一般急性期病棟における疾患別入院期間別にみた看護行為別看護業務量標準化に関する研究

文献情報

文献番号
199900083A
報告書区分
総括
研究課題名
一般急性期病棟における疾患別入院期間別にみた看護行為別看護業務量標準化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
筒井 孝子(国立公衆衛生院 公衆衛生行政学部、国立医療・病院管理研究所 併任)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年4月医療保険福祉審議会制度企画部会より出された意見書「診療報酬体系のあり方について」の中で、看護料については「急性期入院医療の一層の高度化と医療機関の機能分担を促進するため、入院患者に提供されるべき看護の必要量(看護必要度)に応じた評価を加味していくことが必要と考えられる」と示された。「看護必要度」については、平成10年度に、15の一般急性期病床内においてタイムスタディ調査を実施し、提供されている看護内容及び時間についての解析を終えている。これらのデータの分析から患者の病態をはじめとする個々の特性別にその提供される看護時間を予測する数学的なモデルが構築されている(この指標は「看護必要度(案)」として発表されている)。このモデルは、ある特定の患者情報を収集することによって看護時間を予測するという指標として用いることが可能である。
しかし、入院患者に提供されるべき看護の必要量(看護必要度)に応じた評価を加味するためには、この指標に加え、さらに患者の疾病の情報、入院期間内の患者の状態の推移状況、診断名別の在院日数といった、1入院を対象とした患者の状態の変化や総看護提供時間の分析が明らかにされる必要がある。なぜなら看護行為別の看護業務量を予測するモデルは患者の疾病や入院期間による影響をうけやすいと考えられるからである。
そこで本研究では、一般急性期病床内における入院の1入院の状況をとりあげ、疾病別の在院日数、入院期間別の看護業務推定時間、疾病別の看護提供総時間、入院時および退院時の患者の状況の変化等の分析を行なうことを目的とする。
研究方法
入院から退院までの1患者の1入院における病態のデータならびに疾病データを収集するために、第1に、全国の病院から地域の偏りがないように、第2に、開設者に偏りがないように、第3に、2対1基準の看護等を行なっている20病院を選定し、その病院の入院患者の調査期間中の病態に関するデータを収集するための調査を行なった。この調査で収集されたデータは、1999年の9月から10月に入院していた1患者の1入院における病態の変化データで、この中には、疾病データも含まれている。
これらのデータの収集にあたっては、コンピュータによる入力システムを独自に開発し、調査病棟すべてに、入力ソフトを配布した。さらにシステムの操作方法については、調査対象病院の担当者に対する説明会を開催した。
また、患者の疾病名については、1入院中のすべての日に診断名、術式の入力を依頼し、調査終了後に、これらの入力された日本語名の疾病データをICD-10、ICD-9CMへのコード化を専門家に依頼した。これらのデータによって得られた患者情報を用いて、平成11年度に開発した看護時間推定システムにより、入院中の看護推定時間を算出した。
以上のデータから、患者の診断名別看護推定時間や入院期間別の1入院あたりの総合看護提供時間についての分析を行なった。
<倫理面への配慮>
研究対象者となる調査対象病院の患者データについて、本人等の同意を得ると共に人権擁護上の配慮を行い、氏名や個別データ等プライバシーは厳重に注意する。調査集計は、個人名について一切関係なく行ない、個人名が明らかにならないように調査票の作成は、複数の人間がチェックをすることとする。調査票並びにその結果は、秘密保持のための厳密な管理運営を行なうこととした。
結果と考察
全20病院における12,754名の入院患者のうち、入院直後と退院時の状態データが存在する5,800名の患者について状態像の比較を行った。全般的に入院時の患者の状態は、日常生活の自立度は高く、提供される看護時間も短い状況が示された。退院時も同様に日常生活の自立度は高かったが入院時と退院時との違いで顕著な情報は、「不安」の程度であった。多くの患者が退院時は、不安の程度が低下していた。
