発がんの抑制に関する実験的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900121A
報告書区分
総括
研究課題名
発がんの抑制に関する実験的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
津田 洋幸(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 白井智之(名古屋市立大学医学部)
  • 小西陽一(奈良県立医科大学)
  • 若林啓二(国立がんセンター研究所)
  • 田中卓二(金沢医科大学)
  • 西野補翼(京都府立医科大学)
  • 渡辺昌(東京農業大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
48,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、食品成分として既に使用されている医薬品よりがん予防物質をラット及びマウスを用いた実験系で見出し、臨床試験の実施に直結した情報を得ることにある。大腸等で発がん抑制効果が顕著であったウシラクトフェリン(bLF)の作用機序、リコぺンとクルクミンのラット前立腺発がんモデルでの抑制作用、肺がん発生に対する炎症の制御と発がん抑制、COX-2選択的阻害剤の大腸と乳腺発がん予防、ウンシュウミカンに含まれるフラボノイドとカロテノイドの大腸発がん抑制、新しいフラボノイドのルテオリンの抗発がんプロモーション作用、イソフラボンに富む大豆蛋白質とにんにくの併用による乳腺発がん抑制効果について検討した。
研究方法
bLFの発がん抑制機序について、サイトカインの産生と細胞傷害に関与するCD4+細胞、CD8+細胞およびasialoGM1+細胞の誘導を調べた。サイトカインの測定はBALB/c雄マウスを用い、bLFと対照物質の鉄輸送蛋白質ウシトランスフェリン(bTF)300mg/kgを1回胃内投与後経時的に屠殺し、血液と腸粘膜(上皮~粘膜下層)を採取した。IL-18とIFNγの測定には、ELISAキットを用いた。サイトカインとTリンパ球の測定には、bLF(300mg/kg/day)を3日間胃内投与後24時間の腸組織のCD4、CD8、asialoGM1の免疫染色を行い、小腸と大腸の粘膜固有層およびリンパ組織における陽性細胞数(10視野/ラット、5匹)を算出した。(津田)
前立腺発がん抑制物質については、6週令F344雄ラットにPhIPを100 mg/kgにて週2回計20回(10週間)胃内投与し、その後、50週間45ppmリコペンまたは500ppmクルクミンを単独に、または両者を混餌投与し60週で終了した。(白井。
肺発がんに対する慢性炎症の関与については、5週齢Wistar系雄ラットに、2000ppmのN-nitrosobis(2-hydroxypropyl)amine (BHP)を12週間飲水投与後、実験1:第1群は基礎食、第2群はマクロライド抗生物質のclarithromycin (CAM)(0.02%)、第3群はCOX-2選択的阻害etodolac(0.015%)、第4群はCAM+etodolacとし、混餌投与した。実験2:第1群は基礎食、第2群は0.04%ampiciline(ABPC)、第3群は0.03%PBN、第4群は0.04%ABPCとラジカル捕捉剤0.03%phenyl N-tert-butyl nitron(PBN)(飲水)の併用群とした(各群15-20匹)。20週で終了し、肺病変を検索した。(小西)
COX-2選択的阻害剤ニメスリドの乳発がん抑制の実験では、7週齢雌SDラットにAIN-76A高脂肪飼料下にてPhIP(85mg/kg)を週4回、2週間胃内投与後、400ppmニメスリド(4-nitro-2-phenoxymethanesulphonanilide)を混餌し24週間投与した。対照群はPhIPのみとした。(若林)
