特定集団から離れた者に対する保健指導のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900085A
報告書区分
総括
研究課題名
特定集団から離れた者に対する保健指導のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 武彦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 西園昌久(福岡大学医学部名誉教授、心理社会的精神医学研究所)
  • 丸山 晋(淑徳大学社会学部社会福祉学科教授)
  • 北村 俊則(国立精神・神経センター精神 保健研究所)
  • 伊藤順一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定集団指導者がその信奉者を操作的に扱うことによって両者間の関係を強化するメカニズム-マインドコントロールを解明することで、特定集団からの離脱者の脱マインドコントロールを図る手法を検討するとともに、特定集団から離れたものに対する保健指導のあり方を検討することを目的とした。
研究方法
特定集団指導者と信奉者との関係について精神医学的・精神分析学的研究(西園)を基本に据えるとともに、これら特定集団指導者と信奉者の関係についての国内外の文献の収集とその検討を行った(北村)。さらにこれらの特定集団から離れたものに対する保健指導のあり方に検討を加え(丸山)、離脱者に対するケアシステムのあり方に関する研究(伊藤)するとともに心のケアのあり方に関する研究を行いった。
結果と考察
特定集団の指導には、全能観を確立する過程でイデオロギー化が行われカリスマ性が現れることがわかった。さらに指導者と信奉者との関係は、理想化され神格化された指導者によってイニシエーション等を受けマインドコントロールの状態に陥ることが明らかになった。このように、指導者には、カリスマ性や天賦の才あるいは支配欲求や攻撃性などをもつ権力欲求などに裏付けられた、病的ともいえる万能感をもつ人格障害をもつことが国内外の文献からも明らかであることがわかった。また、文献的考察から、先進諸外国にはすでにカルト関連の法制度やカルト研究(相談)センターがあることも明らかになった。
さらに、信奉者にも指導者の操作的な心理社会的圧力を識別することやその意味するところを理解することが不可能な状態に陥っているので心理的脆弱性が高まっていることが明らかになった。したがって、特定集団からの離脱者に対する保健指導の一つは個人的な関わりでありその技法としては従来からの精神療法をモディファイすることで応じられるとしても、それらの技法がバラバラに行われるのでなくコミュニティサポートシステムとして提供する必要があると考えた。特定集団から離れた者のかかえる問題を整理すれば図のようになる。
コミュニティサポートシステムの一環として心のケアは、個人精神療法のみならず集団精神療法や家族精神療法の機能及びソーシャルワーク機能をもつとともに離脱者が安心できる場が必要とされることも明らかにし、これを地域づくりの専門機関でもある保健所が担うことが望ましいと考察した。さらに離脱者の心のケアに関しては、その中に精神症状を有する者も少なくないことから精神科医によって治療的に心のケアが行われる必要もあるが、専門性の高い臨床心理士やグループワーカーによって集団療法によってケアが行われる必要があることを明らかにし、これらを総合的に研究及び指導ができる専門機関の創設が望ましいことを明らかにするほか、既存の精神保健福祉センターに新たな機能を持たせることによって地域の専門センターとすることが望ましいと考察した。また、人権問題とも深く関係するので弁護士や一般市民(ボランティア)が離脱者の心のケアに参加することが必要であることも明らかにした。
これらの研究の結果、特定集団から離れた者に対する保健指導のあり方としては、まず特定集団から離れた者が安心していられる環境づくりが行われるべきであり、また地域精神保健活動によって安心して住める地域づくりを行うほか、さらに専門職によって心のケアが行われるとともに市民との十分な交流を行い、一般社会に再統合する必要があることを明らかにした。
結論
1.特定集団にかかる研究・相談センター(仮称)の設置によって、特定集団の研究を行うとともに特定集団からの離脱者をサポートする必要がある。
2.研究・相談センターの設置が難しければ、特定集団にかかる研究・相談センター機能を既存の研究所(例・国立精神・神経センター精神保健研究所)に付与する。
3.研究・相談センターないしはセンター機能を有する部門は、都道府県・政令指定都市に設置する精神保健福祉センターと緊密な連携をとる必要がある。  
4.都道府県・政令指定都市は、設置する保健所と精神保健福祉センターと緊密な連携をとり、個別相談に応じるばかりでなく積極的に地域づくりを進める必要がある。

公開日・更新日

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