ヒトがんの予防に役立つ物質に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900126A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトがんの予防に役立つ物質に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
藤木 博太(埼玉県立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菅沼雅美(埼玉県立がんセンター研究所)
  • 末岡榮三朗(埼玉県立がんセンター研究所)
  • 中地敬(埼玉県立がんセンター研究所)
  • 松山悟(埼玉県立がんセンター研究所)
  • 岡部幸子(埼玉県立がんセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)内因性発がんプロモーターTNF-alphaの研究:TNF-alphaはBALB/3T3細胞の形質転換を促進したが、マウス皮膚にTNF-alphaを塗布し、TNF-alphaの発がんプロモーション活性を証明することはしなかった。そこで、TNF-alpha欠損マウスを用い、発がんプロモーターの塗布がTNF-alphaの発現を誘導しないことを確かめた上で、DMBA+オカダ酸、DMBA+TPAで発がん二段階実験を行い、発がんプロモーションにTNF-alphaが本質的に関与していることを証明する研究を行った。一方、がん予防物質の検索を発がんプロモーション活性の抑制に代わり、もっと簡便な細胞の系で予測できる方法の開発を目的とした。(2)緑茶とがん予防薬との相乗効果:緑茶のEGCGとがん予防薬とを併用すると、細胞からのTNF-alphaの遊離抑制及び細胞のアポトーシスが相乗的に亢進することを見出していた。今回、Minマウスを用い、大腸発がんの抑制が細胞の場合と同様に相乗的効果を示すか検討することを目的とした。(3)緑茶の飲用によるがん予防:日本人はがん予防効果がある緑茶を飲用している。人によって飲用量は異なる。11年目のがん罹患者について、新しいデータを検討することを目的とした。尚、緑茶ポリフェノールは細胞のTNF-alphaの発現を抑制するから、広く老年病、生活習慣病を抑制すると考えられる。コホート研究の結果を心臓循環器疾患の予防の面から検討を進めた。(4)hnRNP B1を指標としたがん予防の研究:がん予防の研究にとって重要なのはがん予防のターゲット臓器における新しい生理学的代理指標の開発である。私共は、肺扁平上皮がん細胞の早期にhnRNP B1蛋白質が高く発現することを発見した。本年度は、肺がん、口腔がん、食道がんについてhnRNP B1の有用性を検討することを目的とした。(5)ヒトがんの予防に役立つ物質の検索は重要である。ヒトが既に摂取或いは、服用している飲物の中から、TNF-alpha遊離抑制の系でがん予防物質を検索することを目的とした。この研究は民間薬の発展に役立つと考えた。
研究方法
(1)がん化学予防物質の研究:発がんプロモーションにTNF-alphaが直接関与していることを証明するために、TNF-alpha欠損マウス(TNF-/- 129/Svj)等、3系統を使用した。BALB/3T3細胞からのTNF-alphaの遊離抑制を64個の化合物につき測定し、遊離を抑制したもの、抑制しなかったもの、亢進したものについて分類した。(2)緑茶とがん予防薬との相乗効果:6週令のMin (C57BL6/JMin+)マウス雄に、0.1%緑茶抽出物投与、sulindac投与、緑茶抽出物+sulindac投与、及び未処理のコントロールの4群に分け、10週間観察した結果、相乗効果を認めた。緑茶のEGCGとtamoxifenとの併用によるTNF-alpha遊離抑制は相加効果として認められた。(3)緑茶の飲用によるがん予防:11年間の追跡調査の結果、488例のがん罹患者が見出された。心臓循環器疾患による死亡は274例であった。これらのデータを基に緑茶の飲用との関係を検討した。(4)hnRNP B1を指標としたがん予防の研究:抗-hnRNP B1抗体を用い、43例の肺がん、43例の潜在微小肺扁平上皮がん、11例の気管支異形成、肺がん患者の喀痰、更には、口腔がん、口腔白板症、食道がん等の組織について、hnRNP B1蛋白質の発現を免疫組織染色法にて解析した。がん予防効果を判定するマーカーとして重要である。(5)カバ及び、メグスリの木のがん予防物質:フィジーより入手したガバから、合計5個のカバラクトンを得た。TNF-alpha遊離抑制をELISA法で測定した。メグスリの木
