文献情報
文献番号
199900125A
報告書区分
総括
研究課題名
生活環境中の発がん物質のリスク評価と低減化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
福原 守雄(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
- 後藤純雄(国立公衆衛生院)
- 長谷川修司(千葉市環境保健研究)
- 田井中秀嗣(大阪府立公衆衛生研究所)
- 佐々木謙(仙台市衛生研究所)
- 横山新吉(仙台市衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日常生活環境における化学物質の種類及びその量は、生活様式の変遷に伴い年々変化している。これに伴って、化学物質の摂取経路の変化や、新規発がん物質の問題も登場してきている。日常生活下でヒトが曝露している発がん物質の影響を正確に把握することは、多種類の発がん物質の存在とイニシエーションから発がんまでの間に長い年月を必要とすることなどから困難なことが多いが、人がん発生に対して生活環境中の発がん物質が深く関与していることは多くの研究から推測されている。しかし、環境中のどのような物質の発がんリスクが高いかなどについては、殆んど解明されていない現状にある。そこで本研究では、生活環境下のリスクの高い発がん物質を明らかにすると共に、その発生源等を追求し、当該物質の低減化など対策の基礎資料を作成することを目的とした。本研究では、これまで空気、食品、水などからトリハロメタン等の発がん性物質の摂取量を調査し、空気からの摂取量が他の媒体に較べて大幅に多いことを認めてきた。これらの研究成果から、本研究班では環境空気中の高い発がん物質を研究対象とすることとし、本研究3年目にあたる今年度は、前年度の室内空気汚染実態調査から高いリスクが示唆された1,3-ブタジエンを主として取り上げその汚染実態、発生源および変異原性を中心に検討した。
研究方法
1,3-ブタジエンの汚染実態調査には、一般家庭およびゴム及びプラスチック取扱い工場においての室内および屋外空気を用いた。即ち、仙台市内の8家庭で、2回(10月と1月)、室内(居間)と室外の空気をキャニスターで毎分3mLで24時間捕集した。一方、ゴム及びプラスチックを取り扱う大阪府下の21事業所(ゴム10社、プラスチック11社、各事業所工場内の作業者は1~15人)においては工場および室外の空気を活性炭を充填した捕集管を用いて採取した。この捕集には、携帯用ポンプを用い、採取は流速250mL/minで10分間とした。活性炭に吸着された1,3-ブタジエンは、加熱脱着装置を用いて捕集管から脱着し、直接GC/MSに導入してSIM法で分離定量した。1,3-ブタジエンの発生源の調査は、反射型石油ストーブを燃焼させ経時的に室内空気を捕集することにより実施した。ストーブ前面と約3m離れた地点にキャにスターを置き、室内空気を短時間で捕集し、GC/MS-SIM分析に供した。1,3-ブタジエンは常温ではガス状で存在するため、所定濃度に希釈した標準ガスをテドラーバックに導入し、プレート曝露法により変異原性を測定した。また、p-ジクロロベンゼンについて、そのDNA付加体生成能を32Pポストラベリング法を用いて調べた。室内スチレン発生源調査については千葉市内で高いスチレンの室内空気濃度を示した家庭(築5年、5階建て集合住宅)について、室内各所(床、畳、天井、壁、その他)から放散する化学物質を材料表面放散量捕集装置を用いて分析試料を捕集した。
結果と考察
(1)1,3-ブタジエンの汚染実態及び発生源調査結および変異原性測定結果
1,3-ブタジエンはIARCにおいて2Aに分類される化学物質であり、ヒトに対する発がんの可能性が指摘されている。1,3-ブタジエンは主にSBR(スチレン-ブタジエンゴム)やNBR(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)やナイロン66等のプラスチックの原料として広く使用されている。そこで、まず1,3-ブタジエンの発生源を究明することを目的として、一般家庭室内空気の調査に加えて、高濃度の1,3-ブタジエン汚染が予想されるゴムやプラスチック製品の製造工場における室内空気中濃度を調査した。その結果、いずれの事業所においても1,3-ブタジエンの工場内濃度はその工場周辺屋外濃度に比較して高く、発生源は工場内にあり作業の過程で発生していることが認められた。しかし、それらの濃度は、昨年度に調査した一般住居内における濃度と大差ないレベルであることも明らかとなった。したがって、1,3-ブタジエンによる住居内空気の汚染にゴムやプラスチック製品が寄与する割合は低く、他に1,3-ブタジエンの発生源が住居内に存在することが推察された。