がん情報の体系化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900133A
報告書区分
総括
研究課題名
がん情報の体系化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山口 直人(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 水島洋(国立がんセンター研究所)
  • 新海哲(国立がんセンター中央病院)
  • 小山博史(国立がんセンター中央病院)
  • 大橋靖雄(東京大学医学部)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター調査部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
65,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国のがん患者の治療成績は着実に改善されつつあるが、臨床試験を中心にした臨床研究によって、より効果的な治療法が確立されたことが大きく寄与している。一方、がんセンター等の高度がん専門診療施設と一般医療機関とでは5年生存率に違いが認められることも指摘されており、臨床研究、疫学研究による実態把握によって、この格差の是正を進めることも緊急の課題である。すなわち、最新かつ最善の標準的治療法を臨床試験という客観的手法で確立すると同時に、その迅速な普及を図り、全国どの医療機関でも同等の標準的治療法が受けられる環境を作ることが、がん患者の治療成績の向上にとって重要と考えられる。本研究班では、安全かつ質の高い多施設共同がん臨床試験を推進するために、臨床試験データセンター機能を情報システム面から支援する具体的方法を検討し、臨床データ管理システムを設計・開発する。さらに、内外の臨床研究の結果を始め、各種のがんに関する情報をがん情報サービスとして全国に普及する。特に、治療法や検査法等については3次元空間上に表示するなど、最新のコンピュータ技術を駆使した効果的な情報提供を目指す。また、詳細ながん患者データを収集して「全国がん患者データベース」を構築し、がん診療の実態把握と問題点の解明を目指す臨床研究・疫学研究を推進する。
研究方法
研究者主導の臨床研究グループが実施する多施設共同臨床試験の中央データセンター機能の運営を担当して、データ管理業務のあり方を詳細に分析し、その業務を支援するデータ管理システムの設計・開発を行う。また、第I相臨床試験にための逐次型用量設定方式であるベイズ流Continual Reassessment Method (CRM)法に基づく方法論を開発し、それを基礎にした情報システムを開発する。「国立がんセンターがん情報サービス」の事務局機能の運営を通じて、がん情報サービスにおいて提供すべきがん情報の体系化を進める。国民、がん患者などへの情報提供を行う「一般向けがん情報」、医療従事者の意思決定を支援する「医療従事者向けがん情報」、さらにがん専門の医療従事者を対象とした「最新がん研究情報」について、その編集と体系化を進める。また、利用者の要望に的確に応える仕組みとして、質問と回答(Q&A)方式による情報提供も充実させて行く。情報提供システムとしては、ファックス、パソコン通信、インターネット、音声による情報提供を実現する。インターネットのめざましい普及を考慮して、インターネットによる情報提供を重視したシステム開発を進める。がん診療に関連する医療画像情報については、特に治療手技や検査手技を医療従事者、患者等に現実感のある3次元画像として視覚的に提示することを目的として、仮想臓器をポリゴンファイル、Virtual Reality Modeling Language (VRML)で作成して、医師、患者等に仮想体験を提供する具体的方法の検討を行う。また、医療従事者同士の情報交換のためのテレビカンファレンスでの講演内容を、ビデオサーバを利用してインターネット上でセ放映するシステムの構築を進める。各医療施設でのがん患者の日常診療と治療経過に関する情報を標準化された形式で収集、整理して、「全国がん患者データベース(Japan Cancer Database: JCDB)」を構築し、臨床研究・疫学研究のための基盤整備を目指す。第1段階として、各医療施設で行われている院内がん登録における共通目標の整理とそのために必要なデータ項目の標準化を進める。第2段階として、各診療