の葉の抽出物を凍結乾燥し、TNF-alphaの遊離抑制を検討した。
結果と考察
(1)がん化学予防物質の研究: DMBA+オカダ酸の発がんプロモーション活性は、20週まで腫瘍発生頻度(%)と平均腫瘍個数を調べた。先ず、TNF-alpha欠損マウス(TNF-/-)は19週まで腫瘍を生じず、20週で10匹中1匹に小さい腫瘍が一個生じた。一方、TNF+/+129/Svjマウスは11週で最初の腫瘍発生を認めた。結局TNF-alpha欠損マウスはオカダ酸の発がんプロモーション活性に対し抵抗性を示した。DMBA+TPAの発がん二段階実験における100%腫瘍発生頻度は、CD-1では11週で、TNF-alpha欠損マウスは20週であり、9週間の遅延を認めた。まとめると、TNF-alpha欠損マウスに於いてオカダ酸は著明な抵抗性を、一方、TPAは弱い抵抗性を示した。TNF-alpha欠損マウスの場合、IL-1alphaとIL-1bがTNF-alphaと同様に内因性発がんプロモーターとして作用すると考えられた。64個の化合物についてBALB/3T3細胞からのTNF-alpha遊離抑制を検討した。約80%の化合物(15/19)は、TNF-alphaの遊離抑制と発がんプロモーションの抑制が一致した。BALB/3T3細胞を用いたTNF-alphaの遊離抑制は、がん予防薬を検索する簡便な方法であり、マウス皮膚の発がん二段階実験に代わりうることを示した。(2)緑茶とがん予防薬との相乗効果:APC遺伝子に異変をもつ6週令のMin(C57BL6/JMin+)マウスに、緑茶抽出物、sulindac、緑茶抽出物+sulindacを投与し、10週後腫瘍の発生を測定した。緑茶抽出物単独群、sulindac単独群に比較し、緑茶抽出物とsulindacの併用群では腫瘍平均個数が32.0個(44.3%)と有意な減少を示した。EGCGとがん予防薬tamoxifenの併用効果については、PC-9細胞のアポトーシスの誘導で検討した。全体として、両者はむしろ相加効果となることが見出された。(3)緑茶の飲用によるがん予防:11年間の追跡調査の結果、男女共で488例のがん罹患者が見出された。緑茶によるがん予防効果は、肺がんに於いて、最も強く認められ、1日10杯以上の緑茶飲用者群の相対危険度は0.33であった。緑茶を多く飲用する群と少なく飲用する群について比較すると、約4.4才の寿命の延長を見出すことができた。(4)hnRNP B1を指標としたがん予防の研究:hnRNP B1蛋白質の高発現は、肺扁平上皮がんの全例で、とくに、臨床病期I期の段階から認められた。肺扁平上皮がんの早期診断への有用性が高いと考える。更に、口腔扁平上皮がん口腔白板症に於いても全例に高発現を認めた。食道の扁平上皮がんについても検討した結果、低分化の食道がんでは、hnRNP B1は高発現していないことを見出した。(5)カバ及び、メグスリの木のがん予防物質:昨年分離した2個のカバラクトンに続いて、3個の新しいカバラクトンを分離した。これら5個の化合物について、構造解析を行うと既知のものであった。BALB/3T3細胞からのTNF-alpha遊離抑制の活性をIC50(mM)の濃度で比較すると、Kava-3が最も強力な活性を示した。メグスリの木の葉から得られた凍結乾燥の粉末についてそれぞれTNF-alphaの遊離抑制を検討した結果ゲラニインが見出された。ゲラニインは元来、生薬であるゲンノショウコより分離されたタンニンである。
結論
ヒトがんの予防に役立つ物質として、緑茶、カバラクトン及びメグスリの木から分離されたゲラニインについて研究を行った。緑茶についての研究はコホート研究の結果も含むことができ、緑茶の飲用とがん予防が直接結びついてきた。例えば、1日10杯の緑茶ポリフェノールの摂取によるがん予防を始めている。更に、がん予防の結果を有効にするには、早期診断マーカーの開発が望まれる。特に肺がんの早期診断マーカーとしてhnRNP B1蛋白質の高発現を見出した。

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