文献情報
文献番号
199900123A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルスを標的とした発がん予防に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立国際医療センター研究所 所長)
研究分担者(所属機関)
- 吉倉 廣(国立国際医療センター研究所 所長)
- 宮村達男(国立感染症研究所)
- 井廻道夫(自治医科大学付属大宮医療センター)
- 神田忠仁(国立感染症研究所)
- 田島和雄(愛知県がんセンター研究所)
- 十字猛夫(日本赤十字中央血液センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
46,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ウイルスが原因となるヒトのがんは少なくない。特に子宮がんや肝臓がんは先進国、途上国何れに於いても大きな問題である。ウイルスによるがんの予防は感染防御と感染治療により、確実に行える事が特徴であり、本研究班はヒトがんウイルスの感染予防・治療の研究を行う事を目的とした。子宮がんの原因であるヒトパピローマウイルス、現在肝臓がんの主要原因であるC型肝炎ウイルスについて特に重点的に研究を行った。同時に、日赤の輸血感染データを基にHTLV-1、B型及びC型肝炎ウイルス、がん誘発の素地となるHIV等の血液感染の動向のモニターを行った。又、HTLV-1の母子感染予防の為の介入試験をおこなった。
研究方法
子宮がんの原因であるヒトパピローマウイルスについては、神田班員が担当した。感染性偽ウイルス粒子を作成し、これを抗原としたワクチン開発、或いは感染阻止抗体の検出法の開発を行った。肝臓がんの原因であるC型肝炎ウイルス(HCV)については、HCVの複製に関する研究を宮村、吉倉が担当し、本年度は宮村はウイルス粒子形成に関わるウイルス蛋白とゲノムRNAの相互作用の研究、吉倉は培養系の開発を担当した。HCVのCTL誘導を目指すワクチン開発は井廻が担当した。輸血のモニタリングによるヒトがんウイルスの疫学は日本赤十字社の十字班員が担当した。
結果と考察
人口45,000人のATLが好発する対馬のHTLV-I感染者の追跡調査から新たに感染する住民は少なく、全体に感染率は著しい低下傾向を示すことが明らかになった。 HTLV-I感染者からATLの年間発病危険度は40歳以上の男で0.14%、女で0.08%となり、80歳までの生涯発病率は男4.7%、女2.8%となった。第二にATLの将来的予防を図るHTLV-Iの母児感染防止のため、人工乳と短期授乳による予防試験を実施した。その結果、短期授乳(6ヶ月間未満)で人工乳に匹敵する感染率低下が見られた。これは完全断乳が困難な開発途上国には朗報である。一方、妊婦のHTLV-I保有率が十年間で著しく低下(10%→3%)してきており、将来母子感染の予防的介入が不要となることを提示している。1997年1月1日~1999年12月31日までの3年間に中央血液センターに報告された輸血との関連性のある症例のうち、医療機関からの副作用報告で、HBV158例、HCVが111例の計 269例中、献血者の保管検体を用いたPCR検査で陽性となったのは、HBV20例、HCV3例の計23例であつた。また、血漿分画原料プ-ル前の500プ-ルNATでは、HBV23例、HCV8例、HIV1例の計32例が確認された。新規献血者を対象とした調査から、若年層で、HBVとHCVの感染が顕著に減少していることが分かった。HepG2細胞に組換えバキュロウイルスを用いてコア蛋白を発現させておき、その細胞にin vitroで合成したHCV 遺伝子の種々の領域のセンスあるいはアンチセンスに対応するRNA をトランスフェクトした。細胞を溶解後、抗コア抗体を用いてコア蛋白とRNAの複合体を免疫沈降により回収し、その複合体から共沈した RNAを検出した。HCVのコア蛋白を組換えバキュロウイルスを用いてHepG2 細胞に発現させ、この細胞にHCVの5' UTRあるいは EMCV の5' UTRを持ったリポーターRNAをトランスフェクトして、コア蛋白の発現が ゲノム RNA の翻訳に及ぼす影響を調べた。また 精製したコア蛋白と合成オリゴヌクレオチドとの結合を Biosensorを用いてin vitroで解析した。この結果、コア蛋白がHCV RNA の5' 非翻訳領域および構造蛋白をコードする領域に特異的に