一方、今年度の一般家庭室内空気調査では、暖房機の排気方式別に調査検討を加えた。その結果、室内空気中の1、3-ブタジエン濃度は室内排気型暖房機使用の家庭で上記濃度よりも高くなる傾向を認めた。そこで、反射型石油ストーブを開いて燃焼排ガス調査を追加検討した。その結果、1,3-ブタジエン濃度は点火時に非常に高くなり、燃焼が安定するにつれ減少し、消火時にまた少し高くなった。これらのことから、反射型石油ストーブは特に点火時に高濃度の1,3-ブタジエンを発生させることが認められた。さらにトルエン、ベンゼンなどの揮発性有機化合物も同様の傾向で発生すことも認められたため、今後室内暖房器具などについて検討を要することが判った。一方、1,3-ブタジエンは、サルモネラ菌TA1535株にS9mix添加条件下で変異原性が認められたことから、当該物質が少なくともイニシエーターとして発がんに関与する可能性が高く、今後発がんと曝露量等との関連についても検討を要すると思われる。
(2)p-ジクロロベンゼンのDNA付加体測定結果
p-ジクロロベンゼンはヒトの疫学的研究では発がん性を示す報告はないが、動物実験では2年間吸入曝露した実験でマウスの300ppm曝露群で肝臓がんの発生率の有意な増加が報告されている。防虫剤として大量に使用されているp-ジクロロベンゼンの安全性が問題になっているが、昨年度のAmes法やumuテストでは変異原性が認められなかった。そこで、今年度はDNA付加体の生成試験を実施した。しかし、p-ジクロロベンゼンによるDNA付加体の生成は、in vivo 及びin vitro における両実験で確認できなかった。今回の実験は、1日という短期的な影響を見たものであったため、人の健康に対して完全に影響がないと言うことは出来ないが発がんへの影響は1,3-ブタジエンよりは低いものと考えられた。しかし、長期的な曝露影響については更に検討する必要がある。
(3)室内スチレン発生源調査結果
調査した家庭の床、畳(表、裏、畳シート)、天井からスチレンが12~59 μg/m2h1の速度で放散していることが明らかになった。これらの建材として発泡スチロール系の断熱材を用いていることが明らかとなったため、ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポロスチレンフォームその他の断熱材から放散するスチレン等の化学物質放散量を測定した。その結果、スチレンのほかクロロメタン、臭化メチル、エチルベンゼン及びキシレン等の放散量が高いことが認められ、また、建材全銘柄のポリスチレンフォーム、からスチレンの放散が確認された。ある銘柄のビーズ法ポリスチレンフォームからはスチレンが49~84μg/m2h1の速度で放散することを認めた。スチレン等を室内で高濃度で放散したフローリング、畳、畳シート、天井に共通することは、いずれの建材も断熱材を伴っていることであった。現在、断熱材としては、発泡プラスチック保温材、ロックウール保温材、グラスウール保温材等が一般に使用されているが、これらの中でスチレンを放散する可能性が高い保温材は、原材料に有機化合物を使用している発泡プラスチック保温材であった。実際に発泡プラスチック保温材等4銘柄を30℃の恒温槽に入れ、放散するスチレン等の化学物質を材料表面放散寮捕集装置で測定した結果、高濃度スチレンの放散が確認された。スチレンは反復してあるいは長期にわたり吸入すると喘息を起こすことがあり、ヒトで発がん性を示す可能性があるなど、人体にとって有害な物質である。また、ダイマー及びトライマーは環境ホルモンとしても注目されており、今回のように屋内濃度が高いことなどから、今後、十分な対策を要する物質であることが判った。
1,3-ブタジエンはIARCにおいて2Aに分類される化学物質であり、ヒトに対する発がんの可能性が指摘されている。1,3-ブタジエンは主にSBR(スチレン-ブタジエンゴム)やNBR(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)やナイロン66等のプラスチックの原料として広く使用されている。そこで、まず1,3-ブタジエンの発生源を究明することを目的として、一般家庭室内空気の調査に加えて、高濃度の1,3-ブタジエン汚染が予想されるゴムやプラスチック製品の製造工場における室内空気中濃度を調査した。その結果、いずれの事業所においても1,3-ブタジエンの工場内濃度はその工場周辺屋外濃度に比較して高く、発生源は工場内にあり作業の過程で発生していることが認められた。しかし、それらの濃度は、昨年度に調査した一般住居内における濃度と大差ないレベルであることも明らかとなった。したがって、1,3-ブタジエンによる住居内空気の汚染にゴムやプラスチック製品が寄与する割合は低く、他に1,3-ブタジエンの発生源が住居内に存在することが推察された。