アジア近隣諸国における医療保障技術協力の評価分析とモデル指標形成に関する研究

文献情報

文献番号
199900100A
報告書区分
総括
研究課題名
アジア近隣諸国における医療保障技術協力の評価分析とモデル指標形成に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 宏(国際医療福祉総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 矢野聡(国際医療福祉総合研究所)
  • 六波羅詩朗(国際医療福祉総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、アジア近隣諸国として中国、タイ、シンガポール、インドネシア(政情不安により分析保留)を取り上げ、主に1970年代から行われた医療サービス分野におけるわが国の開発協力(health service sector development)推進手法の変容過程を政策科学的に分析し、モデル指標に基づいた評価を行うことである。更にこの結果を基に今後の開発協力のあり方について考察する。
研究方法
本研究に関連する6名の研究者により研究会を組織し3回の研究会を開催し、日本国内で可能な資料調査及びその分析について検討を行った。その議論を踏まえ、中国、シンガポール、タイにて現地調査を実施した。現地調査では政策担当者に対するヒアリング及び指標データの収集を行った。帰国後、ヒアリング結果及び指標データの分析検討を行い、中国、タイ、シンガポールについて各国社会保障制度の現状と改革内容について取りまとめた。
結果と考察
アジア近隣諸国の社会経済指標、および保健医療指標を概観すると、およそ4つないしは5つのグループに大別することができる。
第1のグループは日本、シンガポール、香港、台湾、韓国といった、経済パフォーマンスの高い国々であり、なかでも日本は突出して発展している経済先進国である。その他4カ国はNIEs(新興工業経済)の第一世代として成長を続けている国である。
第2のグループはマレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアといった第二世代のNIEsであり近年発展の始まった国である。
第3のグループは人口の非常に多い中国とインドであり、都市部を中心にして経済発展のきざしが見られる。
最後のグループとして、ヴェトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど近年開放経済の政策を打ち出した国があり、これらの国では低開発の克服や貧困の緩和が現在の課題となっている。本研究においては、上記のアジア各国のうち第1,第2,第3のグループからそれぞれシンガポール、タイ、中国を対象国として研究を行った。
アジア近隣諸国ではこれまでの、国民保健サービス(NHS英国型医療サービス)モデル、プライマリヘルスケア(PHC)モデルとは異なるアジア型ともいえるモデル形成を行っており、その形成に関してはアジア近隣諸国が相互に優れた点を積極的に導入しようとする動きがあった。すなわち、中国では2000年を出発点として従来とは全く異なる新たな医療保障システムが施行された。タイでは皆保険化と地域保健サービス構築が行われている。シンガポールでも中央積立基金方式の制度改革が行われている。
結論
中国では、次の3点が確認された。①広大な地域と人口を占める農村部では、保健センター方式の推進によるプライマリー・ヘルスケアモデルの充実を政策的に推進していること、②都市部においては新しい社会保険方式を新しい行政機関のもとで推進する体制ができあがったこと。これは言い換えればシンガポールで行われている中央積立基金(Central Provident Fund)の手法を中国政府が応用している形態でもあるといえる。③上海で実施されている手法は都市、農村部の医療保険の皆保険化を目指すと同時に、医療アクセスと管理手法については米国のHMO(Health Maintenance Organizations)方式が採用されている点が伺えた。タイについては、我々の仮説である比較研究による歴史的経緯の中で現れた政府の労働者向けセーフティネット施策と住民参加型、プライマリ・ヘルスケア施策との分離過程、そしてさらに公衆衛生サービスを含めた保険行政の変容を最も端的に示している国ということができる。しかしその特徴は中央政府による医療保険の皆保険化と学者・研究者による地域プロジェクト推進方式にみられるボトム・アップの改革方式との2点に集約されるが、双方とも制度、技術に問題点を抱えている。前者は日本型皆保険化達成の道筋をトレイスしようとしており、後者はイギリスNHS改革に連動した家庭医ファンド・ホールディング、提供者・購買者のシステムを応用しようとしているように見える。シンガポールについては、今日の社会保障制度における財源の主流である賦課方式(Pay as you go:PAYG)に変わる案として中央積立基金(Central Provident Fund)方式が注目されている。これについて、医療保険を中心に考察したが、長所として統一的・合理的社会保険の管理、制度の弱点として失業保険制度の不備、疾病給付(現金給付)の欠如、および労働者災害補償制度の民間任せ等、社会保障が所得再分配(Income Redistribution),社会安定装置(Build in stabirizer)としての役割を十分に果たしていないこと等をあげることができる。シンガポールについては、さらに慎重な分析が必要である。

公開日・更新日

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