院内がん登録の標準化とがん予防面での活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900124A
報告書区分
総括
研究課題名
院内がん登録の標準化とがん予防面での活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
津熊 秀明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 味木和喜子(大阪府立成人病センター)
  • 井上真奈美(愛知県がんセンター)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、1)がん専門診療施設でがん予防研究にも対応できる院内登録のモデルを構築すること、2)院内登録資料を活用してがん予防分野の研究を具体的に推進すること、3)前がん性病変を有する患者の登録と追跡を行い、発がんリスクの計量・修飾要因の解明に努めること、を主要課題として研究を進めてきた。本年度は、その最終年にあたり、1)全がん協加盟施設における院内がん登録の実態を踏まえ、今後どうあるべきかに関しての考えを示すこととし、登録対象者、登録項目とその分類方法、予後調査の方法と生存率解析対象について標準案を示すとともに、本方式を推進するためのPCソフトを開発した。2)がん予防面での活用に関する研究では、多重がんのリスク評価と要因分析を総合的に進め、成果を取りまとめた。また、緑茶飲用による乳がん再発予防効果を、病院疫学情報データベースと院内登録資料とに基づくコホート研究により追試した。3)発がん高危険群の登録とリスク評価の分野では、インターフェロンによるC型慢性肝炎からの肝発がん予防効果の検証を踏まえ、対策を展開するのに必須となる「インフォームドコンセント用小冊子」に研究成果を盛り込んだ。C型肝炎ウイルスによる肝がん多発地域で発がん予防のモデル事業へと発展している。
研究方法
1.がん専門診療施設では、各診療科で独自のデータベースを構築している場合が多い。従って、施設としては、各診療科と連携を保ちつつ、診療情報管理の一環として院内登録を整備し、基礎的な診療情報を登録し、予後調査を定期的に実施していくことが効率的である。また、院内登録が、地域がん登録や全がん協で実施している生存率協同調査等への窓口になっていくべきである。本研究では、こうした点を勘案し、がん専門診療施設における院内登録のあり方、登録対象者、登録項目とその分類方法、予後調査の方法と生存率解析対象について標準案を示した。
2.1970-93年に大阪府立成人病センターで診断した大阪府在住の15-79歳の約2万7千人を調査対象とし、大阪府がん登録との照合などによる2次がん把握結果に基づき解析した。95年12月末を締め切り日とし、2次がんリスクの評価を総合的に行った。第1がんの主要部位、診断からの期間別に2次がん罹患の期待値に対する実測値の比(O/E比)、及び第1がん診断から10年間の2次がん罹患累積リスクを算出した。さらに、第1がんの主要部位毎に、2次がんの部位別O/E比、また、第1がんの診断時年齢、性、さらには喫煙習慣や、1次がんに対して実施された補助療法の有無別に、2次がんO/E比を計算した。
3.愛知がんセンターで浸潤性乳がんと診断され、外科治療を受けた1160人を対象として、緑茶の飲用と乳がん再発リスクとの関連を分析した。愛知がんセンターでは1988年より18歳以上の全新来患者を対象にライフスタイルに関する自記式質問調査を実施している。この疫学情報データベースと院内登録、さらに乳腺外科データベースとのリンクによるコホート解析を実施した。
4.昨年度に成績を取りまとめ、報告したインターフェロンによるC型肝炎患者における肝発がん予防効果に関する研究、及び、病院外来受診中のC型慢性肝炎患者とC型肝炎ウイルス陽性献血者の追跡調査、さらにはC型肝炎ウイルスの遺伝子型と肝発がんリスクに関する症例対照研究等の結果に基づき、インフォームドコンセント用小冊子を作成した。
結果と考察
1.がん専門診療施設では、取り扱ったがん患者の診断・治療に関する全体像を継続的に示すとともに、その成果を生存率として取りまとめ、公表してゆく責務がある。しかし、そうした役割を果たしている施設は一部に過ぎず、また、必ずしも標準化がはかられてこなかったため、成績を相互に比較する場合にも齟齬を来たしていた。本研究では、登録対象者、登録項目とその分類方法、予後調査の方法と生存率解析対象について、研究班の考え方を示し、標準化に向けての一助とした。また本方式を推進するためのPCソフトを開発した。
2.第1がんの主要部位別観察では、口腔・咽頭、肝、肺、喉頭など、概して喫煙関連部位でO/E比が高くなった。第1がんの主要部位毎に、2次がんの部位別O/E比、また、第1がんの診断時年齢、性、さらには喫煙習慣や、1次がんに対して実施された補助療法の有無別に、2次がんO/E比を計算した。胃がんについては、食道、結腸、直腸に2次がんを発生しやすく、また、男性より女性、喫煙者で、2次がんリスクが高くなった。補助療法の有無による違いはなかった。
3.緑茶飲用1日0-2杯の者を基準に、3-5杯、6杯以上での乳がん再発リスクを、交絡の可能性のある要因(初来院時の年齢、来院季節、乳がん家族歴の有無、肥満度BMI、初経年齢、初産年齢、出産回数、閉経状況、果物・豆腐摂取、および、コーヒー摂取)を調整しつつ比較した。有意差はなかったが、緑茶飲用量の増加に伴い再発リスクの低下傾向を認めた。乳がんのステージ別に1日0-2杯の者を基準に、3杯以上での再発リスクを比較した。ステージが早いものほどリスクの低下が顕著で、ステージⅠで有意差を認めた。乳がん患者における予後と緑茶飲用との関連については、1998年の中地らの報告で、早期進行度の場合に再発予防効果のある可能性が報告されているが、本研究はこの可能性をさらに強く支持する結果である。
4.種々の条件下(ウイルスの血清型、量、血清トランスアミナーゼ値、性、インターフェロン治療の有無)でインターフェロンに対する効果の見込みと今後10年の内に肝がんに罹患する確率を計算し、臨床判断樹としてまとめた。血清型1型では低ウイルス量の場合、2型ではウイルス量にかかわりなく、インターフェロン治療の効果が大きいと判断された。
結論
1)全がん協加盟施設における院内がん登録の実態を踏まえ、がん専門診療施設における院内がん登録の標準案を示した。併せて本方式を推進するためのPCソフトを開発した。
2)多重がんのリスク評価と要因分析を総合的に進め、成果を取りまとめた。3)緑茶飲用による乳がん再発予防効果を、病院疫学情報データベースと院内登録資料とに基づくコホート研究により追試した。4)インターフェロンによる肝がん予防効果の検証を踏まえ、対策を展開するのに必須となる「インフォームドコンセント用小冊子」に研究成果を盛り込んだ。これを活用しC型肝炎ウイルスによる肝がん多発地域で発がん予防のモデル事業を開始した。

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