作用し、ウイルス RNA の翻訳を特異的に抑制することが明らかとなった。血液細胞系を用いたHCV産生系の開発を行った。結果(1)RNAトランスフェクションにより効率のよいHCV増殖系は得られない、(2)細胞継代よりもウイルス(培養液)継代の方がウイルスの持続が良好である、(3)RNAサンプルをDNase処理しないと、HCVをコードするプラスミドDNAが染色体に組み込まれた細胞が得られ結論を誤る場合がある、等が分かった。ウイルス感染細胞の一部には蛋白の発現が著しく良いものがあり、電子顕微鏡の観察でも細胞が壊れる位ウイルス産生のよいもののある事が分かっている。細胞継代よりもウイルス継代の方がウイルス増殖には良い事も考えると、HCV感染細胞では何らかのネガテイブフィードバックがかかっている可能性が示唆された。HCVコア、E1、E2/NS1、NS2、NS3、NS4、NS5蛋白をそれぞれ感染細胞に発現する遺伝子組換ワクシニアウイルスを作製した。9例のC型肝炎患者の末梢血単核球をEBウイルスでトランスフォームし、CTLの標的細胞とするための各患者自己のB細胞株(BCL)を作製した。末梢血単核球を抗CD3抗体で刺激し、インターロイキン2存在下で2~3週間培養後、細胞のHCV蛋白を発現する遺伝子組換ワクシニアウイルス感染自己BCLに対する細胞障害活性を51Crリリース試験で検討した.細胞数に限りがあるため,標的細胞はコア蛋白を発現するBCL、E1とE2/NS1蛋白を発現するBCL、NS2とNS3蛋白を発現するBCL、NS4とNS5蛋白を発現するBCLの4群に分けて細胞障害試験を行った。その結果HCV特異的CTLの認識する抗原エピトープはHCV蛋白全体に分布していること,末梢血単核球の0.01~0.1%がHCV特異的CTLであることがわかった。HCV感染に対するDNAワクチンの開発のため平成9年度はHCV特異的CTLの活性化を促進するヘルパーT細胞の抗原エピトープを明らかにした。HPVは培養細胞で増殖しないため抗原の調製が難しく、また抗体による感染防御をモニターできないことがワクチン開発を困難にしてきた。今回、感染性偽ウイルスを試験管内で作る方法を開発し、抗体によるHPV感染の阻害を測定する実験系を作った。この系を使用し、マウスをHPVキャプシド抗原で免疫し得られた抗血清の感染中和活性を調べた処、精製L1キャプシドを免疫した場合も、L1遺伝子発現プラスミドを直接皮内接種(DNAワクチン)した場合もHPVの型特異的に感染中和抗体が誘導されることが示された。また、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域に結合する抗体はHPV11型の感染をも阻害出来ることが分かり、複数の型のHPVの感染性を中和し得る可能性のある事が分かった。HTLV-1の母子感染が、短期授乳(6ヶ月間未満)で完全断乳に匹敵する感染予防効果が得られた。これは断乳の困難な開発途上国で活用さるべき知見である。輸血後副作用調査及びルックバックからHIV、HBV、HCVのウインドウ・ピリオドによる感染が確認され、その防止対策にminipoolNATが実施され、輸血用血液の安全性が強化された。C型肝炎患者において末梢血単核球の0.01~0.1%をHCV特異的CTLが占め、同一患者においても異なった抗原エピトープを認識する複数のHCV特異的CTLが存在することが判明したことにより,HCV特異的CTLが認識する抗原エピトープおよびそのHLA拘束性を多数決定できる可能性が示された。この成果はHCVの排除を目的としたCTLを誘導するワクチン開発の基礎となるものと考えられる。WHOの推定では、世界の女性のがんの11%(45万人)にHPV感染が関わっているとされ、感染予防ワクチンの開発が求められている。抗L1抗体がHPVの型に特異的に感染中和活性を持つこと、抗L2抗体には複数の型を中和できるものがある事が判明し、感染性偽HPVウイルスの作成方法を含め、今後のHPV感染予防ワクチンの開発に直接繋がる。
作用し、ウイルス RNA の翻訳を特異的に抑制することが明らかとなった。血液細胞系を用いたHCV産生系の開発を行った。結果(1)RNAトランスフェクションにより効率のよいHCV増殖系は得られない、(2)細胞継代よりもウイルス(培養液)継代の方がウイルスの持続が良好である、(3)RNAサンプルをDNase処理しないと、HCVをコードするプラスミドDNAが染色体に組み込まれた細胞が得られ結論を誤る場合がある、等が分かった。ウイルス感染細胞の一部には蛋白の発現が著しく良いものがあり、電子顕微鏡の観察でも細胞が壊れる位ウイルス産生のよいもののある事が分かっている。細胞継代よりもウイルス継代の方がウイルス増殖には良い事も考えると、HCV感染細胞では何らかのネガテイブフィードバックがかかっている可能性が示唆された。HCVコア、E1、E2/NS1、NS2、NS3、NS4、NS5蛋白をそれぞれ感染細胞に発現する遺伝子組換ワクシニアウイルスを作製した。9例のC型肝炎患者の末梢血単核球をEBウイルスでトランスフォームし、CTLの標的細胞とするための各患者自己のB細胞株(BCL)を作製した。末梢血単核球を抗CD3抗体で刺激し、インターロイキン2存在下で2~3週間培養後、細胞のHCV蛋白を発現する遺伝子組換ワクシニアウイルス感染自己BCLに対する細胞障害活性を51Crリリース試験で検討した.細胞数に限りがあるため,標的細胞はコア蛋白を発現するBCL、E1とE2/NS1蛋白を発現するBCL、NS2とNS3蛋白を発現するBCL、NS4とNS5蛋白を発現するBCLの4群に分けて細胞障害試験を行った。