胆嚢がんの分子生物学的特異性の解明と早期診断法の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900110A
報告書区分
総括
研究課題名
胆嚢がんの分子生物学的特異性の解明と早期診断法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小越 和栄(新潟県立がんセンター新潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤征史(新潟県立がんセンター新潟病院)
  • 土屋嘉昭(新潟県立がんセンター新潟病院)
  • 澁谷範夫(新潟医療技術専門学校)
  • 山本正治(新潟大学医学部衛生学教室)
  • 渡辺英伸(新潟大学医学部第一病理学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)胆汁中のグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)の発がんとの関連;
胆嚢がんの発生因子に地域特異性と固体特性がある。そのうち、個体特性の一つである胆汁成分にも大きく関与することがと今までの研究に明らかになっている。
この胆汁に関する、今までの我々の研究では、胆嚢がん患者より採取した純粋胆汁には胆汁酸の抱合体であるグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)が有為の差で高いことも判明した。このGUDCは既知の変異原物質である芳香属アミンに対しては変異原性の促進に働くが、他の物質にたいしては抑制的に働くことが判明している。したがって本年度の研究の目標は、変異原性の作用がどの物質に対してどのように作用するかを、ヒトに発がんの可能性のある物質に対してそれぞれ解明を行い、最終的な働きとともにGUDCの持つ役割を発がんとの関連で解明することとした。またGUDC増加はその意義、すなわち原因か結果を明確にするために、胆嚢がん症例で、術前術後の組成の検討を行った。
2)胆管・膵管合流異常の症例についての遺伝子異常;
過去の研究で胆管・膵管合流異常症例ではK-ras遺伝子変異の出現が高率に見られており、通常型の胆嚢がん症例とは異なった様式を示していた。本年は最終的に腺腫由来の胆嚢がん、de novo発生の通常型胆嚢がんおよび膵管・胆管合流異常症例についてK-ras遺伝子とP-53遺伝子異常について検索を行い、その発生の違いを明確にする。
研究方法
1)GUDCと胆嚢がんの関連について;
a)胆汁酸の経時的組成変化の検討には胆嚢がんで胆嚢切除を行った症例の術後のERCPによる経過観察時に胆汁を採取し、術前との比較を行う。また対照症例としては胆石などで経過観察を行っている症例に対しても経時的な胆汁採取を行って組成の変化の有無についての検討を行う。
b)胆嚢がん症例に増加しているGUDCの突然変異原作用への抑制作用の研究には、採取された純粋胆汁で高い突然変異原性が確認された胆汁をプールし,水で希釈しブルーキチンで個相抽出を行なう。この抽出物質をセップパックC18でカラム分離し,Ames法により変異原性を指標にGUDCを加えてその抑制度を測定する。同様な実験を胆嚢がん症例では増加しない他の二次胆汁酸等についての比較を行った。
c)既知変異原物質は1,8-ジニトロピレン(1,8-D),4-ニトロキノリン-N-オキシド(4NQO),
2-アミノアントラセン(2AA),2-アミノフルオレン(2AF),ベンゾビレン(BaP),2-アセトアミノフルオレン(AAF),Trp-P-1,Trp-P-2,IQ,MeIQ,MeIQx,N-ニトロソウレア(NMU)を用い、Salmonella typhimuriumTA98およびTA100菌株を用いたエームス試験のプレート方で行った。
2)胆嚢がん症例での遺伝子異常の検討;
検討症例は胆嚢腺腫51個、腺腫内がん16個、de novo発生胆嚢がん164個、膵管・胆管合流異常17個について、Ki-67,p53の免疫染色、K-rasとAPC変異の解析を行った。また同時にそれらの症例について発生母地との関連についての組織学的検討を行った。また、がんを発生していない膵管・胆管合流異常6症例に対してもp53免疫染色を行った。
