施設内感染対策作業書策定に関する研究

文献情報

文献番号
199900079A
報告書区分
総括
研究課題名
施設内感染対策作業書策定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小林寛伊(関東病院)
  • 宮崎久義(国立熊本病院)
  • 平井基陽(医療法人鴻池会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は現在の院内感染対策で何故実効が上がらないのかの原因を特定する事に集中した特に、院内感染マニュアルがあり、それぞれが適切でありながら、現場での使用が十分でない。この原因を探り対策を立てるのが目的である。
研究方法
研究班員及び研究協力者の属する病院の看護部を対象とし、研究班長より問題設定し、それに対する実情報告と意見交換を行う形で作業した。
結果と考察
一つのアプローチとして工場品質管理或いはHACCPの考え院内感染対策上取り入れる事を提案した。即ち、(1)立案からの関係者全員参加 (2)常に全員から意見を取り入れマニュアルを改善する。(3)各現場に対応したものを現場サイドで作成する。(4)マニュアルは、think-savingの為にある。即ち、各局面で独自に判断しなければならない手間を無くする為にある。従って、ルーテインに使用可能なもので、指示は明確であり、必ず守る。この為には全員がその内容意義を完全に理解している必要がある。(5)考えられる全ての可能性を考えリスクポイントを洗い出し、その上で徹底して感染原因を究明する。(6)リスクポイントに重点を於いた対策を立てる。(7)何らかの達成目標の設定と達成度に対する評価これに対し次の様な現場の問題のあることが分かった。
[1]マニュアルはあるが現場での使用度が低い。原因として、(1)マニュアルの指示内容が現場対応になっていない。指示が明確でない、必要な記載がない、等の問題がある。記載があっても現場で、看護体制、スペース、病棟構造、予算等の面からこれを守れない場合がある。(2)マニュアル内容が病院感染全体を含む為分量が多く、現場にとっては直接関係の無い部分がマニュアルの大部分を占める。この為、作業の途中で必要部分を参照するのが 面倒となる。(3)マニュアル通りの操作をしたと云うチェックがない為、守られているかどうか客観 的評価が無い。
[2]看護システム、清潔区汚染区の区分け、清潔作業と汚染作業の区分け、患者重症度の4つの因子全てを事実上満足させ得ない状況が多い。例えば、重症患者はナースステーションの近くにしたいが、清潔区汚染区区分けを考えると困難である、隔離の為の個室がない、等である。この場合、現場で出来得る限りベストの方策を出す必要がある。それは、現場でのマニュアルにならなければならない。
[3]院内感染対策上の大きな問題はスペース、人、時間である。人に関しては、深夜勤務での少人数での病室対応が挙げられる。スペースについては、隔離用個室の不足、病棟が清潔区汚染区に上手く分けられる構造になっていないことがあげられる。時間は人員数を関係するが、看護と看護の間で手洗いの時間も取れない状況がある。但し、スペースの問題は物品整理と大きな関係がある為そのような検討をすべきである。
[4]病院全体の管理。新生児未熟児病棟は国立病院共通の問題であるが、当該病棟のみで解決出来ず、恐らく産科婦人科との共同作業で原因究明が必要でそれに基づく対策立案が必要であろう。この場合、全ての感染ルートの可能性を挙げ原因に到達する作業が必要となる。患者運搬用ベッドや胃カメラ等共用器材の汚染、共用施設の汚染等、病院の器材管理、患者、医療従事者等のローテーションによる病棟間感染、研修学生等の病棟間移動、掃除手順等、病院全体としての管理面からの対策を必要とする。MRSAキャリアーの医療従事者については施設として明確な指針が必要である。国としての指針は困難があるかも知れない。
[5]手順の単純化。消毒法、滅菌法はマニュアルには多数の選択肢を示してあるが、病院としては(或いは班研究としては)成るべく統一し、各現場で迷わなくてもよくする必要がある。その一方、手洗い、マスク、手袋等の使用は現場で異なる可能性がある。即ち、今後のマニュアルでは全体マニュアルを使用すべき項目と各現場で設定すべき項目を分け、提示する必要があるのではないかと思われる。
[6]ハイリスク診療の場、行為の同定。新生児/未熟児室、外科病棟、等が病棟として挙げられ、長期入院患者はハイリスクという認識がある。外来としては、救急に病歴不明で入る重症患者があげられた。
[7]院内感染の定義の必要性。院内感染防止対策は平時の基準対策と感染者発生時の感染拡大予防対策があるが、後者の手段を取るには病院全体の理解承認が必要となる。結核、MRSAについては、それなりの了解があるが、緑膿菌、セラチア等については、基準を決める必要がある。又、基準設定に関しては、どの現場を対象にするかで異なる面のある事が考えられる。
[8]施設。施設については、診療治療を主体とする病院と異なる面が大きい事が確認された。施設の感染対策は老人施設と障害者施設で様相が異なる。精神科病棟と施設には共通する面があり、この三者を一つのグループとしてマニュアルの作成作業に入る方が良い。
今後、本年度の調査結果に基づき、現場の医師看護婦が意見交換をし、現場対応の院内感染対策作業書を作成する。又、作業書作成は作成する作業過程そのものが重要であるので、作業書作成のやり方についての提案書も作成する。
結論
以下の施策が必要な事が認識された。(1)マニュアル作成に現場が直接関与していない。その為、各現場での使用に必ずしも適合していない。マニュアルはthink-savingの為のもので、手順の単純化を植え付ける必要があるが、必ずしもそのように作成されていない。(2)看護システム、清潔区汚染区の区分け、清潔作業と汚染作業の区分け、患者重症度の4つの因子全てを事実上満足させ得ない状況が多い。(3)院内感染対策上の大きな問題はスペース、人、時間である。この工夫をしなければ対策の抜本的解決はない。スペースに関しては徹底した物品の整理が考える必要がある。(4)病院全体の管理が感染対策の面から十分なされていない。(5)ハイリスク診療の場、行為の同定をした上での感染
対策が意識されていない。(6)院内感染対策にはその認識が重要であるが、「院内感染の定義」が各施設でなされていない。(7)老人養護施設における特別な状況の認識が必要。

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