グループが構築・管理する診療情報データベースを施設全体の患者データベースの中で位置づけるためのシステム化を検討する。また、既に実施されている地域がん登録等との連携を保ちつつ、地域レベルでのがん患者データベースの構築も検討する。さらに、地域がん登録による全国がん罹患率推計値や人口動態死亡統計などのがん関連統計情報のデータベース化を進め、その解析によって派生情報の生成とデータベース化も行ってゆく。(倫理面への配慮)本研究では、個人情報保護への配慮を第一に考え、データベース構築にあたっては、個人情報を切り離して匿名化する等の措置を施すと同時に、隔離されたコンピュータでの厳重な管理を行う等、万全を期す。また、臨床試験では安全性と倫理性をシステム面から担保することを最重点課題として位置づけている。情報サービスによる情報提供では、審査機構を整備して、内容の妥当性を十分に検討し、誤った情報提供による医療過誤等を防止する措置を取っている。
結果と考察
多施設共同がん臨床試験の臨床データ管理システムが備えるべき要件を検討し、それに基づいて新しいシステムの設計・開発を行った。106の臨床試験に参加した約12,000名の患者を新システムに登録して運用を開始した。国立がんセンターがん情報サービスでは、平成11年度までに「一般向けがん情報」の各種がんの解説で70のがん種について情報提供を開始した。また、看護・支持療法としては、副作用、リハビリテーション、緩和療法に関する情報提供を21テーマについて開始した。「医療従事者向けがん情報」としては、平成11年度までに「各種がんの解説」として6種類のがんについて情報提供を開始した。情報提供システムとしては、インターネット利用が毎月約20万件と最も多いことを考慮して、提供情報の一元管理、情報検索システムの研究開発を行った。がんの3次元形状データベースを構築すると同時に、それをインターネット上で提供する仕組みとして「仮想病院(Virtual Cancer Hospital)」を構築した。全国がん患者データベースの基礎となる院内がん登録、診療グループの診療情報データベースの検討の結果を基に、これらの問題点を解決する方法としては施設内のがん患者を網羅している院内がん登録データベースとのリンケージをとり、自動的に院内がん登録の患者データを取得して、登録漏れを防ぐ仕組みの検討を行った。今年度は、胃がん外科グループの診療情報データベースを対象として、実際に院内がん登録データベースとのレコードリンケージを実施して、その可能性と問題点を検討した結果、院内がん登録のデータを用いて生死確認を自動更新できることが確認できた。今後、各臓器に関して、診療科を越えた統合データベースを構築して行く予定である。がん死亡データベースに関しては、1975年から1995年までの21年間についてデータベース化を完了し、各種の解析に応用できるシステムを整備した。がん死亡者の個別データから、性・年齢・暦年・市区町村・死因別の集計データをメタデータベースとして整備した。また、同期間の人口データもデータベース化して整備した。今後は整備したデータベースに基づき、がん死亡の経年変化や地理疫学的な解析を簡便に行えるシステムを構築して行く予定である。また、インターネット上で市区町村別のがん死亡データの詳細を情報提供するための基本データとしての活用も検討して行く。地域がん登録データベースを中心として、地域単位でがん患者データベースを構築する試みを大阪府において行った。本年度は、病歴室・医事課などで患者情報を一括登録するシステムとして、「がん患者登録システム」を開発した。このシステムに基づいて、1000件以上の届出が大阪府がん登録室に提出された。部位別協同データベースに関しては、在阪の消化管がん主要診療22施設・グループに呼びかけ、OCDB消化管部会を発足した。胃および大腸がんについて、全国臓器がん登録の収集項目に対応し、両部位ともに同じ操作で用いることのできるソフトを開発した。
結論
がん診療における治療成績の向上に、がん情報を効果的に活用することを目的と
して、がん情報の体系化に関する研究を行った。具体的には、がん臨床試験の安全性と科学性を保証するための臨床データ管理システムの構築、がん情報サービスによる情報提供の体系化、マルチメディア情報提供システムの開発、全国がん患者データベースの構築に取り組んだ。臨床試験の臨床データ管理システムでは参加施設とデータセンターの連携を効率的に行うシステムを開発して、約12,000名の患者のデータ移行を完了し、データ管理の信頼性向上を実現できた。がん情報サービスによる提供情報を充実させることができ、利用者の情報ニーズに十分に応えつつあることが明らかとなった。マルチメディア情報サービスの開発では、3次元形状データの提供を実現できた。全国がん患者データベースの構築では、院内がん登録と診療グループの診療情報データベースを連携させる方法を検討し、両者の統合がデータベースの品質向上にとって重要であることを明らかにした。

公開日・更新日

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