倫理面での配慮=上記の研究を行う際に倫理的な問題となることは胆汁採取の方法である。特に経時的に胆汁採取のためのERCP施行である。ERCPは臨床的に必要な場合にのみ施行するが、胆汁採取は患者の利益に直接の関連を持たない。その為に本研究は県立がんセンター新潟病院の倫理規定に沿って倫理委員会での承認を得て行っており、ERCP施行時の胆汁採取については患者へのインフォームドコンセントを行い、承諾書にて了承を得て行った。
結果と考察
1)胆汁中のグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)の発がんとの関連
我々の過去(第1期)の研究で、胆嚢がん患者より採取した純粋胆汁には胆汁酸の抱合体であるグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)が有為の差で高いことも判明した。
このGUDCの作用の解明を行い、まず既知の変異原性物質である芳香属アミンに対してはin vitroで濃度勾配的に助変異原性を持つことが判明した。しかし、変異原性物質を変えると逆に抑制作用を示すことが判明した。さらに人胆汁中に含まれるヘテロサイクリックアミン(HCA)に対しては突然変異原性抑制に働き、また人への発がん性が確認されているN-メチルニトロソウレアなどにも同様に突然変異原性抑制作用を有することが判明した。さらに、GUDCはヒト胆汁のブルーキチンカラム吸着試料に対してもその変異原性を抑制した。このことからGUDCはチトクロムP450酵素群による代謝反応に関連しているものと思われる。また、胆汁中の遊離脂肪酸もヒト胆汁ブルーキチンカラム吸着試料に対しての変異減抑制作用があり、その濃度は胆嚢がんの好発地区の新潟県と高知県の胆汁で明らかな差を認めた。
このGUDCは胆嚢がん切除後の2カ月以内では組成に変化はなく、胆嚢がん発症の結果ではなく、原因の一つと考えられている。また、GUDCは、持続する発がん物質に対して生態防御機構を持つものと考えられ、そのターゲットとなる物質はチトクロムP450による代謝される物質である可能性が高いと考えられる。胆汁中の遊離脂肪酸は食事などにも関連する可能性があり、その増加の理由は明らかではないが、地域的な食物習慣にも関連するものと考えられる。
さらに、このGUDCの増加は他の良性疾患には殆ど見られないことから、胆汁中のGUDCの測定で早期胆嚢がんの発見にも有用と考えられる。
2)胆嚢がんの発生は腺腫を起源として発生する通常胆嚢がんと膵管・胆管合流異常で発生するde novoがんとがある。この両者の遺伝子異常についての検索を行った結果、腺腫からの発生ではp53異常やK-ras変異は見られなかった。それに反し、通常胆嚢がんでde novo発生するがんではp53異常を認めるがK-ras変異はなかった。一方、膵管・胆管合流異常症例のde novo発生例ではp53異常とK-ras変異が高率に見られ,それぞれの発生機序の違いを示した。このことより合流異常症例ではK-ras遺伝子およびりP-53遺伝子ともに通常型とは異なった発がん経路を示唆している。このK-ras変異は通常の胆嚢がんには見られないもので、膵がんの場合に類似しており、その発生にも膵液などを含む、膵との関連性が示唆され、従来よりの仮説である、胆汁中への膵液混入説を支持するものと考えている。
がんを発生していない膵管・胆管合流異常症例6例のp53胆嚢粘膜免疫染色でも2例に陽性例がみられ、またLabeling Indexも正常者より高く、がん発生母地をうかがわせる所見であった。
結論
以上の研究より、胆嚢がんの発生に関連する発がん物質は肝のチトクロムP450酵素系代謝に関連する可能性が大きくなり、これらの物質の防御機構として胆汁中にGUDCが増加する可能性を強く示唆する結果を得た。したがって、胆汁中のGUDCを測定することにより、胆嚢がんの早期診断にもつながるものと考えている。
また、胆嚢がんを高頻度に発症させる膵管・胆管合流異常症例での胆嚢がんは、通常発生の胆嚢がんと異なってK-ras遺伝子変異が高率にみられる。これはがん発生に膵液が関与しているという仮説を裏付けるものと考えている。

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