発がんの高危険度群を対象とした予防研究

文献情報

文献番号
199900120A
報告書区分
総括
研究課題名
発がんの高危険度群を対象とした予防研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
垣添 忠生(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤 大三(国立がんセンター中央病院)
  • 小俣 政男(東京大学医学部)
  • 石川 秀樹(大阪府立成人病センター研究所)
  • 津金昌一郎(国立がんセンター研究所支所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
97,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんは一般に年をとるとなりやすい病気である。高齢者が経年的に急増しつつあるわが国では、がんは死因の第一位を占め、今後も増加を続けると予想されている。がん対策の中で、がん予防、あるいはがんの一次予防は、わが国においてこれまで科学的なとり組みが十分でなかった研究領域である。本研究事業の目的は、がん一次予防のための手段を開発、実践、評価することにある。がん予防には、がん予防物質の発見、同定、その作用機序の解明という主として動物や細胞を使った基礎研究、発がんの高危険度群を対象とした予防対策の実践と評価、一般の健康人を対象としたがん予防策の展開と評価の三つがあるが、本研究は、このうち、発がんの高危険度群と考えられる人たちを対象とした介入試験を中心に推進する。いる。ヘリコバクター・ピロリ感染者における慢性萎縮性胃炎の進行と胃がんの発生の関係、C型慢性活動性肝炎→肝硬変→肝がんという経時変化、また、家族性発生の場合はもちろん、散発性の場合も大腸がんの前がん病変と目されている大腸ポリープ、こうした病気を持つ人々を対象としたがん予防の研究は、対象症例数が比較的少くて、しかも予防策をこうじた後もその安全性、効果などを臨床の場で緻密に経過観察でき、結果も比較的短期間に得られる、など安全性、効果の評価ともに行いやすい。本研究事業は肝臓がん、胃がん、大腸がんなどの臓器がんを念頭におき、その高危険度群を対象にした発がん予防研究を展開する。
研究方法
研究計画=(1)胃がんの前がん病変と考えられている慢性萎縮性胃炎の発生にヘリコバクター・ピロリ感染が深く関っていることが知られてきた。ヘリコバクター・ピロリの除菌によって慢性萎縮性胃炎の進行を抑制できるか、その結果、胃がん発生を予防できるかを検証する無作為比較試験を実施する。(2)C型慢性活動性肝炎、肝硬変患者は肝がん発生の高危険度群である。全国7施設でインターフェロン療法を受けたC型慢性肝炎患者約3000例について、その後の肝がん発生の有無を追跡する。また、インターフェロン投与前後の組織像が得られた少数例については組織学的対比によるインターフェロンの効果を検討する。(3)大腸ポリープは大腸がんの前がん病変と考えられている。大腸ポリープ経験者を対象にポリープの発生を予防することによって大腸がんを予防する目的で、食事指導および食物線維、乳酸菌製剤の投与による介入試験を無作為比較対照試験として実施する。家族性大腸腺腫症患者を対象に、COX-2阻害剤であるニメスリド投与による抗腺腫効果の検討試験を行う。(4)胃がん高危険度地区における中核病院の人間ドック受診者を対象に、血清ペプシノーゲン値から慢性萎縮性胃炎と診断された人達にビタミンCの服薬による慢性萎縮性胃炎の進行を抑制することが可能かを検討することを目的とした介入試験を実施する。一般住民を対象とする胃がんの食事関連危険因子の軽減をめざした効果的な食事指導システムの開発を図る。
結果と考察
(1)ヘリコバクター・ピロリの除菌が萎縮性胃炎の進展の進展の予防、胃がん発生の予防につながるかどうかを検討することは、わが国に課せられた極めて重要な研究である。しかし、実際はインフォームド・コンセントの関係からランダマイズされること、抗生剤を内服しない群にわり当てられるのを嫌う、などの理由から対象者の登録は難航している。新たな工夫を加え、研究を完遂するべく努力したが、根本的な改善は得られなかった。そこで、700例の登録が得られたら、目標を胃がん予
防の検証から慢性萎縮性胃炎の進行の予防に切りかえ、詳細な生活歴との対比から除菌の意味を探る研究に切りかえることとした。(2)インターフェロンによる肝がん予防効果を証明するために、大規模なランダマイズド・スタディを開始することは現状では困難である。肝線維化の程度やウイルス量など因子別に分けた解析を緻密に行なった結果、インターフェロンの投与は肝がん予防に有効である、との結論を得た。(3)大腸ポリープの再発に対する小麦ふすま、乳酸菌製剤の予防効果の有無はあと1年で結果を得られる予定である(4)家族性腺腫症患者に対するニメスリドのポリープ再発予防効果検証の研究を開始したが、100mg/日、200mg/日ともポリープ予防効果は認められなかった、(5)胃がん予防に果たす食生活の重要性は論をまたない。食塩や緑黄色野菜など、既知の疫学的研究、あるいは動物実験による結果から胃がんとの関連が強く示唆されている食生活を改善するための指導プログラムを開発した。生物指標の動きと食生活の関連づけが可能であることが判明したので、指導プログラム完成を目ざす。(6)肝がん根治切除後の二次がん発生を、自己活性化リンパ球の投与は明確な予防効果を示すことを明らかにした。
結論
(1) ヘリコバクター・ピロリ感染者を二群に分け、抗生剤等による除菌が慢性萎縮性胃炎の進行を予防し、最終的には胃がん発生を予防するか否かを検証するため全国組織を作った。しかし、インフォームド・コンセントの関係から症例登録が順調でないので組織を見直し、慢性萎縮性胃炎の進行を阻止できるか否かの検証に目標を変更した。(2)C型慢性活動性肝炎症例のインターフェロンα投与による肝がん予防研究が進行中で、インターフェロン投与2514例、非投与512例が登録され、肝がん発生は各々78例(3%)、72例(14%)であった。C型慢性活動性肝炎に対してインターフェロンαを投与すれば肝がんのリスクを14%から3%程度に低減できそうである。また、肝の線維化の程度により、肝がん発生のリスクが層別されることがわかった。(3)多発性大腸ポリープ経験患者に対する食事指導を基礎として、小麦ふすま・乳酸菌製剤の投与による介入研究は、目標 400例の登録を終了し追跡に入った。あと1年で結果を得る。(4)家族性大腸腺腫症患者に対する、COX-2阻害剤であるニメスリドの化学予防剤としての投与は、薬剤の毒性は少ないものの抗腫瘍活性は弱いことが判明した。(5)胃がん高危険度群の人たちを対象に食生活指導のプログラムが有効であることが生物指標の評価により証明された。

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