カロテノイドやフラボノイドを豊富に含有する食品の大腸発がん抑制作用を検討した。実験1ではウンシュウミカン果汁粉末CHRP(100g中β-クリプトキサンチン0.67g、ヘスペリジン3.58g)、実験2では両物質高濃度含有蜜柑ジュースで第1群のMJ5群(100g中β-クリプトキサンチン3.9mg、ヘスペリジン100 mg)、MJ2群(β-クリプトキサンチン1.7mg、ヘスペリジン84mg)、MJ群(通常のウンシュウミカン果汁、β-クリプトキサンチン0.8mg、ヘスペリジン79mg)とした。方法は、実験1:5週齢雄F344ラット32匹を使用し、第1群(10匹):大腸発がん物質AOM(20mg/kg、皮下、 週1回、計2回)+0.05%CHRP(AOMの1週前より4週間混餌投与、その後基礎食)。第2群(10匹):AOMのみ。第3群(6匹):0.05%CHRP4週間混餌投与その後基礎食。第4群(6匹):基礎食のみ。実験開始後、4、11週で終了しACFを測定した。これとは別に、CHRP(0、40、200ないし400mg/kg)を5日間胃内投与し、最終投与30分後に屠殺し、肝、大腸の第2相薬物代謝酵素のGST、quinone reductase(QR)活性を測定した。実験2:ラット113匹を使用し、第1群:AOM(20 mg/kgを週1回、計2回、皮下)→MJ5(AOMの最終投与1週後より、36週間、飲水として1日12時間投与)、AOM→MJ2、AOM→MJ(以上各20匹)とした。第2群:AOMのみ(29匹)。第3群:MJ5のみ(12匹)。第4群:基礎食(12匹)とし、38週で終了した。(田中)
シソ等に含まれるフラボノイドのルテオリンの皮膚抗発がんプロモーション作用効果には、7週令の雌ICRマウスの背部にイニシエーターとして7,12-dimethylbenz[a]anthracene(DMBA), 100mgを塗布し、1週後からプロモーターとして12-o-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)、1.6nMを週2回、20週塗布し、ルテオリンは80nM(TPAに対するモル比=1:50)を各TPA処置1時間前に塗布した。(西野)
大豆蛋白質とにんにくの併用による乳腺発がん抑制効果については、5週令のSD雌ラットにAIN-76高脂肪食+PhIP(85mg/kg X 8回、胃内投与)処置し、その後AIN-76基礎食に10%大豆胚軸、10%大豆胚軸+にんにく抽出物を加え飼育した。30週目に屠殺し、組織学的検索を行った。(渡邊)
結果と考察
bLF投与後6時間における小腸粘膜内IL-18濃度は、無処置対照群の2.5倍)P<0.05)、対照のbTF投与では無処置群の1.5倍であった。血清中IL-18濃度は、bLF群で無処置群の4 倍に有意に増加した。免疫染色の結果、bLF投与後の小腸上皮細胞内に高濃度のIL-18のmRNA発現と蛋白の増加を確認した。IFNγの小腸粘膜内量は無処置群の約2倍に増加したが、bTFでは逆に減少した。血清中IFNγ量もbLFで著しく増加した。小腸および大腸粘膜内CD4+、CD8+およびasialoGM1+細胞数は、bLFにより有意に増加したが(無処置対照群の各々4.8、2.5、8.6倍)、bTFでは変化しなかった。大腸リンパ組織においてもCD8+細胞は約7倍に増加した。したがって、bLFの作用機序として、腸管上皮におけるIL18の産生と、腸管上皮組織内での殺細胞活性およびそれに関与するCD4+細胞、CD8+細胞およびasialoGM1+細胞の誘導、さらにこれらの細胞からのIFNγの産生が局所の大腸に最も強く遠隔臓器の発がん抑制をもたらした考えられた。(津田)
前立腺発がんの実験では、PhIP(15匹)のみで、腹葉前立腺の異型過形成と腺がんの発生率と(発生個数/ラット)はそれぞれ33%(1.2±1.9)、 40%( 2.0±3.5)に対し、リコペン(19匹)37% (1.9±4.5)、37% (1.3±2.1); クルクミン(15匹)53% (1.6±1.9)、40% (1.3±2.3); 両者混合群62% (2.9±4.3)、 62% (2.0±1.9)であり、対照群と差はなかった。その他背側葉、前葉、精嚢でも差は認められなかった。したがって、本実験条件下ではリコペンとクルクミンはいずれもラット発がんに抑制的に作用しないことが示された。(白井)
