文献情報
文献番号
199900114A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト癌ウイルスによる発癌の分子機構と免疫系による癌細胞排除機構の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
松田 道行(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 西連寺剛(国立感染症研究所研究員)
- 松倉俊彦(国立感染症研究所)
- 葛西正孝(国立感染症研究所)
- 牧野正彦(国立感染症研究所)
- 山本三郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ウイルスの関与する癌は、ウイルス学的免疫学的手法により、予防および治療法の確立が可能である。従って日本人のどの癌に、どのウイルスが、どういう役割を果たしているのかを明らかにし、それに対する予防治療策を開発する必要がある。本年度は以下の目標を掲げて研究した。・EBV関連胃癌の解明へ向けて外科材料よりEBV感染胃癌細胞株の樹立を行い、それらの細胞株について細胞の性状及びウイルス感染の関わりを解析する。・子宮頸部異型上皮に存在するHPV型を検索し、異型の程度とHPV型の関連を明らかする。・ATL患者の末梢血単球由来のDCの機能を解析し、その機能異常の発現機序を明らかにする。・アダプター型癌遺伝子Crkによる癌化の機構を明らかにする。・染色体転座部位に結合するトランスリン蛋白の制御機構を解明する。・オリゴDNAの抗腫瘍効果が個体により異なる原因を明らかにする。
研究方法
(1)胃癌におけるEBウイルス感染に関する研究:患者からの胃癌組織について、・癌部をヌードマウスへ移植、形成された腫瘍をin vitro で培養した。・同組織の非癌部を直接in vitroで培養した。腫瘍原性はSCIDマウスでの造腫瘍性で調べた。EBV-encoded RNA (EBER)はin situ hybridization法、EBV nuclear antigen (EBNA)は蛍光抗体補体法、EBV-DNAはその末端繰り返し配列(terminal repeat)をプローブとしたサザンブロット法、EBV蛋白のはウエスタンブロット法を用い検出した。腫瘍組織はHE染色にて観察した。(2)婦人科腫瘍とヒト乳頭腫ウイルス遺伝子型:検体は採取時に二分割し、一部はホルマリン固定後パラフィン包埋して、通常の病理組織学的検査により、軽・中・高度異形成(CIN I・ CIN II・ CIN III)に三分類した。凍結した残りの組織よりDNAを抽出し、PBM-58法を用いてHPVDNA検出及び型同定をおこなつた。報告されている80種のHPV型うち41種の性器関連HPV型を対象とした。(3)成人T細胞性白血病の発症機序解明と治療法開発に関する研究:ATL患者11名および正常健常人10名より末梢血リンパ球(PBMC)の供与を受けた。プラスティック付着性単球は、PBMCを60分間培養した後非付着性細胞を除去して得た。DCの分化誘導には、recombinant (r)GM-CSFとr-IL-を用いた。単球およびDCの細胞表面抗原の解析は、市販の抗体を用いて行った。Immature DCの病原体取り込み能は、FITC-dextranをモデル抗原として用い測定した。正常健常人およびATL患者由来のMature DCおよびHTLV-I感染単球より分化誘導したMature DCの抗原提示能は、自己のCD4およびCD8 T細胞の増殖応答能にて検索した。(4)アダプター型癌遺伝子v-Crkによる発癌機構: 細胞にGST-JNKおよび様々なG蛋白の発現ベクターを導入する。24時間後にGST-JNKを回収して、その活性をc-Junを基質として測定する。RasファミリーG蛋白の交換因子、Sos、RasGRF、CalDAG-GEFI、CalDAG-GEFII、Epac、C3GがJNKを活性化するかを同様に293T細胞を用いて観察する。