指定・承認・届出統計の有効活用に関する研究

文献情報

文献番号
199900092A
報告書区分
総括
研究課題名
指定・承認・届出統計の有効活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(埼玉県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本修二(東京大学)
  • 児玉和紀(広島大学)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学)
  • 山縣然太朗(山梨医科大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 岡山 明(岩手医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では厚生統計の調査方法の把握と過去の学術研究への活用例の総括を行い、これら調査資料の具体的な活用方法について検討する。厚生統計の全ての調査について調査方法(調査対象者、調査項目、調査方法、解析方法など)を整理し、保健・医療・福祉に関連する研究が可能と思われる統計調査を抽出する。各厚生統計資料を元とする実現可能な疫学研究を計画立案し、研究の結果どのような成果が得られ、それらの成果が公衆衛生行政にとってどのように役立ち得るかについて検討する。
研究方法
厚生統計の各調査についてこれまでに出された目的外使用申請数、申請目的、許可件数、使用許可された研究あるいは事業の成果などを整理検討し、目的外使用例の過去の実績を明らかにする。
平成11年度は初年度であり、厚生統計を活用した事例について各班員が分担し研究手法についてまとめる。これらを公表された統計資料を用いた事例と原データの利用による解析と比較して原データ活用の有効性について検討する。更に個別の利用可能な統計資料を用いた研究課題を整理し、当該部局に申請することにより各課題について解析の準備を行う。
結果と考察
(1)米国での保健統計情報の活用の現状
米国のvital statisticsは各州が主体となって管理し、政府がそれをとりまとめる仕組みになっている。したがってデータの高度利用も州単位で行われる傾向にある。現在、多くの州において生死情報を紙によらずに直接コンピュータ入力する EBC (Electric Birth Certificate)および EDC (Electric Death Certificate)の導入が進みつつある。これにより情報の即時利用が可能となり、出生時スクリーニングや予防接種の管理にも用いる試みがなされている。
日本の国民栄養調査に相当する保健統計としてNHANES (National Health and Nutrition Examination Survey) がある。これは1960年以来 National Center for Health and Statisticsが主体となって行ってきた調査で、栄養以外に身長・体重などの計測、血液検査や内科診察を含んでいる。この調査の目的は主要疾患についての有病率とその動向・リスクファクター・国民の意識・栄養との関係などを把握することであり、将来はDNA解析も行われる見込みである。この調査のデータは政府や州のみならず研究者や消費者グループ、企業や医療・保健従事者などに広く利用され、現状の把握や疾病の予防に役立っており、Healthy People 2000 の基盤となっている。
(2)厚生統計資料の記述疫学的活用
厚生統計を活用した疫学研究は、記述疫学的研究及びコホート研究が挙げられる。記述疫学研究では、上島らの国民栄養調査成績を用いた血圧の長期動向に関する報告が著名である。これは国民栄養調査報告書から年齢階級別平均血圧及びレベル別有所見率を男女別、年齢階級別に抽出し長期動向を明らかにしたものである。これによれば血圧は長期的かつ持続的に減少している。また、この低下は180mmHg以上の重症高血圧に著しいことが明らかになった。この低下が脳卒中死亡の減少と強い関連があると考えられる。
また岡山らは我が国の血清総コレステロールの上昇傾向と虚血性心疾患の減少傾向との関連に着目し国民栄養調査報告及び人口動態調査都道府県政令指定都市別集計を活用して検討した。これによれば血清総コレステロールの上昇傾向は主に人口規模5万人未満の地域で著しく、国民栄養調査報告の食習慣の人口規模別集計の再解析の結果ともよく一致した。これらの結果を基に厚生省統計情報部に記録されている都道府県・政令指定都市ごとの性・年齢階級別簡単死因別死亡数を用いて、東京及び大阪の虚血性心疾患死亡とそれ以外の日本の虚血性心疾患死亡の動向について比較した。その結果、虚血性心疾患は血清総コレステロールの動向とよい関連を示し、血清総コレステロールが20年以上高値の持続している東京・大阪では若い世代で低下傾向がみられなかった。高齢者でもその他の地域とは明瞭な違いがみられた。
