫症においてはコレステロール代謝酵素活性の喪失によるコレステロール蓄積が神経細胞死を引き起こす可能性が示唆された。

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