肺発がんにおける慢性炎症の関与については、実験1で肺がんの個数/ラットは対照群の第1群1.3±1.3に対し、第2群は0.5±0.5、第3群は0.6±0.9、第4群は0.3±0.5個と有意に減少した。肺胞上皮過形成巣のPCNA標識率は第1群に比較して第2、3、4群で有意に減少した。実験2における肺がんの頻度は、第1群の73.3%に対し、第4群は25.0%と有意に減少し、腺がんの個数/ラットは第1群の0.9±0.8に対し第4群では0.3±0.5と有意に減少した。肺胞上皮過形成巣のPCNA標識率は第1群に比較して第4群で有意に減少した。以上から、抗生物質、COX-2阻害剤あるいはラジカル捕捉剤が腫瘍の発生を抑制したことは、炎症によって前がん病変の細胞増殖が亢進された結果、発がんが促進されたと考えられた。炎症の制御による肺発がん予防の可能性が示唆された。(小西)
COX-2選択的阻害剤ニメスリドの乳がん発生抑制実験では、乳腺invasive ductalcarcinomaの発生率は対照群で71%(30/42)、ニメスリド投与群で51%(19/37)、個数/ラットはそれぞれ2.6±0.5、1.2±0.2であり有意に減少した。COX-2選択的阻害剤ニメスリドが乳がんの予防薬として有用であることが示された。ニメスリドは消化管障害が少ないことから臨床応用が期待出来る。(若林)
フラボノイドとカロテノイドを高含有食品の大腸発がん抑制実験では、実験1のCHRP投与実験では、4週時でのACF個数/ラットは、CHRP投与群の第1群:64±9、対照の第2群:80±3、11週時で、第1群:97±11、第2群:119±5であり、4週、11週屠殺群ともに対照群に対して、有意(P<0.05)に減少した。第3、4群にACF発生はなかった。一方、CHRP胃内投与でGST活性は肝で1.24-1.44倍、大腸で1.11-1.15倍、QR活性は肝で1.23-1.32倍、大腸で1.01-1.13倍と対照群に比べて有意(P<0.05)に増加した。実験2では、大腸がんの発生頻度と発生個数/ラットはそれぞれ、第1群のMJ5群:3/20(15%)、0.15±0.36、MJ2群:5/20(25%)、0.25±0.43、MJ群:7/20(35%)、0.40±0.58であり、対照の第2群:20/29(69%)、0.76±0.57に対して、有意(P<0.05)に減少した。第3、4群に大腸腫瘍の発生はなかった。β-クリプトキサンチンとヘスペリジンを多く含むウンシュウミカン果汁は大腸発がんを抑制することが判明した。作用には解毒酵素の誘導が関与していることが示唆された。ヒトへの応用を目指す。(田中)
フラボノイドのルテオリンの皮膚抗発がんプロモーション作用効果の検索では、皮膚腫瘍の発生は20週目において46%阻害(P<0.05)された。シソ中フラボノイドのルテオリンに発がん抑制あるいは抗プロモーター作用が見いだされた。(西野)
大豆蛋白質とにんにくの併用による乳腺発がん抑制作用の検索では、25週の時点での乳がん発生率は4群(PHIPのみ)が65.2%、5群(PHIP+2%胚軸)が40.9%、6群(PhIP+10%胚軸)が24%、 第7群(大豆胚軸+にんにく)が14.8%であった。大豆胚軸とにんにくとの併用により80%近い乳がん抑制効果が得られた。(渡邊)
結論
bLFの発がん作用機序として、経口投与されたbLFおよびbLFHは、小腸上皮細胞内にIL18を誘導し、殺細胞性T細胞やNK細胞を活性化し、IFNγの産生を亢進させ、大腸局所および他の肺、食道、膀胱等の発がん抑制効果を示したと考えられた。ラット肺発がん系において、抗生物質、COX-2阻害剤およびラジカル捕捉剤の投与により発がんが抑制され、慢性炎症の制御による肺がん予防の可能性が示唆された。β-クリプトキサンチン、ヘスペリジン高含有ジュースは肝・大腸で解毒酵素を誘導し、大腸発がんを抑制することが判明した。新たにフラボノイドのルテオリンとデルフィニジンの皮膚発がん予防効果を見いだした。イソフラボンに富む大豆胚軸あるいは大豆蛋白質は熟成にんにくと同時に投与すると、PhIPによるラット乳発がんを抑制することを明らかにした。一方、リコペンとクルクミンはラット前立腺がんの発生抑制作用は無いものと考えられた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)