発がん・進展とがん免疫機構の解析に基づいた新しい分子診断法の開発と臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
199900129A
報告書区分
総括
研究課題名
発がん・進展とがん免疫機構の解析に基づいた新しい分子診断法の開発と臨床応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
杉下 匡(佐々木研究所附属杏雲堂病院婦人科 副院長)
研究分担者(所属機関)
  • 坂本 優(佐々木研究所附属杏雲堂病院婦人科 副部長)
  • 藤本 次良(岐阜大学医学部産婦人科 講師)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学内科第1講座 教授)
  • 加藤 紘(山口大学医学部産婦人科 教授)
  • 和気 徳夫(九州大学生体防御医学研究所 教授)
  • 伊東 恭悟(久留米大学医学部免疫学 教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)子宮頸癌検診は細胞形態に基づく細胞診によりほぼ確立しているが、依然として偽陰性症例が問題となっている。また細胞診や組織診では異形成や進行癌の予後の正確な推定が困難であり、それらを解決する新しい指標を用いた診断法の開発が必須である。我々は、遺伝子、蛋白質等の分子指標を用いた新しい診断法の開発を目的とする。子宮頸部発癌・浸潤・転移に関与する遺伝学的変化をCGH、FISHにより明らかにし、細胞形態との相関を検討し、遺伝子変化を細胞診にフィードバックする。またテロメラーゼ活性が、癌化・進展の有用な分子診断指標となる可能性を検討する。末梢血中のSCCA2mRNAを指標とした低侵襲な扁平上皮癌診断法を開発する。さらにSCCA2プロモーター制御因子を検索し、扁平上皮細胞の悪性変化機構の解明を試みる。以上は予後推定可能な細胞診断システム確立、検診精度向上、より低侵襲な診断法確立を可能にし、受診率向上、初期癌発見、ハイリスク症例鑑別に有効であり検診費・医療費削減につながると考える。
2)子宮体癌では、高頻度に欠失がみられる第18染色体長腕上のDCC、DPC4両遺伝子、およびサイクリンGの発癌における関与機構を解析し、体癌発生の分子機構解明や遺伝子診断、遺伝子治療への応用を目指す。また臨床検体のCGH分析により、発癌進展や組織学的分化度に関わる遺伝学的変化を明らかにし、分子診断の新たな指標発見を目指す。
3)卵巣癌では、問題となっている抗癌剤耐性に関わる遺伝子群を検索し耐性獲得機構の解明を試み、耐性克服手段開発を目指す。
4)婦人科癌の増殖・進展に関わる血管新生の特徴を解明し、血管新生抑制による制癌法開発を試みる。血管新生抑制による初期癌浸潤制圧や転移巣増殖制圧を図ることで、過剰な手術侵襲や化療の重篤な副作用を回避できると考える。
5)予後不良である婦人科領域扁平上皮癌を対象として、癌ワクチン標的分子を開発し、癌特異的免疫療法の開発を目指す。標的分子開発は、局所浸潤Tリンパ球の大量培養、または自家癌にて末梢Tリンパ球を刺激しHLA拘束性癌特異的CTL株を作製し、その認識する癌退縮抗原遺伝子を単離し行う。よって癌細胞で発現し宿主CTLにより認識される癌退縮抗原遺伝子の同定は不可欠な研究である。
研究方法
1)子宮頚部発癌・進展過程の解析:子宮頚部癌化過程の各段階の細胞株、臨床材料につき症例数を増やしCGH分析を行い、転移を有する症例も含め検討した。高頻度に異常を検出した染色体領域20q13.2に存在する癌遺伝子ZNF217に着目し、その発現を定量的RT-PCRにより測定、臨床的意義を検討した。またin situ TRAP assayを用いテロメラーゼ陽性細胞を同定し、発癌・進展におけるテロメラーゼ活性化と細胞形態変化との相関を個々の細胞において検討し、F-TRAP法高感度化も検討した。さらにSCCA2プロモーター領域を含む5'側上流配列につき、レポーターアッセイ系を構築し制御因子同定を試み、またSCC抗原を指標とした、末梢血中扁平上皮癌細胞のasymmetric semi-nested PCRによる定量的検出を検討した。
2)子宮体癌の分子診断法の開発:子宮体癌60例につき18q上の様々なSTSマーカーを用いLOH解析を行い18q21.3領域につき詳細な欠失地図を作成、共通欠失領域がDCC、DPC4の何れを標的とするか解析した。さらに両遺伝子の発現変化の有無、および残存アリルの塩基置換につき解析し、また発癌におけるp53依存性サイクリンGの役割につき検討した。さらに臨床検体につきCGH分析を行い、体癌の発癌・進展に関わる遺伝学的変化を検索し、既知の遺伝学的・臨床病理学的因子(年齢、臨床進行期、組織学的分化度、ER・PRの発現、Replication ErrorやPTEN遺伝子変異の有無など)との相関を検討した。
3)卵巣癌抗癌剤耐性機構の解明:卵巣癌CDDP感受性細胞株とそれより誘導した耐性株(p53変異-、mdr1発現-)を用い、cDNAマイクロアレイにより遺伝子発現を比較し、耐性獲得関連遺伝子群を検索した。