C3Gがどういう経路でJNKを活性化しているかを明らかにするために、C3Gとともに、R-Ras、Mlk2のドミナントネガエィブ変異体を発現させて、JNKの活性化を調べる。NIH3T3細胞にv-Crk癌遺伝子産物を発現させ癌化した細胞を作成した。この細胞にR-Rasのドミナントネガティブ変異体を導入し、細胞株を樹立し、その形態を観察する。(5)染色体脆弱化と転座の分子機構: PC12細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定後、ウサギ抗トランスリン抗体とマウス抗ブロムデオキシウリジン(BrdU)抗体で
二重染色した。更に、Alexa 546ヤギ抗ウサギIgG抗体とAlexa 488ヤギ抗マウスIgG抗体で一次抗体の結合を検出した。また、核染色はDAPIでおこなった。次に、ラット脳組織の染色は、Wistarラット(P2, P18, P56)を4%パラホルムアルデヒドと0.2% ピクリン酸で心臓灌流後、脳組織の凍結切片をウサギ抗トランスリン抗体と反応させた。更に、ビオチン標識抗ウサギIgGとアビジン標識ペルオキシダーゼで反応させた後、0.05% ジアミノベンチジン(DAB)と0.01% 過酸化水素水で発色させた。(6)オリゴDNAの有する抗癌作用:健常人末梢血単核球から血小板、単球、B細胞を部分除去し、パーコール不連続濃度勾配法によって低比重細胞群と高比重細胞群に分けた。低比重細胞群より、NK細胞を免疫磁気ビーズ法でCD56-positive selectionあるいはCD3/CD14/CD19 negative selectionし精製した。T細胞は高比重細胞群よりCD56/CD14/CD19 negative selectionにて分離精製した。これ等の細胞を、CD16抗体、ダイナビーズM-450-CD3、 IL-2、 IL-12の存在下又は非存在下にMY-1を加え、10%FCS添加RPMI(エンドトキシン濃度;< 5pg/ml)で20~40時間培養した。オリゴDNAの抗腫瘍活性は、マウスにIMCを生着させた後、オリゴDNAを腫瘤内に週1回連続5週間300μgずつ注射することによる腫瘤径および腫瘍重量に及ぼす影響を調べた。(倫理面への配慮) 当該内科医、外科医および産婦人科医によつて全ての研究対象者の十分なインフォームドコンセントを得ている。また、発表時には個人が特定できないように配慮している。動物実験は、国立感染症研究所動物実験委員会の承認を得て行った。
二重染色した。更に、Alexa 546ヤギ抗ウサギIgG抗体とAlexa 488ヤギ抗マウスIgG抗体で一次抗体の結合を検出した。また、核染色はDAPIでおこなった。次に、ラット脳組織の染色は、Wistarラット(P2, P18, P56)を4%パラホルムアルデヒドと0.2% ピクリン酸で心臓灌流後、脳組織の凍結切片をウサギ抗トランスリン抗体と反応させた。更に、ビオチン標識抗ウサギIgGとアビジン標識ペルオキシダーゼで反応させた後、0.05% ジアミノベンチジン(DAB)と0.01% 過酸化水素水で発色させた。(6)オリゴDNAの有する抗癌作用:健常人末梢血単核球から血小板、単球、B細胞を部分除去し、パーコール不連続濃度勾配法によって低比重細胞群と高比重細胞群に分けた。低比重細胞群より、NK細胞を免疫磁気ビーズ法でCD56-positive selectionあるいはCD3/CD14/CD19 negative selectionし精製した。T細胞は高比重細胞群よりCD56/CD14/CD19 negative selectionにて分離精製した。これ等の細胞を、CD16抗体、ダイナビーズM-450-CD3、 IL-2、 IL-12の存在下又は非存在下にMY-1を加え、10%FCS添加RPMI(エンドトキシン濃度;< 5pg/ml)で20~40時間培養した。オリゴDNAの抗腫瘍活性は、マウスにIMCを生着させた後、オリゴDNAを腫瘤内に週1回連続5週間300μgずつ注射することによる腫瘤径および腫瘍重量に及ぼす影響を調べた。(倫理面への配慮) 当該内科医、外科医および産婦人科医によつて全ての研究対象者の十分なインフォームドコンセントを得ている。また、発表時には個人が特定できないように配慮している。動物実験は、国立感染症研究所動物実験委員会の承認を得て行った。