(3)前向き調査での人口動態統計の活用事例
1980年循環器疾患基礎調査の対象者を1994年に追跡したNIPPONDATAでは、死因の同定に人口動態統計原データを使用した。この調査は我が国の代表集団の追跡調査であり、種々の危険因子の同定や死亡率の推定のためにきわめて重要な資料となった。特に従来の循環器疾患のコホートより規模が大きく、1980年と新しいことから、従来のコホート研究では十分な評価ができなかった種々の情報が明らかとなった。1980年に実施された「循環器疾患基礎調査」を対象に、総務庁から使用許可を得て14年後の1994年に追跡調査を実施した。14年間に死亡した1300人あまりの者に対して、大臣官房統計情報部が毎年把握している人口動態事象(死亡原因)とリンクさせた。このことで循環器疾患基礎調査の詳細な情報が、どの様な予後を引き起こすのかを明らかにすることができた。人口動態調査の使用も総務庁から許可を得て行った。リンクの方法は、14年間の死亡者の除票を申請し、性別、生年月日、死亡年月日、死亡地を確定した。人口動態調査データは、1980年から1994年までの死亡者の性別、生年月日、死亡年月日、死因、死亡地コードとした。電子化された両データセットを、死亡地ごとにソートをかけ、性別、生年月日、死亡年月日をキーにしてコンピュータ上でマッチングさせた。
成果として循環器疾患の代表的な危険因子と総死亡、各死因との間の関連が総合的に明らかになった。血圧値と総死亡の関係は、男女とも血圧値が高いほど総死亡率の相対危険度は高かった。特に若年群では高齢群に比して相対危険度は高かった。血圧値と循環器疾患死亡の関係も、若年群で血圧水準が高いほど相対危険度は高かった。血圧値と脳卒中、血圧値と虚血性心疾患も同様の結果だった。血清総コレステロール値と虚血性心疾患死亡との関係はコレステロール値が高いほど虚血性心疾患の死亡率が高かった。これらの成果のもとに、初の健康危険度評価システムを開発するに至った。特に、血圧と各種死亡率との量反応関係、喫煙が脳卒中の危険因子であること、耐糖能異常が国民の死亡率に強く影響を与えているなどの貴重な情報が得られている。
NIPPON DATAは、現在第4次老人福祉計画や健康日本21を策定するための疫学的な基礎データとして広く活用されるに至っている。このように、国レベルの各種調査は適切に活用することで、健康政策策定のための、きわめて重要な情報源になる。
(4)発症登録研究における人口動態原データ活用
滋賀県高島郡全域の住民を対象として、脳卒中・急性心筋梗塞の発症を悉皆的に登録し、同時に登録された患者全員についてADL(日常生活活動度)に関する追跡調査、そして死亡に関する追跡調査を行っている。本研究では死亡情報との結合により急性期の死亡割合を算出し、経年変化を観察して疾病発症の重症度の変化を評価している。死亡の情報については死亡小票の閲覧によって行った。また死亡をADLが最も低下した状態として追跡調査を行っている。
この調査では、登録患者の死亡確認を住民票の請求によって行い、死亡例の死因については死亡小票の閲覧によって行った。登録研究で地域の罹患率の実態やその推移を明らかにするには、登録研究の悉皆性の確保とその維持が絶対に必要である。我が国において、登録研究の悉皆性を評価しうる既存のデータは人口動態原データ以外にない。本研究においても総務庁の許可を得た上で人口動態原データを用いて悉皆性の確認作業を行った。
また、個人が同定できない情報であれば、原則的に公開できる情報(死亡年齢、性別、死亡地及び死因の個人別情報)でも活用の可能性は極めて高い。現在5年ごとに集計されている都道府県別死因別死亡率は都道府県レベルでの対策の重要な資料である。こうしたものは個別データの公開により様々なレベルでの再推計によって従来では困難であった情報が得られると考えられ、今後はこのような体制が重要であると考えられた。
結論
指定・承認・届け出統計について活用事例の収集を行いその問題点について検討した。統計情報は国の記録としてきわめて重要な健康情報を有しており、今後の有効活用が課題となると考えられる。今後分担して企画研究課題に取り組む予定である。

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