4)婦人科癌における血管新生とその阻害:腫瘍の進展に関わる各種血管新生因子(VEGF, PD-ECGF, bFGF等)の発現と予後との相関を検討し、さらに血管新生阻害の可能性をもつ薬剤につき阻害能を調べた。
5)婦人科癌退縮遺伝子の同定・機能解析・発現:SART-1、2、3、4各抗原の婦人科癌、とくに子宮頸癌における発現をWestern Blot法で解析し、それらに由来するペプチドのHLA-クラスI 拘束性癌特異的CTL誘導能を調べ、さらに上記以外の新たな癌拒絶抗原の同定も行った。
結果と考察
1)杉下・坂本は、CGH解析により子宮頚癌の細胞形態と相関するCNAを同定した。さらに浸潤・進展関連CNAの一つである20q13.2染色体領域に存在するZNF217遺伝子につき、浸潤癌で高頻度な増幅と発現増加を認め、頚癌進展への関与の可能性を示した。大屋敷らはTRAP法において、レジンカラムを用いたDNA濃縮による微量検体からのテロメラーゼ活性検出を可能にし、検出感度向上による癌診断の確実性を高めた。加藤らはSCC抗原(SCCA2)遺伝子プロモーター領域に存在するE-boxに注目し、SCCA発現細胞にc-mycおよびmax遺伝子を導入しSCCA遺伝子発現への影響を調べたが、効果は認められなかった。また臨床症例につき、SCCA1、SCCA2を検出指標とした末梢血中扁平上皮癌細胞のasymmetric semi-nested RT-PCRによる定量的検出を検討し、1mg RNAあたり470コピーをカットオフ値とし、感度・特異度とも80%で癌症例を識別できた。さらに患者組織のホルマリン固定標本から、連続して異形成、上皮内癌、浸潤癌を示す領域の各部分の細胞をmicrodissectionで採取し、各々につきCGH解析を行った結果、CINIIで1p+(2/6)、1q+(2/6)、3q+(3/6)、CINIIIで3q+(5/8)、11q-(3/8)、6q-(2/8)等のCNAを検出した。
2)和気らは子宮体癌で高率に認められる18qLOHおよび残存アリルプロモーター変異を解析し、DPC4遺伝子不活化の体癌発生への関与を示した。またDCC遺伝子の発癌への関与を明らかにするため、DCC強制発現子宮体癌細胞を樹立したところ、DCC発現に伴い造腫瘍性の顕著な抑制、さらに高発現細胞でのアポトーシス誘導を認め、同遺伝子がリガンド非存在下でのアポトーシス誘導により癌抑制する可能性を示した。また、細胞のDOX処理によるp53、p21およびサイクリンG蛋白発現誘導とG2/M期集積、NaB処理によるp53、p21発現誘導とG1期集積、さらにDOX処理下でサイクリンGに対するアンチセンスオリゴDNA投与によるG2/M期集積解除とG1期集積を認め、さらにサイクリンG高発現細胞でBax蛋白の高発現誘導とプロアポトーシスシグナルによるアポトーシス誘導を認めたことから、サイクリンGが細胞のG2/M期集積およびアポトーシス誘導能をもつことを示した。
3)坂本は、卵巣癌CDDP感受性細胞より誘導した耐性株において、アポトーシス抑制関連遺伝子やDNA修復関連遺伝子等の発現増大を認めた。
4)藤本らは、子宮頚癌の転移リンパ節おいてPD-ECGFの発現と血管新生能および予後と高相関を認め、PD-ECGF高発現を示す症例では5FU前駆体が奏効すると推察した。また体癌においては、プロゲスチンに代わる血管新生抑制薬剤をスクリーニングし、gensenoside Rb2の血管内皮細胞の基底膜崩壊能抑制、dienogest、toremifene、ICI182,780の血管内皮細胞の増殖能および管腔形成能抑制を認めた。
5)伊東らは、SART4として同定した拒絶抗原が非レセプター型チロシンキナーゼSrcファミリーのlckと同一であることを明らかにした。さらにlck 抗原ペプチドの転移性癌での強発現を認め、さらに転移性癌患者末梢血からのHLA-A24 拘束性CTL誘導能を認めたことから、同ペプチドの転移性癌に対するワクチンとしての可能性を示した。
結論
1)CGH解析で判明したCNAの20q13.2染色体領域に存在するZNF217遺伝子が、子宮頚部浸潤癌で高頻度な増幅と発現増加を示し、癌進展への関与の可能性が示唆された。
2)DNAのレジンカラム濃縮によるTRAP法改良により、テロメラーゼ活性検出の極微量検体への応用が可能となった。、
3)SCCA2遺伝子上流-432~+47領域にプロモーター活性を認め、Ets、myc等の転写制御因子認識配列を認めた。また患者末梢血を用いたSCC抗原を指標とする中扁平上皮癌診断法を検討し、約80%の感度・特異度で癌症例を識別した。
4)体癌の18qLOH標的遺伝子がDPC4とDCC遺伝子であることを見出した。体癌細胞にDCCを強制発現させたところ造腫瘍性抑制さらにアポトーシスが誘導された。
5)卵巣癌CDDP耐性株でアポトーシス抑制関連遺伝子やDNA修復関連遺伝子等の発現増加を認めた。
6)頚癌転移巣でのPD-ECGFの発現は血管新生能や予後と相関した。
7)癌拒絶抗原SART4即ちlck抗原ペプチドが転移性癌で強発現し、転移性癌患者末梢血よりHLA-A24拘束性CTLを誘導し得たことから、転移性癌に対するワクチンとなる可能性が示唆された。

公開日・更新日

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