成人へとキャリーオーバーした疾病の生命予後と死亡率に関する研究

文献情報

文献番号
199900095A
報告書区分
総括
研究課題名
成人へとキャリーオーバーした疾病の生命予後と死亡率に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
寺井 勝(千葉大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 中澤誠(東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所)
  • 丹羽公一郎(千葉県循環器病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性心疾患は正常出生100人に1人の頻度で発生する小児慢性疾患である。先進国では、この四半世紀、先天性心疾患の救命率が向上し患者の多くが成人期を迎えるようになった。しかし、我が国における大規模な先天性心疾患の生命予後に関する統計はなく、我が国における成人患者数の実態も把握出来ていないのが現状である。本研究では、先天性心疾患の死亡率(出生数対)を算出し、さらに生存患者、特に成人に達した先天性心疾患患者の長期生命予後について解析することを目的とした。
研究方法
(1)人口動態調査票の利用による生命予後の解析を行った。人口動態調査においては、いくつかの心疾患に関し年次(調査年)別の年齢階級別死亡数が1978年までは把握できるも、1979年以後の第9回修正国際疾病、障害および死因統計分類(ICD分類)では各心疾患別の年齢階級別死亡数などの細かい解析ができない。乳児死亡に関しては1994年までは各心奇形別の年次推移の観察は可能だがそれ以降はできず、これも長期予後の解析としては不十分である。また、人口比死亡率や出生数比死亡率も解析できない。そこで、人口動態調査票死亡票にある複数の項目から先天性心疾患患者の死亡件数を年次別に解析する。更に、出生年次別の死亡件数を各疾患別に集計する。これにより年次死亡率(対出生数)の計算が可能で、厚生統計に準じた生命予後を明らかにできる。同時に現在すでに成人している1979年以前の先天性心疾患患者数も概ね把握でき、その年次増加数も把握できる。これらは従来の厚生統計からは解析できず人口動態調査の高度利用により初めて可能となる。(2)多施設共同調査によるFallot四徴症の生命予後について調査した。先天性心疾患のなかでもFallot四徴症は最も代表的な難治性のチアノーゼ型心疾患である。発生頻度は全先天性心疾患の約4.5%である。従って年間発生数はおよそ45人(出生10万対)となる。Fallot四徴症は古くからのICD-8分類に、746.2の項目として存在していることから、先に挙げた人口動態調査からも長期に亘って生命予後の解析が可能な疾患である。今年度は、1972年ならびに10年後の1982年に調査年を絞って、Fallot四徴症患者の手術後の生命予後、罹病率を多施設共同調査として行う。具体的には、各施設保存の入院及び外来診療録を各施設の研究協力者が調査し、退院後生存者における手術および手術後の経過に関するデータを多施設にて解析した。
結果と考察
(1)人口動態調査。約半年の審査を経て人口動態調査死亡票の使用が承認された。1972年より1997年の26年間に先天性心疾患及び循環器系の先天異常を主因として死亡した69,096名を対象とした。69,096件は746.7の心内膜線維弾性症の225件を除外したものである。それぞれの死亡調査票より、出生年月日、死亡年月日、死亡時年齢、原死因などの情報を得て、これら先天性心疾患の死亡率を解析した。年次別の先天性心疾患および循環器系先天異常の死亡件数総数は、1973年の3847名をピークに年々減少し、1997年に1526名となった。疾患別にみると、心室中隔欠損が8318件(12.0%)と最も多く、Fallot四徴6066件(8.8%)、大血管転位5756件(8.3%)、心房中隔欠損5380件(7.8%)、心内膜床欠損3164件(4.6%)の順であった。年次別最大死因疾患は、1986年までは心室中隔欠損であったのが、1987年に大血管転位、1988年以降は心房中隔欠損が年次別最大死因となっていた。これら心房中隔欠損による死亡発生の大部分は60歳以上の高齢者であった。全死亡件数を年齢階級別にみると、0歳死亡が最も多く、1972年以降に出生した死亡件数50,815
件に限定した場合、78%が0歳死亡であった。そこで、出生年次別に調査項目を再集計し、年次別0歳死亡率(出生10万対)を解析した。その結果、0歳死亡率(出生10万対)は、1978年の126をピークに1996年には62まで減少していた。2歳未満、5歳未満、20歳未満の死亡率の年次推移を同時に解析した結果、死亡率の年次推移は明らかに0歳死亡率に大きく依存していた。一方、詳細不明の先天性心疾患の死亡件数が総死亡件数に占める割合が、1972年43.4%であったのが、85年には20%を切り、97年には6.9%に達していた.これらの事実は、先天性心疾患に対する内科診断治療の向上と外科治療成績の進歩を示唆するものといえる。(2)多施設共同調査。国内で古くより先天性心疾患の外科治療を行っている25施設に予備調査を行なった。調査項目は、1972年と1982年の心臓手術件数とFallot四徴症手術件数である。19施設より予備調査の返答があり、手術件数の多かった14施設に共同調査研究を依頼した。最終的には、札幌医科大学、新潟大学、千葉県循環器病センター、東京大学、東京女子医科大学、榊原記念病院、国立小児病院、慶応大学、神奈川県立こども医療センター、国立循環器病センター、久留米大学、九州大学の12施設で共同調査を行った。今年度は、1972年(A群)、1982年(B群)両年のFallot四徴症手術患者の診療録を後方視的に調査した。年齢、経過観察年数は最終外来など最終生存確認日の時点とし、手術後生存退院した331名の情報を収集した(1972年手術者149名、1982年手術者182名)。手術歴。生存退院の29%(98/331名)が心内修復手術前に姑息手術を受けていた。両群でその頻度に差がなかった。心内修復手術年齢はA群で9歳1ヶ月、B群で平均7歳10ヶ月と10年の間に低年齢化していた。心臓手術の補助手段では、A群は人工心肺85%(127/150名)、単純低体温14%(21/150名、1施設のみ)であったが、B群では全例が人工心肺を使用していた。また大動脈遮断時間は、A群の78分に対し、B群で37分に短縮され、明らかな外科治療技術の向上がみられた。術後遠隔期の死亡は両群合わせて15名(4.5%)で両群に有意差なく、その死因は心不全8名、突然死3名、敗血症1名、詳細不明3名であった。生存退院者の9割以上が現在、既に成人していることが判明した。
結論
我が国における先天性心疾患の生命予後は、1歳未満での予後に大きく依存していた。1970年台後半より、先天性心疾患の死亡率(出生数対)は減少に転じ、その要因として、診断技術の進歩、外科治療の進歩、薬物治療の進歩などが考えられる。その結果、1歳未満死亡率(出生10万対)が約2分の1に改善したことが判明した。Fallot四徴症の調査に見られたように今後益々成人患者が増加することが予想される。事実、高齢者における死亡件数は徐々に増加していた。最後に、本研究班の研究結果は、多数の共同研究者の尽力により得られたものであることを付け加えたい。また、先天性心疾患の予後の改善に努力してこられた関係諸氏に敬意を表するものである。今回の研究結果が、事実に基づいた診療の推進、更には、成人領域での先天性心疾患に対するより良い医療体制の確立に、広く利用されることを願うものである。

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