統計情報の高度利用の制度的な在り方の検討に関する研究

文献情報

文献番号
199900098A
報告書区分
総括
研究課題名
統計情報の高度利用の制度的な在り方の検討に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
高石 昌弘((財)厚生統計協会理事)
研究分担者(所属機関)
  • 濱砂敬郎(九州大学経済学部教授)
  • 水嶋春朔(横浜市立大学医学部助手)
  • 松田晋也(産業医科大学医学部教授)
  • 武藤香織(医療科学研究所研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生行政において適切な根拠にもとづいた施策を展開するため、保健、医療、福祉等諸分野における国民のニーズ、各種サービスの現状等を適切に把握、分析し、厚生行政の方向性を明らかにする必要がある。厚生行政情報は重要な基礎資料であり、幅広く活用される必要がある。
近年、従来の死亡原因を追求する研究から一歩踏出し、疾病の背景要因の探究や疾病への治療法、健康施策の効果の判定等に関するニーズが高まっている。これらのニーズに応えるためには、既存の厚生統計情報のさらに多角的な利活用を促進する必要がある。
こうした状況を踏まえ、今後の我が国の厚生行政の発展に資するため、既存の統計制度である人口動態統計を例として、その一層の利活用について、昨今法制化が検討されている個人情報保護の観点を見据えつつ、その調和と利活用の在り方を検討するものとする。
研究方法
研究は、我が国の厚生統計情報の制度的な検討を行うため、次の調査研究及び検討を行った。
1.諸外国における統計情報の高度利用制度
(1)英国における個人情報保護と統計情報の高度利用の制度について、英国国家統計局(ONS:Office for National Statistics)を訪問調査し、英国統計制度について情報収集を実施。
(2)米国における個人情報保護と統計情報の高度利用の制度について、米国国家保健統計センター(NCHS:National Center for Health Statistics)を訪問調査し、米国統計制度について情報収集を実施。
(3)ドイツ及びフランスの個人情報保護の状況と統計情報の高度利用制度について研究者による文献検索的調査を実施。
(4)諸外国の個人情報保護と統計情報の高度利用制度に関する資料を収集し、資料価値の高い文献等について翻訳。
2.我が国における統計情報の高度利用上の課題とその制度的な在り方に関する検討
(1)統計情報の高度利用における課題
諸外国と我が国の、個人情報保護と統計情報の高度利用制度の比較検討。
(2)((1)を踏まえ)我が国における個人情報保護と統計上の高度利用制度の在り方の検討。
結果と考察
1.諸外国における統計情報の高度利用制度の把握
(1)個人情報保護と統計情報の利活用に関する直近の国際的動向
アOECD8原則(1980)(「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD理事会勧告」
・プライバシー保護と情報の自由な流通の調和を目的に「個人情報保護のための8原則」を採択、制定。
→特徴:公衆衛生上の「統計情報・データ利活用」のための適用除外規定がない。
イEU指令95/46号(1995)「個人データ処理に係る個人の保護及び当該データの自由な移動に関する欧州議会理事会の指令」
・EU加盟国は、1998年10月までに同指令に適合するような法律、規則及び行政上規定を発効させることを義務づける。その第25条では、自国民の個人情報保護の観点から、十分なレベルの保護を講じていない第三国には、個人データの移転を禁止する規定を各国が設けることを義務付け(第三国条項)。
→特徴:公衆衛生上の「統計情報・データ利活用」のための適用除外規定がある。
ウ 米国保健社会福祉省の「個人特定可能医療情報のプライバシー基準」規則案(1999)EU指令95/46号の第三国条項に対応した動き。
・「高品質な医療提供を促進するのに必要な医療情報の自由な流れ」と「個人の医療情報の適切な保護の確保」、いわば、利活用と保護の調和の実現を目指している。
→特徴:公衆衛生上の「統計情報・データ利活用」のための適用除外規定がない。
(2)英国における個人情報保護と統計情報の高度利用
ア背景と動向
EU指令95/46号に沿った法整備は未着手。
イ根拠法
データ保護法(Data Protect Act、1984)
・個人情報の個人情報保護と統計情報の高度利用
・英国のデータ処理産業の経済的利益を保護
ウ所管行政組織
英国国家統計局(ONS:Office for National Statistics)
→ONSが管理しているデータベース登載情報を、一定条件の基に研究者が利活用できる制度がある。
→特定個人に目印をつけ(Flag-in)、追跡調査する制度がある(個人名はONSの外部に公開しない)。現在、500のFlag studyが進行中。
エ統計の高度利用制度とその運用について
(ア)死亡統計の利用
医師、統計学者、法律家から構成される委員会で審査を受け、承認を受けた研究者はデータが利用可能。審査から承認が得られるまでには1か月程度の期間がかかる。
(イ)家庭医診療研究データベース(GPRD:General Practice Reserch Database)
70地域の400診療機関の家庭医(2000人)の任意の協力によるデータベース。3,000万人の患者情報(性、年齢、NHS管理データ等)がデータベース化されている。一データ当り、日本円で約50円の料金で使用可能。
(ウ)縦断研究:Longitudinal Study
1971年の国勢調査以降、10年ごとに人口の1%(特定の四日間に生まれた者)を対象者(同意は得ていない)として抽出し、追跡調査するコホート研究。英国国政調査法(Census Act)、データ保護法(Data Protect Act)により規定されている。
(3)米国における個人情報保護と統計情報の高度利用
ア背景と動向
EU指令95/46号に沿った法整備として、「個人特定可能医療情報のプライバシー基準」規則案が提示された。
イ根拠法
個人情報保護については各州の人口動態登録統計法。
米国国家保健統計センター(NCHS:National Center for Health Statistics)の活動は公衆衛生事業法(Public Health Service Act)第308条d項に規定。
ウ 所管行政組織
米国国家保健統計センター(NCHS:National Center for Health Statistics)
エ統計の高度利用制度とその運用について
・各州ごとにデータの利用範囲や対応に差異はあるものの、一般的には統計・研究目的であればデータの利用は可能。施設内審査委員会(IRB:Institutional Review Board)で研究内容の申請が行われ、承認・不承認が決定。
・NDI(National Death Index):対象者の生死を検索するシステム。
2.我が国の統計情報の高度利用上の課題とその制度的な在り方に関する検討
(1)統計法に規定される目的外使用制度の促進
(2)人口動態統計死亡情報の電算化の促進(日本版NDIの整備)
(3)個人情報保護のための法制度の整備
結論
統計情報の高度利用の制度的な在り方に関する検討を進め、諸外国、特にEU諸国を中心に、個人情報の流通を確保し、かつ、個人情報の保護を確保するような、いわば、利活用と保護の調和を実現するための法制度化が推進される現状が明らかになった。我が国においても、個人情報保護基本(仮称)の制定が予定されており、厚生統計の利活用を促進する制度の整備とともに、保健医療分野において個人情報を保護し、かつ、利活用するために法制度の整備が必要と思われた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)