結果と考察
研究結果=(1)胃癌におけるEBV感染に関する研究: 非定型EBV感染胃癌の検出:本研究により従来のEBV胃癌(全ての胃癌細胞がEBER陽性)と異なる非定型EBV胃癌の存在が見出された。PCRでのEBV DNAシグナルも弱く、EBER陽性細胞はその胃癌にわずかに散在した。癌部を移植したヌードマウスで腫瘍(PT)が形成されそれを培養して上皮様細胞株が得られた。非癌部の培養からは、4ヵ月で突然活発な細胞増殖が起り、上皮または繊維芽細胞様形態の細胞株(PN)が樹立された。EBV感染状態:ヌードマウスでの腫瘍(PT)はEBNA陰性、in vitro継代3ヵ月後陽性へと転じ、継代9ヵ月後は再びEBNA陰性となった。PNは樹立当時から陽性である。PNでEBV前初期蛋白(ZEBRA)、EBV早期抗原(EA-D)の発現が常に少数の細胞に検出された。PTでは継代3ヵ月でZEBRA, EA-Dの発現が見られたがその後、それらは全く検出されなかった。継代3ヵ月後 PT, PNで環状プラスミドEBV DNAが検出された。PNではEBV増殖を示す線状DNAが検出された。腫瘍原性:PNまたはPT移植SCIDマウスで腫瘍が形成された。PTはヌードマウスで継代可能である。(2)婦人科腫瘍とヒト乳頭腫ウイルス遺伝子型: 322例のCIN を調べた結果、304例に一種のHPV型を検出した。CIN Iは96%、CIN II及び IIIは各々94%と93%であつた。CIN に検出された全てのHPV型を3群・10グループに分類し整理したところ、各群が異形の程度と相関した状況で検出されている事が判明した。即ち、I群はCIN I にのみ検出され、II群はCIN I及び CIN II に存在するが、CIN IIIにはほとんど検出されなかつた。一方、III群はすべてのステージにわたってに検出された。この事から、CINの異形の程度は感染しているHPV型によつて支配されることが強力に示唆され、限られたHPV型がCIN IIIに関与していると考えられた。(3)成人T細胞性白血病の新しい免疫学的・遺伝子学的治療の開発に関する研究: 患者より得たmature DCの機能は、正常健常人より得たallogenic T細胞の刺激能により機能低下を示すものが3例中1例にあった。一方、immature DCは検索した3例全例で機能が低下していた。ATL患者単球はCD14抗原およびMHC class II抗原の発現低下を認めた。従って、ATLでは単球に器質的異常が存在し、DCへの分化が妨げられているらしい。正常健常人より供与された単球にcell-free virusおよびMT-2細胞を添加すると、単球は容易にHTLV-I感染し、サイトカインを用いimmature DCを誘導すると、機能の低下が認められた。従って、HTLV-I
感染単球より誘導したimmatureおよびmature DCは明らかな機能低下を示し、ATL患者DCの機能異常の発現機序の一つと考えられた。さらに、正常健常人より得たT細胞にMT-2細胞を用いHTLV-Iを感染させると、アポトーシスを起こすことを見出した。(4)アダプター型癌遺伝子による発癌機構の解析: v-Crkに結合するグアニンヌクレオチド交換因子C3GはRap1およびR-Rasを活性化する。そのどちらがJNKを活性化するのかを調べた。その結果、293T細胞およびNIH3T3細胞ではR-RasはJNKをH-RasやRacと同様にJNKを活性化することがわかった。しかし、R-RasやH-RasはCOS細胞ではJNKを活性化せず、JNKの活性化は細胞特異的である可能性が示唆された。