野生げっ歯類等に関連する動物由来感染症に関する疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900076A
報告書区分
総括
研究課題名
野生げっ歯類等に関連する動物由来感染症に関する疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
神山 恒夫(国立感染症研究所獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 安居院宣昭(国立感染症研究所昆虫医科学部)
  • 梅田珠実(国立感染症研究所国際協力室)
  • 神谷晴夫(弘前大学医学部寄生虫学)
  • 渡邉治雄(国立感染症研究所細菌部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
げっ歯類が感染源として主要な役割を果たすことが明らかとなっている人獣共通感染症にはペストなど現在わが国には存在しないものも多いために情報収集や検査体制が十分ではなく、再発に対する監視体制の脆弱化が危惧されている。このような状況下において、ペスト常在国である米国から我が国に輸入されるプレーリードッグなどの野生げっ歯類によって第1類感染症であるペストが侵入する可能性が指摘された。本研究事業では、ペスト発生国から輸入されるプレーリードッグなどの野生げっ歯類について輸出国における感染の実態の把握と安全対策等の調査を行い、輸入時のノミ等の外部寄生虫ならびにペストの抗体価調査を行うとともに、国内での飼育の実態調査を実施し、これらの動物によるわが国へのペストの侵入のリスクを疫学的に分析するとともに、リスクに応じた侵入防止対策を検討することを目的としている。
また、きわめて最近になって青森県下においてエキノコッカス症に感染したブタが発見されたことから、従来北海道で激しく流行していたエキノコッカス症が本州へ伝播した可能性が強く示唆された。この事実は、早急に本症に対する疫学調査を実施し、その流行状況を把握し、監視体制を構築する必要性を示している。従来本州における同症の調査研究は行われてこなかったため、これに関しても早急に検討を行い今後の対策を立てることとした。さらに、本症は野生動物等が伝播に重要な役割を演じていることが明らかであるため、青森県にのみに留まらず、近県でもその監視体制を整備する必要に迫られたといえる。このような状況から、通常の食肉衛生検査の中でブタでの感染状況を調査するとともに、野生のキツネにおける感染の実態を把握するために疫学的調査を実施し、事前対応型の監視体制を構築する事を企図した。
研究方法
研究は野生げっ歯類によるペスト持ち込みのリスクの評価に関する研究と、本州におけるエキノコッカス汚染に関する調査研究に大別して行った。
1. 輸入野生げっ歯類等に関連する動物由来感染症、特にプレーリードッグとペストの関連に関する疫学的研究
米国の野生げっ歯類がわが国でペットとして飼育されるまでの時間経過に従って、米国における野生げっ歯類等における人獣共通感染症の実態、米国における野生げっ歯類等の捕獲、輸出ならびに輸入状況、およびペットとして飼育されている野生げっ歯類等に関連する感染症に関して調査研究を行った。
2. 本州北部における野生動物および家畜等におけるエキノコッカス汚染に関する調査研究
本症に対する疫学調査を実施し、監視体制を構築するために、青森県および近県において通常の食肉衛生検査の中で、ブタでの感染を特定と感染疫学調査を実施し、事前対応型の監視体制を構築する事を企図し、東北地方3県でのエキノコッカス症講演会と研修会の実施、ブタでの感染調査、およびキツネの感染調査を実施した。
結果と考察
今回の輸入プレーリードッグによるペスト持ち込みのリスクが指摘された件、およびそれに対していかに情報を評価し、対策を講じてゆくかについて感染症危機管理の観点から調査・考察した。
わが国に対してプレーリードッグおよびその他の野生げっ歯類を輸出している米国における野生げっ歯類の健康状況および輸出入の実態に関しては米国疾病管理センター(CDC)および関連の米国連邦政府および州政府機関等で情報の収集と調査を行った。その結果米国の野生げっ歯類にはわが国と異なる多種類の人獣共通感染症が保有されていることが明らかとなった。それら人獣共通感染症の人への感染のリスクが高いことから、CDC等では感染予防に大きな努力をはらっていることが明らかとなった。特にプレーリードッグにおけるペスト罹患状況は警戒を要し、ヒトへの感染源として最も重要な動物であることが判明した。米国からわが国へ輸出される野生げっ歯類等に関しては法令等による規制は行われていないことが明らかとなった。 
一方、国内においては、輸入直後のプレーリードッグおよび長期間国内で飼育されていたげっ歯類を対象としてペスト菌に対する抗体保有状況と外部寄生虫保有状況の調査を行った。その結果いずれの動物もペスト菌に対する抗体およびノミ等の外部寄生虫は全く保有していないことが示された。しかし、今回調査目的で輸入したプレーリードッグはペスト非流行期である冬季に捕獲された動物であったことから、本来野生動物においてペストの感染率やノミの保有率が高いとされる4-7月を含めて改めて通年の調査によってリスク評価を行う必要性が残された。、
次に、輸入され飼育されているげっ歯類等が人獣共通感染症の原因としてのリスクを有しているか否かを調査するために臨床獣医師に対してアンケート調査を行った。集計の結果、プレーリードッグ等の野生動物はペットとして飼育されている条件下でも人獣共通感染症をはじめとして種々の感染症を保有していることが明らかとなった。このため野生由来のげっ歯類は人獣共通感染症の感染源としてのリスクを有するとして今後とも継続的に調査・監視を行う必要性が指摘された。
一方、北海道で流行しているエキノコッカス症が本州へ伝播し、流行することが懸念されたことから、青森、秋田、岩手の3県でブタの感染調査体制を検討するとともに、キツネの感染調査も併せて実施した。このため3県で本症に対する監視体制を構築するために調査を行ない食肉検査関係者、保健所関係者への研修会を実施し、エキノコックス症に対する知識の普及を図り、検査の正確性を高めることとした。野生のキツネおよび飼育されていたブタを対象として調査を行ったが、これまでのところ感染ブタは検出されず、キツネにも感染は特定されなかった。本症は北海道内で汚染地域を拡大しつつあり、本州への侵淫が懸念されるので、検査・監視体制を継続的に実施することにより、本症の流行を早期に把握し、対策を講じる必要があるものと考えられる。わが国のエキノコッカスの流行監視体制を構築するために、異なる行政間の壁を越えた相互連携に基づいた継続的監視体制の早急な構築が望まれた。
結論
米国においてはプレーリードックをはじめ野生げっ歯類にペスト等の動物由来感染症が広がっていることが明らかとなった。そこで輸入プレーリードック及び国内飼育のげっ歯類を緊急調査した。その結果、いずれの動物もペスト菌に対する抗体およびノミ等の外部寄生虫は全く保有していないことが示された。しかし、今回調査目的で輸入したプレーリードッグはペスト非流行期である冬季に捕獲された動物であったことから、本来野生動物においてペストの感染率やノミの保有率が高いとされる4-7月を含めて改めて通年の調査によってリスク評価を行う必要性が残された。
一方、北海道で流行しているエキノコッカス症が本州へ伝播し、流行することが懸念されたことから、青森、秋田、岩手の3県で野生のキツネおよび飼育されていたブタを対象として調査を行ったが、これまでのところ感染ブタは検出されず、キツネにも感染は特定されなかった。検査・監視体制を継続的に実施することにより、本症の流行を早期に把握し、対策を講じる必要があるものと考えられる。

公開日・更新日

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