1入院患者について診断された疾病をICD10にコード化した結果、5,800名の患者に対し、930種類のコードがつけられた。このコードの中で100名以上の患者が含まれているのは、わずかに10種類だけだった。患者数が最も多かったのは、324名のI20(狭心症)で、次いで、E13(その他の明示された糖尿病)が264名、J45(喘息)が244名、H26(その他の白内障)が200名、O80.9(単胎自然分娩,詳細不明)が156名、D12.6(結腸,部位不明)が131名、I25(慢性虚血性心疾患)が126名、I10(本態性、原発性<一次性>高血圧(症))が125名、J18(肺炎、病原体不詳)が125名、Z34.9(正常妊娠の管理、詳細不明)が125名と続いていた。一方、患者が1名だけの診断名も多く、約4割の352種類が示された。
調査対象病院の全てが、一般急性期医療を担当し、比較的在院日数が短く、特定機能病院も含まれているため、ICD-10の種類も多く、循環器系疾患(Iコード)、内分泌、栄養及び代謝疾患(Eコード)、呼吸器系疾患(Jコード)、眼及び付属器の疾患(Hコード)、分娩、奇形・新生児疾患(O及びPコード)の人数が比較的多かった。
診断分類毎の平均在院日数についても検討を行なった。平均在院日数が、1週間以内と示された診断名は61種類であるが、ICD-10のO06(詳細不明の流産)、O02.1(稽留流産)、N47(包茎)、T50(薬物中毒)、Z30.3(中絶)、E80(ポルフィリンのビリルビン代謝障害)、I83(下肢の静脈瘤)、N97(女性不妊症)、O80.9(単胎自然分娩、詳細不明)、R56(けいれん)、D12.6(結腸、部位不明)、J02(急性咽頭炎)、Z34.9(正常妊娠の管理、詳細不明)、G61.0(ギランバレー症候群)、B02(帯状ヘルペス)、O42(前期破水)、J03(急性扁桃炎)、I48(心房細動および粗動)、S83.2(半月裂傷<断裂><tear>、新鮮損傷)、等は、比較的、患者による差が小さいが、H25の老人性白内障は、2日から19日までの範囲が示され、患者による差が大きいことが示された。
さらに、患者の診断名(ICD-10)ごとに看護推定時間の合計と在院日数との関係について分析を行なった。この結果、J45(喘息)、C56(卵巣の悪性新生物)、J93(気胸)の平均在院日数は、同じ6.9日であったが推定提供時間は、489.0、336.9、400.5分で約1時間20分もの提供時間の差があった。
また、推定提供時間が長いにも関わらず、在院日数が短い診断名として、J18(肺炎、病原体不詳)、S72.0(大腿骨頚部骨折)、I63(脳梗塞)が示された。これらの疾病は、C16(胃の悪性新生物)やI21(急性心筋梗塞)よりも在院日数は短いが、推定提供時間は長いことがわかった。S06(頭蓋内損傷)とK56(麻痺性イレウスおよび腸閉塞、ヘルニアを伴わないもの)、I50.9(心不全、詳細不明)は、ほぼ同じ看護推定時間であるが、S06(頭蓋内損傷)の在院日数は短いことがわかった。
以上の結果から、第1に、同一の診断であっても患者の示す状態像は、かなり異なっている可能性が高いと推察された。第2に、同一の診断で状態像が類似していても病院によって、在院日数に差があるため入院期間の総看護時間が大きく異なる可能性があることがわかった。
以上のことから看護必要度を検討するにあたって、単に診断名のみで判断できる可能性があるのは、平均在院日数7日以内で、看護推定時間の標準偏差が小さい場合のみと考えられる。看護必要度は、患者の病状程度によって予測される時間によって判断される指標であることから、実施される手術や処置の内容によって判断できる可能性があるのではないかと推測される。このことから、ICD-9CMコードを使用することができれば、病名と処置を組み合わせているので、より多くの診断名で在院日数の違いを説明する可能性も示唆された。本研究では、ICD-9CMコードについても検討を行ない、コーディングを行なったが日常的にこのコードを利用している病院は、今回の調査対象病院ではほとんどなかった。このことは、今後、診断名と看護必要度の関係を更に検討する場合の大きな障害といわざるをえない。
結論
本研究では、患者の情報から看護提供時間推定した結果を指標化とする「看護必要度」を看護料に加味する際に、検討すべき事項として、1入院を対象とし、入院中の患者の状態の変化、在院日数と看護推定時間、診断名と看護推定時間との関係について分析を行なった。この結果、診断名と在院日数との関係や診断名と患者の状態との間には、多くの新たな知見が示されたが、診断名が極めて多様であったために、すべての診断について分析を行なうことができなかった。この結果から、ICD-10やICD9-CMなどのコード化を前提とした診断情報の蓄積が日常的に行われ、これらと患者の情報が電子情報として蓄積されることが今後の課題であると考えられた。

公開日・更新日

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