次に、H-Ras、Rap1、R-Rasのドミナントネガティブ変異体を用いて、v-CrkおよびC3G依存性のJNK活性化が抑制できるかを調べたところ、R-Ras変異体はv-CrkおよびC3GのいずれによるJNK活性化も抑制した。さらにMLK(mixed lineage kinase)のドミナントネガティブ変異体がR-Ras依存性のJNK活性化を抑制することを見出した。(5)染色体脆弱化と転座の分子機構の解明: トランスリン蛋白の発現量と細胞増殖速度と間に正の相関にあることに注目し、脳神経系と造血細胞系をモデルとして次のような研究をおこなった。ラット小脳におけるトランスリン蛋白の発現量を調べてみると、胎生17日(E17)から生後18日(P18)まで徐々に減少することが判明した。哺乳類の小脳では、急速に分裂する神経前駆細胞はexternal germinal layer (EGL)に存在し、分化に伴ってinternal granular layer (IGL)に移行して細胞分裂を停止することが知られている。そこで、トランスリンの発現が、発生過程にある小脳の特定領域に局在しているのかどうかを明らかにするために免疫組織染色による解析をおこなった。その結果、トランスリン蛋白は、EGLの増殖の盛んな神経前駆細胞に強く発現しているが、生後急速に減少し、P18ではIGLにわずかに残るのみであった。更に、トランスリン蛋白の発現と神経前駆細胞の分裂増殖との関連を明らかにするために、NGF (nerve growth factor) によるPC12 (phenochromocytoma cell line) 細胞の分化との関連を調べたところ、PC12 の神経細胞への分化に伴う細胞分裂の停止と一致してトランスリン蛋白の発現が減少することが観察された。(6)オリゴDNAの有する抗癌作用: 抗腫瘍活性を有するオリゴDNAであるMY-1は、新鮮NK細胞に直接作用してIFN-γ産生を誘導するが新鮮T細胞からは誘導できない。健常人NK細胞のMY-1に対する反応性には固体差があり、IFN-γの産生量を指標に分類すると低反応群と高反応群に分けられた。低反応群ではMY-1非添加培養液中にIFN-γが検出できなかったのに対し高反応群では高く検出され、生体内で既に活性化されたNK細胞もMY-1に反応することが示唆された。そこでNK細胞をin vitroで活性化し、IFN-γ誘導能の高いG10GACGAと共培養したところ、活性化NK細胞のIFN-γ産生は強く亢進された。G10GACGAの亢進作用はIL-2と相乗した。 次にT細胞をダイナビーズM450-CD3で刺激し、そのIFN-γ産生に対するMY-1の作用を検討したところ、MY-1は活性化T細胞のIFN-γ産生を亢進し得ることが明らかにされた。更に、NK細胞のIFN-γ産生に対し強い活性を示したG10GACGAは活性化T細胞のIFN-γ産生に対しても強い亢進作用のあることが示された。
考察=EBV感染胃癌(全胃癌の7%)は、全ての癌細胞がEBV陽性であるのに対し、本研究で示した胃癌はほとんどの癌細胞がEBV陰性である。この胃癌はEBVの "hit and run"発癌の仮説を支持する。非胃癌部からのEBV感染細胞株(PN)が樹立されたことは、GT38及び GT39(Tajima et al., Jpn. J. Cancer Res. 89: 262, 1998)と類似し、また細胞株におけるEBV感染も潜伏感染3型で、胃癌に於ける潜伏感染1型とは異なっている。これらの細胞株の起源細胞は不明であるが、胃組織中に存在したEBVによりある標的細胞がin vitroでトランスフォームした可能性も考えられる。
