社会保障に係る国際協力のための専門家研修・教育カリキュラム構築に関する研究

文献情報

文献番号
199900105A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障に係る国際協力のための専門家研修・教育カリキュラム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小林 廉毅(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 甲斐一郎(東京大学)
  • 内田康雄(神戸大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、開発途上国においても高齢化の進展や人口の都市集中、疾病構造の転換、あるいは世界規模での市場経済の浸透などに伴って、国民の間における経済状態と疾病構造の二極分化が進行しており、深刻な社会問題をもたらしている。都市部の中間層・富裕層では循環器疾患や悪性新生物などの老化や生活習慣に関連した慢性疾患が増加する一方、農村や都市スラムでは未だに貧困問題や感染症・寄生虫疾患がまん延している。また医療設備などに関しても、都市部の大病院や民間クリニックと、農村部の医療施設との格差はきわめて大きい。
このような状況において、医療保障や公衆衛生など広義の社会保障に係る政策立案や制度設計、組織や制度の運営、政策・プロジェクト評価などに関する知識やノウハウを途上国の実務者、政策担当者に効果的に伝えること、またお互いの国の経験を分析し意見交換できるような教育・研修の場を提供することが、国際協力における日本の重要な責務になりつつある。しかし、国際協力の視点から当該領域に係る大学院教育やリフレッシュ教育、生涯研修を行える場はわが国では限られており、またそこで行われる教育・研修もカリキュラムの未整備や教員の不足により、十分でないのが実状である。
本研究は国際協力の視点から、医療保障・医療保険、医療制度、高齢者福祉、公衆衛生行政などに係る専門家育成を行うための体系的なカリキュラムや教育態勢のあり方を検討し、またそのような教育・研修カリキュラムと教育・研修の場について具体的な提言を行うことにより、わが国の国際協力の質の向上に寄与するとともに、人材育成を通して途上国の人々の健康や福祉の向上に資することを目的とする。
研究方法
(1)国際的な社会保障・保健医療に係る実務者教育の現状分析:主要な海外の大学院や援助機関における当該領域に係る教育の状況やカリキュラムなどを調査し、国際的な社会保障・保健医療に係る実務者教育の現状についてマクロ的な視点から分析する。(2)実務者研修プログラムの実態調査:当該領域に係る専門家教育においては、とりわけ実務者の短期研修のニーズがもっとも高いといわれる。本研究では、次年度においてこのような実務者のための短期研修モデル事業を計画しているため、これに関連した海外の資料収集と関係者からの詳細なヒアリングを行う。(3)国内の当該領域の教育に関する調査:国内における当該領域の専門教育を行っている大学院、研修機関のカリキュラムや学生、研修生の背景について資料を収集する。また当該領域を専攻した院生の卒業後の進路について調査を行う。収集した資料の分析や調査結果から、わが国の当該領域における教育・研修プログラムの抱える課題について検討する。(4)当該領域の教育・研修プログラムにおける主要教科の構成と内容:以上の(1)~(3)の調査分析結果を参考にしながら、国際協力の視点から医療保障・医療保険、医療制度、高齢者福祉、公衆衛生行政などに係る専門家教育を行うための体系的なカリキュラムや教育態勢のあり方を検討し、カリキュラムに必須と考えられる主要教科とその内容について具体的な試案を作成する。
結果と考察
(1)国際的な社会保障・保健医療に係る実務者教育の現状分析:近年、国際協力において「知識」は資金や他の資本財とともに本質的な開発資源と捉えられており、開発援助の課題として知識の共有が以前にもまして重要視されていた。さらに世界的な援助政策の枠組みの中で、途上国の社会保障・保健医療分野全般における政策形成や自立的発展を支援することの優先順位が高まっていると考えられた。(2)実務者研修プログラムの実態調査:米国ボストンのManagement Science for Health(MSH)、Harvard School of Public Health(HSPH)、ボルティモアのJohns Hopkins School of Public Health(JHSPH)を訪問し、各施設で行われている研修プログラムの調査を行った。いずれの施設も研修プログラムの運営に熱心で、また研修内容の質も高いものであった。さらにいずれの施設においてもプログラム参加者による事例教材の作成や改良、評価活動としての卒業生・修了者調査が日常的に行われており、わが国でも参考にすべき点であると思われた。(3)国内の当該領域の教育に関する調査:わが国の当該領域の教育・研修プログラムは、他の先進国や援助機関のカリキュラムに比べると、社会保障・保健医療を包括的に捉えた資源配分や政策形成、マネジメントのあり方を提示するという視点が不十分であった。そして特殊な「日本モデル」が、比較分析の視点を欠いたまま、カリキュラム上で大きな比重を占めていた。早急に、わが国の教育・研修プログラムの弱点を克服し、国際的に通用するプログラムに改善することが必要である。また、教育・研修プログラムは対象者像を明確化してカリキュラム構築を行うことが重要であり、卒業後の就職状況などを考慮すると大学院教育ではリフレッシュ教育や留学生対象の教育に重点をおく方がより効果的と考えられた。さらに、途上国からの研修生に対する短期研修プログラムのニーズは確実に存在しており、このようなプログラムのための体系的カリキュラム構築の意義は大きいと思われた。(4)当該領域の教育・研修プログラムにおける主要教科の構成と内容:国際協力の視点から医療保障・医療保険、医療制度、高齢者福祉、公衆衛生行政などに係る専門家教育・研修カリキュラムにおいて必須
と考えられる主要教科とその内容について具体的な試案を呈示した。
結論
近年、援助戦略の分野では「知識」を資金や他の資本財とともに本質的な開発資源と捉えるようになっており、開発援助の課題として知識の共有を以前にもまして重視するようになっていた。さらに国際的な援助政策の枠組みの中において、途上国の社会保障・保健医療分野全般における政策形成や自立的発展を支援することの優先順位が高まっている。しかし、国際協力を視野に入れた社会保障・保健医療分野のわが国の教育・研修プログラムは質、量ともに未だ十分なものではなかった。早急に、わが国の教育・研修プログラムのカリキュラムや教材の改善を行うことが将来の国際貢献につながると考えられた。本研究では、国際協力の視点から社会保障・保健医療などに係る専門家教育・研修カリキュラムにおいて必須と考えられる主要教科とその内容について具体的な試案を呈示した。また、プログラムの運営において重要と考えられる事項をいくつか明らかにした。

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