WHO国際障害分類改定に関する研究

文献情報

文献番号
199900080A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO国際障害分類改定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
上田 敏(日本障害者リハビリテーション協会)
研究分担者(所属機関)
  • 大川弥生(国立長寿医療研究センター老人ケア研究部)
  • 大橋謙策(日本社会事業大学社会福祉学部)
  • 佐藤久夫(日本社会事業大学、社会事業研究所)
  • 山崎晃資(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害者のQOL(人生の質)の最大限の向上をめざして障害分野の諸問題にいかに対処するかは現代社会の大きな課題である。これは特に少子高齢化社会を迎えた日本社会において大きな問題となっている。その点で、世界保健機関(WHO)が現在改定作業中の「WHO国際障害分類」の与える意味は大きいと考えられる。
WHOが1980年に制定した国際障害分類(ICIDH)は1981年に国際障害年を迎えるにあたって障害分野の問題への正しい理解を普及する目的で作られたものであり、障害を機能・形態障害(impairment)、能力障害(disability)、社会的不利(handicap)の3レベルに分けて総合的にとらえるもので、障害に関する学術研究面からも障害分野における総合的施策の推進の面からも画期的な意義をもつものであった。しかし種々の批判もあり、それに応えて1990年ごろから改定版(ICIDH-2)作成の動きが始まり、日本を含む各国の国際障害分類協力センター等の協力により改定作業が進められ、いよいよ最終段階であるベータ2案の翻訳およびそれを含むフィールドトライアルの段階となった。WHOはICIDH-2フィールドトライアルを通じて、全世界の関係者の声を集め、欧米中心でない、真に世界的な国際障害分類を作ることを重視している。
そこで本研究では、現在全世界的規模で実施しているWHO国際障害分類改定版(ICIDH-2:International Classification of Functioning and Disability)ベータ2案フィールドトライアルの一環として、わが国の関係者多数の意見を改正に反映させるために、日本語訳の確定(研究1)、および本分類の基本的問題(名称、基本概念、基本用語、分類原理、適用可能性、等)に関する専門的意見の収集(研究2)を目的とした。
研究方法
1.国際障害分類改定版(ICIDH-2)ベータ2案の翻訳に関する研究(研究1)
A.目的:WHO国際障害分類日本協力センターが行ったICIDH-2ベータ2案の日本語訳(案)に対する専門家の意見を集め、翻訳を確定することを目的とした。
B.対象:医学・保健学・社会福祉学・教育学・介護学、等の64の学術団体(医学関係学会:43団体、福祉等関係学会:21団体)および3か所の国立研究所にWHO国際障害分類改定のフィールドトライアルへの協力を依頼し、依頼を受諾した42(65.6%)の学術団体(医学関係学会:28団体、福祉等関係学会:14団体)および2(66.7%)の国立研究所に翻訳(案)に対する意見を求めた。その際、各団体から3名以内で担当者を選出してもらった結果、40学術団体66名、2国立研究所3名から翻訳に対する意見が得られた。
C.方法:ICIDH-2ベータ2案の序章、心身機能・身体構造分類、活動分類、参加分類、環境因子分類、付属資料すべての翻訳(案)を送付し、最低限、対象者の専門領域に関係の深い分野についての誤りや各分野についての意見を求めた。回答に際しては特に形式を定めなかった。調査期間は、2000年1月10日から3月2日であった。
2.ICIDH-2ベータ2案についての基本的質問に関する研究(研究2)
A.目的:ICIDH-2ベータ2案の基本概念、基本用語、分類原理、各次元間の関連性、また種々の分野への適用可能性、等に関する基本的質問(問題)についての専門家の意見を集め、基本的事項の確定のための資料とすることを目的とした。
B.対象:医学・保健学・社会福祉学・教育学・介護学、等の64の学術団体(医学関係学会:43団体、福祉等関係学会:21団体)および3か所の国立研究所にWHO国際障害分類改定のフィールドトライアルへの協力を依頼し、依頼を受諾した37(57.8%)の学術団体(医学関係学会:25団体、福祉等関係学会:12団体)および2(66.7%)の国立研究所に翻訳(案)に対する意見を求めた。その際、各団体から3名以内で担当者を選出してもらった結果、34学術団体59名、1国立研究所2名から翻訳に対する意見が得られた。
C.調査方法:(1)調査用紙:ICIDH-2ベータ2案全体に関する基本的質問(39問)で、質問内容は大きく分けて11の設問にわたり、その内容は全体の名称、必要性と利用領域、特徴、基本概念、各次元間の関連性、コード化の方法、評価点、用語、分類上の問題、適用可能性、国際疾病分類(ICD)との整合性、等であった。質問は2問を除いて全て選択肢方式であった。(2)調査方法:質問用紙を配布し、用紙に直接記入する形式で回答を求めた。回答に際しては、参考資料としてICIDH-2ベータ2案の序章、心身機能・身体構造分類、活動分類、参加分類、環境因子分類、付属資料全ての翻訳(案)を質問用紙とともに送付した。調査期間は2000年1月10日から3月2日であった。
結果と考察
1.研究1:医学・保健学・社会福祉学・教育学・介護学、等の専門家69名から翻訳に関して極めて多くの意見が得られた。それらについて研究班として討議の結果、次のような訳語の修正を行なうこととした。1)基本概念の訳語の変更:activity limitation, participation restrictionをそれぞれ「活動障害」、「参加障害」と訳していたものを「活動制限」、「参加制約」とする。これは社会科学における基本用語の逐語訳(直訳)の原則に従ったものであるが、同時にICIDH(初版,1980)が障害というマイナス面のみの分類であったものが、ICIDH-2では肯定的・中立的な用語を用い、プラス面とマイナス面の両面を示すことに転換したことの意義をより明らかにするための修正である。2)inclusion, exclusionをそれぞれ「包含」、「除外」としていたものを、わかりやすく「含まれるもの」、「除かれるもの」とする。3)国際疾病分類(ICD)日本版の訳語との整合性を重視するが、同時に本分類が医学専門家だけが使用するものではなく、障害当事者を含む広範囲な人々に理解され、利用されなければならないことを考え、可能な限り一般常識で理解可能な訳語とする。4)その他専門家の意見を取り入れて微調整を行なう。
2.研究2:研究1と同様に広い分野の専門家61名から寄せられた意見を集計・整理して、本研究班の意見を添えてWHOに報告することとした。
結論
上記の結果が得られたことによって、「ICIDH-2日本語版」を作製し、ICIDH-2の諸概念について評価するという当初の目的は基本的に達成された。これによって今後継続されるベータ2案フィールドトライアルの基礎となる翻訳が基本的に確定された。また学術団体・国立研究所に属する障害関連諸分野の専門家の共通の理解が促進され、今後のベータ2案フィールドトライアルへの積極的な協力の基礎が作られた。今後専門職団体、障害当事者団体の意見も取り入れて微調整を行ない、決定版を作る必要はあるが、ほぼ障害に関る医療、福祉、行政、また障害当事者間のコミュニケーションの用具としての「共通言語」としての骨格が確定したものと言え、障害関連施策の総合的推進の上でも大きな意義を持つものと考えられる。

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