CINとHPV型の関連については長い間追求されてきているが未だに明確にされていない。その理由として、ほとんどの研究がスメアー検体をPCR法によつて解析してきた事があげられる。こうした検索では一検体に複数のHPV型が同定されていて、病変部位に関与するHPV型を特定する事が出来ない。また、PCRに用いるプライマーにより特定のHPV型が検出されない事も分かつてきている。本研究で示した様に凍結新鮮組織を対象としたコピー数の情報を含む詳細なHPV型同定研究が世界中で行われCINの異形の程度とHPV型の関連について明確な判断が下されるものと考える。
HTLV-I感染症は、ウイルス抗原に対する高免疫応答が原因となって発症するHAM/TSPと、免疫応答能の低下が原因となって発症するATLがある。ATLにおける免疫不全症の発症機構は未だ明らかにされていない。我々は、HAM/TSP患者の末梢血単球由来DCは、正常健常人に比し成熟化が進行しており、in vivoにおいて細胞表面にウイルス抗原を保持し、T細胞の活性化および病変発症に重要な役割を果たしていることを示してきた。ATL患者immature DCが明らかな機能異常を示し、抗原取り込み能力が低下していた。この機能異常は、単球に内在性の異常が存在する可能性が高いと考えられる。また、単球はin vivoにおいてもin vitroにおいてもHTLV-I感染性を示すため、単球へのウイルス感染の影響を調べた。その結果、HTLV-Iが単球に感染すると、正常な機能を持ったimmature DCもmature DCも分化誘導できないことが判明した。機能異常を示すDCと接触したT細胞は不充分に刺激され、その結果として抗原特異的不応答に入る可能性も想定される。従って、ATLにおいてはHTLV-Iが単球に感染し、抗原提示細胞およびT細胞の免疫不全をもたらし病変発症を誘導する可能性があると考えられた。
アダプター型癌遺伝子産物v-Crkによる癌化機構は、長い間不明であったが、本研究により、v-Crkに結合するC3GがR-Rasを介してJNKを活性化することにより、癌化を誘導していることが明らかになった。v-CrkはC3G以外にもDOCK180に結合することが知られている。このDOCK180はRacを介してJNKを活性化することが知られているので、v-CrkはDOCK180とC3Gの二つの蛋白、その下流因子であるRacとR-Ras、とを介してJNKを活性化し、これが癌化を誘導するらしい。このことはC3GやDOCK180単独では癌化を誘導できないことを考えると、v-Crkによる癌化にはRacとR-Rasの二つの経路が必要なこと、JNK以外の経路も癌化の誘導に関与すること、を示唆する。
トランスリンの遺伝子発現や細胞内局在に細胞周期やDNA傷害が深く係わっていることが明らかにされたことは、今後の研究の方向性と発展性を明確にしただけでなく、トランスリン蛋白の機能を解析する上で重要な手掛かりを与えてくれるものと期待される。
BCG由来DNA画分はヒトNK及びT細胞に直接作用してIFN-γ産生を誘導した。その作用は活性化細胞で顕著でありIL-2産生を伴わなかった。IFN-γ産生を誘導するモチーフはCG-パリンドロームで構成され、活性化細胞特異配列の存在も示唆された。MY-1やCG-パリンドローム には、上記NK活性亢進作用に加えて、マウス髀細胞やヒト末梢血単核球のIFN-γ産生を誘導する作用がある。従って、これらオリゴDNAは生体内でTh1型免疫反応を惹起すると考えられる。
感染単球より誘導したimmatureおよびmature DCは明らかな機能低下を示し、ATL患者DCの機能異常の発現機序の一つと考えられた。さらに、正常健常人より得たT細胞にMT-2細胞を用いHTLV-Iを感染させると、アポトーシスを起こすことを見出した。(4)アダプター型癌遺伝子による発癌機構の解析: v-Crkに結合するグアニンヌクレオチド交換因子C3GはRap1およびR-Rasを活性化する。そのどちらがJNKを活性化するのかを調べた。その結果、293T細胞およびNIH3T3細胞ではR-RasはJNKをH-RasやRacと同様にJNKを活性化することがわかった。