一方、今年度の一般家庭室内空気調査では、暖房機の排気方式別に調査検討を加えた。その結果、室内空気中の1、3-ブタジエン濃度は室内排気型暖房機使用の家庭で上記濃度よりも高くなる傾向を認めた。そこで、反射型石油ストーブを開いて燃焼排ガス調査を追加検討した。その結果、1,3-ブタジエン濃度は点火時に非常に高くなり、燃焼が安定するにつれ減少し、消火時にまた少し高くなった。これらのことから、反射型石油ストーブは特に点火時に高濃度の1,3-ブタジエンを発生させることが認められた。さらにトルエン、ベンゼンなどの揮発性有機化合物も同様の傾向で発生すことも認められたため、今後室内暖房器具などについて検討を要することが判った。一方、1,3-ブタジエンは、サルモネラ菌TA1535株にS9mix添加条件下で変異原性が認められたことから、当該物質が少なくともイニシエーターとして発がんに関与する可能性が高く、今後発がんと曝露量等との関連についても検討を要すると思われる。
(2)p-ジクロロベンゼンのDNA付加体測定結果
p-ジクロロベンゼンはヒトの疫学的研究では発がん性を示す報告はないが、動物実験では2年間吸入曝露した実験でマウスの300ppm曝露群で肝臓がんの発生率の有意な増加が報告されている。防虫剤として大量に使用されているp-ジクロロベンゼンの安全性が問題になっているが、昨年度のAmes法やumuテストでは変異原性が認められなかった。そこで、今年度はDNA付加体の生成試験を実施した。しかし、p-ジクロロベンゼンによるDNA付加体の生成は、in vivo 及びin vitro における両実験で確認できなかった。今回の実験は、1日という短期的な影響を見たものであったため、人の健康に対して完全に影響がないと言うことは出来ないが発がんへの影響は1,3-ブタジエンよりは低いものと考えられた。しかし、長期的な曝露影響については更に検討する必要がある。
(3)室内スチレン発生源調査結果
調査した家庭の床、畳(表、裏、畳シート)、天井からスチレンが12~59 μg/m2h1の速度で放散していることが明らかになった。これらの建材として発泡スチロール系の断熱材を用いていることが明らかとなったため、ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポロスチレンフォームその他の断熱材から放散するスチレン等の化学物質放散量を測定した。その結果、スチレンのほかクロロメタン、臭化メチル、エチルベンゼン及びキシレン等の放散量が高いことが認められ、また、建材全銘柄のポリスチレンフォーム、からスチレンの放散が確認された。ある銘柄のビーズ法ポリスチレンフォームからはスチレンが49~84μg/m2h1の速度で放散することを認めた。スチレン等を室内で高濃度で放散したフローリング、畳、畳シート、天井に共通することは、いずれの建材も断熱材を伴っていることであった。現在、断熱材としては、発泡プラスチック保温材、ロックウール保温材、グラスウール保温材等が一般に使用されているが、これらの中でスチレンを放散する可能性が高い保温材は、原材料に有機化合物を使用している発泡プラスチック保温材であった。実際に発泡プラスチック保温材等4銘柄を30℃の恒温槽に入れ、放散するスチレン等の化学物質を材料表面放散寮捕集装置で測定した結果、高濃度スチレンの放散が確認された。スチレンは反復してあるいは長期にわたり吸入すると喘息を起こすことがあり、ヒトで発がん性を示す可能性があるなど、人体にとって有害な物質である。また、ダイマー及びトライマーは環境ホルモンとしても注目されており、今回のように屋内濃度が高いことなどから、今後、十分な対策を要する物質であることが判った。
結論
本年度は1,3-ブタジエンを主として取り上げ、その汚染実態調査、発生源調査および変異源性測定等を行った。その結果、一般家庭内の1,3-ブタジエンの過剰発がんリスクはクロロホルム、ベンゼン、p-ジクロロゼンゼンのそれよりも高いこと、一般室内の発生源は、ゴム及びプラスチック等に含まれるものよりも、石油ストーブ燃焼ガスに含まれている1,3-ブタジエンの可能性が高いことなどを認めた。また、バクテリアを用いたガス曝露試験において代謝活性化条件下で1,3-ブタジエンの変異原性が認められた。一方、室内空気中のスチレンの発生源についても検討を加えた。その結果、材料表面放散量捕集装置を用いたスチレンの発生源調査から、発泡スチロール系断熱材からの放散量が高いことを認めた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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