社会保障分野の国際相互協力にかかる人材育成手法の研究

文献情報

文献番号
199900106A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障分野の国際相互協力にかかる人材育成手法の研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
広井 良典(千葉大学法経学部)
研究分担者(所属機関)
  • 駒村康平(駿河台大学経済学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、アジアをはじめとする多くの途上国は急速な経済発展を遂げつつあるが、各種産業基盤の整備などハ-ド面の対応と並んで、その国の人口構造・就業構造・経済発展段階等に応じ、医療保険、年金、福祉等の社会保障システムを適切なかたちで構築していくことが、経済成長にとって不可欠かつきわめて重要な基盤となっている。
こうした点において、アジアにおける後発成長国家として急激な経済発展を遂げ、その過程で比較的コスト・パフォ-マンスの高い社会保障制度を整備充実させてきた日本の経験は、様々なかたちで途上国にとって参考となるものと考えられる。また、そうしたソフト面での面での国際貢献を積極的に進めていくことが、成熟国家としての日本の重要な責務と考えられる。
この場合、これらの国々は、経済成長の速度がきわめて速いことにとどまらず、中国などに見られるように高齢化の速度もきわめて急速であり、社会保障制度の整備や展開において、欧米諸国等の場合にはなかったような独自の配慮や展望が求められている。
こうした点において、アジアにおける後発成長国家として急激な経済発展を遂げ、また高齢化においても急速な変化を経てきた日本の経験は、様々なかたちで途上国にとって参考となるものと考えられる。
そうした社会保障面での国際貢献を実質的なかたちで進めていくためには、
・社会保障の国際協力に関する一般的な理論フレ-ムの構築とともに、
・経済発展と社会保障制度整備における「日本の経験」について、成功面と失敗面の双方を含めた客観的な自己評価を行い、併せて日本特有の事情によるものと他国に汎用可能なものとに整理し直したうえで、社会保障の国際協力に関する具体的な方法論を体系化していく作業が不可欠となる。しかるに、そうした一般的なフレ-ムの整備や客観的な自己評価等の試みは、従来ほとんど行われてきていないのが実情である。
本調査研究では、以上のような問題意識を踏まえ、(a)日本の経験を踏まえた社会保障の国際協力の基盤となる理論的枠組みをまとめるとともに、(b)経済発展の過程の中で展開してきた日本の社会保障政策及び制度を、その長所・問題点や各国への適用可能性等の観点から客観的に評価し、社会保障分野におけるわが国の国際協力に資することを目的とする。
また、具体的な成果物のひとつとして、途上国の専門家等に対してわが国が行う社会保障研修において使用する、日本の社会保障や社会保障制度設計の方法に関する基本テキストを作成する。
これらの研究を通じて、社会保障分野におけるわが国の国際協力のための基盤が整備されるとともに、各国との協力体制や相互交流が積極的に推進されることが期待できる。
研究方法
1年目においては、研究計画に従い、文献調査を中心に社会保障の国際協力に関する一般的なフレ-ムのまとめや日本の経験の評価等の整理を行うとともに、マレーシア及びシンガポールでの現地資料収集を含め、アジアの国々の現状についての基礎的な資料収集を行った。
結果と考察
初年度においては、日本の社会保障システムの特徴を、特に経済成長及び経済システムとのダイナミックな関係においてとらえなおし、それが後発国としての独特の社会保障のモデルとして把握できることを以下のようないくつかの特徴にそくして整理した。
A.制度の設計に関すること
・当初ドイツ型の社会保険システムとして出発し、次第に(イギリス的な)普遍主義的方向に移行していったこと
・社会保険の「保険者」に「国」自身がなったこと(医療保険における政管健保、年金における国民年金・厚生年金)
・非サラリ-マン・グル-プ(農林水産業者、自営業者)が相対的に多い経済構造のなか、その取り込みを積極的に行ったこと(特に医療保険)
・医療保険がまず整備され、年金が遅れて、しかし急速に膨らむという経過をたどったこと
B.制度の背景にある経済社会システムとの関係
1)国民皆保険のシステムが一種の産業政策として経済成長にプラスに作用したと考えられること
2)高度経済成長期がちょうど人口転換期にあたり、「若い」国のまま経済成長を遂げることができたこと(その分、いわば「高齢化のツケ」を後に回してきた面があること)
3)いわゆる日本的経営システムないし雇用慣行と表裏一体のものとして社会保障システムが機能してきたと考えられること(例えば、終身雇用・低い失業率と失業保険の比重の小ささ等)
結論
日本の社会保障についての一次的評価については上記のとおりであり、これら初年度の研究成果を踏まえ、次年度においてはアジア諸国の社会保障をいくつかの基本的な座標軸にそくして整理するとともに、日本の経験の適用可能性について総括していくこととしている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-