その結果HCV特異的CTLの認識する抗原エピトープはHCV蛋白全体に分布していること,末梢血単核球の0.01~0.1%がHCV特異的CTLであることがわかった。HCV感染に対するDNAワクチンの開発のため平成9年度はHCV特異的CTLの活性化を促進するヘルパーT細胞の抗原エピトープを明らかにした。HPVは培養細胞で増殖しないため抗原の調製が難しく、また抗体による感染防御をモニターできないことがワクチン開発を困難にしてきた。今回、感染性偽ウイルスを試験管内で作る方法を開発し、抗体によるHPV感染の阻害を測定する実験系を作った。この系を使用し、マウスをHPVキャプシド抗原で免疫し得られた抗血清の感染中和活性を調べた処、精製L1キャプシドを免疫した場合も、L1遺伝子発現プラスミドを直接皮内接種(DNAワクチン)した場合もHPVの型特異的に感染中和抗体が誘導されることが示された。また、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120領域に結合する抗体はHPV11型の感染をも阻害出来ることが分かり、複数の型のHPVの感染性を中和し得る可能性のある事が分かった。HTLV-1の母子感染が、短期授乳(6ヶ月間未満)で完全断乳に匹敵する感染予防効果が得られた。これは断乳の困難な開発途上国で活用さるべき知見である。輸血後副作用調査及びルックバックからHIV、HBV、HCVのウインドウ・ピリオドによる感染が確認され、その防止対策にminipoolNATが実施され、輸血用血液の安全性が強化された。C型肝炎患者において末梢血単核球の0.01~0.1%をHCV特異的CTLが占め、同一患者においても異なった抗原エピトープを認識する複数のHCV特異的CTLが存在することが判明したことにより,HCV特異的CTLが認識する抗原エピトープおよびそのHLA拘束性を多数決定できる可能性が示された。この成果はHCVの排除を目的としたCTLを誘導するワクチン開発の基礎となるものと考えられる。WHOの推定では、世界の女性のがんの11%(45万人)にHPV感染が関わっているとされ、感染予防ワクチンの開発が求められている。抗L1抗体がHPVの型に特異的に感染中和活性を持つこと、抗L2抗体には複数の型を中和できるものがある事が判明し、感染性偽HPVウイルスの作成方法を含め、今後のHPV感染予防ワクチンの開発に直接繋がる。
結論
HTLV-I感染者の長期追跡調査により、HTLV-I感染者の生涯発病率は男4.7%、女2.8%となった。HTLV-Iの母児感染防止のための短期授乳(6ヶ月間未満)で完全断乳に匹敵する感染予防効果が得られる事がわかった。C型肝炎ウイルス(HCV)コア蛋白とHCV RNA の相互作用を in vivo および in vitro で解析し、コア蛋白が HCV RNA の5'
非翻訳領域および構造蛋白をコードする領域に特異的に作用し、ウイルス RNA の翻訳を特異的に抑制することを明らかにした。HCVの感染性RNAをヒト血液由来細胞にトランスフェクトし、ウイルス産生細胞を得る場合、ウイルス増殖を持続させるには、細胞継代よりもウイルス継代の方が良いことが分かった。HCV特異的細胞障害性T細胞(CTL)の検討によりHCV特異的CTLは末梢血単核球の0.01~0.1%を占め、同一患者においても異なった抗原エピトープを認識する複数のHCV特異的CTLが存在することが判明した。HPVの感染を予防するワクチンの開発をめざし、HPV6、16型を中心にL1、L2キャプシド蛋白質の抗原性を検討した。HPV6型L1遺伝子発現プラスミドの皮内接種によるDNAワクチンは、マウスに型特異的な中和抗体を誘導した。他方、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120の領域に結合する抗体は他のHPV型の感染も阻止した。
非翻訳領域および構造蛋白をコードする領域に特異的に作用し、ウイルス RNA の翻訳を特異的に抑制することを明らかにした。HCVの感染性RNAをヒト血液由来細胞にトランスフェクトし、ウイルス産生細胞を得る場合、ウイルス増殖を持続させるには、細胞継代よりもウイルス継代の方が良いことが分かった。HCV特異的細胞障害性T細胞(CTL)の検討によりHCV特異的CTLは末梢血単核球の0.01~0.1%を占め、同一患者においても異なった抗原エピトープを認識する複数のHCV特異的CTLが存在することが判明した。HPVの感染を予防するワクチンの開発をめざし、HPV6、16型を中心にL1、L2キャプシド蛋白質の抗原性を検討した。HPV6型L1遺伝子発現プラスミドの皮内接種によるDNAワクチンは、マウスに型特異的な中和抗体を誘導した。他方、HPV16型L2蛋白質のアミノ酸108-120の領域に結合する抗体は他のHPV型の感染も阻止した。
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