浸潤・転移の分子機構に基づいた転移の予防及び新しい治療法の開発

文献情報

文献番号
199900116A
報告書区分
総括
研究課題名
浸潤・転移の分子機構に基づいた転移の予防及び新しい治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
竜田 正晴(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 明渡均(大阪府立成人病センター)
  • 向井睦子(大阪府立成人病センター)
  • 高橋克仁(大阪府立成人病センター)
  • 飯石浩康(大阪府立成人病センター)
  • 伊藤和幸(大阪府立成人病センター)
  • 亀山雅男(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では(1)浸潤を定量化したin vitro浸潤モデルと(2)ヒトにみられるような発癌から転移に至る過程を研究しうる転移動物モデルを開発した。浸潤モデルを用い、がん細胞の浸潤、転移の分子機構とシグナル伝達系の解明を行い、基礎研究により得られた成果に基づき、浸潤・転移抑制物質を検索し、さらに新たに開発した転移動物モデルを用い、その有効性を検証するという一貫した研究システムを構築した。この一貫した研究システムを用い、本年度は、さらに強力な浸潤・転移抑制作用を有する薬剤を検索し、その抑制機序を解明するとともに、転移動物モデルを用い、その有効性と安全性を確認しヒトがん転移の予防、治療への道を拓きたい。
研究方法
(1)浸潤抑制物質の検索とその抑制機序の解明:これまでに、リゾフォスファチジン酸(LPA)が強力な浸潤誘発物質であること、及びその誘導体であるcyclic LPAがcyclic AMPの上昇を介して浸潤を強く抑制することを示した。本年度は、癌細胞内のcyclic AMP濃度を上昇させるホスフォダイエステレースIII阻害剤であるシロスタゾールの浸潤抑制作用を検討した。浸潤の程度は、我々が既に開発したin vivo浸潤モデル(単層培養浸潤モデル)を用い測定した。この培地にシロスタゾール、アピゲニンやフルバスタチンなどの薬剤を添加し、MMI細胞(ラット腹水肝癌細胞)の浸潤に及ぼす効果を検討した。(2)動物転移モデルを用いた転移抑制物質の検索:Wistar系雄性ラットに発癌剤azoxymethane(7.4 mg/kg)を週1回、10週間皮下注射するとともに、同時にオリーブ油に懸濁した消化管ホルモンであるボンベシン40 μg/kgを隔日に投与すると、実験開始45週目に腹膜播種性転移が高率に認められる。蛋白チロシン燐酸化の特異的阻害剤であるアピゲニン0.75 mg/kgまたは1.5 mg/kgを実験開始16週目から実験終了まで皮下に隔日に投与する。すべてのラットを45週間目に屠殺し、大腸・小腸腫瘍の有無、腹膜播種性転移の有無について、肉眼的および組織学的に検討した。
結果と考察
(1)癌転移には、低分子量G蛋白Rho、Focal adhesion kinase(FAK)、cyclic AMPが関与していることを明らかにした。(2)ホスホディエステラーゼIII阻害剤であるシロスタゾールが、細胞内のcyclic AMPの上昇を抑制し、浸潤を抑制することを見いだした。シロスタゾールは強力な浸潤抑制物質であるLPAの構造類似体であるcyclic LPAにくらべ、より上流のシグナル伝達系を抑制するものと考えられた。シロスタゾールは、血小板凝集抑制剤として既に臨床で用いられており、今後臨床応用に向けた検討を進めていきたい。(3)蛋白チロシン燐酸化の阻害剤ゲニスティンが浸潤・転移を抑制することを既に報告したが、本年度はゲニスティンの異性体であるアピゲニンがFAKを抑制し、転移を抑制することを見出した。アピゲニンはパセリに多量に含まれ、安全性には問題がなく、臨床応用を考慮したい。(4)Rhoの標的蛋白の一ツであるRho kinase(ROCK)の特異的阻害剤Y-27632が細胞運動のみならず、細胞の接着伸展、接着斑の形成を抑制し転移を抑制することを見出した。本剤は現在動物にてその安全性を検討中である。(5) HMG-Co還元酵素阻害剤フルバスタチンが、Rhoの膜へのtranslocationを抑制し、浸潤を抑制することを見出した。フルバスタチンは高脂血症治療剤として既に市販されており、来年度より本剤を用い膵癌の肝転移予防に関する臨床治験を開始する予定である。(6)大腸癌肝転移症例で
は、血清ガストリンが高値を示すことに着目し、ヒト大腸癌細胞を用いたマウス肝転移モデルでガストリンが肝転移の形成を促進することを示した。この成績に基づき本年度より大腸癌肝転移巣根治切除後の症例に、ガストリン拮抗剤プログロミドを投与する臨床治険を開始し、残肝再発が抑制されることを示した。
結論
in vivo、in vitroの浸潤転移モデルを用い、浸潤・転移の分子機構を解明し、その成果に基づき新しい浸潤・転移抑制物質シロスタゾール、Y-27632、ゲニスティン、アピゲニン、フルバスタチン、プログロミドを見出し、プログロミドによる転移予防に関する臨床治険を開始した。

公開日・更新日

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