しかし、R-RasやH-RasはCOS細胞ではJNKを活性化せず、JNKの活性化は細胞特異的である可能性が示唆された。次に、H-Ras、Rap1、R-Rasのドミナントネガティブ変異体を用いて、v-CrkおよびC3G依存性のJNK活性化が抑制できるかを調べたところ、R-Ras変異体はv-CrkおよびC3GのいずれによるJNK活性化も抑制した。さらにMLK(mixed lineage kinase)のドミナントネガティブ変異体がR-Ras依存性のJNK活性化を抑制することを見出した。(5)染色体脆弱化と転座の分子機構の解明: トランスリン蛋白の発現量と細胞増殖速度と間に正の相関にあることに注目し、脳神経系と造血細胞系をモデルとして次のような研究をおこなった。ラット小脳におけるトランスリン蛋白の発現量を調べてみると、胎生17日(E17)から生後18日(P18)まで徐々に減少することが判明した。哺乳類の小脳では、急速に分裂する神経前駆細胞はexternal germinal layer (EGL)に存在し、分化に伴ってinternal granular layer (IGL)に移行して細胞分裂を停止することが知られている。そこで、トランスリンの発現が、発生過程にある小脳の特定領域に局在しているのかどうかを明らかにするために免疫組織染色による解析をおこなった。その結果、トランスリン蛋白は、EGLの増殖の盛んな神経前駆細胞に強く発現しているが、生後急速に減少し、P18ではIGLにわずかに残るのみであった。更に、トランスリン蛋白の発現と神経前駆細胞の分裂増殖との関連を明らかにするために、NGF (nerve growth factor) によるPC12 (phenochromocytoma cell line) 細胞の分化との関連を調べたところ、PC12 の神経細胞への分化に伴う細胞分裂の停止と一致してトランスリン蛋白の発現が減少することが観察された。(6)オリゴDNAの有する抗癌作用: 抗腫瘍活性を有するオリゴDNAであるMY-1は、新鮮NK細胞に直接作用してIFN-γ産生を誘導するが新鮮T細胞からは誘導できない。健常人NK細胞のMY-1に対する反応性には固体差があり、IFN-γの産生量を指標に分類すると低反応群と高反応群に分けられた。低反応群ではMY-1非添加培養液中にIFN-γが検出できなかったのに対し高反応群では高く検出され、生体内で既に活性化されたNK細胞もMY-1に反応することが示唆された。そこでNK細胞をin vitroで活性化し、IFN-γ誘導能の高いG10GACGAと共培養したところ、活性化NK細胞のIFN-γ産生は強く亢進された。G10GACGAの亢進作用はIL-2と相乗した。 次にT細胞をダイナビーズM450-CD3で刺激し、そのIFN-γ産生に対するMY-1の作用を検討したところ、MY-1は活性化T細胞のIFN-γ産生を亢進し得ることが明らかにされた。更に、NK細胞のIFN-γ産生に対し強い活性を示したG10GACGAは活性化T細胞のIFN-γ産生に対しても強い亢進作用のあることが示された。
考察=EBV感染胃癌(全胃癌の7%)は、全ての癌細胞がEBV陽性であるのに対し、本研究で示した胃癌はほとんどの癌細胞がEBV陰性である。この胃癌はEBVの "hit and run"発癌の仮説を支持する。非胃癌部からのEBV感染細胞株(PN)が樹立されたことは、GT38及び GT39(Tajima et al., Jpn. J. Cancer Res. 89: 262, 1998)と類似し、また細胞株におけるEBV感染も潜伏感染3型で、胃癌に於ける潜伏感染1型とは異なっている。これらの細胞株の起源細胞は不明であるが、胃組織中に存在したEBVによりある標的細胞がin vitroでトランスフォームした可能性も考えられる。
CINとHPV型の関連については長い間追求されてきているが未だに明確にされていない。その理由として、ほとんどの研究がスメアー検体をPCR法によつて解析してきた事があげられる。こうした検索では一検体に複数のHPV型が同定されていて、病変部位に関与するHPV型を特定する事が出来ない。また、PCRに用いるプライマーにより特定のHPV型が検出されない事も分かつてきている。本研究で示した様に凍結新鮮組織を対象としたコピー数の情報を含む詳細なHPV型同定研究が世界中で行われCINの異形の程度とHPV型の関連について明確な判断が下されるものと考える。
HTLV-I感染症は、ウイルス抗原に対する高免疫応答が原因となって発症するHAM/TSPと、免疫応答能の低下が原因となって発症するATLがある。ATLにおける免疫不全症の発症機構は未だ明らかにされていない。我々は、HAM/TSP患者の末梢血単球由来DCは、正常健常人に比し成熟化が進行しており、in vivoにおいて細胞表面にウイルス抗原を保持し、T細胞の活性化および病変発症に重要な役割を果たしていることを示してきた。ATL患者immature DCが明らかな機能異常を示し、抗原取り込み能力が低下していた。この機能異常は、単球に内在性の異常が存在する可能性が高いと考えられる。また、単球はin vivoにおいてもin vitroにおいてもHTLV-I感染性を示すため、単球へのウイルス感染の影響を調べた。その結果、HTLV-Iが単球に感染すると、正常な機能を持ったimmature DCもmature DCも分化誘導できないことが判明した。機能異常を示すDCと接触したT細胞は不充分に刺激され、その結果として抗原特異的不応答に入る可能性も想定される。従って、ATLにおいてはHTLV-Iが単球に感染し、抗原提示細胞およびT細胞の免疫不全をもたらし病変発症を誘導する可能性があると考えられた。
アダプター型癌遺伝子産物v-Crkによる癌化機構は、長い間不明であったが、本研究により、v-Crkに結合するC3GがR-Rasを介してJNKを活性化することにより、癌化を誘導していることが明らかになった。v-CrkはC3G以外にもDOCK180に結合することが知られている。このDOCK180はRacを介してJNKを活性化することが知られているので、v-CrkはDOCK180とC3Gの二つの蛋白、その下流因子であるRacとR-Ras、とを介してJNKを活性化し、これが癌化を誘導するらしい。このことはC3GやDOCK180単独では癌化を誘導できないことを考えると、v-Crkによる癌化にはRacとR-Rasの二つの経路が必要なこと、JNK以外の経路も癌化の誘導に関与すること、を示唆する。
トランスリンの遺伝子発現や細胞内局在に細胞周期やDNA傷害が深く係わっていることが明らかにされたことは、今後の研究の方向性と発展性を明確にしただけでなく、トランスリン蛋白の機能を解析する上で重要な手掛かりを与えてくれるものと期待される。
BCG由来DNA画分はヒトNK及びT細胞に直接作用してIFN-γ産生を誘導した。その作用は活性化細胞で顕著でありIL-2産生を伴わなかった。IFN-γ産生を誘導するモチーフはCG-パリンドロームで構成され、活性化細胞特異配列の存在も示唆された。MY-1やCG-パリンドローム には、上記NK活性亢進作用に加えて、マウス髀細胞やヒト末梢血単核球のIFN-γ産生を誘導する作用がある。従って、これらオリゴDNAは生体内でTh1型免疫反応を惹起すると考えられる。
結論
・ 非定型EBV胃癌の存在が明らかになった。・ CINの異型度と性器関連HPV型との関連が3群に分類された。・ HTLV感染単球の機能不全がATL発症の原因の一つと考えられる。・ v-Crk癌遺伝子産物はC3GとR-Rasを介してJNKを活性化し、癌化を誘導する。・ トランスリンの発現は増殖と密接に関連している。・ 抗腫瘍オリゴDNAは活性化NK/T細胞に作用してIFN-γの産生を亢進し得る。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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